先生があなたに伝えたいこと
【竹内 公彦・松下 正寿】膝や股関節の痛みを伴うリウマチに対して、関節破壊を抑制する薬物治療と、関節機能を再建する人工関節手術を上手に両立することで、リウマチ治療は著しい進歩をみせています。また、リウマチ治療は患者さんを含めてのチーム医療ですから、共に生活の質の改善を目指しましょう。
薬物治療について
Q. 関節リウマチは特に女性には気になる疾患ですが、一体どのような病気なのでしょうか?
竹内先生:関節リウマチは、原因不明の滑膜(かつまく:関節を包んでいる組織の内側部分)の増殖性疾患です。滑膜というのは全身の関節の中にあって、本来は薄っぺらいものですが、それが分厚く増殖して、さも腫瘍のように関節内にはびこっていき、それが骨や軟骨に浸食して最終的に関節が壊れていきます。最初の症状としては、関節が腫れて痛くなるのが主で、関節が破壊されるに伴って変形や下肢(脚のこと)では歩行障害など、生活に支障の出る症状が出てきます。歩行などの身体機能的な障害がどんどん拡大していくのが、関節リウマチの嫌なところですね。
Q. 原因不明ですと予防のしようがないですね。
竹内先生:そうなんですね。ですから最も大事なことは、早めに受診して治療を始めることです。
Q. どういう症状が出れば受診した方がいいのか、何か目安はありますか?
竹内先生:関節が腫れる。それも一ヵ所ではなく同時多発的に腫れるというのが関節リウマチを疑う初期の症状です。指などの小さな関節から出やすいので、よく見て、もし痛みがなくても腫れていて、それが複数ヵ所あるようでしたら、専門の医療機関を受診されることをお勧めします。
Q. 大変参考になります。では関節リウマチの治療についてですが、飛躍的に進歩しているそうですね。
松下先生:はい。まずは16年ほど前に、日本でMTX(メソトレキサートまたはメトトレキサート:抗リウマチ薬の一種)という薬が使えるようになって、関節リウマチの治療は大きく前進しました。この薬は炎症や痛みを抑えて、関節破壊を予防する効果に優れていて、今でも関節リウマチ治療の中心となっています。現在は、さらに7種類の生物製剤や、新開発の抗リウマチ薬も加わり、この10年で関節リウマチの治療が劇的に進化しました。もちろん、従来の薬で効いていた患者さんもおられますから、すべての患者さんにこうした薬を使うわけではありません。状況によって使い分けたり、併用してしっかりとコントロールしたりすることで、関節炎症を「寛解(かんかい:病気による症状が問題のない程度まで良くなること)」といえるまでに抑え込むことができるようになってきました。もちろん、関節破壊自体を抑制する作用もあります。
竹内先生:生物学的製剤は早いうちから使って、「関節を壊させない」という作用を期待します。ある程度破壊の進んでしまっている患者さんに使う場合には、「それ以上の破壊を食い止める」ということに特に効果を発揮するんですね。ある先生が話していたのですが、リウマチ外来の待合室の雰囲気も昔とずいぶん違うそうです。暗さがなくなったというんですね。それほどいい薬が出てきたということです。
松下先生:初診の患者さんもびっくりされますよ。「ここ、リウマチの外来ですよね」って。恐らくみなさん、関節がひどく変形されている患者さんがたくさんいるイメージを持たれていると思うのですが、そういう雰囲気がありませんから。いい薬があることをお話しますと、「今はこういう時代なんですね」と少し安心されます。
人工関節手術について
Q. それでは、関節リウマチにおける人工関節手術にはどのような役割があるのでしょうか?
竹内先生:松下先生が、当院における人工関節手術の動向を調べてくれたのですが、まず、手術自体は徐々に減っている傾向にあります。けれども、不幸にして関節破壊が進み、機能障害が生じてしまっている患者さんの関節を再建する手立てとしては、人工関節以外にはないものですから、手術の果たす役割はとても大きいと思います。特に、股関節、膝関節、足関節(そくかんせつ)などの下肢荷重関節(荷重がかかる脚の関節)の場合は、痛くて歩行困難であった患者さんが、痛みなく再びスムーズに歩けるようになりますので、優れた臨床効果があります。
Q. あくまで印象ですが、関節リウマチの人工関節手術は、両足ですとか複数ヵ所受けられる方が多いような気もします。
松下先生:片方の関節だけという患者さんももちろんおられますし、両方とも手術という患者さんもおられます。以前には最高8ヵ所を手術した患者さんもいらっしゃいましたが、生物学的製剤が出てからは、そこまで複数ヵ所手術が必要な方はずいぶん少なくなっていますね。
Q. なるほど。いい薬が出てきましたので、ぜひ早めに治療して関節破壊を抑制したいものですね。
竹内先生:はい。"発症から2年以内にきちっとした診断がついて、きちっとした治療ができれば、薬による治療が効果的"だといわれています。関節は、かつては10年、20年をかけて徐々に破壊が進行していくと考えられていましたが、どうやら2年の間に一気に破壊が進んで、そのあと時間をかけて徐々に広がっていくようです。
松下先生:関節リウマチに関しては竹内先生のおっしゃる通りです。ひとつだけ、機能障害に関して補足しますと、発症から2年以内の治療で関節の破壊を抑えられたとしても、すでに軟骨が傷んでしまっている場合などは、そこから変形性関節症が発症して手術が必要になることもあります。また、薬がよく効いて関節リウマチが良くなっても、活動性が高くなることで関節に負担がかかって軟骨が傷んでしまったり、老化や別の要因から変形性関節症を発症されたりする方もおられます。同様に痛みについても、薬がよく効いて関節リウマチの痛みの抑制はできても、その後に軟骨がすり減って発生する痛みは別のものとなりますので、その治療は別途必要です。
Q. 確かにそうですね。次に、人工関節手術を行う際の注意点や合併症について教えてください。
竹内先生:合併症には短期的な合併症と中長期的な合併症があります。中長期的といいますのは人工関節の耐久性についてです。人工関節そのものの進化で耐用年数は延びてきていますが、患者さんの年齢によっては一生保つということが難しいケースもあります。そして短期的なものとしては、一般的に多いのがSSI(術後感染)とDVT(深部静脈血栓症)です。SSIは生物学的製剤の使用によって発生率が上がるという意見と、影響を及ぼさないという両方の意見がありますが、日本整形外科学会主導による調査では2.1倍に増加すると報告されていますので、我々としてもそのつもりで術後対策と注意深い経過観察を行っています(出典:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 骨・関節術後感染予防ガイドライン策定委員会編. 骨・関節術後感染予防ガイドライン. 2006)。またDVTについては、特に下肢人工関節手術後に発生頻度が高く、股関節や膝関節の手術では特に注意が必要です。
Q. 感染症や血栓症の予防には、どのような対策がとられているのでしょうか?
竹内先生:ハード面とソフト面があります。感染症に関してハード面ではクリーンルームの使用です。落下細菌(空気中に浮遊する細菌)までブロックするような清潔な部屋で手術をします。ソフト面では抗菌剤を手術に合わせて的確に投与するといったことを行います。
松下先生:日本整形外科学会のガイドラインに沿って、対策をとっています。DVTに対しては、術後早めに関節を動かしてもらったり、種々の予防薬剤の投与、機械的予防法として弾性ストッキングを使用して血流を滞らせないようにしたりするなど、とにかく予防が大事ですから、いろいろな手段を講じています。
Q. リウマチ治療の将来についてはどのようにお考えですか?
竹内先生:リウマチ治療の中心は薬物治療、これはこの先も変わらないでしょう。薬物療法の進歩で、将来的には関節が壊れなくなる時が来るかもしれませんが、現在のところは、生物学的製剤を使ってもあまり効果がみられないとか、一度効いても効果が薄れてくる患者さんが全体の3~4割いらっしゃいます。また寛解や、薬を継続しなくても症状の進まないという治癒に近い状態まで達したとしても、すでに発症している機能障害が残ったり、先ほども松下先生がいったように、加齢などの別の要因で新たな機能障害が起こったりすることもあります。さらに薬では壊れてしまった関節は治せませんので、人工関節手術は今後も重要な地位を占めると考えています。薬物治療と手術治療を有効に組み合わせて、患者さんの日常生活の質を上げることが大切です。
チーム医療について
Q. リウマチ患者さんへのケアについても取り組みをされていますね。
松下先生:リウマチ治療は四本柱なんですね。薬物治療、手術治療、リハビリ、そして基礎治療。基礎治療の中に患者さんへのケアや教育が含まれていて、当院では、その一貫として、年に1回「関節リウマチ公開講座」を開いています。そこでは治療の最新情報や、リウマチ患者として知っておいて頂きたい大切な事をお話しします。
竹内先生:みなさん、ご自分の病気のことは来院前によく調べておられますけれども、情報が多過ぎて逆に理解できなかったり、十分な情報を得られなかったりする患者さんもいらっしゃいますから、正確な最新の情報をお伝えして、ご自分で筋道を立てて考えられるきっかけになればと思って開催しています。そこでは患者さん同士の情報交換もできますので、参加していただくのはとてもいいことだと思います。
松下先生:「関節リウマチ公開講座」では、医師だけではなく、看護師さんや薬剤師さんにも話をしてもらうようにしています。リウマチはチーム医療です。さらに、この公開講座には、患者さんご自身にもこのチームの一員になっていただくという意味もあります。
Q. チームで連携して治療やケアに当たることが大事なのですね。
竹内先生:そのことは、"リウマチのトータルケア"といわれています。
松下先生:薬物治療が根本ですので薬剤師さんとの連携は欠かせませんし、患者さんは悩みや不満を医師ではなく、窓口の事務員さんや看護師さんに話されることが多いんですね。その情報をこちらにフィードバックしてもらうことが、大いに治療の参考になるわけです。一人の患者さんの情報を治療に関わる全員が共有し、それぞれ専門の立場で患者さんに還元する。そういう流れがあって、治療も、患者さんの精神的サポートもうまくいくんです。
竹内先生:当院は、リハビリテーション科にもリウマチへの意識が高いスタッフが多くて、単なる手術後のリハビリということではなく、リウマチのリハビリという意味合いで筋力評価をしてフィードバックしてくれたり、スタッフが率先して患者さんのもとへ行って精神的サポートを行なったりしています。患者さんが退院されて外来での検診に移っても、関節や、人工関節の動かし方などをアドバイスしに来てくれたりするんです。
Q. まさしくチーム医療ですね。最後に、関節リウマチの患者さんに何かアドバイスをお願いします。
松下先生:関節は動かすことで機能が維持されますので、少なくとも日常生活の中で必要な動きは保ったほうがいいでしょう。けれどもそれが肉体的ストレスになってはいけませんから、繰り返しの動作や衝撃の強い動作は避けて、楽しいことや好きなことは、少し痛くてもやっていただくようにすればいいと思います。
竹内先生:好きなことをやっているときは痛みを忘れるという方も多いですよね。
松下先生:はい。我々としては、関節リウマチ患者さんには、「小学校で習った通りの生活をしてください」というんです。つまり暴飲暴食はだめとか、夜更かしはだめとか。そういったことを守るだけでいいですよ、特別なことはありませんと。それと人工関節手術を受けることについては、「関節が壊れたから人工関節にされてしまう」と怖がるのではなくて、「人工関節といういい方法があって、痛みが治まり元のように歩けて生活の質も上がるんだ」と、そういう選択肢のひとつとして、ぜひとも捉えていただきたいと思っています。
竹内先生:以前に比べて薬でのコントロールがうまくいくようになっていますから、まずは早めの受診をお願いします。また、変形が進んでしまっていたとしても、あんなことがしたい、こんなことがしたいということを叶えられる手段として人工関節手術がある、そのように前向きに考えていただければと思いますね。そして実際、今後はそういうニーズが高まっていくのだろうと思います。
Q.最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2014.3.10
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
膝や股関節の痛みを伴うリウマチに対して、関節破壊を抑制する薬物治療と、関節機能を再建する人工関節手術を上手に両立することで、リウマチ治療は著しい進歩をみせています。(竹内先生)
リウマチ治療は患者さんを含めてのチーム医療です。共に生活の質の改善を目指しましょう。(松下先生)