先生があなたに伝えたいこと
【白井 久也】手の疾患、外傷は、日常動作に大きな支障をもたらします。手外科の専門医として、患者さんの立場に立った治療を行っています。
社会医療法人 美杉会 佐藤病院
しらい ひさや
白井 久也 先生
専門:手外科、肘関節外科
白井先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
虫歯で奥歯を1本抜歯してから、歯の大切さを改めて実感しました。信頼できる歯科医と出会い、歯磨き指導を受けてから、これまでの倍の時間をかけて丁寧に歯磨きをしています。
2.休日には何をして過ごしますか?
40歳から始めた硬式テニスをしたり、孫の相手をしたりして過ごしています。長年、仕事を最優先した生活でしたが、最近はすっかり"孫ファースト"です(笑)。
Q. 最初に、手の構造について教えてください。
A. まず指は、末節骨(まっせつこつ)、中節骨(ちゅうせつこつ)、基節骨(きせつこつ)、中手骨(ちゅうしゅこつ)から成り立っていて、手首(手関節)は橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)に加え、複数の小さな骨からできています。第一関節と呼ばれるDIP関節をはじめとする指の関節は、一方向に曲げ伸ばしする動きしかできませんが、手首はいろいろな向きに関節があるため、さまざまな方向に動かすことができます。
指を曲げたり伸ばしたりする動きは、伸筋腱(しんきんけん)と屈筋腱(くっきんけん)の相互作用によって可能になります。親指の場合は、内在筋(ないざいきん)といって母指球(ぼしきゅう)に複数の筋があり、いろいろな方向に動かすことができます。そのため、親指は4本の指と向き合って、つまむ、掴むという動作ができるのです。
Q. 手や指に痛みが出る疾患は、どういったものが多いですか?
A. 最も多いのが、いわゆる腱鞘炎(けんしょうえん)といわれるばね指(弾発指)です。指を動かすと引っかかるような痛みが出る、あるいは指の根元を触ると痛みがあります。屈筋腱と腱鞘との間に炎症が起こり、複数の指に生じるケースもあります。また、DIP関節が腫れて変形するヘバーデン結節、CM関節が変形する母指CM関節症も多くみられます。これらの疾患の原因は解明されていませんが、閉経後の女性に多くみられることから、ホルモンが影響しているのではないかという説があります。
ほかにも手にしびれが出る代表的な疾患に、手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)があります。手首にある正中神経(せいちゅうしんけい)が圧迫されるために、小指以外の指にしびれが出ます。指先を下に向けて手を振ると、楽になるという特徴があります。進行すると、母指球の筋肉が麻痺し、ものがつまめなくなるので注意が必要です。こちらも、圧倒的に女性に多くみられる疾患です。
Q. これらはどんな治療になりますか?
A. ばね指は保存療法で8割ぐらいの方が改善します。局所を安静にするほか、腱鞘内に局所麻酔薬とステロイド剤を注射し、症状を抑えます。注射が無効の場合、腱鞘を1cm程度切開する10分程度の手術を行います。
へバーデン結節には保存療法として、私はDIP関節のテーピングを行っています。5~10年経つと自然に寛解(かんかい:症状が治まり、疾患が進行していない状態)することもあります。しかし、100人中2~3人の割合で痛みがとれない場合があり、その際はピンニング(ピンで骨を固定すること)による関節固定術を行います。軟骨を削って2本の鋼線を交差するように挿入し、関節が動かないように固定するのです。へバーデン結節は患部のわずかな動きで痛みが出るため、固定することで除痛できます。
母指CM関節症も、大半が固定装具の装着で痛みが和らぎますが、経年的に悪化する人は、へバーデン結節と同じように関節固定術を行うか、骨の一部を除去してまわりの腱で安定させる関節形成術の手術を行います。最近は、内視鏡を使って施術するケースもあります。
手根管症候群は、3ヵ月から半年間程度、手の使い過ぎを避けて投薬などで経過を観察し、それでも改善されない場合には手術になります。内視鏡を使って手根管というトンネルを開き、神経の通り道を広くすることで治癒します。
Q. 手首に痛みが出る疾患もありますか?
A. 指に比べて、手首の疾患はあまり多くありません。腱鞘炎が手首に生じるドケルバン病や、リウマチによる関節炎、腫瘤で膨らむガングリオンなどが挙げられます。手首の場合は疾患よりも、外傷で来院される患者さんが多いです。
Q. どんなケガですか?
A. 人は転ぶと手をつきます。子どもや若い人は手をついても骨折しませんが、中年以降の女性は、閉経後の骨粗鬆症(こつそしょうしょう)によって骨が脆弱(ぜいじゃく)になっているので、手首を骨折する場合があります。骨が手の甲側に折れ、横から見るとフォークのような形になるフォーク状変形が起こる外傷を橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)(別名 コレス骨折)といいます。手首が腫れ、指に力が入らなくなり、握ることができなくなります。
Q. その場合は、どんな治療になりますか?
A. 骨の転位(ズレ)が軽度なら、徒手整復(としゅせいふく:もとに近いかたちに手で戻す)を行ってギプス固定、重度であれば手術となります。以前は、ピン二ングによる固定術が主流でしたが、最近はチタン製のプレートで固定するのが一般的になっています。このプレートはここ10年ほどで性能が飛躍的に進歩し、強固に固定できるようになったため、術後のギプスが不要になりました。手術時間は1時間半以内で、通常は3日間程度の入院となります。その後は、リハビリとして手首の可動域(かどういき)を広げる訓練を行います。通院して作業療法士のもとで行っていただきますが、自宅にてご自身でリハビリしていただく場合もあります。
Q. 治癒すると、プレートは抜くのですか?
A. 術後、3~4ヵ月で骨癒合した後、プレートを抜去するかどうかは患者さんと相談して決めます。
欧米では通常は抜去しません。しかし、1%未満の確率で、プレートのまわりの腱に障害が起きることがあります。この場合はプレート抜去が必要です。
Q. 手の外傷は、ほかにはどんなものがありますか?
A. 手首の舟状骨骨折(しゅうじょうこつこっせつ)や、第1関節の突き指といわれるマレット骨折もよくあります。これらは若い人でもスポーツや事故などで起こります。舟状骨骨折は、手首を背屈して手をついたときに生じ、捻挫だと思って放置していると偽関節(骨折した骨がつかず、関節のように動くもの)になることもあります。ギプス固定で治療することもありますが、埋め込み式のネジで固定し、早期の社会復帰やスポーツ復帰を目指すケースが多いです。
マレット骨折は、腱が断裂している場合は、固定用装具を装着する保存治療を行い、骨折を伴っている場合は、鋼線で固定する手術を行います。保存療法の場合は6~8週間ほど固定しなければならないので何かと不自由ですが、これをいい加減にしてしまうと指が一生曲がったままになってしまいます。
Q. 手の疾患と外傷が多様にあることがよくわかりました。手の痛みで困られている患者さんはたくさんおられるのですね?
A. はい。当院は専門の手外科があるので、ほかの病院の外科などで「変形だから仕方がない」と診断された患者さんも、「何か治療法はないか」ということで来院されます。日本手外科学会のホームページを見れば、学会が認める手外科の専門医が地域ごとに確認できます。また、先にご説明した手の疾患や外傷についてもホームページに掲載されているので、参考になるかと思います。
Q. 先生が手外科をご専門にされたのはなぜですか?
A. 手は機能が繊細で、疾患や外傷が多様にあります。私は細かい手術に関心があり、自分に向いていると思ったので大学病院の恩師のもとで勉強させていただきました。日常生活において、下肢に問題を抱える人は車いすを利用するなどの手段がありますが、手の場合はそういうわけにはいきません。手が痛い、しびれる、それによって力が入らないという場合は、即、日常動作の障害になるので、何とかしてあげたいという気持ちで治療にあたっています。
Q. 先生が診察において心がけておられることを教えてください。
A. 当院は、初診外来の紹介状が必要なく、完全予約制ではないため、いつも大勢の患者さんが来られます。そのため、できるだけ効率のよい診察を心がけています。もちろん見落としがないように、スタッフと連携しながら、診るべきポイントをきっちりと整理して診察にあたっています。
取材日:2019.7.24
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
手の疾患、外傷は、日常動作に大きな支障をもたらします。手外科の専門医として、患者さんの立場に立った治療を行っています。