先生があなたに伝えたいこと / 【藤井 英紀】3つの低侵襲な方法を提案いたします。

先生があなたに伝えたいこと

【藤井 英紀】3つの低侵襲な方法を提案いたします。

東京慈恵会医科大学附属 第三病院 藤井 英紀 先生

東京慈恵会医科大学附属 第三病院
ふじい ひでき
藤井 英紀 先生
専門:股関節(鏡視下手術、骨切り術、人工関節)

藤井先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
  健康ですね。自分や家族のためだけでなく、手術を待っておられる患者さんのためにも健康でいなくてはなりません。健康のためにランニングを始めようと思っています。股関節に負担がかからない程度に続けたいです。

2.休日には何をして過ごしますか?
 テニススクールに通っています。徐々に上達できていて、休日の楽しみになっています。

先生からのメッセージ

3つの低侵襲な方法を提案いたします。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 股関節の疾患として代表的な変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)について教えてください。

A. 変形性股関節症とは、股関節の骨が変形して軟骨が変性していく病気です。股関節の構造は、骨盤にある寛骨臼(かんこつきゅう)が大腿骨の先端にある丸い大腿骨頭(だいたいこっとう)に覆いかぶさるように組み合わさっています。球状のくぼみに球形がぴったり重なって関節として動くのですが、骨が変形して楕円状になると骨と骨がこすれ合って表面の軟骨が徐々にすり減り、動かすたびにゴツゴツとした音が出たり、痛みを感じたりすることがあります。

変形性股関節症

Q. 変形性股関節症になる原因について教えてください。

A. 骨が変形していく原因は大きく分けて2つあり、1つは寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)、もう1つは寛骨臼と大腿骨頭の不適合によって骨と骨がぶつかる大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI:エフ・エーアイ)です。

Q. 寛骨臼形成不全とは、どのようなものですか?

A. もともと寛骨臼が小さく大腿骨頭にしっかりと覆いかぶさることができないことで、寛骨臼の縁に体重の負荷がかかって骨が傷んでいきます。また、寛骨臼の縁のまわりには関節唇(かんせつしん)という組織があるのですが、それが破れたり関節の中に巻き込まれたりすることもあります。それによって痛みが出ることもあり、関節唇だけを修復する手術を行うこともあります。その場合は、細い管にレンズが付いた関節鏡(かんせつきょう)を使って関節内を確認しながら関節唇を縫合します。

寛骨臼形成不全

Q. もう一方の大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)についても教えてください。

A. 寛骨臼形成不全とは反対に、寛骨臼の被覆が大きすぎたり大腿骨頭の形状がいびつだったりすることで、寛骨臼が大腿骨頭にこすれて骨が変形していきます。こちらも関節唇が巻き込まれやすくなります。骨に多少の形態異常があっても股関節をあまり使わなければ、それほど変形は進みませんが、スポーツをするなど活動性の高い方は変形が進みやすくなります。
寛骨臼形成不全も大腿骨寛骨臼インピンジメントも、早期に診断して保存的な治療で骨の変形を予防すれば変形性股関節症に進むことを予防できる可能性が高まります。

FAIの例(骨盤側の形態異常)

FAIの例(大腿骨側の形態異常)

Q. 保存的な治療とは、どのようなものですか?

A. 筋力・体幹トレーニングなどで、股関節の求心性(外れないようにする力)を高めるほか、ご本人の股関節の形態に合わせ、できるだけ股関節に負担がかからない生活習慣を実践することです。

Q. 寛骨臼形成不全そのものは、手術で改善できますか?

東京慈恵会医科大学附属 第三病院 藤井 英紀 先生A. 手術を選択する前にまずは、減量によって股関節にかかる体重の負荷を抑えたり、立ったりしゃがんだりといった動作が多い仕事に従事している場合は、その頻度を減らしたりすることを検討します。これらが難しい場合は手術を検討します。
寛骨臼形成不全の場合は、少ない被覆を増やす手術として、骨切り術(こつきりじゅつ)といって骨を切って動かし股関節の形態を整える手術があります。日常的に痛みで困っておられる方には、変形性股関節症になるのを防ぐ面からもこの手術をご提案しています。

Q. 骨切り術について詳しく教えてください。

A. 寛骨臼回転骨切り術というもので、いくつか種類があります。従来から日本で行われているRAO(Rotational acetabular osteotomy)という術式では、臀部を切開して筋肉をはがし、骨盤をドーム状に切って前外方に回転させます。私は、鼠径部の皮膚を7cm程度切開して球状にくり抜くように骨を切って回転移動させるSPO(Spherical Periacetabular Osteotomy)という術式も行っています。こちらは創が小さく、筋肉をはがす範囲が狭いことから身体への負担が少ない低侵襲(ていしんしゅう)な手術となっています。
ほかにも、寛骨臼棚形成術といって骨盤から採骨して寛骨臼に移植し、平らな棚を形成して被覆を増やす手術もあります。患者さんの股関節の形態や年齢などに合わせて、ご相談しながらどの手術法が最適かを検討します。こうした骨切り術を50歳ぐらいまでに行うと、下肢をよく使う職種に就いている場合でも負担なく仕事を続けられる可能性が高まります。

骨切り術の例

Q. 大腿骨寛骨臼インピンジメントの場合は、どのような手術がありますか?

A. 股関節の中を関節鏡で確認しながら、傷んだ箇所を縫合したり出っ張った骨を削ったりなどして、本来の球関節の形状に整える関節鏡視下手術があります。骨同士がぶつからないように丸くきれいに整えることで関節唇の損傷も回避できます。関節鏡視下手術における入院期間は1~2週間程度で、手術自体の所要時間は1~2時間程度で出血もないため、低侵襲な手術です。

Q. 関節鏡視下手術によって、大腿骨寛骨臼インピンジメントは治癒できるのですか?

関節鏡視下手術A. 大腿骨寛骨臼インピンジメントの患者さんは、車の乗り降りなどで股関節をねじったときに激痛が走るといった症状を自覚されます。こうした際にも、この手術を行うと痛みがなくなります。ゴルフやテニスなどのスポーツ時の痛みもとれパフォーマンスが上がるため、手術を受けられた多くの方が満足されています。
大腿骨寛骨臼インピンジメントによる痛みをガマンしているうちに変形性股関節症に進むことがあるため、その予防にもつながります。現状では、この関節鏡視下手術は難易度の高い手術なので限られた医療施設でしか受けられません。

Q. 変形性股関節症の初期の自覚症状はやはり痛みでしょうか?

A. そうですね。まず関節唇(かんせつしん)が傷んで痛みを覚えます。関節唇が傷むというのは切れて骨からはずれてしまっている状態で、動き始めとか足を開いたときにちょっとした痛みが出たり、関節唇が股関節に挟まると激痛となったりします。この痛みを自覚したときに治療をすれば、簡単な治療で治せることもありますから機会を逃さないように早めに受診してください。

Q. 関節唇損傷の治療にはどのような方法があるのでしょうか?

A. 「関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)」による関節唇縫合術があります。1cmほどの切開を2ヶ所加えて、鉛筆くらいの細いカメラを入れて患部を観察します。もう一つ同様に切開した所からは操作をする鉗子を入れ、はずれてしまった関節唇をもとに戻します。これは2000年以降に徐々に確立された比較的新しい手術法です。関節唇縫合術に加え、大腿骨頸部の隆起も鏡視下に削り取り、関節のぶつかりの原因をとりはぶきます。関節鏡視下手術では対応できない場合、例えば大腿骨頸部が大変大きいためにFAIとなっているのなら、観血的に、そこをきれいに削る手術を併行します。さらに寛骨臼形成不全のあるときはそれを改善する手術も行います。

Q. 変形性股関節症に進行した場合は、骨切り術や関節鏡視下手術での治療は難しいですか?

A. 股関節の軟骨がすり減ってしまった場合は、股関節をインプラント(人工物)に置き換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)をご提案しています。軟骨の状態を評価して、骨を温存できるかどうかを正しく判断しなければなりません。
人工股関節置換術もこの10~15年ぐらいで低侵襲な手術法が普及し、さまざまな股関節への進入方法がある中、最近は筋肉を切らない前方進入法が取り入れられるようになっています。

人工股関節置換術の例

人工股関節置換術の例

さまざまな股関節への進入方法

Q. 前方進入法はどのようなメリットがありますか?

A. 昔は人工股関節の手術には15cmほどの切開が必要でしたが、手術器具などの改良で7~8cmの傷で手術ができるようになりました。現在、当院では股関節の前方から筋間を分け入って患部に進入する新しい方法を行なっていて、術後の痛みや脱臼を起こす確率を減らすことに成功しています。
術後の脱臼を回避できることと、正座やしゃがむ姿勢などに対する動作制限がないことです。傷んだ股関節を人工関節に置き換えることで痛みを取り除くだけでなく、筋肉を温存することで痛みが出る前の活動性を取り戻すことができ、スキーやテニスなどのスポーツへの復帰も目指せます。
もちろん、股関節の変形の程度によって術式は異なるため、脚の長さが短くなるほど変形が進み長さの調節などが必要な場合などは、前方進入法の適応にならない場合もあります。

東京慈恵会医科大学附属 第三病院 藤井 英紀 先生Q. インプラントは以前に比べて進歩してきていますか?

A. 2010年以降、インプラントの摺動面(しゅうどうめん:こすれあう可動部分)に使われるポリエチレンの材質が進歩しています。以前に比べてすり減りにくくなったために使える期間が長くなって、若い患者さんにも適用できるようになりました。
最新の人工股関節では、ポリエチレンの表面に水の膜のようなものを作る「Aquala(アクアラ)」という新しい技術が搭載されたり、酸化して劣化するのを防ぐようビタミンEが添加されたりしています。こうした技術で20年、30年経ってもポリエチレンが傷まなければ、耐用年数は大幅にアップするのではないでしょうか。また、摩耗しにくくなると、ポリエチレンを薄くすることができ、大きな骨頭ボールが入れられるようにもなるので、脱臼リスクの低減にもつながります。
骨頭ボールも割れにくく表面がつるつるしたセラミック製のものが開発され、20年近くの耐久性があるといわれています。また、骨盤側のカップ、大腿骨側インプラント(ステム)とも、骨との親和性が高いチタン製のものが開発され、骨と癒合しやすくなってインプラントのゆるみも低減しています。現在、インプラントは種類が豊富にあるため、患者さん一人ひとりに合ったものを選んでいます。

Q. 正確、安全な手術のために取り組まれていることはありますか?

A. コンピュータを使った三次元シミュレーションで正確な術前計画を行うことです。手術に関しては、手術中に三次元画像を確認しながら正確な角度で骨を切ったり人工股関節を適切な位置に設置するための患者適合型手術支援ガイドを作製し使用しています。また、最近ではCTスキャナーのデータから3Dプリンターを利用して患者さんの股関節の立体モデルも作れるようになりましたので、非常に難しい症例では術前にそれを用いて綿密な手術計画を立てています。

3Dプリンターを利用した立体骨モデルの作製

3Dプリンターを利用した立体骨モデルの作製

Q. 人工股関節置換術の合併症についても教えてください。

A. 以前は、人工股関節置換術を100人に行うと4人ほどの割合で脱臼が起こっていました。脱臼を回避するためには、手術で筋肉や腱を温存することが重要になります。当院が取り入れている前方進入法であれば筋肉や腱を温存することができ、脱臼の予防につながります。
また、感染も深刻な合併症の一つですが、現在は銀コーティングが施された抗菌性のインプラントも開発され、それを用いることもあります。ほかに、骨折や出血といった合併症においては、短時間で精度の高い手術が予防のポイントとなるため、それを心がけています。

Q. 術後の流れについても教えてください。

A. 昔は人工股関節置換術を行うと、術後6週間ほど安静にしていた時代もありました。しかし今は手術翌日から離床して、まずは車椅子に乗っていただくことができるようになっています。次の日には歩行訓練を開始して、多くの方が1週間後には通常の歩行が可能になります。あとは創の回復を確認しながら、患者さんのご希望に沿って退院日を決めていきます。

Q. 先生のお話から治療の選択肢の多さ、人工股関節の進歩がよくわかりました。

A. 治療法については、さまざまな選択肢があり、患者さんにとってベストなものを選び取り実践する力こそ整形外科医には必要だと考えます。人工股関節については、耐用年数は現時点では20年から30年といわれていますが今後ますます延びるでしょう。我々としては一生取り換えなくても良いような手術をこれからも追求していきたいですね。

Q.最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

藤井 英紀 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2024.1.25

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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