先生があなたに伝えたいこと
【青木 大輔】腰痛の原因は、ヘルニアや脊柱管狭窄症などの疾患をはじめ、筋肉の炎症、臓器の病気、精神的ストレスなど多様です。それを見極め、患者さんが少しでも早く楽になれる治療を心がけています。
医療法人 青元会 あおき整形リハビリクリニック/青木外科医院
あおき だいすけ
青木 大輔 先生
専門:脊椎
青木先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
将来は、AIで病院運営の効率化が図れたらという理想を描いています。電子カルテに症状を入力すると、病名や処方薬の候補が出てくるとか...。リハビリ内容の管理や受付・会計業務も効率化できれば、スタッフ皆がハッピーですよね。
2.休日には何をして過ごしますか?
子どもと一緒に公園へ行って遊ぶことが多いです。気分転換になって楽しいです。将来は、3人いる子どものうち誰かが病院を継いでくれたら嬉しいですが、こればかりはわかりませんね(笑)。
Q. 腰痛について教えていただきたいのですが、腰はどんな構造になっているのですか?
A. 脊椎に沿って大きな筋肉が縦に走っていて、背骨のおなか側、背骨、背骨の背中側の3つの層の筋肉が張り巡らされています。その奥にもインナーマッスルと呼ばれる大腰筋(だいようきん)や腸腰筋(ちょうようきん)などがあり、とても複雑な構造になっています。また、腰は上半身と下半身を結び付け、全身の要となる重要な役割を担っています。人類の進化において四足歩行から二足歩行になり、歩行中に一番負担がかかる部位となったことから、痛みが起こりやすい弱点といえます。
Q. 腰痛に悩む人は多いようですが、腰痛とはどういうものなのでしょうか?
A. 腰痛は、大きく2つに分けられます。まずは、腰の圧迫骨折や腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)など、腰痛の原因となる部位がはっきりわかる特異的腰痛と、原因が特定できない非特異的腰痛があります。特異的腰痛は画像検査で異常がわかるので、患者さんに疾患として理解してもらいやすいのですが、非特異的腰痛の場合は、さまざまな要因によって引き起こされるので判断が難しく、患者さんに説明しにくいものです。
Q. 腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症とは、どんな疾患ですか?
A. まず、椎間板とは脊柱を形成している椎骨(ついこつ)と椎骨の間にある円板状の軟骨を指し、10代後半から水分が減っていきます。私は、椎間板をよく座布団に例えて患者さんに説明するのですが、座布団のまわりの布が破けて中の綿が外に飛び出し、それが神経を圧迫して座骨神経痛を引き起こします。それが腰椎椎間板ヘルニアです。
腰部脊柱管狭窄症は、長年腰を曲げ伸ばししていると、"ペンだこ"のように腰部の靭帯が肥大していきます。それによって脊髄が圧迫されて痛むとともに、坐骨神経の血流が途絶える疾患です。どちらも神経に関わる病態で、神経ブロック注射などで治療を行います。
Q. 患者さんは最初に、どんな症状を訴えて来院するのですか?
A. 痛みで来られる方がほとんどですが、「動くと痛い」、「起床時だけ痛い」、「スポーツ中に痛む」、「寝ている時も痛い」など、さまざまです。レントゲンやMRIの検査で先にお話ししたような病態が見られない場合は、炎症を疑って、どこに炎症が起きているのかを探っていきます。
しかし、一言で腰痛といっても、腰は背中や臀部とつながっていて、どの部分が痛みを引き起こしているのかを見極めるのはなかなか一筋縄でいきません。筋肉そのもののほかにも、筋肉から腱に移行する部分や、腱が骨に付着する部分、筋肉を覆う膜(筋膜)などに起きるケースもあります。さらに、腰椎椎間板ヘルニアなどの特異的腰痛に、筋膜の炎症が合併して痛むこともよくあります。
Q. 筋肉や筋膜に炎症がある場合の治療法を教えてください。
A. 実際に体を動かしながら、腰と下半身のコンディションを整えていきます。短期間の安静や鎮痛薬で落ち着く場合もありますが、当院では少しでも早く除痛して再発を防止するために、筋膜リリース注射(ハイドロリリース)を行うこともあります。筋肉と筋肉の間の膜が癒着して痛みを引き起こしている部位を、超音波で確認しながら薬液を注射するのです。それにより、筋膜と筋膜が剥がれて痛みが和らぎます。最近では、それを手で行う徒手的療法(としゅてきりょうほう)がクローズアップされており、当院でも注射だけでなく、理学療法士による徒手的な筋膜リリースも行っています。
Q. 筋膜リリースというのは、自分でもできるものなのですか?
A. 最近は、「筋膜はがし」、「肩甲骨はがし」の体操も話題になっています。痛みの原因となっている筋膜に正しく働きかけられれば効果があると思いますが、そのポイントを突き止めるのは難しいものです。たとえば、腰痛の患者さんに運動療法をお伝えすると、「運動はしている」とおっしゃられる方もいますが、よく聞けば腰痛の改善とは関係のない運動だったりすることもあります。正しい認識を持って行わなければ、なかなか腰痛の改善は図れません。
Q. 腰痛で整骨院やマッサージ店に通われている方も多いですよね?
A. 腰痛は、痛みを和らげることが目標なので、整骨院やマッサージ店の施術で楽になるなら、私個人の考えでは良いと思っています。ただし、骨折があったり、別の病気が見つかったりすることもあるので、最初は病院で受診されることをお勧めします。
Q. 別の病気とは何ですか?
A. 尿路結石や子宮筋腫などによって、腰痛が起きているケースもあります。腰痛の原因は多様で、臓器の病気のほかにも、精神的なストレスが起因しているケースもかなり多いです。リラックスできずに常に筋肉が緊張していることで、腰に負担がかかるのです。そのため、抗うつ剤や抗不安薬などの薬が、腰痛の改善につながることもあります。中には、腰部椎間板ヘルニアや圧迫骨折の痛みが続き、それによって精神的に負荷がかかってしまい、病態そのものは改善されていても精神面からくる腰痛が残っている患者さんもいます。
Q. そうなのですね。腰痛の原因究明は難しそうですね。
A. はい。自分にとって、もはやライフワークです。特に「ぎっくり腰」といわれる急性腰痛は、人によって痛む原因も、効果のある治療法も異なります。痛み止めを処方して安静にするという治療もあるのですが、もっと早く治す方法があるのではないかと模索中です。というのも、安静期間中は思うように動けず、精神的なストレスもたまり、社会的な損失にもつながります。
私は、スポーツ整形外科で勤務した経験から、スポーツ選手がもとのパフォーマンスが発揮できるよう、できるだけ早期に治癒させてリハビリを進めることを目指してきました。それはスポーツ選手だけでなく、高齢の方にとっても同じく重要なことです。早くベッドから起きて動けるようにしなければ、全身の筋力が衰えてしまいます。昔の医学では、安静期間が長くとられていましたが、今は医学が進歩して短くなり、早期にリハビリを行うことが重視されています。
Q. こちらの病院では、手術後のリハビリも行っておられるのですね?
A. はい。急性期病院で手術を終え、紹介を受けて通われている患者さんもおられます。理学療法士と連携し、患者さんの症状に合わせてトレーニングを行っています。日常の動作では、単一の筋肉や関節だけでなく、あらゆる部位が総合的に機能しているため、それを取り戻すことを目標にしています。
たとえば、リハビリ先進国のノルウェーで生まれた機器を使って、可動域訓練や筋力トレーニングを行ったり、多様なトレーニングができるアメリカ製のマシンで、ひねり動作の筋力強化を行ったり、ストレッチポールを使ったピラティス(体幹を鍛えるエクササイズの一種)を取り入れたりなど、先進の機器を併用しながら、効果の高いリハビリを追求しています。
Q. では最後に、先生が診察においてモットーにされていることを教えてください。
A. 腰痛は、生活スタイルや精神面、性格にも大きく影響されるため、患者さんの話をしっかりヒアリングすることを心がけています。以前、実際に外来診察でじっくりお話をお聞きすると、それだけで腰痛が緩和されたという患者さんもおられました。患者さんに心を開いて話してもらうためには、信頼関係を築くことが第一だと思っています。完全な除痛は難しいケースでも、できる限り痛みを減らしていけるよう、患者さんと一緒に痛みに向き合っています。
取材日:2019.7.17
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
腰痛の原因は、ヘルニアや脊柱管狭窄症などの疾患をはじめ、筋肉の炎症、臓器の病気、精神的ストレスなど多様です。それを見極め、患者さんが少しでも早く楽になれる治療を心がけています。