先生があなたに伝えたいこと / 【絹笠 友則】患者さんを自分の家族だと思って手術を行うようにしています。

先生があなたに伝えたいこと

【絹笠 友則】患者さんを自分の家族だと思って手術を行うようにしています。

医療法人 健佑会 いちはら病院 絹笠 友則先生

医療法人 健佑会 いちはら病院
きぬがさ とものり
絹笠 友則 先生
専門:膝関節

絹笠先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 コロナ禍で外食できなくなったので、自分が食べたいものをつくるようになってかなり太りました。そこで同僚たちとダイエットアプリを使ってダイエットに励んだところ、最大18kgの減量に成功して健康状態も良くなりました。

2.休日には何をして過ごしますか?
 子どもが活動しているサッカーの送迎をする合間にカフェで自分の時間を過ごしたり、遠征に行くときは現地の山でハイキングをしたりしています。

先生からのメッセージ

患者さんを自分の家族だと思って手術を行うようにしています。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 中高年に多い膝の痛みについて教えてください。

A. 膝関節の痛みは、物理的な素因と化学的な素因が合わさって生じることが多いです。物理的なものとして日本人の約80%以上の方がO脚なので、その状態で膝関節を動かし体重がかかり続けると、膝関節の内側の軟骨や半月板(はんげつばん)などが削られていきます。骨がこすれて徐々にすり減っていくほか、ケガで一気に削られたり欠けたりすることもあります。そうすると神経の末端が刺激されて痛みが出てきます。そこに炎症が起きてサイトカインという化学物質が放出され、神経の末端を傷つけるなど化学的な刺激による痛みも生じます。
このほかにも稀に、膝関節の少し上にあるハンター管(内転筋管)という筋膜の管が狭くなり、周囲の筋肉が硬くなることで軟骨がすり減るのと同じような痛みを出す病気もあります。しかし、圧倒的に多いのは軟骨や半月板の損傷による痛みです。

Q. どのような病名になりますか?

A. 半月板損傷や軟骨損傷を経て、行き着く先は変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)と呼ばれています。特に日本人がかかりやすい疾患です。和式の生活スタイルではよく正座が行われますが、これは膝を亜脱臼(あだっきゅう:関節内の正常な位置から外れかかっていること)させている状態です。生理的な動きから逸脱した動作で、これを繰り返し行う生活文化があることから日本人にはO脚変形が多くみられます。
また、骨が比較的弱くて膝関節が柔らかい方がかかりやすいため、変形性膝関節症は女性の患者さんが多いです。さらに、体重が重くて膝関節にかかる負荷が大きいと発症のリスクは高くなります。ほかにも、ケガで前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)を損傷してしまうと膝関節がゆるみやすくなり、40~50歳代で膝関節の軟骨がすり減って変形性膝関節症になる場合もあります。

変形性膝関節症

Q. 治療法について教えてください。

A. 痛みを伴わない治療としては装具療法があります。足の外側を持ち上げるような外側エッジといわれる足底板(靴の中敷き)を用いるほか、変形性膝関節用のサポーターを利用して外反(がいはん:X脚)を取りやすいように調整します。
また、痛み止め薬を処方したり、ヒアルロン酸を濃縮した注射を膝に打ったりすることもあります。ヒアルロン酸は膝関節の軟骨にもともと含まれている成分で、エンジンでいうとオイルを足すような処置になります。またヒアルロン酸には吸水して炎症を和らげる効果もあるので、膝関節内の物理的なストレスを減らすことも期待できます。これによって変形した膝が治るということはありませんが、一時的に症状を軽快させることができます。また、ヒアルロン酸のほかにもPRP注射を用いる治療もあります。

足底板

Q. PRP注射とは、どのようなものですか?

A. 再生医療の分野に含まれるPRP療法(ぴー・あーる・ぴーりょうほう)とは、組織の修復を促す成長因子を出す血小板成分を患者さんの血液から抽出し、濃縮して得た多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう:PRP)を関節内に投与する治療法です。再生というよりは、傷ついた部位の治療効果を上げることが最大の特長だと思います。初期の変形性膝関節症には効果が期待できますが、末期になると抗炎症効果ぐらいしか期待できません。
PRP療法は反応する方としない方がおられるので、反応する方にとっては、「毎月ヒアルロン酸注射を打っている人がPRP注射を1回打つと、1年分のヒアルロン酸注射の代わりになります」と患者さんには説明しています。ご本人の血液を抽出してまた戻すので、薬剤のアレルギーや副反応の心配がなく、当院の外来にも多くの患者さんが受けに来られています。

PRP療法イメージ図

PRP療法イメージ図

Q. 治療にはほかに、リハビリ治療もあるそうですね?

A. 初診で訪れた患者さんに、これまでにどのような治療をしたことがあるかをお聞きすると、多くの方がリハビリだとおっしゃいます。その内容は、マッサージや電気治療、赤外線照射だと答えられますが、これらはリハビリの中でも物理療法といわれるものです。筋肉のこわばりや血液循環を改善して一時的に症状を和らげる療法です。
それに対して、同じリハビリでも運動療法の場合は、運動によって体重を減らしたり、筋肉量を増やしたりして、膝関節の安定性を高める根本的な療法になります。膝のぐらつきを抑えるためには、膝関節周囲の筋肉はもちろん、足首や股関節まわりの筋肉、腹筋や背筋などの体幹をトータルに鍛えることが大切です。

医療法人 健佑会 いちはら病院 絹笠 友則先生Q. それらの治療を続けても改善されない場合は手術になるかと思いますが、どのような手術があるのですか?

A. 膝関節の内側がすり減って内反変形している状態からバランスを正すために、骨切り術(こつきりじゅつ)という手術を行うことがあります。これは、膝関節の周囲の骨を切ってO脚をX脚に近づけるような手術です。足底板を使う装具療法の場合は、膝関節を2°程度角度修正することができますが、骨切り術だと角度を問わずに調整が可能になります。そのため装具療法で痛みが和らいだ方には、骨切り術によってさらに痛みをなくせる可能性があります。一般的には10°前後で調整し、それによって膝関節の一部分に偏ってかかっていた体重の負担が膝関節の損傷のない部分に移行されて痛みが軽減できます。また、骨切り術は膝関節の中ではなく外側を切るので、靱帯は温存されて関節や軟骨の表面の感覚を残すことができます。
ただし、もともと骨折していなかった部位に骨折をつくる手術になるため、骨折部分の痛みがなかなか落ち着かない、あるいは骨がくっつくまでに時間を要する場合もあります。術後はこれまでにはなかった違和感や痛みが続き、落ち着くまでに最低3カ月程度かかります。その間は動作を慎重に行いつつ、運動療法も必要になります。そのため、骨切り術は変形性膝関節症の進行度合いを問わずにできる手術ですが、術後の身体への負担を考慮すると基本的には50歳代までが対象になります。60歳代なら、その方のライフスタイルや目指したいゴールによって手術方法を検討され、70歳代になると多くは人工関節を選ばれます。しかし最近は活動的な70歳代の方もおられるので、70歳代前半までで希望があれば骨切り術を行うこともあります。

O脚の図 骨切り術

Q. 手術にも選択肢があるのですね。

A. 基本的には術後にどの程度の動きを求めるかによって選ぶことになります。例えば、農家の方やキャディーさんスポーツ愛好家の方などは、しゃがみ込む動作が求められるため60歳代でも骨切り術が適しています。一方、膝関節を使うのは散歩をする程度で、洋式の生活をされている方は、膝関節の傷んでいる部分を切除して人工物(インプラント)に置き換える人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)が適しています。こちらの手術だと、当院の患者さんの多くは、術後2週間程度で階段の上り下りができるまでに回復されています。早期に日常生活に復帰したいという方には、人工膝関節置換術をご提案しています。

Q. 人工膝関節置換術について詳しく教えてください。

A. 人工膝関節には種類があり、症例に合わせて使い分けています。一つは、膝関節全体をインプラントに置き換える人工膝関節全置換術(じんこうひざかんせつぜんちかんじゅつ)です。もう一つは、人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ)という膝関節の内側だけをインプラントに置き換える手術です。さらに、膝関節の中には、関節を安定させ、その動きを司る前十字靭帯や後十字靭帯がありますが、それぞれの靱帯を温存できるインプラントもあります。最近は、歯科においてもできるだけ自分の歯や神経を残す治療が優先されているのと同様に、関節においても自分の骨や軟部組織を残す治療が検討されています。
私はできるだけ靱帯を温存する方向で段階的に手術法を検討していますが、高齢の方で膝がグラグラしている場合はすでに前十字靭帯が機能していない場合があり、そうしたケースでは前十字靭帯を切除してインプラントに代替させます。また、変形性膝関節症がかなり進行している場合は、膝を深く曲げたときに機能する後十字靭帯も不全なことがあるので切除するケースもあります。
人工膝関節にはほかにも入れ換えの再手術に使うインプラントや、変形性膝関節症の末期の方用の特殊なものもあります。どれを選択するかは医師の考え方にもよりますが、執刀医によって得意な手術方法も異なるので、得意なもので行ったほうが手術成績が良い場合もあります。いずれにしても患者さんとよく話し合って、その方の性格やライフスタイルに合った手術方法を提案し、最後は患者さんに選んでいただくことが大切だと思います。

人工膝関節全置換術

人工膝関節全置換術

人工膝関節単顆置換術

人工膝関節単顆置換術

Q. 人工膝関節置換術と骨切り術の術後成績の経過についても教えてください。

A. 人工膝関節置換術か骨切り術かによって回復にかかる時間に大きな差があります。術後成績を見きわめるのは人工膝関節置換術で1年後、骨切り術で1年半から2年後になります。多くの患者さんにとって一番辛いのが術後すぐの疼痛です。それをいかに抑えるかが早期回復のカギとなります。痛みやそれにともなって吐き気を催す場合もあり、術後の安静期間が長くなってしまうと、その間に身体が衰えて関節も硬くなって機能が失われていく可能性があります。したがって早期から身体を動かすことがとても重要となります。私は術後の疼痛や嘔吐のコントロールは手術と同じぐらい重要だと考えて実施しています。実際に術後の患者さんに痛みのスケール調査をすると、最大の痛みを100とした場合20前後の方が多く、中には0だとおっしゃる方もおられます。

Q. 人工膝関節置換術の合併症についても教えてください。

A. 合併症も術後の疼痛が影響します。痛みを感じることで血圧や脈拍が上昇しますが、痛み止めを使って下降させ、それが切れるとまた上昇するなどし、心臓や血管に負担をかけてしまう恐れがあるからです。そのため、術中の麻酔がかかっている段階から疼痛のコントロールをすることが大切です。
代表的な合併症としては、下肢の静脈に血の塊(血栓)ができて血管をふさぐ深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)があります。これを防ぐためには、薬や、血流を促すためのフットポンプを用いますが、一番の対策は早期離床です。そのためにもやはり、術後早期の痛みを解消してベッドから離れてリハビリを始めることが重要なのです。
その他の合併症としては感染があり、入院中にかかる早期感染と数年後にかかる晩期感染があります。早期感染にかかりやすい方は肌が弱いアレルギー体質で、自分の体に起きた異変に対して神経質な方、例えば傷があると自分の手で触ってしまうような方が多いです。逆に晩期感染にかかりやすい方は、自分の体に起きた変化に無頓着な方に多くみられます。糖尿病の悪化のほか、ケガや水虫などでも感染につながります。

医療法人 健佑会 いちはら病院 絹笠 友則先生Q. よくわかりました。では最後に、先生が医師を志されたエピソード、診療にあたって大切にされていることを教えてください。

A. 子どもの頃からスポーツをし、よくケガをしていました。整形外科にお世話になることが多かったことから興味を持ち、医学部を受験しました。結果的にこの職業に就けたことに幸せを感じています。多くの手術をしていますが、執刀する負担よりもやりがいのほうが大きいです。大切にしているのは、患者さんを自分の家族だと思って手術を行うこと。常に手を抜かず、最善を尽くすことを心がけています。

リモート取材日:2022.12.13

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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