先生があなたに伝えたいこと / 【大田 秀樹】傷ついてしまった脊椎の神経を、手術で元通りにすることはできませんので、疾患の状態によっては、進行してしまう前に、手術を決断することが大切です。

先生があなたに伝えたいこと

【大田 秀樹】傷ついてしまった脊椎の神経を、手術で元通りにすることはできませんので、疾患の状態によっては、進行してしまう前に、手術を決断することが大切です。

医療法人 一信会 大分整形外科病院 大田 秀樹 先生

医療法人 一信会 大分整形外科病院
おおた ひでき
大田 秀樹 先生
専門:脊椎脊髄

大田先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 猫を2匹飼っているのですが、学会などで自宅を留守にしているときの猫の健康状態が気になります。自動給餌器を置いているのですが、猫がそれを倒してしまったことがあり、それ以来、ちゃんと食べているか学会中も心配です。

2.休日には何をして過ごしますか?
 毎週のようにゴルフをしています。ゴルフは自然相手に対戦するので、失敗を人のせいにできないところが魅力です。今はスコアが80台半ばなのですが、上手くいかないときが多く、その奥深さについ熱中してしまいます。

先生からのメッセージ

傷ついてしまった脊椎の神経を、手術で元通りにすることはできませんので、疾患の状態によっては、進行してしまう前に、手術を決断することが大切です。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 手術の対象となる脊椎の疾患について教えてください。

A. 代表的なものに、後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)という病気があります。背骨を構成する椎体(ついたい)の後ろにある、後縦靭帯と呼ばれる部位が骨化し、その後ろにある神経を圧迫する病気です。頚椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)のいずれの部位にも起こります。あとで述べますが、中でも胸椎の場合は手術に工夫が必要になります。

後縦靭帯骨化症

脊椎の構造

Q. どのような人に多くみられますか?

A. 後縦靭帯骨化症はアジア系の人種に多くみられる疾患です。遺伝的な影響が大きいと考えられ、糖尿病や肥満の方にも多くみられる傾向があります。患者さんの多くは、手足のしびれと歩きにくさを訴えて来院されます。

医療法人 一信会 大分整形外科病院 大田 秀樹 先生Q. どのように診断されるのですか?

A. MRI検査を行い、神経が傷んでいるかどうか、脊椎にグラグラとした不安定性がないかを見きわめます。主訴が足のしびれの場合は、稀に腰椎のMRIだけを撮影して異常がないと診断されるケースがあるようですが、頚椎や胸椎の後縦靭帯骨化症によって足にしびれが出る場合もあります。深部腱反射の出方を確認することで、原因が腰椎にあるのか、胸椎あるいは頚椎にあるのかが判断できます。

Q. 治療方法を教えてください。

A. 軽度であれば、神経障害性疼痛(とうつう)に適応となる薬を処方し、様子をみます。しかし、あくまでも痛みを取るだけの薬なので、この薬で後縦靭帯骨化症が治るわけではありません。神経が圧迫されている場合は、手術でそれを解消しなければ進行してしまいます。

Q. どのような手術になるのですか?

A. 部位に応じて、手術の方法はさまざまです。頚椎の場合は、椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)といって、椎骨の一部である椎弓を切り開き、患者さん自身から採取した骨や人工骨をその隙間から挿入し、脊柱管を広げることによって圧迫を取り除きます。胸椎の場合も同じく脊柱管を広げ、さらに金属で固定する術式を行います。腰椎の場合は、固定してしまうと日常動作が不自由になるので、動きを残しつつ神経への圧迫を取る制動術(せいどうじゅつ)も取り入れています。

椎弓形成術の例

椎弓形成術の例

Q. 特に胸椎の手術に工夫が必要なのですね?

A. 後縦靭帯骨化症が一番起こりやすいのは頚椎なのですが、頚椎は骨が前弯(ぜんわん:体の横から見て前方に湾曲していること)しているので手術がしやすいです。なぜなら、後ろにある椎弓を切除すると、神経の圧迫が自然に後方へ解除されるからです。一方、胸椎の場合は背中が後弯(こうわん:体の横から見て後方に湾曲していること)しているので、骨化部位が摘出しにくいうえ、神経の圧迫が自然に解除されにくい構造になっています。昔は、後ろから神経をまたいで骨化の摘出を試みて脊髄を傷め、マヒが出てしまったケースもありました。しかし現在は、手術手技が発達し、骨化部位を摘出せずに、後弯している部分を少し前側に矯正してロッドやスクリューなどの金属で固定する固定術を行うことが多いです。そのうえで椎弓切除を行って、神経の圧迫を後方に解除する手術が主流になっています。

固定術の例

Q. そうした手術手技は、いろいろなやり方があるのですか?

A. 前方から切開するパターンと、後方から切開するパターンがあります。頚椎の場合は、そもそも解剖学的に骨化部位に到達しやすく、前方から入って骨化部位を摘出することもあります。しかし後方から入って神経の圧迫を解除することが多いです。胸椎の場合は、骨化部位まで距離があるので、到達するためには前方からでも後方からでも工夫が必要になります。
現在は、MRIやCT、レントゲンなど、診断するためのツールが発達しているので、病態を詳しく把握し、どのルートから手術を行うのが最適かを判断しやすくなっています。

医療法人 一信会 大分整形外科病院 大田 秀樹 先生Q. 手術のやり方は、昔と比べて進歩しているのですね。

A. 昔は皮膚を大きく切開して、除圧(じょあつ:圧迫を解除すること)したり金具を入れたりしていましたが、現在はできるだけ小さな創(きず)で行う低侵襲(ていしんしゅう)手術が主流になっています。しかも、術野をクリアに映る大型の4Kモニターに映し出し、それを見ながら手術を行うので、昔のように術野が見えにくいせいで手術が思うように行かないことは殆どなくなりました。

Q. 手術の安全性も高まってきているのですね。

A. 手術で使う機器が進歩したことで、素早く手術ができるようになってきています。例えば、脊髄モニタリングといって、神経に接触しそうになると信号が出るシステムを術中に使っています。骨を削る機器も、昔は神経を巻き込むトラブルがあったのですが、今は素材が改良されてそういった危険性は少なくなり、骨を削るスピードも格段に速くなりました。また、術中に出血した場合も、今は止血のための材料もさまざまなものがあり、早く出血を止められるようになっています。

医療法人 一信会 大分整形外科病院 大田 秀樹 先生Q. そうしたことで、合併症のリスクも下がりますか?

A. 手術時間が短縮できれば、合併症が起こる可能性は低減します。術中は患者さんに全身麻酔をかけ、基本的にうつぶせになっていただくので、神経はもちろん、心臓などにも大きな負担がかかります。特に、高齢の患者さんは身体への負担が大きいため、できるだけ手術時間を短くすることが重要です。手術時間が3時間を超えると、感染症になるリスクが高まるといわれています。
当院では、脊椎の手術をされる患者さんの平均年齢は70歳を超えています。できるだけ身体に負担をかけないよう、看護師やレントゲン技師とのチームワークによって、固定術であれば平均2時間以内で手術を終えるようにしています。さらに術中は、術部が汚染されないように30分に1度はきれいに洗浄し、術後感染を予防しています。

Q. 術後のリハビリについても教えてください。

A. 手術内容によって2~4週間程度の入院が必要となります。手術はほんの数時間で終わりますが、その後のリハビリには時間がかかり、退院してからもリハビリは続きます。本来の脊椎の状態を取り戻すためには、術後3カ月間の過ごし方がとても重要なのです。そのため、術後早期から日常動作のトレーニングを行い、どんな動作に気を付けるべきかを丁寧に指導しています。特に腰椎においては、中腰の姿勢で下にある物を取ったり、あぐらをかいたり、重い物を持ったりといった動作、頚椎においては理髪店などで首を伸展させる姿勢など、注意すべきことがたくさんあります。

医療法人 一信会 大分整形外科病院 大田 秀樹 先生Q. 低侵襲手術によってリハビリ期間は短くなりますか?

A. 低侵襲手術は、確かに皮膚を切開するサイズが小さく、術後の痛みが少ないのですが、だからといって早期に復帰できるわけではありません。特に椎間板ヘルニアの患者さんは、術後もあまり痛みがないので、いつも通りに動いてしまい、再発してしまうこともあります。内視鏡による手術を胃カメラ検査のように軽く考えておられる方がいらっしゃいますが、手術の内容そのものは以前と変わりありません。しっかりとリハビリを行い、術後の動作に注意を払うことが大切です。

Q. ありがとうございました。では最後に、患者さんにメッセージをお願いします。

相談A. 多くの患者さんやそのご家族は、「ギリギリまで今の状態で頑張って、限界になったら手術してください」と言われます。手術をすると車椅子の生活になってしまう可能性を危惧される方もおられますが、逆に手術を先送りにすることで神経のダメージが深くなり、車椅子の生活になることがあります。
神経というのは、非常に傷つきやすい組織で、傷ついてしまったものを手術で元に戻せるわけではありません。そのため、放置すると進行することが予想されるケースに限っては、できるだけ早く手術することをお勧めしています。もちろん手術の必要がない軽症の場合も多くありますので、まずは専門医の診断を受けることが大切です。

リモート取材日:2021.8.31

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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