先生があなたに伝えたいこと / 【大久保 昭史郎】股関節や膝関節の疾患が進行してしまうと、元の状態には戻せません。痛みを我慢して治療を先延ばしにしないことが重要です。

先生があなたに伝えたいこと

【大久保 昭史郎】股関節や膝関節の疾患が進行してしまうと、元の状態には戻せません。痛みを我慢して治療を先延ばしにしないことが重要です。

医療法人 日髙整形外科病院 大久保 昭史郎 先生

医療法人 日髙整形外科病院
おおくぼ   しょうしろう
大久保 昭史郎 先生
専門:膝関節股関節

大久保先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 お恥ずかしながら最近体重が10キロ近く増えてしまいました。コレステロールも高く、運動不足にもなりがちなので体力の衰えを感じています。気を付けなければと思いつつもついつい自分に甘いところが浮き彫りになっている今日この頃です。

2.休日には何をして過ごしますか?
 上で述べた通り体型をベストにすべく休日は適度な運動をしたり、食事に気を付けたり、飲酒を少し控えたりしないとな、と思いふけっています(笑)。

先生からのメッセージ

股関節や膝関節の疾患が進行してしまうと、元の状態には戻せません。痛みを我慢して治療を先延ばしにしないことが重要です。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 股関節はどのような構造になっていますか?

A. 大腿骨(だいたいこつ)の上端にある球状の骨頭(こっとう)が、骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)にはまり込む形になっています。それぞれの表面は、非常になめらかな軟骨で覆われています。正常な股関節は、寛骨臼によって骨頭の約4/5が覆われ、それによって股関節は安定性を保っています。さらに周辺の筋肉と協調することで体重を支え、立ち座りや脚の回旋などの動きができます。

股関節の構造

Q. 股関節の代表的な疾患を教えてください。

A. 代表的な疾患は、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。股関節の形態の異常や加齢が原因で、股関節が徐々に変形していく疾患です。発症年齢は40~50歳代が多く、女性の発症者数は男性の7倍といわれています。国内における変形性股関節症の有病率(人口に対する有病者の割合)は1.0~3.5%といわれ、全国におよそ120~420万人の患者さんがおられます。
変形性股関節症の原因は、大きく分けて2種類あります。加齢によって起こる一次性変形性股関節症と、先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)や発育性股関節形成不全(はついくせいこかんせつけいせいふぜん)が起因する二次性変形性股関節症で、日本では後者が多くみられます。また、関節リウマチ大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)大腿骨頸部骨折に続発する変形性股関節症も二次性股関節症といえます。
いずれの場合も、股関節の軟骨や骨がすり減ったり変形してしまい、立ち上がる際や歩行時に痛みを感じるほか、動きの制限や跛行(はこう:正常な歩行ができない状態)を伴います。発症すると加齢とともに悪化し、進行すると元の状態に戻すことはできません。

変形性股関節症

医療法人 日髙整形外科病院 大久保 昭史郎 先生Q. 治療法について教えてください。

A. 早期の場合は、痛み止めや炎症を抑える薬を服用しながら、リハビリなどで股関節にかかる負担を減らすことで改善する場合があります。全体重がかかる関節なので負担を減らすことは容易ではありませんが、股関節を支える筋力をつけたり、杖などの装具を使ったりするほか、股関節まわりの筋肉をほぐし、体重をコントロールすることで負担の軽減が見込めます。それにより痛みが緩和され、疾患の進行に対する抑制が期待できます。
当院にはリハビリテーション科があり、理学療法士が患者さんの年齢や体重などに合わせて生活指導をしながら、治療を行っています。痛みのひどいときは無理をせず休むことで、痛みが和らぐこともあります。早歩きはせず、一歩一歩ゆっくりと歩くことも大切です。

Q. どのような場合に手術になりますか?

A. レントゲン診断で決めるのではなく、患者さんの生活様式と痛みの度合いによって手術の適応を判断します。痛みで日常動作が困難だったり、先にお伝えした治療法で改善がみられなかったりする場合は、手術をご提案しています。

Q. どのような手術なのですか?

A. 代表的なものに、人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)があります。傷んで変形した股関節を取り除いて人工の股関節に置き換える手術で、所要時間は2~3時間程度です。人工股関節は大腿骨側と寛骨臼側の2つの部分からできていて、関節本来のなめらかな動きを再現するものです。本体は金属やセラミックでできていますが、摺動部(しゅうどうぶ:骨頭ボールが受け皿とすり合う部分)に耐久性に優れたポリエチレンライナーが用いられていて、これが軟骨の役目を果たしています。

人工股関節置換術の例

人工股関節置換術の例

医療法人 日髙整形外科病院 大久保 昭史郎 先生Q. 昔と比べて人工股関節は進歩してきているのですか?

A. 軟骨の替わりとなるポリエチレンライナーは、以前は年月とともにすり減り、比較的早期に入れ替えなければなりませんでした。しかしながら、この10年間で、技術革新によって耐久性が向上しています。例えば、「Aquala」(アクアラ)という技術によってポリエチレンライナー表面をコーティングすることで摩耗しにくくなり、人工股関節が長持ちするようになりました。また、ポリエチレンライナーの素材が改良されたことによって、ライナーを薄くすることができるようになって、大きな径の骨頭ボールが使用できるようになりました。このことで、小径の骨頭ボールに比べて、手術後の脱臼のリスクが低減しました。さらに患者さんの個々の骨格や病態に合わせて手術ができるように、様々な形態の製品が開発されています。

Q.手術手技も進歩していますか?

A.以前は、太ももを支える中殿筋(ちゅうでんきん)を大きく切って手術を行う後方アプローチ法が一般的でした。しかし現在は、筋肉に対する侵襲を抑えるさまざまなアプローチ法があります。当院でも患者さんの身体に負担の少ない低侵襲手術を心がけ、前外側(前側方)アプローチ法(Anterior Lateral Supine Approach)を採り入れています。これは、仰向けになった患者さんの太ももの横側から7~8cm程度の創(きず)を開け、筋肉に対する侵襲を極力抑えて手術するアプローチ法です。これにより従来法よりも術後の疼痛が軽減でき、リハビリがよりスムーズに行えます。
現在、ナビゲーションシステムやロボットによる手術に見られるように、医療技術は大きく進歩しています。しかし、あくまでも手術は人が人に対して行うものですから、術者の技術向上がなによりも大切だと当院では考えています。

いろいろなアプローチ法

Q. よくわかりました。では、膝関節についても構造から教えてください。

A. 膝関節は人体において最も大きな関節で、脛骨(けいこつ)、大腿骨、膝蓋骨(しつがいこつ:膝のお皿)の3つの骨から成り立っています。膝関節の間には、三日月形をした軟骨組織である半月板があり、体重の負荷を吸収分散するクッションの働きをしています。周囲は筋肉、腱、靭帯などで構成され、それらによって安定性を保ったまま曲げ伸ばしをすることができます。膝関節の機能を正常に維持するためには、関節に負担をかけ過ぎないようにしながら、まわりの筋肉を常に鍛えておくことが非常に大切です。

膝関節の構造

Q. 膝関節の代表的な疾患を教えてください。

A. 膝が痛む疾患は、半月板損傷、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)関節リウマチなどがあります。半月板損傷は、スポーツや加齢による変性で起こりやすい疾患です。急性期では、膝関節の腫脹と疼痛のほか、断裂した半月版が挟み込まれて膝の曲げ伸ばしができなくなるロッキング現象が起こることもあります。慢性期では、歩行時痛や水腫、膝に力が入らずガクッと崩れる膝崩れ現象がみられます。半月板損傷によって軟骨に負担がかかり、膝関節が徐々に変形する変形性膝関節症になるケースも少なくありません。
変形性膝関節症は、男女比1:4で女性に多く、高齢者になるほど罹患率は高くなります。主な症状は膝関節の疼痛と水腫で、初期では立ち上がりや歩き始めなど、動作の開始時だけ痛み、休めば痛みが和らぎます。中期になると、正座や階段の昇降が困難になります。末期には安静時にも痛みがあって変形が目立ち、膝をピンと伸ばすことができなくなって歩行が困難になります。

変形性膝関節症

Q. 治療法を教えてください。

A. まずはサポーターやテーピングで膝関節を固定し、抗炎症剤や鎮痛剤を用い、水腫がある場合は水を抜く処置を行うのが一般的です。特に日本人は、膝関節の内側が傷む内側型(O脚)が多いため、内側にかかる負担を減らすことが大切です。そのため当院では、患者さんに合ったインソール(足底板)を作製して装着していただいています。また、膝の軟骨を保護するヒアルロン酸を関節内に注射する、注射治療が奏功するケースもあります。これらに併せてリハビリも行い、膝関節の負担を軽減するとともに、以前の可動域(動かせる範囲)を再現できるようトレーニングします。

インソール(足底板)

Q. それでも改善がみられない場合は、手術になるのでしょうか?

医療法人 日髙整形外科病院 大久保 昭史郎 先生A. はい。主な痛みの原因が、半月板損傷や骨棘(こつきょく:骨同士の摩擦などによって発生する骨のとげ)の場合は、関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)を行います。膝関節に小さな創を開け、細い管の先にレンズとライトがついた関節鏡で関節内を確認しながら、ギザギザになった半月板や軟骨の凹凸、骨棘などを切除・修復する手術です。患部を大きく切開する必要がないため、身体への負担が少ないのが特徴です。一方、すでに膝関節の変形が進んでいる変形性膝関節症の場合は、骨切り術人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)などの手術を選択します。

Q. 人工膝関節置換術とは、どのような手術でしょうか?

A. 変形した膝関節の表面を取り除いて、人工膝関節に置き換える手術です。体力があって重度の身体疾患がなければ、90歳代でも適応可能な手術です。人工膝関節は、大腿骨部、脛骨部、膝蓋骨部の3つの部分からできています。膝関節が日常動作に必要といわれる120~130°の可動域を確保できるよう、さまざまなタイプのインプラントが開発されています。
近年は手術の技術も発達し、患者さんの身体にかかる負担が最小限になっています。例えば、皮膚や筋肉の切開を最小限にとどめる最小侵襲手術(MIS)や、膝関節全体をインプラントに置き換える全人工膝関節置換術(ぜんじんこうひざかんせつちかんじゅつ:TKA)に対して、傷んだ箇所だけを取り替える人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ:UKA)などがあります。

全人工膝関節置換術:TKA

全人工膝関節置換術:TKA

人工膝関節単顆置換術:UKA

人工膝関節単顆置換術:UKA

Q. 手術時間、入院期間を教えてください。

A. 手術時間は1時間半から2時間程度で、入院期間は当院で平均1ヵ月程度です。人工関節の手術の最大の利点は、早期にリハビリができることです。年齢にもよりますが、股関節も膝関節も術後1~2日で歩行練習ができます。入院中に入浴や階段昇降、畳の生活、トイレの動作などを訓練してから退院となります。退院後はリハビリのために通院していただきます。

Q. 手術の合併症についても教えてください。

A. 代表的なものに、1.6%程度の割合で発生するといわれる細菌感染症があります。感染すると、場合によっては創内を洗浄したり人工関節を抜去したりしなければなりません。糖尿病の方はそのリスクが高くなります。ほかには、下肢静脈で血液が凝固する深部静脈血栓症、それが肺に流れ込んで呼吸困難を起こす肺塞栓症(エコノミークラス症候群)があります。また、人工関節周囲の骨折や骨融解(骨が分解・吸収されること)が起こって、人工関節に"ゆるみ"が生じることもあります。さらに、患者さんによってはまれに、痛みや機能障害が残るケースやCRPS(複雑性局所疼痛症候群)を発症する場合もあります。膝関節においては、亜脱臼(関節から外れきっていない脱臼)や脱臼が1~20%、膝蓋骨骨折が0.3%の確率で起こりうるほか、膝屈伸が不十分で生活に支障が出ることもあります。
細菌感染症に対しては、医療者らが特殊な防護服を着用し、クリーンルームでできるだけ短時間で手術を行い、抗菌剤の投与も行って予防をしています。深部静脈血栓症・肺塞栓症に対しては、術後早期に身体を動かし、抗凝固薬を用いることで予防しています。その他の合併症も、手術手技の進歩や人工関節の品質が向上したことで、リスクは低減しています。術後は、定期的検診によって、合併症の早期発見・早期治療に努めています。

特殊な防護服を着用して感染症を予防する

医療法人 日髙整形外科病院 大久保 昭史郎 先生Q. ありがとうございます。では最後に、先生が医師を志された理由を教えてください。

A. 祖父の代から医師の家系で、自然に医師を目指しました。整形外科医になったのは、除痛や機能改善を目的とする点にやりがいを感じたからです。研修医時代に、整形外科を受診された患者さんが術後経過に満足され、笑顔で退院される様子を数多く目にしたことがきっかけになっています。
現在、診療を行う中、どんな治療法を望まれるかは患者さんによってさまざまです。そのため、できるだけ幅広い選択肢をわかりやすくご紹介し、納得のいく治療法を選んでいただけるよう心がけています。

※Aquala(アクアラ)は京セラ株式会社の登録商標です。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

大久保 昭史郎 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2021.5.17

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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