先生があなたに伝えたいこと
【野尻 賢哉】腰痛の原因はさまざまです。心因性のものや、内臓疾患が引き金になっていることもあります。まずは整形外科を受診して、詳しい検査を受けてください。
JA神奈川県厚生連 伊勢原協同病院
のじり けんや
野尻 賢哉 先生
専門:脊椎脊髄外科
野尻先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
市民農園を借りて作っている野菜のことですね。休日にしか見に行けないので、ちゃんと水は足りているか、虫に食べられていないかなどが気になります。
2.休日には何をして過ごしますか?
その農園で大根、ニンジン、タマネギ、白菜などの野菜を作っています。飼育している海水魚の世話をするのも楽しみです。
Q. 腰痛の主な原因について教えてください。
A. 外来に来られる方で最も多いのは「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」の患者さんです。加齢に伴って変形した骨が神経を圧迫することで、腰痛や足のしびれなどを起こす疾患で、ご高齢の方に多く見られます。歩くと痛み、休むと治まるを繰り返す「間欠跛行(かんけつはこう)」が典型的な症状で、じっとしていると痛まないため我慢してしまう人もいます。ほかにご高齢の方に多いのは「脊椎圧迫骨折」です。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)でもろくなった背骨が、ちょっとした衝撃によって折れてつぶれてしまう骨折です。痛みが出ない人もいますが、寝返りも打てないほどの猛烈な痛みを伴うケースもあります。
若い方に多いのは「腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア」です。重い物を運ぶなどの重労働に従事する若い男性に特に多く見られます。椎間板が飛び出して神経を圧迫し、痛みやしびれを引き起こします。
Q. 椎間板ヘルニアは「ぎっくり腰」とは違うものですか?
A. ぎっくり腰の一部にも含まれますが、ぎっくり腰のほとんどは筋肉性の痛みなので、痛み止めや安静にしてもらうことで治ることが多いです。一方ヘルニアは椎間板が飛び出してしまっているので、手術になることもあります。
Q. 腰痛を訴える人の8割が原因不明だといわれていますが、骨や筋肉の痛み以外にも原因はあるのでしょうか?
A. はい。精神的なストレスから腰痛を感じる「心因性」のものや、内臓疾患が原因のものなどがあります。外科的なものであっても、筋肉が傷んで出る腰痛であればレントゲンでは診断できず、原因不明とされることもあります。
Q. 腰痛を引き起こす内臓疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?
A. 多いのは「尿管結石」です。腎臓の中にできた石が体の中を動くことで、痛みを引き起こします。「すい臓炎」でも腰痛が起こることがあります。
あとは血管系の疾患ですが、「大動脈解離(だいどうみゃくかいり)」でも激しい腰痛を訴えることがあります。
Q. 腰痛にもさまざまな原因があるのですね。では、腰痛を防ぐために日常生活で気をつけてほしいことはどんなことですか?
A. まずは腰痛を引き起こしやすい姿勢を取らないことです。たとえば草むしりなどを前かがみのまま行うと、腰にかなりの負担がかかります。できれば、椅子などに腰掛けながら行ってほしいです。
また、重いものを持ち上げる時は腰だけを曲げるのではなく、一度しゃがんでから持つなどしてください。
動く前に軽くストレッチを行うのも、腰痛予防には効果的です。
体重が多い方も要注意です。体が重いとその分腰に負担がかかりますので、減量をすすめることもあります。
Q. 痛くなってしまった場合、まずどうすれば良いのでしょうか?
A. まずは整形外科の受診をおすすめします。腰痛の原因はさまざまですが、レントゲンで骨に異常がないか、腫れがないかを確認します。レントゲンで異常が見られないようなら、MRIなどのより詳しい検査を行ったり、内科など他科の受診を考えたりすることになります。
Q. 整形外科ではどのような診察が行われているのですか?
A. まずは問診を行います。いつ、何をしていて痛くなったのか、どのように痛むのかなどを聞きます。そのあとレントゲンを撮ります。レントゲンでは骨の変形などを確認しますが、腸腰筋(ちょうようきん)に膿が溜まって腫れる「腸腰筋膿瘍(ちょうようきんのうよう)」や「脊椎カリエス」などによる腫れが見つかるケースもあります。原因が特定されれば治療もスムーズに行うことができます。
Q. 具体的な治療法にはどんなものがありますか?
A. まずは痛み止めや炎症止めなどの薬物療法と生活指導で様子を見ます。薬には飲み薬と湿布薬、またブロック注射などがあります。ブロック注射には「仙骨ブロック」「神経根ブロック」の2種類があります。脊椎の一番下の方にある「仙骨」という骨にある穿孔部(穴)に麻酔を打つ「仙骨ブロック」は、注射後15分ほど休んでいただくと、すぐに歩いて帰ることができますので、外来で注射しています。一方「神経根ブロック」は神経に直接打つので、しばらく足にしびれが残ります。投薬やブロック注射でも改善がみられない場合は、手術を考えます。
Q. 手術はどのように行われるのですか?
A. 脊柱管狭窄症の手術は「除圧術」という方法で行われます。狭窄の原因となっている骨や靭帯を切除し、圧迫している神経を開放する方法です。
ただし、骨がずれてしまっているすべり症など脊柱の安定性が失われている場合には、ねじで固定する「固定術」を行います。
椎間板ヘルニアでは「ヘルニア摘出術」という方法で神経の圧迫を取ります。背中側を切開し、神経の圧迫の原因となっているヘルニアを取って、神経の圧迫を開放する方法です。
Q. 手術時間と入院期間はどのくらいですか?
A. 除圧術で1時間、固定術で1時間30分くらいです。ヘルニアの切除術は内視鏡を使うと1時間~1時間30分ほどですが、内視鏡を使わない方法では40分ほどで終わります。内視鏡手術のほうが身体的負担が軽いため傷の治りは早いですが、術後の回復に大きな差はありません。
入院期間は患者さんのご希望によりまちまちですが、短い人で3~4日、平均的には1~2週間ほどで退院できます。
Q. 手術後の運動制限などはありますか?
A. 除圧術やヘルニア摘出術は、術後1ヵ月ほど安静にしていただければ、どんな運動をしても大丈夫です。ただし、できるだけ腰に負担がかかる姿勢は取らないようにしてください。固定術を受けられた場合のみ3ヵ月はスポーツなどの激しい動きは避けるようにしてください。
Q. 最後に、先生が整形外科医を志されたきっかけをお聞かせください。
A. 小学生の時、交通事故で足を骨折して入院しました。そのときお世話になった整形外科の先生に憧れ、整形外科医を意識するようになり、医学部に行きました。医学部6年目のときにどの科を専門にするかを相談した先輩が整形外科医だったんです。その先輩に勧められて、整形外科医を目指しました。手術を受けた患者さんが順調に回復していく姿を見るとやりがいを感じます。整形外科医になって良かったと思います。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2016.11.1
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
腰痛の原因はさまざまです。心因性のものや、内臓疾患が引き金になっていることもあります。まずは整形外科を受診して、詳しい検査を受けてください。