先生があなたに伝えたいこと / 【浅見 和義】大腿骨骨折は、高齢者が寝たきりになるのを防ぐためにも、早期に手術して歩ける状態にすることが大切です。
先生があなたに伝えたいこと
【浅見 和義】大腿骨骨折は、高齢者が寝たきりになるのを防ぐためにも、早期に手術して歩ける状態にすることが大切です。
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大腿骨骨折とは
Q. 先生は骨折のスペシャリストとして、多くの患者さんを診てこられました。
A. Jリーグ発足の年に整形外科医としてスタートしましたから、本当にたくさんの方を診てきました。子どもが大好きで、最初は小児科医か内科医を目指していたのですが、解剖などの実習で教官に誉められたことで、外科医や整形外科医に向いているんじゃないかと。それに、幼い頃から、お医者さんというと骨折を治したり傷を縫ったりするイメージもありましたので、この道に進みました。
Q. その当時から骨折の中でも増加の一途を辿(たど)っているのが、大腿骨の骨折とお聞きしています。大腿骨骨折とはどのようなものなのですか?
A. 大腿骨の骨折は3つに分けられます。まず「大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)」は、大腿骨の先端にある骨頭のすぐ下(右図のAのあたり)で折れる、股関節の内側での骨折。次に「大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ)」はそれよりさらに少し下(右図のBのあたり)で折れます。3つめに大腿骨には大転子(だいてんし)と小転子(しょうてんし)という出っ張りがあるのですが、それよりも下(右図のCのあたり)で折れる「大腿骨転子下骨折(だいたいこつてんしかこっせつ)」があります。
Q. なぜ大腿骨骨折の患者さんが増えてきたのでしょう? また患者さんの数や男女比についても教えてください。
A. 大腿骨骨折が増えてきた大きな要因は、高齢化です。年齢とともに骨がもろくなるだけでなくバランス感覚が悪くなって、転びやすくなりますから。患者さんの数は70歳以上の方を中心に20万人ともいわれ、男女比では女性が多いですね。男性のほうが骨密度が高いですし筋力も備わっていますから、骨折しにくいといえます。さらに女性は閉経後に骨密度が急激に減少しますので、より注意が必要です。
Q. 大腿骨は太くて折れにくいイメージもあるのですが...。
A. そうかもしれませんが、骨のもろい高齢者の場合、椅子から立ち上がってよろけたり、段差につまずいたりという、ちょっとしたことで転んで骨折するということが多いです。また非常に稀ですけれども、骨が極端にもろい場合、たとえば寝たきりの方ですと寝返りを打ったり、介助者がおむつを変えるときに足を持ったりするだけでも折れることがあります。
Q. なるほど。日常生活の中で骨折に結びつく危険は、意外に多いのですね。
A. どこにでも潜んでいるといえるでしょう。その意味で、住まいのバリアフリーは骨折予防にも効果的といえます。若い人には考えも及ばない小さな段差や、それこそ布団の端に足をのせてしまって布団ごとすべってとか、そういうことでも転んで、病院に来られますので。
Q. 骨がもろいということのほかに、大腿骨骨折のリスクが高い人の条件というのはありますか?
A. 手足のマヒがある人や視力の弱い人など、転倒しやすい状態にある人は、ぜひ気をつけていただきたいと思います。
治療法と予防法
Q. 具体的に治療についてお伺いしたいと思います。まず大腿骨骨折の診断はどのような方法でされるのでしょうか?
A. 9割がたレントゲンでわかります。症状としては、大抵の患者さんは骨がズレて痛くて歩けなくなって来院されますね。問診で、外傷があってそうなったということであれば、まず大腿骨骨折を疑います。あとは足の形が内股あるいはがに股になって、そこをちょっと触っただけでも激痛が走るということも典型的な症状です。ただ、転んだあとも骨にズレがなくて歩けている状態の場合は、レントゲンでは判別しづらいこともあり、CT検査やMR検査を行います。
Q. 大腿骨骨折の治療は手術が中心になるのですか?
A. 当院では95%、手術や麻酔がどうしても危険な方を除いて、可能な限り手術を行います。"なるべく早く手術をしてベッドから離れて歩けるようにしましょう"、というのが我々の方針です。これがほかの部分、手首や足首ですと、骨を元に戻してギブスで固めてという保存的治療も選択できますが、大腿骨の場合、付け根という場所だけにギブスで固めることができず、手術しないでくっつくのを待とうとすると、1ヵ月以上はベッドの上ということになります。お年寄りがそれだけの期間寝ていれば、寝たきりになり、歩けなくなる可能性が高くなります。ほかにもいろいろな合併症が起こりますから、できるだけ早期に起き上がって歩ける状態にすることが大切です。
Q. 手術自体に選択肢があるのですか?
A. はい、主に4つの方法があります。「大腿骨頸部骨折」で骨のズレが大きい場合、大腿骨頭に血流がいかなくなって潰れてきて、骨頭壊死を起こす可能性がありますので、骨頭を取り替える「人工骨頭置換術」を行います。幸いにもズレが小さく血流が保たれている場合はスクリューで固定。「大腿骨転子部骨折」の場合は、ズレが大きいことが多いので、骨折部分を引っ張りながら位置を整えてプレートで固め、骨頭はスクリューで固定する方法(CHS)。あるいは大転子から骨の中に金具の心棒を入れて、そこを通して骨頭側にスクリューを挿入する方法(γネイル)もあり、そのどちらかを選びます。



Q. なるほど。では、人工骨頭について少し詳しくお話をお聞かせください。
A. まず、人工骨頭には素材の違いなどさまざまなものがあります。それに、今までなら、人工骨頭は大腿骨側の骨になるべく太いものを入れて安定させるというのが主流でしたが、最近では、もともとの骨の状態が比較的よい患者さんには、従来よりも小さめで、小さい皮切でスムーズに簡便に入れられるものもでてきました。ただし、骨のもろい方にはかえってゆるみが出てしまいますので、太いものをしっかり入れたほうがいいでしょう。
Q. 人工骨頭も進化しているのですね。
A. はい。ステム(差し込む部分)の表面に、骨と親和性のあるコーティングを施すことで、骨セメントを使うことなく高い固定性を得ることができるようになったというのが大きなひとつの進歩かなと思いますし、形もサイズも日本人に合うものが作られるようになりました。人工骨頭の寿命もずいぶん延び、ゆるみによる入れ換えは年々少なくなっていると思います。
Q. わかりました。ありがとうございます。では骨折治療について、最も重要なことは何だとお考えですか?
A. 骨折に関しては、骨がくっつけばいいというものではありません。曲がったり短くなったりしてしまってはあとあと障害が起こることもあります。ですから、"最大限に、元のいい形に骨を戻して"早く社会復帰していただくこと。先にもいいましたが、寝たきり状態になるのを防ぐ意味でも重要なことです。
Q. それでは、治療にあたってチームとして取り組んでおられることはありますか?
A. モットーとして、「一人の患者さんをみんなで診る」ということを実践しています。もちろん主治医はおりますけれども、看護師、リハビリスタッフも合わせた全員で情報を共有し、一人の患者さんをどう治療するかを考えていきます。手術も、主治医と若手という風にペアを組んで行いますし、手術室の看護師も、特に整形外科の看護師チームを作って勉強会を行うなど、技術・知識面の向上に取り組んでいます。
Q. 地域での取り組みは何かあるのでしょうか?
A. はい。5年前から地域連携パスといって、近隣の8病院と連携しています。具体的には、当院は急性期病院ですので、こちらで2~3週間入院していただいたあと、リハビリ病院に移っていただきますが、その転院がスムーズに行え、また病院同士の連絡も密に取れるシステムが整えられています。当院と連携パスを組んでいる病院はリハビリの経験が豊富ですので、患者さんにとってもメリットになっていると思います。
Q. 最後に、大腿骨頸部骨折並びに大腿骨転子部骨折の予防法について教えてください。
A. ロコモティブシンドローム(※)という言葉をお聞きになった方もあると思いますが、大腿骨骨折もその中に入り、まず骨密度を上げるための骨粗しょう症の治療も必要になってくると思います。ただ、骨密度が上がれば骨折しないかというと必ずしもそうではありません。転び方によっては大腿骨は折れます。ですから自発的なリハビリですね。転ばないための筋力、姿勢を保つバランス能力を維持することが大事です。
※ロコモ。運動器症候群。運動器の障害による要介護の状態や、要介護リスクの高い状態。
Q. 自発的リハビリとは具体的に?
A. 基本は歩くこと。腰や膝が悪かったりしてなかなか歩けない方も、何かにつかまって足踏みをしたり、そういうことだけでも違いが出てきます。また寝ていても座ってもできる筋力トレーニングの方法はありますので、それらを日課にするといいでしょう。バランス感覚を鍛えるには片足でつかまり立ちをするとか、そういう運動を、工夫しながら無理なく続けていただければと思います。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
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取材日:2013.5.14
*本ページは個人の意見であり、必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
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