先生があなたに伝えたいこと / 【西田 圭一郎】「私が現役でいるうちはずっと責任をもちます」そういう気持ちで肘関節の手術に臨んでいます。

先生があなたに伝えたいこと

【西田 圭一郎】「私が現役でいるうちはずっと責任をもちます」そういう気持ちで肘関節の手術に臨んでいます。

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生

岡山大学病院
にしだ けいいちろう
西田 圭一郎 先生
専門:リウマチ関節外科

西田先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 急に増えた白髪ですね。まだらな状態が気になって、染めようかどうしようか思案中です。

2.休日には何をして過ごしますか?
 前の日に自宅で夜遅くまで映画を見て、当日は昼ごろまで寝だめ。それから子どもと遊んで夜は外食をします。家内も日曜日なので(笑)。

先生からのメッセージ

「私が現役でいるうちはずっと責任をもちます」そういう気持ちで肘関節の手術に臨んでいます。

Q.まず、肘に痛みや不自由が生じると、生活上どのような不便が起こるのかを教えてください。

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.肘の最大の役割は、手や指を目的の場所に到達させる"リーチ機能"です。肘が痛い、あるいは十分に動かないという場合、屈曲に問題があれば、「食事や飲み物が口に運べない」「顔や頭が洗えない」「シャツの上のほうのボタンが留められない」ということが起こります。屈伸に問題があれば「お風呂で身体を洗うのが難しい」「トイレでお尻を拭くことができない」、伸展に問題があれば「靴下が履けない」「腕を袖に通せない」。また肘に力が入らないと、「物を下げられない」「物を乗せたお盆などが運べない」「手指や手首に力が入らない」という症状が出てきます。このように、生活する上で本当にさまざまな支障が出てきてしまうんですね。特に両肘とも痛みや不自由がある方ですと、食事のとき、口を食べ物のほうに持っていかなくてはならないという事態になります。"食べること"は生きていくのに欠かせない行為ですから、こうなりますと、私は人工肘関節手術を強く勧めるようにしています。

Q.人工股関節や人工膝関節はよく耳にしますが、人工肘関節というのもあるのですね。それはどのような仕組みになっているのですか?

(*1)肘関節のしくみ

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.人工肘関節は、実は1970年代には開発が始まっていましたが、初期のものはいずれもうまくいきませんでした。現在の人工肘関節は1980年代に開発されたもののうち、初期の失敗を経て改良を重ねながら生き残っているものと、それらの経験を踏まえて最近開発されてきたものです。
 構造は大きく分けて2つに分けられます。ひとつは上腕骨側と尺骨側(*1)の部品に分かれた非接合型(unlinked)(*2)。これは人の肘に近く、関節面の形状や骨以外の靭帯、筋肉などの軟部組織によって安定させるものです。

(*2)非接合型の人工肘関節(*3)接合型の人工肘関節もうひとつは上腕骨側と尺骨側の部品を手術中に組み合わせて一体化させる接合型(linked)の肘関節(*3)で、人工関節同士で安定させます。この2つの型から、患者さんの骨の状態や生活動作などを考慮して選択します。いずれも長期間持つように、上腕骨、尺骨にステムといわれる軸を挿入して関節面にかかる負担を軽減します。材質はステムの部分がチタン、上腕骨関節面がセラミックスやコバルトクロムの合金、尺骨側は高分子量ポリエチレンとなっているものがほとんどです。接合型の場合も合金対ポリエチレンの組み合わせで摺動面が形成されています。

Q.人工肘関節手術が必要な疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.関節リウマチ、変形性関節症、粉砕の強い骨折、悪性腫瘍の再建などがあり、当科では95%が関節リウマチの患者さんです。3~4%が変形性関節症や外傷、残りが腫瘍です。また関節リウマチに関しては男女比が5:1だといわれていますが、当施設では9割が女性ですね。
 ちなみに悪性腫瘍の場合は広い範囲を切除しないといけませんので、他の疾患とは異なる特殊な人工肘関節を使います。

Q.関節リウマチが圧倒的に多いのは何故なのでしょう。

A.関節リウマチは、肩も動かない、手首も硬い、指も痛いという状況が多いですので、肘の具合が悪いとかなり不自由なんです。しかも両側の上肢に症状が出てくることが多いですから、手術になるケースが比較的多いんです。

Q.ということは関節リウマチの方は、両腕とも手術を受けられることが多いのですか?

A.手術に関しては2割、3割程度でしょうか。片方でサポートできるようになると、ずいぶん生活が楽になりますから。その2、3割の方というのは、片方を手術して本当に良くなったからと満足されて、こちらから薦めるというよりは自ら進んで手術を希望される方が多いです。

Q.では、人工肘関節手術をしなければならない基準というのはあるのでしょうか。

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.痛みと日常生活の制限の度合い、あとはレントゲンで診て構造的に破壊があると手術ということになります。構造的にきれいな場合は、肘が痛いとか生活に少し困るからといって人工関節にする必要はありません。逆に、壊れて骨も溶けているのにあまり痛くないという場合もたまにあるのですが、このときも無理には手術は勧めませんね。時期をみて、ということになると思います。

Q.実際に手術となるとかなり不安なものだと思います。患者さんからの悩みや質問にはどのような内容が多いですか?

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.やはり、手術にどれくらい時間がかかって、どんな合併症があって、どれくらい入院をすればいいのかということですね。こちらとしても事前に説明をするようにしています。患者さんは具体的な細かい手術の内容を聞きたいわけじゃないんです。実際によく言われるのは、「明日、何時から手術で、何時間かかるんですか?」「手術したあとどれくらい痛いんですか?」「輸血はいりますか?」「入院はいつまでですか?」「手術後、どれくれいで手が使えるようになりますか?」「リハビリはいつまですればいいんですか?」、などが中心ですね。
合併症についてもお話をしなければならないのですが、「こういうことも考えられるけれども可能性としてはすごく低いですよ」ということと、「当院ではほとんど起こっていませんよ」ということを説明します。怖がらせる術前説明ではなく、安心していただくための説明ですから。「うちでは合併症の率は1%未満、ほとんど起こっていないです」と。ただ、起こる場合もあるということは知っていただきながら、「非常にリスクは低いので、安心してください」ということをお話します。また人工肘関節については、どれくらい持つのか、みなさんとても気になるんですね。「この手術はこれでおしまいだろうか」「10年後にし直さないといけないと聞いた」などの質問が非常に多いんです。そういった時は岡山大学の歴史を簡単にお話ししています。

Q.それはどのようなお話なのですか?

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.1970年代後半から、日本人のサイズに合わせた人工肘関節を作るために解剖体を使って実験し、80年頃から臨床応用を開始、86年からはほぼ今の形になったというお話です。そして現在、人工肘関節の長期成績が23年目になっているということ。ですので、60歳を越えた方ですと、ほぼ一生に一度の手術で済むということですね。人工関節は、はずれたり緩んだりすることなく保っている状態のことを、"○年生存率"という言い方で表します。10年生存率は90%を超えていますし、最近のセメンテッドタイプでは95%。病院によりますが、私の場合、骨の中にセメントを入れるタイプの人工肘関節を使って手術をすることで、以前にも増して術後成績が安定するようになりました。いずれにしろ、人工肘関節の生存率はまだまだ伸びるだろうと思います。

Q.長く持つようになったということは、比較的若い患者さんにも手術をしやすくなったということでしょうか。

A.手術の平均年齢は60歳位ですが、たとえば30代でも、同じように生活に困っておられて関節も壊れているという場合は、再手術の可能性などをよくお話をして手術をすることもあります。あまり不安に感じられる患者さんには、「私が現役でいるうちはずっと責任をもちます」とお伝えします。恩師の井上教授からの教えでもあり、僕もうそ偽りなく、そういう気持ちで手術に臨んでいます。30代の方で、「その一言で手術を決心した」という方もおられました。

Q.なるほど。それでは、人工肘関節をより長く持たせるための秘訣はありますか?

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.逆に、なぜ、2回目の手術が必要になってしまうのかを考えてみましょう。人工肘関節が緩んでグラグラしてしまう、ばい菌がついてしまう、それで人工肘関節が持たなくなってしまうということが再手術の要因です。そうなる原因のうち、患者さん側の要素としては、まず骨の質が弱いということが挙げられます。生まれつき弱い方もありますし、病気の過程や年齢で弱くなる場合もあります。そして使い方ですね。無茶をしない、できれば日常生活のみの使用にしていただければ長持ちするのですが...。
 実は個人的に心配している患者さんがおりまして、給食調理の仕事をされているのですが、大量のスープが入ったお鍋を持って運んだり、重い棚から上げたり下げたり、かなり酷使されているんです。そういう方は、ぜひ定期的に検診を受けていただきたいと思います。人工肘関節についてはフォローアップが大変重要ですし、「こうしてはいけませんよ」というアドバイスもちゃんと守っていただきたいと考えています。あと医師側の要素というのもありますね。

Q.その先生側の要素とは?

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.まず手術の経験を積むことが大前提ですね。適切なインプラント選択、手術手技、正確な設置。このようなことが人工肘関節を長く持たせることにつながります。ほかに関節リウマチなど疾患に対する薬物コントロールをきちっと行うことが重要です。両肘が曲がるようになっても手や指が変形してしまって動かせないようであれば意味がありませんから。また医師側が十分な注意をしていても、手術中一定の割合で起こってしまう骨折や感染があります。感染に関しては、当科ではクリーンルームを使い完全装備で手術をしますから、本当にごく稀にしか起こりません。岡山大学は人工関節の歴史が長く実績も世界的なものであり、衛生面では特に厳しく教育されています。

Q.さまざまな要素がある中、患者さんとしては無茶な使い方をしないということが大切なんですね。ほかに術後、注意すべきことはありますか?

A.転倒は要注意です。人工関節の周囲の骨折で人工関節がだめになってしまうことがありますから。重労働も本来なら避けていただきたいのですが、仕事柄、どうしても避けられない方にはより厳重に様子を診ながら、摩耗し緩みがきたら再手術もあり得るということをきちんとお話します。関節リウマチの方の場合、関節の袋や靭帯が弱くて、あまり無理に使うと靭帯が緩んで人工肘関節にもガタがくる、そして材質のポリエチレンの粉が飛び散り、炎症や緩みの原因になるということもあります。ただ、関節リウマチの患者さんはあまり無理をされませんね。

Q.人工肘関節の緩みや感染を起こした場合、自覚症状はあるのでしょうか。

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.はい、あります。その自覚症状の出る前に異常を見つけるため、少なくとも1年に1回は検診を受けていただきたいのです。
  自覚症状としては、たいていは痛いということ。感染のときは腫れます。ひどいときには真っ赤になって熱を持ったりします。あとは痛くもないし腫れてもいないのにカタカタ音がするというのもおかしいですね。そういうときにはすぐに来てくださいと言っています。なかには、手術をして肘の調子があまりにいいものだから使い過ぎてしまい、筋肉痛になっている場合がありますが、ご自分ではなかなか判断がつかないでしょうから、受診していただければと思います。

Q.早めの来院が大切なのですね。

A.そうです。人工肘関節は、術後はもう痛くないのが普通です。痛くなったら何かあると思ってもらったほうがいいですね。また熱を持つなどの感染兆候があるときも早めに病院へ。感染の場合、早期発見で緊急手術をしてきれいにすれば、人工肘関節の再手術までいかなく済むことも多いですから。

Q.わかりました。次に術後のリハビリについて教えて下さい。

岡山大学病院 西田 圭一郎 先生A.当科の場合、手術当日はシーネ(当て木)で安静にしますが、手指は動かします。48時間でシーネを除去し、手を振って歩いてもらいます。全国的にもかなり早いほうだと思いますよ。患者さんは「えっ、いいんですか?」と聞かれますが、「どうぞ、どうぞ、しっかり手を振って!」と(笑)。三角巾は痛みの強い例以外はしません。術後3日目から主治医が付いてベッドサイドで屈伸のリハビリ(伸展45°、屈曲90°、回内外それぞれ45°が合格の目安)、術後5日~7日で理学療法士によるリハビリを開始し、術後2週までに伸展30°、屈曲120°、回内外それぞれ60°を目標にします。抜糸を経て、術後3週までに伸展20°、屈曲130°、回内外80°を目指します。

伸展20°屈曲130°回内外80°

Q.3週間で退院というのがひとつの目安になるわけですね。ところで、手術を受けたあとにもできるおすすめのスポーツはありますか?

A.手を使わなければ、大体がOKだと思います。ただし転ばないこと。散歩、ジョギング、自転車漕ぎなどは足がシャンとしていれば大丈夫。物を投げることはできますが、スポーツとしてはお勧めできません。その代表的なのがボーリングです。ゴルフはレベルによりますが、ゲートボール程度ならどんどんしていただいて結構です。またプールで、健康のためと足の筋力アップのために水中訓練をすることも問題ないと思います。

Q.ありがとうございました。最後に、患者さんから言われたことで印象に残っている言葉を教えてください。

A.「自分にはこんなにできることがあったんだ」と、「もう片方の手が帰ってきた」と言われたことが、とてもうれしかったですね。あと「ご飯がおいしくなった」、「自分でご飯を食べられてうれしい」とか、「寝返りを打っても痛くないので安心して眠れる」という言葉も印象に残っています。こういう声を聞くために医者をしているんだなと実感し、私の大きな励みになっています。

Q.最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

西田 圭一郎 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2010.4.15

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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