先生があなたに伝えたいこと / 【日下部 浩】関節の痛みを改善するには、正確な診断によって痛みの原因を突き止めることが肝心です。治療の選択肢の一つとして、PRP療法も含めた再生医療も取り入れています。

先生があなたに伝えたいこと

【日下部 浩】関節の痛みを改善するには、正確な診断によって痛みの原因を突き止めることが肝心です。治療の選択肢の一つとして、PRP療法も含めた再生医療も取り入れています。

仙川整形外科 日下部 浩 先生

仙川整形外科
くさかべ   ひろし
日下部 浩 先生
専門:股関節膝関節

日下部先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 新型コロナウイルスの感染予防や治療に、少しでも貢献することです。医師会に所属しているので、市民の方へのワクチン接種や、宿泊療養ホテルでの対応を行っています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 クリニックを開業してからは、診療以外の諸々の業務のほか、講演や論文執筆などの研究活動、地域の医療活動などで、休みなく過ごしています。

先生からのメッセージ

関節の痛みを改善するには、正確な診断によって痛みの原因を突き止めることが肝心です。治療の選択肢の一つとして、PRP療法も含めた再生医療も取り入れています。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 股関節や膝関節の痛みはどのようにして起こるのですか?

A. 一概にはいえませんが、許容範囲を超えて強い負荷をかけることや炎症によるものが多いです。なかには、関節の組織や近くの筋肉が硬くなることで、股関節や膝関節の可動域(動かせる範囲)が狭くなり、そのことが原因で一定の範囲を超えて動かすと痛みを感じやすくなることもあります。

Q. 痛みを引き起こす代表的な疾患を教えてください。

A. レントゲン診断によって、股関節や膝関節に骨の変形がみられる変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)が代表的です。また、事故やスポーツなどによるケガで、膝の半月板(はんげつばん)や靭帯(じんたい)などを損傷した影響で痛みが出ることもあります。
一方で、30~40代を中心に、稀に20代やお子さんでも、レントゲンで骨に異常がみられなくても痛みがある方もおられます。関節に強い負荷がかかることで一時的に炎症が起きるケースや、なかには関節内に病変が見つかることもあります。しかし、何が痛みを引き起こしているのかということを突き止めるのが難しいケースも多々あります。

変形性股関節症

変形性膝関節症

Q. どのように治療していくのですか?

A. 痛みの程度や関節の可動域などの状態、患者さんの生活環境、年齢などを総合的に判断して治療していきます。投薬や運動療法などの保存的治療で改善することが大半です。例えば、スポーツによって関節に負荷がかかって痛みが引き起こされている場合は、運動量の調整をお勧めします。また、腱(けん)が骨に付着している部分の炎症が考えられる場合は、リハビリでストレッチングを行います。20代以上の方で、関節やそのまわりに炎症の疑いがあれば鎮痛薬を用いて痛みを抑えることもありますが、基本的にはリハビリが有効になるケースが多いです。エクササイズによって関節の可動域を広げ、関節を支えるための筋力を強化することがポイントになります。

筋力トレーニングの例

仙川整形外科 日下部 浩 先生Q. 変形性股関節症や変形性膝関節症も同様の治療になりますか?

A. 変形性膝関節症は、投薬や運動療法で改善がみられない場合は、膝関節の摩耗を防ぐための潤滑油として、運動を滑らかにし、関節軟骨の弾力性を向上させるヒアルロン酸を注射することもあります。それでも痛みが落ち着かない場合は、手術の選択肢もあります。
変形性股関節症、変形性膝関節症ともに、手術は大きく分けて2種類あります。関節近くの骨を切って関節の向きを変え、骨にかかる負荷を軽減する骨切り術と、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節に入れ替える人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)です。骨切り術は患者さん自身の骨を矯正する治療で、人工関節置換術は自家組織である骨を切除し、人工物に置き換えます。人工物には神経がありませんから、痛みを低減させる治療となります。手術は必ずしもしなければならないものではありませんので、するかしないかは患者さんの判断によります。手術は痛みを軽くする効果は高いですが、必ずしも万能といいきれるものではありません。

Q. 今は、保存的治療と手術治療の間に位置する治療もあるそうですね?

A. 再生医療の手法を使ったPRP療法(ピー・アール・ピーりょうほう)という治療法があり、当院でも行っています。PRPとは、多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう:Platelet-Rich Plasma)のことです。患者さんの血液を採取し、遠心分離機で多血小板血漿を分離、濃縮して、患部に注射します。多血小板血漿そのものに細胞成分は入ってないのですが、修復因子が多数含まれているので、それが関節内の組織を修復し、炎症を軽くする効果があると考えられています。

PRP療法イメージ図

PRP療法イメージ図

Q. どのような患者さんが、この療法を受けられていますか?

A. 変形性股関節症や変形性膝関節症を患っていて痛みがあり、投薬やリハビリ、ヒアルロン酸注射などの保存的治療を続けてきたものの、痛みがあまり改善されないという方が、日常生活動作の改善や好きなスポーツを続けることなどを目指して選択されています。人工関節手術後にスポーツを続けることは避けた方が良いこともあって、手術はできるだけ避けたい、あるいは先送りにしたいという方もいらっしゃいます。保存的治療の効果があまりみられない場合など、手術療法と保存的治療との中間的な治療法として選択されています。

Q. この療法の特長を教えてください。

A. 痛みや関節の動かしやすさ、生活動作、歩行状態などを評価するスコアにおいて、ヒアルロン酸注射よりもPRP注射のほうが、数値の向上がみられるという臨床試験結果があります。しかも、ヒアルロン酸は稀にアレルギー反応の出る方もいらっしゃいますが、PRPはご自身の血液から採取したものなので、アレルギーの心配はありません。関節内注射で投与するので感染のリスクはありますが、それを除けば安全な治療法といえます。
効果に関しては個人差がありますが、6~7割の方に何らかの改善がみられているといわれています。人工関節置換術による除痛効果は約8割といわれていますので、手術治療と比較しても一定の効果が期待できるといえます。

Q. PRP療法の効果の持続期間はどのくらいですか?

A. 一般的に半年程度といわれていますが、個人差が大きいともいわれています。効果が切れたタイミングで、前回の注射から1カ月以上経っていれば、何度でも投与することができ、時々受けられている患者さんもおられます。

仙川整形外科 日下部 浩 先生Q. PRP療法のデメリットはありますか?

A. あまり効果がみられなかったときに、すぐに再注射できないという点です。ヒアルロン酸注射だと、最初の5回までは一週間、その後は二週間の間隔を空ければまた打つことができますが、PRP注射は1カ月待っていただかなければなりません。
また、自費診療(保険適用外)なので、治療に費用がかかります。そのため、この治療を選択する方は、日常生活に支障をきたすほど症状が進んでいる方が多いです。しかし、どちらかというと変形性関節症が進行している方よりも、まだあまり進んでない方でスポーツを継続するためにPRP療法を選択される方のほうが、効きが良いという意見もあります。一方で、病状が進行している方でもよく効く方もいらっしゃるので、やはり個人差でしょう。注射の回数を重ねると、そのたびに関節内の組織が修復されるので、効果が高まっていくからだという考えもあります。将来、PRP療法が保険適用になるのかどうかはわかりませんが、費用の負担が軽減されれば患者さんが継続して受けやすくなると思います。

診断Q. 先生が治療において心がけていることを教えてください。

A. 正確な診断を心がけています。レントゲンだけでなく、場合によってはMRIや超音波などの検査も取り入れ、いろいろな可能性を疑って検査を行っています。それにより、腫瘍や骨折、感染などが見つかることも時々あります。また、診断につながる患者さんの訴えなどにもよく耳を傾け、痛みの原因を突き止めるようにしています。正しく診断ができれば、例えば腫れなどの症状に対しても、どの筋肉にどのように治療をすればよいかがわかり、それを実践することで痛みの改善につながります。

仙川整形外科 日下部 浩 先生Q. 最後に、先生が医師を志されたきっかけを教えてください。

A. 慶応義塾大学の付属高校の3年生になった頃、所属していた水泳部に、医学部に進学したOBの方々が来られたことがありました。どうやら先輩方は、優秀な水泳の記録を持った後輩を勧誘しに来たようで、まずは医学部に進学させようと、医学部がいかに魅力的かを私たちに話してくれました。その場に私も同席しており、それは良いなと思って選択したのがきっかけです。進学後、医療の世界はとても面白く感じました。
整形外科を選んだのは、自分の手を使って治療をしたいという思いと、治療の対象となる身体の範囲が広いことに魅力を感じたからです。特に印象に残っているのは、医局の専修で5年目に行った国立小児病院(現:国立成育医療研究センター)です。出身大学を問わず、強いつながりを持った小児専門医の方々が、重症患者さんの治療に果敢に立ち向かっていく姿に感銘を受けました。それが小児整形との出会いになり、国内外を問わず多くの施設に、時には何度も出向き、そこの先生方から手術療法も、手術以外の治療法も学び、実践する。そうしたことの繰り返しです。先生方、関係の皆様には本当にお世話になりました。そして、アメリカの大学に留学して小児の内反足治療の技術も体得しました。現在もその分野の研究を行いながら、子どもの病気やケガの治療も行っています。整形外科は、健康寿命に関わる生活の質(QOL)の向上に貢献できる分野なので、とてもやりがいを感じています。

Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。

日下部 浩 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2021.11.4

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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