先生があなたに伝えたいこと
【早川 恵司】椎間板ヘルニアは、椎間板内酵素注入療法や内視鏡手術など身体に負担の少ない治療の選択肢が増えています。ベストな治療法を提供し、リハビリまで執刀医がケアすることで、術後の満足度アップにつなげています。【平尾 雄二郎】筋肉や靭帯を温存する低侵襲手術は組織のダメージが少なく、術後の回復が早いことがメリットです。痛みを気にせず過ごせるようになっていただきたいと願っています。
医療法人社団 明芳会 高島平中央総合病院
はやかわ けいじ
早川 恵司 先生
専門:脊椎外科
※脊椎圧迫骨折と骨粗鬆症について、詳しくお話しされているページがございます。こちらをご覧ください。
早川先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
家でグルメを楽しむことです。熟成赤身肉をスモークするなどして、おうちご飯を充実させています。
2.休日には何をして過ごしますか?
趣味のサーフィンを楽しむためにトレーニングをしています。
イチロー選手も実践していたという、柔軟性を高めるジムに通っています。
医療法人社団 明芳会 高島平中央総合病院
ひらお ゆうじろう
平尾 雄二郎 先生
専門:脊椎外科
平尾先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
ラーメンなどのB級グルメが好きなんですが、最近この病院に異動してきて以降病院の近くや通勤ルート圏内でお店の開拓をしています。早川先生に「あぺたいと」という新高島平駅近くの両面やきそば専門店を教えてもらいましたが、美味しくてよく通っています。
2.休日には何をして過ごしますか?
趣味はサーフィン、サウナ、読書、YouTubeを見ることなどです。なるべくリフレッシュするようにしています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. 本日は、脊椎の疾患に多い椎間板ヘルニア(ついかんばんへるにあ)の最新治療について詳しくお聞きします。そもそも、椎間板ヘルニアとはどのような疾患なのでしょうか?
早川先生:腰の椎体と椎体の間にはクッションの役目を果たす椎間板と呼ばれる組織があり、その中心にある「髄核」(ずいかく)は水分豊富なゼリー状です。その髄核が外に飛び出た状態がヘルニアであり、その飛び出た場所によって神経の部位が圧迫されて痛みや痺れなどの症状が起こる疾患です。
Q. 椎間板ヘルニアになりやすい生活習慣や、患者さんの傾向はありますか?
平尾先生:前傾姿勢になると椎間板の前側が潰され、髄核が後ろ側に飛び出しやすくなるので、前傾姿勢で長時間作業する方や、重い物を持つ作業をする方はヘルニアになりやすい傾向にあります。
Q. 前傾姿勢に注意するほかに、日常生活で注意すべきことはありますか?
平尾先生:姿勢を正しくすることと、体重を増やさないことでしょうか。ヘルニア発症後も、減量すると神経にかかる負担を減らすことが期待できます。
Q. 椎間板ヘルニアの治療法について教えてください。
平尾先生:軽度の場合には内服治療、腰痛ベルト装着などの保存療法から始めます。症状に応じて神経の周りに局所麻酔薬と微量のステロイドを注射する神経根ブロックを行います。椎間板ヘルニアでは腰を後ろに伸ばすストレッチが有効なことがあり、マッケンジー体操などのリハビリを指導させていただくこともあります。
早川先生:こうした保存療法をある程度の期間続けているとヘルニアは自然に吸収されるので、ブロック注射などの保存療法で完治することも多いです。しかし、保存療法を継続しても痛みや痺れで日常生活に支障がでたり、麻痺や膀胱直腸障害が生じるようなら手術も検討します。
Q. 椎間板ヘルニアで直接患部に注射する治療法があるそうですが、どんな治療法ですか?
早川先生:椎間板ヘルニアの根本原因を注射で治す治療法です。ヘルニコアという薬剤を椎間板に直接注射し、痛みの原因となる髄核を溶かすことで神経の圧迫を取り、痛みや痺れを和らげる椎間板内酵素注入療法です。手術に近い効果が得られることがわかっています。
Q. この治療法は保険適用にはなりますか? この治療法の適応にならないヘルニアもあるのでしょうか?
早川先生:ヘルニコアは日本で開発された薬剤で、保険適用になっています。ただ、アレルギー反応を起こす恐れがあります。当院ではすでに多くの治療成績がありますが、これまでアレルギー反応を起こした患者さんはいません。
この治療法の適応となるのは、ヘルニアが靭帯を破って硬膜外に突出している「後縦靭帯下脱出型」の場合で、投与は1回のみとなっています。
Q. 椎間板内酵素注入療法の治療にはどれくらいの日数がかかりますか?
早川先生:注射は局所麻酔下で行い、時間は10分前後です。注射後のアレルギー反応の経過を見るため、基本は1泊2日の入院となりますが、日帰りの治療も可能です。
Q. 椎間板内酵素注入療法を受けた方の反応はいかがですか?
早川先生:「痛みがなくなった」「長い間飲み続けていた薬が要らなくなった」「手術も覚悟していたけど、注射で症状が改善した」という声を聞きます。
平尾先生:ただ、ヘルニコアは投与して効果があらわれるまでに2~6週間程度かかり、ヘルニアが小さくなっても痛みが残ることがあるので、早期に痛みを和らげたい場合には、手術も治療の選択肢になります。
Q. 先生方は低侵襲の手術を積極的に行っていらっしゃるそうですが、詳しく教えてください。
早川先生:術後の回復をスムーズにするため、当院では骨や筋肉、靭帯を極力温存する低侵襲手術に力を入れています。
平尾先生:従来の手術では、皮膚を大きく切開し、筋肉を剥がして神経を圧迫するヘルニアを摘出していましたが、近年は内視鏡を使って小さな皮膚切開で行うMED(えむ・いー・でぃー:内視鏡下腰椎椎間板摘出術または除圧術)やPELD(ぺるど:経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術)で行うことが増えています。傷が小さいので出血量や組織へのダメージも減らせ、術後の回復が早いことがメリットです。
Q. MEDとPELDの違いは何ですか?
平尾先生:どちらも背部から内視鏡をつけた管を挿入し、筋肉など軟部組織を骨から剥がすことなくヘルニアを切除するものです。MEDは18mm程度、PELDはさらに細かい内視鏡を使うため8mm程度の切開で行い、ヘルニアの種類や発生した部位によって使い分けます。MEDも PELDも、骨や筋肉、靭帯を傷めることなくヘルニアだけを取るため目指すゴールは同じです。
Q. 身体への負担が少ないなら安心ですが、MEDやPELDにもデメリットはありますか?
早川先生:MEDはいまでは広く普及していて、安全性も確保された治療法ですが、PELDは機材が高価なため、導入されている医療機関は多くはありません。また、皮膚切開が小さくなるほど手術は難しくなるため、医師による正確な診断、施術が要求されます。
平尾先生:正中(せいちゅう:背中の真ん中)に飛び出したヘルニアや脊髄に近い部分のヘルニアに対しては、リスク、確実性の観点から当院ではMEDやPELDは行なっていません。退院後に患者さんが快適に生活できることが肝心ですから、当院では皮膚切開を小さくすることだけにこだわらず、あくまで個々の患者さんの症状に応じた手術を行いたいと考えます。
Q. MED、PELDで合併症のリスクはありますか?
平尾先生:術中に硬膜を損傷するリスクや、傷を塞いだ後に神経の周囲で血腫が起こるリスクは従来の手術と同様にありますので、止血など細心の注意を払っています。また、手術後にヘルニアが再脱出するリスクが5%程度ありますが、低侵襲手術という理由で合併症が増えるとは感じていません。
Q. こちらの病院のリハビリの特色について教えてください。
早川先生:当院では手術後のリハビリを院外のリハビリ施設にお願いせず、自院外来での通院リハビリで行うことができるので、執刀医が進捗状態をきめ細かくチェックしているのが特長です。
平尾先生:内容としては、機能や柔軟性が低下した臀部やふとももの筋肉に対するストレッチ・マッサージ、体幹のトレーニングなどです。ヘルニア再発を予防するための生活動作や姿勢の指導も行います。
Q. 術後のリハビリまで先生がチェックくださるなら心強いです。最後に、治療に際して先生方のお考えをお聞かせください。
早川先生:一人ひとりの患者さんの症状に応じて、ベストな治療法を提供していきたいと思っています。
平尾先生:治療で痛みを和らげて、患者さんが痛みを気にせず過ごせるようになっていただきたいということに尽きます。
リモート取材日:2021.7.12
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
椎間板ヘルニアは、椎間板内酵素注入療法や内視鏡手術など身体に負担の少ない治療の選択肢が増えています。ベストな治療法を提供し、リハビリまで執刀医がケアすることで、術後の満足度アップにつなげています。(早川先生)
筋肉や靭帯を温存する低侵襲手術は組織のダメージが少なく、術後の回復が早いことがメリットです。痛みを気にせず過ごせるようになっていただきたいと願っています。(平尾先生)