先生があなたに伝えたいこと
【中山 大輔】患者さん一人ひとりのニーズに沿った股関節、膝関節の治療をご提案しています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. まず膝関節についてお伺いします。膝関節はどのような構造なのか教えてください。
A. 膝関節は身体の中でも一番大きな荷重関節で、受け皿にはまっている股関節とは違って、脛骨(けいこつ)という土台の上に乗っかっているだけの形状になります。そのためまわりの組織の重要性が高く、膝関節の外側と内側に加えて中央にも2つの靱帯があります。さらに、軟骨を守るためのクッション材となる半月板(はんげつばん)があって、まわりは筋肉で守られています。
通常、歩行するだけでも膝関節には体重の約2倍、走ったり跳んだりすると20数倍程度の負荷がかかるといわれ、常にストレスにさらされている関節です。
Q. 膝関節にはどのような疾患が多いですか?
A. 代表的なのは、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。ほかには、関節リウマチなどの炎症性の疾患、スポーツをされている方に多いのが靱帯損傷、半月板損傷、骨折などの外傷性の疾患、小児に多いのは成長や運動に伴う骨端症(こったんしょう:かかとに痛みが出る)や腱の炎症、オーバーユース(負荷のかかり過ぎ)などもあります。成長期のスポーツによって靱帯や半月板を傷め、中高年になって膝関節の軟骨がすり減ってきて手術を受けざるを得ないという方もおられます。
変形性膝関節症の7割程度が、原因が特定できない加齢に伴う一次性のもので、残り3割程度が外傷性の疾患やリウマチなどによるものです。O脚気味の方は変形性膝関節症になりやすく、膝関節の内側がすり減って変形していくことが多いです。
Q. 症状について教えてください。
A. 膝関節の疾患は、膝を動かしたときの痛みが多くみられ、関節の内側、外側、前側、後ろ側、どこに痛みが出るかが分かれる特徴があります。変形性膝関節症の場合は、荷重がかかって内側に痛みが出るケースが多いです。どのようなときにどのような痛みがどこに出るかを患者さんから聞き取り、エコーや超音波、MRI検査などで痛みの元となる疾患を特定します。
Q. どのように治療するのですか?
A. 減量やリハビリ、投薬、場合によっては注射などで症状を抑えます。それでも症状が改善されない場合は、痛みの原因となっている部分を処置する手術になることがあります。最終手段となる人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)に至るまで、膝関節を温存する手術の選択肢もあります。関節鏡というカメラを使って膝関節の中を処置する関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)のほか、いびつになった脚のバランスを膝関節の外から矯正する骨切り術(こつきりじゅつ)などがあります。
Q. 膝関節の中と外の手術があるのですね?
A. 関節鏡視下手術においては、膝関節の中にある半月板を縫合したり、軟骨を修復したりする処置を行います。これに加えて、膝関節の内側に負担がかかって内側の軟骨が傷んでいるO脚の場合は、骨切り術も合わせて行うこともあります。まっすぐあるいは若干X脚ぎみに形状を変えることで膝関節のバランスを整え、関節の内側にかかる負担を軽減します。そうすると人の自然な治癒能力によって、半月板や軟骨が少しずつ再生していきます。
こうした膝関節の中と外の処置を組み合わせて、膝関節を温存する手術が最近は注目されています。現在、再生医療の研究が進んでいますが、現段階では自費診療となります。一方、こうした骨切り術や関節鏡手術と組み合わせた治療は、保険診療の範囲内でエビデンスを伴って関節を温存できる、最も効果的な治療だと私は受け止めています。
Q. そうした手術は誰でも受けられますか?
A. 以前よりは適応が拡大してきていますが、一般的には片側だけがすり減っている変形性膝関節症で、靱帯などがしっかりと残っていることが条件になります。私は、骨の質が悪くなく活動性のある方でご希望があれば、80歳を超えていても膝関節を温存する手術を行っています。以前もマラソンが趣味の80歳代前半の方が骨切り術を行い、またマラソンができるようになられました。
人工膝関節はかなり改良されてきていますが、もともとあった膝関節の機能を100%再現できるレベルとはまだいえません。特に今は「生涯スポーツ」といわれる時代で、積極的にスポーツをされる高齢者が多い中、自分の骨を温存するメリットは大きいと思います。痛みで運動ができずに困っているが、膝関節の変形があまり進んでいない方には、膝関節を温存する手術をご提案しています。
Q. 人工膝関節置換術のメリットも教えてください。
A. 人工膝関節置換術は術後の回復が圧倒的に早いです。手術の翌日から歩行ができて制限もないので、早期に日常生活への復帰を望まれる方には大きなメリットがあると思います。術後に松葉杖をつく生活はできない方、ご高齢で筋力が落ちている方に対しては、人工膝関節置換術をお勧めしています。
Q. 手術後のリハビリについても教えてください。
A. 関節鏡視下手術と骨切り術を組み合わせた場合は、術後5~6週間は松葉杖が必要になり、それ以降にリハビリを行います。一方、人工膝関節置換術であれば手術翌日から歩行や膝関節の曲げ伸ばしの訓練を行うこともあります。
患者さんが1~2年後の膝関節の機能回復をどのレベルに目標設定するかによって、リハビリの内容は異なります。人工膝関節置換術の場合は正座ができなくなることもありますが、骨切り術においては機能制限のない状態を目指します。
Q. それでは次に、股関節についてお尋ねします。まずは股関節の構造について教えてください。
A. 股関節は大腿骨と骨盤から成る関節です。大腿骨の頭となる大腿骨頭(だいたいこっとう)が、受け皿となる骨盤側の臼蓋(きゅうがい)にはまり込み、大腿骨頭の8割程度が包み込まれた構造になっています。それによって大腿骨頭は球のような動きができ、荷重を支える機能も果たします。
また、股関節の縁に関節唇(かんせつしん)という組織や、骨と骨を結ぶ靱帯(じんたい)や筋肉があり、総合的に股関節を支えています。
Q. 股関節の代表的な疾患について教えてください。
A. 代表的なのは、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。骨の表面を覆っている軟骨がすり減って、その下にある骨が露出して変形し、痛みによって歩行が困難になることがある疾患です。ほかには、原因が特定できず大腿骨頭が壊死してくる大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)や、関節に炎症が起こる関節リウマチ、スポーツなどによって関節唇が傷んで運動に支障をきたす疾患もあります。
Q. 変形性股関節症は加齢に伴って起こるのですか?
A. 軟骨がすり減って摩耗していくことで起こりますが、日本人女性の場合はもともと股関節の受け皿が浅い臼蓋形成不全によって起こるケースもあります。ほかにも、関節唇が傷んでくることで股関節が変形することもあるといわれています。
Q. どのような症状がありますか?
A. 痛みで長距離を歩けないことが多いです。歩き始めは痛みがあり、少し経つと痛みが落ち着き、安静にした後に歩き始めるとまた痛みが伴うというのが特徴的です。変形性股関節症の場合は鈍痛がある患者さんが多く、歩き初めに鋭い痛みが出る方もおられます。大腿骨頭壊死の場合は、夜間の痛みで眠れないこともあります。
Q. 治療について教えてください。
A. まずは、内服薬や外用薬で症状を抑える治療がメインになります。受診時の状態にもよりますが、リハビリや減量などの保存的な治療では症状が改善されず、ADL(日常生活動作)を阻害するようであれば手術を検討します。
Q. 手術にはどのようなものがありますか?
A. 一般的なのは、人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)です。傷んでいる臼蓋と大腿骨頭の両方を金属の人工物に置き換える治療です。手術をすると痛みが取れますが、そこで治療完了ではなくリハビリで股関節の機能を高めることが重要です。現在は人工関節自体が進歩したため術後早期に動くことができ、リハビリも進めやすくなっています。
Q. どのように進歩しているのですか?
A. 軟骨の役割を果たすポリエチレンライナーの品質が向上し、人工関節が摩耗しにくくなっています。また、感染などの合併症を予防するためのコーティングが施された人工関節や、摺動面が2カ所あることで脱臼しにくいデュアルモビリティタイプなどもあります。こちらはまだ長期成績が出ているわけではありませんが、術後の動きの制限も少ないといわれています。
Q. 手術のやり方においても進歩はありますか?
A. 昔は後方から進入して筋肉を切開して行うやり方が一般的でしたが、最近は筋肉や腱を温存する低侵襲(ていしんしゅう:身体への負担が小さい)な手術が重視されています。前方から筋肉の間を分け入って進入することで、術後の痛みが少なくリハビリが早く進み、脱臼もしにくくなっています。当院では前方アプローチ法を取り入れており、手術時間は60分程度です。
Q. 手術の合併症についても教えてください。
A. 感染や深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)など、一般的な手術で想定される合併症は起こりうる可能性はあります。また、90歳以上で人工関節の手術をする場合、骨がもろくなっていて金属に負けてしまい人工関節がゆるんでくるリスクもあります。
合併症の対策としては、皮膚をしっかり閉鎖することが感染の予防につながると考えています。特に、糖尿病やアトピー性皮膚炎の患者さんは皮膚のバリア機能が弱いことでリスクが上がるため慎重に行っています。深部静脈血栓症においては、患者さんの年齢や体重、病歴によるリスク評価に基づいて、血流を促す弾性ストッキングやフットポンプの装着、血液をサラサラにする内服薬などを使っています。
Q. 先生が治療において心がけていることを教えてください。
A. 患者さんのニーズを見きわめることです。単純に痛みを取りたいだけなのか、痛みのせいでできないことをできるようになりたいのかを把握して、治療法を提案することが大切だと考えています。薬やリハビリで改善できるか、手術が必要かをよく検討し、ニーズに沿った治療ができるよう努めています。
Q. ありがとうございました。では最後に、先生が医師を志したきっかけを教えてください。
A. 浪人時代に難聴になったとき、クリニックの先生が親身に寄り添ってくださったことが医師を志した一番大きなきっかけです。また、自分がずっとスポーツをしてきたので、スポーツによるケガで困っている人の助けになりたくて整形外科医になりました。
リモート取材日:2024.7.24
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
患者さん一人ひとりのニーズに沿った股関節、膝関節の治療をご提案しています。