先生があなたに伝えたいこと / 【森 公一】患者さんの不安の一つひとつを丁寧に解消して、患者さんが前向きな気持ちで人工膝関節の手術が受けられるよう心がけています。

先生があなたに伝えたいこと

【森 公一】患者さんの不安の一つひとつを丁寧に解消して、患者さんが前向きな気持ちで人工膝関節の手術が受けられるよう心がけています。

公益社団法人 日本海員掖済会 名古屋掖済会病院 森 公一 先生

公益社団法人 日本海員掖済会 名古屋掖済会病院
もり こういち
森 公一 先生
専門:人工関節・外傷

森先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 朝早く目が覚めるようになるなど、歳をとったと感じることが増えました。患者さんにも指導しているように身体を衰えさせないことが大切なので、最近は往復約1時間、歩いて通勤しています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 平日は帰宅する時間が遅く、あまり子どもと触れ合う時間がないので、休日は原則、家族サービスをしています。一緒に公園に行って遊ぶなど、4人の子どもたちと過ごす時間を大切にしています。

先生からのメッセージ

患者さんの不安の一つひとつを丁寧に解消して、患者さんが前向きな気持ちで人工膝関節の手術が受けられるよう心がけています。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 中高年の多くが痛みを抱えている膝について、その関節の構造を教えてください。

膝関節の構造A. 膝関節は、太ももの大腿骨(だいたいこつ)と脛(すね)の脛骨(けいこつ)、そしてお皿と呼ばれる膝蓋骨(しつがいこつ)から成り立っています。骨同士が直接擦れ合うのを防ぐため、それぞれの表面が軟骨で覆われています。膝関節の内側と外側には半月板があり、骨同士の接触による衝撃を和らげる緩衝材の役割を果たしています。さらに周囲には前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)、後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)、内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)、外側側副靱帯(がいそくそくふくじんたい)という4つの靱帯があり、膝関節を支えています。

Q. 膝の痛みはどうして起こるのでしょうか?

A. 一つは加齢によるもので、年齢とともに筋力が落ちることで膝関節にかかる負担が増え、炎症が起きて痛みます。また、軟骨がすり減って骨同士がぶつかることにより痛みが生じるケースもあります。これを変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)といい、膝の痛みを抱えている方のほとんどがこの疾患に該当します。

変形性膝関節症

Q. 変形性膝関節症にかかりやすい方の傾向はありますか?

公益社団法人 日本海員掖済会 名古屋掖済会病院 森 公一 先生A. 女性に多くみられます。中でも特に、ホルモンバランスの変化による影響を受ける閉経後の女性に多いです。そもそも女性ホルモン(エストロゲン)には、筋肉量や骨の強さを維持する働きがあるのですが、閉経後はその分泌量が減少することで筋力が落ち、骨の密度が低下します。特に骨粗しょう症の方は、膝関節の骨とそれを支える筋力が弱まって、安定性が損なわれがちになります。そのため当院では最初に骨密度の検査も行い、骨粗しょう症の治療も行っています。
ほかにも、膝関節にかかる体重の負担が大きい肥満体型の方や、長時間の立ち仕事をされている方、重いものを持つ機会が頻繁にある方にも多くみられます。

Q. そうなのですね。では、変形性膝関節症の治療法を教えてください。

A. 膝関節の周囲に起きる炎症を抑えるため、痛み止めの飲み薬や湿布を処方します。また、太ももの筋力が落ちている場合は、膝関節の安定性を高めるために筋力トレーニングを行います。筋力が低下していると、膝関節の動きも徐々に悪くなってくるので、動きを良くするためのリハビリも重要になります。

筋力トレーニングの例

さらに症状が進み、靱帯の機能が落ちて膝関節が不安定になっている方は、物理的にそれを支えるために膝のサポーターを用いることもあります。また、軟骨がすり減って O 脚になっている方も少なくありません。そうした方には、膝関節の内側にかかる負担を減らすために、インソール(足底板)で体重のかかり方を調整することもあります。

インソール(足底板)

公益社団法人 日本海員掖済会 名古屋掖済会病院 森 公一 先生Q. どのような場合に手術になるのですか?

A. 先に述べた治療を試し、それでも痛みによって日常生活や仕事に支障が出る場合は、手術の提案をさせていただきます。ただし、手術を望まれない患者さんもおられますので、決断されるのは患者さんご自身です。中には、手術以外の治療を何年も続けておられる方や、1~2カ月の間、様子を見た後、「やはり仕事ができない」ということで手術を希望される方もおられます。

Q. 手術について教えてください。

A. 半月板が損傷しているだけの場合は、関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)を行います。関節鏡といわれるカメラで関節内を確認しながら、半月板の傷んでいる部分を切除する手術です。ほかに、骨切り術といって、骨を切って体重のかかり方のバランスを整える手術や、変形した膝関節の表面を取り除いて、人工膝関節に置き換える人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)もあります。

骨切り術の例

Q. 人工膝関節置換術とは、どのような手術ですか?

A. 人工膝関節置換術は、大きく二つに分けられます。膝関節全体をインプラントに置き換える全人工膝関節置換術(ぜんじんこうひざかんせつちかんじゅつ:TKA)と、主に膝関節の内側だけ、あるいは外側だけを替える人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ:UKA)です。ポリエチレン製プレートが可動式になっているものや、靭帯を切らずに手術できるものなど、人工膝関節には用途に合わせてさまざまな種類が開発されています。当院では症例に合わせて、それらを使い分けています。

全人工膝関節置換術:TKA

全人工膝関節置換術:TKA

人工膝関節単顆置換術:UKA

人工膝関節単顆置換術:UKA

Q. 使い分けるポイントを教えてください。

A. 患者さんの年齢や活動性のほか、半月板あるいは軟骨、または、靭帯の機能がどのくらい残っているかという膝関節内の評価なども併せ、総合的に判断します。人工膝関節単顆置換術の場合、患者さんの靱帯を温存できるというメリットがあるため、全置換術に比べて術後も違和感が少なく、ご本人の膝に近い感覚があります。一方、もともと靭帯が働いていない患者さんの場合は、あえて靱帯を切ってしまって、その機能をインプラントに任せるほうが膝関節の安定が期待できます。手術前の患者さんの状態によって、その方に合ったインプラントを選択しています。

Q. 人工膝関節にすると、どのような変化がありますか?

公益社団法人 日本海員掖済会 名古屋掖済会病院 森 公一 先生A. 手術前は膝を伸ばしきることができない方が多く、膝が曲がった状態で生活されていたのが、ぴんと伸ばせるようになります。また、もともとの膝の状態にもよりますが、手術前に比べると膝関節が動かしやすくなります。
また、痛みがなくなること以外に、見た目の変化を喜ばれる方も多いです。手術によってO脚がまっすぐになるので、立ち姿や歩き姿が手術前とは大きく変わります。「歩き方がキレイになったと褒められた」とか、曲がった膝がまっすぐになるので「背が伸びた」と喜ばれる方もいらっしゃいます。

Q. 人工膝関節置換術は時代とともに進歩していますか?

A. 手術に用いる器械が発達したことで、以前より手間がかからなくなり、手術時間が短縮できるようになりました。現在、手術の所要時間は1~2時間程度です。また、人工膝関節そのものの品質も向上しました。そのため、手術を受けられる患者さんの年齢層もだんだん下がっており、昔はあり得ませんでしたが、今は40~50歳代の方も手術を受けられるケースがあります。現在もインプラントの形状に関する研究が重ねられ、品質は向上し続けており、人工関節の裾野が広がっている印象があります。

Q. 先生が治療において心がけておられることを教えてください。

A. 初回の外来診察を特に大切にしています。紹介状を持って来られる方は、「先生、私は手術しなければならないのでしょうか?」と不安がられています。そこで手術が本当に必要なのか、手術をするとどんなメリットがあるのか、じっくりお話させていただいています。中には、「人工関節にして車いす生活になったと聞いた」などと言われる方もおられるので、心配事の一つひとつを払拭していくようにしています。患者さんに不安な気持ちを吐き出していただき、実際に手術を受けた患者さんの状況をお伝えすることで、安心して手術を受け入れられるようになる方もおられます。

公益社団法人 日本海員掖済会 名古屋掖済会病院 森 公一 先生Q. ありがとうございます。では最後に、先生が医師を志された理由を教えてください。

A. 高校時代は教師になろうと思っていたのですが、父が病気を患ったことを機に医師の道を考えるようになりました。子どもが好きだったので最初は小児外科医を目指そうかと思いましたが、研修医時代に整形外科に興味を持つようになりました。整形外科は、手術が直接的に治療の結果に反映され、患者さんの ADL (日常生活動作)や QOL (生活の質)が上がっていくのが目の当たりにできる分野なので、日々やりがいを感じています。

リモート取材日:2021.6.24

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

先生の一覧へ戻る

病院検索をする

ページトップへ戻る

先生があなたに伝えたいこと

股関節股関節

膝関節膝関節

肩関節肩関節

肘関節肘関節

足関節足関節

手の外科手の外科

脊椎脊椎

病院検索 あなたの街の病院を検索!

先生があなたに伝えたいこと 動画によるメッセージも配信中!