先生があなたに伝えたいこと / 【加納 利哉】検査画像やデータだけでなく、患者さんそれぞれの膝関節の状態に向き合い、できるだけ自然な動きに近づける治療を目指しています。

先生があなたに伝えたいこと

【加納 利哉】検査画像やデータだけでなく、患者さんそれぞれの膝関節の状態に向き合い、できるだけ自然な動きに近づける治療を目指しています。

社会医療法人 清風会 五日市記念病院 加納 利哉 先生

社会医療法人 清風会 五日市記念病院
かのう としや
加納 利哉 先生
専門:膝関節

加納先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 人型ロボットがハーフマラソンを走り、人間の記録を超えたというニュースです。人間のような直立二足歩行を機械で再現するだけでも難しいと思いますが、長い距離を非常にスムーズに走る姿に衝撃を受けました。

2.休日には何をして過ごしますか?
 娘が二人いるので、一緒に出かけたり遊んだりする時間を大切にしています。子どもたちと過ごす時間は気持ちが安らぎますし、今しかない貴重な時間だと思っています。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

先生からのメッセージ

検査画像やデータだけでなく、患者さんそれぞれの膝関節の状態に向き合い、できるだけ自然な動きに近づける治療を目指しています。

Q. まずは、膝関節の構造について教えてください。

A. ひと口に膝関節といっても、脊椎動物によってその形態はさまざまです。二足歩行を行う動物は人間以外にもいますが、膝を伸ばして直立二足歩行を行うのは人間だけです。そのため、人間の膝関節には、ほかの動物とは異なる特徴があります。その構造を知るだけでなく、なぜそのような構造になっているのかを理解することが、膝の病気や治療を考えるうえで重要だと考えています。
膝関節は、大腿骨(だいたいこつ)、脛骨(けいこつ)、膝蓋骨(しつがいこつ:お皿)から構成されています。特に人間に特徴的なのは、膝蓋骨を含む膝蓋大腿関節(しつがいだいたいかんせつ)と、大腿骨と脛骨による大腿脛骨関節(だいたいけいこつかんせつ)が近い距離で密接に連動している点です。これらの連動によって、膝をスムーズに伸ばし、安定した直立二足歩行を行うことができます。
また、太ももの大腿四頭筋(だいたいしとうきん)が発達していることで、長時間の立位のほか、長距離の歩行や走行が可能になります。さらに、半月板(はんげつばん)や軟骨、靭帯(じんたい)などの軟部組織が膝関節を支え、荷重を分散しながら安定性を維持しています。

膝関節の構造の図

Q. 膝の痛みはなぜ起こるのですか?

A. 膝の痛みにはさまざまな原因がありますが、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)に伴う痛みは、大きく分けると、滑膜(かつまく:関節の内部を包む膜)の炎症によるものと、骨の内部から生じるものがあります。
初期の段階では、関節内に水がたまったり腫れたりすることが多く、滑膜炎が痛みの主な原因となります。変形が進むと、骨そのものに負担が集中して、骨の内部に小さな損傷や出血が生じることがあります。その修復過程で血管や痛みを感じる神経が新たに増え、そこに繰り返し負担や炎症による刺激が加わることで、骨の内部から痛みが生じると考えられています。実際に手術の際に骨を観察すると、骨の内部に出血や損傷が見られることも少なくありません。
ほかにも、半月板損傷による引っ掛かり感や、腰椎(ようつい)・股関節の疾患からくる痛み、全身性疾患が原因となる痛みもあります。原因が明確でない場合には、血液検査なども含めて詳しく調べる必要があります。

Q. 膝の痛みを引き起こす代表的な疾患を教えてください。

A. 若い方では、スポーツなどによる前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)損傷や半月板損傷が多く、高齢の方では変形性膝関節症が多くみられます。
変形性膝関節症は、単に加齢だけで起こるのではなく、肥満(過体重)、性差(女性に多く見られる)、高齢、過去の膝関節外傷、仕事やスポーツなどによる膝への繰り返しの負担といった、複数の要因が関係する疾患です。また、O脚などの膝の並びや筋力、歩行時の膝のぐらつきなどの機械的な要因に加え、高血圧や脂質異常、糖代謝異常などの全身状態との関連も指摘されています。半月板損傷をきっかけに、変形性膝関節症が進行することも少なくありません。
なかでも肥満は、膝関節への負担を考えるうえで非常に重要です。近年は、肥満を本人の努力だけの問題として捉えるのではなく、「肥満症」という治療の対象として、内科で薬物療法を含めた治療が行われています。膝が痛いと運動が難しく、痩せたいと思っていても体重を落としにくいという悪循環に陥ることがあります。そのような場合には、内科などと連携して肥満症の治療を検討します。
減量することで膝関節への負担が軽くなり、痛みの改善が期待できます。また、手術の際にも関節を十分に展開しやすくなり、人工関節を入れた後のゆるみを予防することにもつながります。

変形性膝関節症の図

Q. 変形性膝関節症の治療について教えてください。

A. 変形の程度にかかわらず、まずは保存療法を基本とします。痛み止めの薬やヒアルロン酸・ステロイド注射、太ももの筋力を維持する運動療法などを行います。症状が強い時期には、装具や杖を使用して膝にかかる負担を軽減し、一時的に活動量を調整することも大切です。画像上は変形がかなり進んでいても、こうした治療を行いながら経過をみることで症状が改善し、手術をせずに生活できる方も少なくありません。
また、変形が比較的軽く、半月板損傷による引っ掛かりやロッキング(膝が急に曲げ伸ばしできなくなる状態)などの症状が中心の場合には、関節鏡(かんせつきょう)を用いて半月板を修復したり、傷んだ部分を整えたりすることがあります。
保存療法を続けても痛みや歩きにくさが改善せず、日常生活や仕事、スポーツなどに支障がある場合には、手術を検討します。比較的若く活動性の高い患者さんでは、骨切り術を選択することがあります。O脚などの下肢の並びを矯正し、体重のかかる位置を調整することで、傷んだ部分への負担を軽減しながら、自分の関節を残す手術です。
一方、関節の変形が進み、保存療法を行っても強い痛みや歩きにくさが続いている場合には、傷んだ関節面を人工物に置き換える人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)が選択肢となります。

人工膝関節置換術

人工膝関節置換術の図

Q. 変形の程度によって手術が必要になるということですか?

A. 手術が必要かどうかは、画像上の変形の程度だけでは決まりません。変形が強くても痛みが少なく、日常生活にあまり支障なく過ごしている方もいます。一方で、変形がそれほど進んでいなくても、強い痛みや歩きにくさに悩まされる方もいます。
レントゲンでは骨同士が接するほど変形していても、関節のかみ合わせが比較的安定していれば、立ち上がりや動き始めには痛みがあっても、その後は比較的歩けることがあります。その反対に、痛みそのものはそれほど強くなくても、膝の不安定感や歩きにくさによって生活に支障が出ることもあります。
そのため、画像所見だけでなく、痛みの程度や歩行能力、日常生活への影響、患者さんが今後どのような生活を送りたいかまで含めて治療方針を決めています。保存療法を続けても症状が改善せず、患者さん自身が生活上の支障を強く感じている場合に、手術を選択肢として検討します。

社会医療法人 清風会 五日市記念病院 加納 利哉 先生Q. 人工膝関節の手術に対して、不安を抱く患者さんは多いですか?

A. 自分の身体に人工物を入れることや、手術後の痛み、合併症などに不安を感じる方は少なくありません。一方で、人工膝関節置換術は長い歴史があり、これまで多くの患者さんに行われてきた代表的な手術の一つです。
手術に不安のある方には、歯科治療をイメージしていただくと分かりやすいかと思います。虫歯で傷んだ部分を削り、残った歯の形に合わせて素材を被せ、噛み合わせを調整することで、痛みを軽減し、食事をしやすくします。人工膝関節置換術も同じように、傷んだ関節の表面を人工物に置き換え、関節のかみ合わせを整えることで、痛みの軽減や膝の機能改善を目指す治療です。
もちろん、手術には合併症が起こる可能性があるため、利点だけでなくリスクについても十分に理解していただく必要があります。しかし、治療せずに痛みを抱えた状態が長く続くと、歩く量が減り、筋力や心肺機能が低下して、健康寿命にも影響を及ぼす可能性があります。手術を受けることだけでなく、痛みや歩きにくさを抱えたまま過ごすことの影響も含めて考えることが大切です。
人工膝関節置換術は、単に人工物を入れる手術ではありません。膝の痛みを軽減して活動性を取り戻し、生活の質(QOL)の維持・改善を目指す治療です。手術を行うかどうかは、患者さんの不安や希望、生活背景を伺いながら十分に話し合い、納得したうえで一緒に前向きに取り組むことが重要だと考えています。

Q. 実際に手術をされた患者さんの反応はいかがですか?

A. 皆さんそれぞれ希望を持って手術を受けられます。退院後の診察では、旅行やお孫さんとの時間を楽しめるようになった、以前より歩くことが楽になったなど、さまざまなお話を聞きます。そうしたお話を伺うと、患者さんと一緒に手術を乗り越えてよかったと実感します。
術後は一時的な痛みや腫れがありますが、現在は神経ブロックや局所麻酔、鎮痛薬の進歩によって、痛みをコントロールしながらリハビリに取り組みやすくなっています。回復には個人差がありますが、痛みや腫れが徐々に落ち着き、数か月かけて歩きやすさや生活の変化を実感される方もいらっしゃいます。

Q. 人工膝関節置換術の手術手技は進歩していますか?

A. 人工膝関節置換術では、「メカニカルアライメント」と呼ばれる考え方が、これまで標準的な方法として広く行われ、現在も多くの施設で採用されています。大腿骨と脛骨をそれぞれ下肢の機械的な軸に対して直角に切り、股関節から足関節までの脚全体の軸をまっすぐに整えて人工関節を設置する方法です。1970年代に確立されて以来、耐久性や安定性を重視した方法として用いられてきました。
その後、インプラントの形状や素材、固定技術が進歩し、人工関節に使用されるポリエチレンの耐久性も向上しました。こうした進歩を背景に、脚を一律にまっすぐに整えるだけでなく、患者さん一人ひとりがもともと持っている骨格や関節の動きを、より重視して人工関節を設置する考え方も広がっています。その一つが、私が人工膝関節置換術で取り入れている「キネマティックアライメント」です。

Q. キネマティックアライメントとは、どのような考え方ですか?

A. 膝には、大腿骨と脛骨の曲げ伸ばしの軸および回旋の軸、膝蓋骨の動きに関わる軸という3つの運動軸があります。キネマティックアライメントとは、患者さんがもともと持っていた膝の形や動きをできるだけ再現することを目指した人工膝関節の手術方法です。
従来の方法とは異なる角度で人工関節を設置することから、当初は耐久性を懸念する意見もありました。しかし現在では、海外での中長期の術後成績に加え、日本人患者を対象とした短期の臨床成績も報告されるなど、キネマティックアライメントに関する知見が蓄積されています。
現在の人工膝関節置換術では、メカニカルアライメントとキネマティックアライメントのほかに、ファンクショナルアライメントとしてロボット技術を活用する考え方もあります。ロボットを用いた手術は、骨の位置や角度を数値化して調整することに役立つ一方で、術後成績への影響については、今後さらに検討が必要な分野です。
同じ人工膝関節置換術でも、人工関節をどのように設置し、どのような膝を目指すかには、さまざまな考え方があります。患者さんにもそのことを知っていただき、担当する医師から十分な説明を受けたうえで、納得して治療に臨むことが大切だと考えています。

キネマティックアライメント法

キネマティックアライメント法の図

社会医療法人 清風会 五日市記念病院 加納 利哉 先生Q. 先生が人工膝関節置換術において重視されていることを教えてください。

A. まず、膝がなぜそのような形をしているのか、そしてなぜそのように変形したのかを理解することが重要だと考えています。人間は膝を伸ばして直立二足歩行を行うため、膝の形態や角度にはそれぞれ意味があります。さらに、骨の形態や軟骨の厚さには個人差があるため、平均的な数値に当てはめるだけではなく、患者さん一人ひとりの膝を丁寧に観察することを重視しています。
手術前には、レントゲンやCT、超音波を組み合わせて骨の形態や軟骨の厚さなどを確認し、必要な計測を0.1mm単位で行って、変形する前の関節面を推定しながら術前計画を立てます。
実際の手術では、その術前計画をベースに、膝のどこがどのように損傷しているのかを直接観察します。さらに、靱帯などの軟部組織の状態も確認しながら、骨を切る量や角度を細かく調整し、その患者さんにとってスムーズに動き、安定する膝を目指しています。

Q. そもそも膝に痛みが出ないように、膝を鍛えることはできますか?

A. 膝への負担が少ない運動を継続することが大切です。具体的には、膝を伸ばした状態での足上げ運動や、浅めのスクワットなどが取り組みやすい運動です。また、ウォーキングは筋力維持だけでなく骨や全身の健康にも有効です。
プールでの水中歩行や水泳も良い運動ですが、最も重要なのは無理なく続けられることです。自分の生活に合った運動を継続することが、膝の健康維持につながります。

社会医療法人 清風会 五日市記念病院 加納 利哉 先生Q. 治療にあたって先生が心がけていることを教えてください。

A. 患者さんの家族構成や生活環境、仕事内容なども含め、その方にとってより適した治療を考えることを大切にしています。痛みの原因を見極め、適切な治療法を選択しながら、患者さんが自分らしい生活に近づけるよう支援したいと思っています。
また、膝だけでなく股関節治療にも力を入れています。膝の痛みに股関節が関係している場合もあるほか、股関節の手術によって膝の軸に変化が生じることもあるからです。傷んだ箇所を人工物に換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)においては、皮膚切開が小さく、筋肉などの軟部組織をできるだけ温存するMIS(エムアイエス:最小侵襲手術)として、筋肉の間から進入する前方アプローチを取り入れています。また、大腿骨頚部骨折に対する人工骨頭挿入術でも、同様のアプローチを用いています。膝関節と股関節は密接に関連しているため、それぞれを個別に診るのではなく、下肢全体のバランスを考慮し、総合的な治療を行っています。

Q. では最後に、先生が整形外科医を志したきっかけを教えてください。

A. 学生時代に膝の靱帯を損傷し、大学の先生方に治療していただいた経験がきっかけです。けがをした当時は、もうスポーツには戻れないのではないかという絶望感がありましたが、手術とリハビリによって競技復帰することができ、本当に救われたように感じました。その経験から、自分もけがや病気で困っている方の力になりたいと思い、整形外科医を志しました。
整形外科は、基本的には直接命を救う診療科ではありません。しかし、痛みや移動の制限によって諦めかけていた仕事や趣味、家族との時間を取り戻すことで、その方の人生を救うことのできる診療科だと思っています。
私自身を治療してくださった先生方への感謝を忘れず、今度は自分が、患者さんの希望する生活に再び近づくための力になりたいと考えています。

リモート取材日:2026.6.26

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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