先生があなたに伝えたいこと / 【大場 良輔】人工股関節、手術手技、そしてリハビリテーション。三位一体の進歩と工夫で、人工股関節の治療成績は大きく向上しています。

先生があなたに伝えたいこと

【大場 良輔】人工股関節、手術手技、そしてリハビリテーション。三位一体の進歩と工夫で、人工股関節の治療成績は大きく向上しています。

医療法人 五輪橋整形外科病院 大場 良輔 先生

医療法人 五輪橋整形外科病院
おおば りょうすけ
大場 良輔 先生
専門:股関節

大場先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 北海道はサッカーや野球などプロスポーツが盛んな地域ですので、コロナが落ち着いたら、道内各地にスポーツ観戦しに行きたいと思っています。

2.休日は何をして過ごしますか?
 まだ子どもが小さいので、よく近場の公園に出かけています。

先生からのメッセージ

人工股関節、手術手技、そしてリハビリテーション。三位一体の進歩と工夫で、人工股関節の治療成績は大きく向上しています。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

医療法人 五輪橋整形外科病院 大場 良輔 先生Q. まず股関節の構造と特徴を教えてください。

A. 股関節の大きな特徴は、その形状にあります。大腿骨の先端(大腿骨頭:だいたいこっとう)が球状になっていて骨盤側のくぼみ(寛骨臼:かんこつきゅう)にはまり込んでいる形だからこそ、下肢の付け根という体の中心に近い部分で体重を支えるのと同時に、曲げる・伸ばす・ねじる・開くなど全方向の動きを可能にしています。しかし、一方でそれがウィークポイントにもなっています。
大腿骨は動いても骨盤の周囲にぶつからないよう先端部分が少しくびれています。ここを大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)、その下の出っ張った部分を大腿骨転子部(だいたいこつてんしぶ)と呼びますが、くびれている形状のために、転倒などで骨折しやすいのです。特に骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の患者さんは、転ばなくてもちょっとした外力がかかるだけで骨折しやすくなります。
ここ、札幌周辺は、冬場に雪が積もりますから、雪道で転倒して骨折したりして、他所に比べて骨折の患者さんの割合が高いように思います。また、球状をしているがために骨盤の形状によっては、かかる荷重が1点に集中しやすくなり、軟骨が傷んですり減っていって最終的に変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)を引き起こすことがあります。

股関節の構造

医療法人 五輪橋整形外科病院 大場 良輔 先生Q. 地域性もあるわけですね。大腿骨頸部の骨折や大腿骨転子部の骨折の場合は、すぐに手術が必要なのでしょうか?

A. 特にお年寄りの場合は、寝たきりを防ぐためにも早期の手術が望ましいと考えます。現在の手術は以前に比べ、時間が短い、侵襲が少ないなど安全性が向上しているので、早期に手術することでできるだけ早く日常生活に復帰していただくようにしています。

Q. 手術にはどういう方法があるのでしょうか?

A. 大腿骨転子部骨折では、骨を金属のネイル(釘)などで固定して折れた部分をくっつける骨癒合(こつゆごう)手術が一般的です。大腿骨頸部骨折については、頸部は骨が癒合しにくいということもあり、いずれ骨の血行不良に陥ってしまいそうな折れ方であれば、高齢者の場合は最初から人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)を選択するケースも多いです。

【ネイルの例】

ショートフェモラルネイル

【人工骨頭置換術の例】

人工骨頭置換術の例

Q. わかりました。それでは変形性股関節症の治療法について教えてください。合わせて手術を検討するのはどんな場合か教えてください。

A. 変形性股関節症では、基本的にはまずは保存療法です。痛み止めの服用、股関節周囲の筋肉を鍛えるリハビリテーション、場合によって松葉杖の使用などを行います。また体重コントロールも大切です。このような保存療法でも痛みが改善せず、日常生活に支障が出てくれば手術を検討します。あるいは趣味や仕事など、ライフワークとしてどうしても続けたいというものがある場合など、患者さんの希望により手術を考えることもあります。いずれにしても、痛みによってしたいことができないというときに手術が選択肢となります。

医療法人 五輪橋整形外科病院 大場 良輔 先生Q. 手術に種類はあるのですか?

A. 患者さん自身の骨を切って荷重の向きを変える骨切り術(こつきりじゅつ)と、傷んだ部分の骨を人工物に置き換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)に大きく分けられます。

Q. それでは、まずは骨切り術から教えてください。

A. 日本人の特徴的な骨盤の形態なのですが、寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)といって、成長の過程で寛骨臼が十分に発達せず、大腿骨頭を包んでいる骨盤側の被覆の少ない方に行うことが多い手術です。主に活動性が高く、比較的若い方に対して行われます。骨盤の骨を切って形態を変化させることで、変形の進行を抑止したり痛みを和らげたりすることを目的にした手術ですが、どういう変形で痛みが出ているのかによって、骨盤側を切る手術、大腿骨側を切る手術、骨を移植する手術などさまざまな方法がとられます。

寛骨臼形成不全

Q. そのなかでも代表的な手術とは?

A. 寛骨臼の被覆が浅いために大腿骨頭がはみ出している部分に、ご自分の骨を移植して深い寛骨臼にする寛骨臼形成手術や、骨盤の寛骨臼の周りをドーム状に切って前方に回転させ骨頭を覆うようにする、寛骨臼回転骨切り術(かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ)が代表的です。体重を受ける面積が少ないほど軟骨の負担は大きくなるので、その面積を広げてかかる荷重を分散させるのです。ただし、骨切り術は人工的に骨折を起こすようなものですので、リハビリや骨がくっつくまでの入院期間が長くなることが多いですが、若年患者は骨を温存すべきとの考えで骨切り術を選択します。

寛骨臼回転骨切り術

Q. 骨切り術をすれば、ずっとそのままで大丈夫なのでしょうか?

A. 一生大丈夫な方もいらっしゃいます。少し痛みが残ったとしても、痛みをコントロールしながら、60歳くらいまで時間かせぎをしてから人工股関節置換術をするということも大変有効だと思います。
また、今では人工股関節の治療成績が昔に比べてとても向上しているので、若い方でも痛みが早く取れる人工股関節を第一選択にすることも可能となってきつつあります。

【人工股関節置換術の例】

人工股関節置換術の例

医療法人 五輪橋整形外科病院 大場 良輔 先生Q. 人工股関節の治療成績がよくなったということですが、現在、耐用年数はどれくらいなのでしょうか?また人工股関節の性能が進歩したということでしょうか?

A. 耐用年数は昔は20年といわれてきましたが、現在は30年以上という学会報告もあり、私自身もそれくらいは大丈夫なのではないかと思っています。これは人工股関節自体の進歩が大きく寄与していると思います。まず、骨盤側で軟骨の役割を果たすポリエチレンライナーが改良されて摩耗しにくくなったことが挙げられます。摩耗すると微細な摩耗粉(まもうふん)が原因で人工股関節の周りの骨が溶けていってしまうので、人工股関節がゆるんでしまうのです。もうひとつは、大腿骨側に挿入する人工股関節(ステム)の形状の薄型化や短縮化を実現することで、患者さんの骨をよりたくさん残せるようになったことです。そのため、経年的な変化で骨が薄くなっても、ゆるんだり骨折したりするリスクを軽減できるようになりました。今後も進歩が期待され、人工股関節の適応年齢の低下や治療の幅が広がることを期待したいと思っています。

Q. 手術手技も進歩しているでしょうか?

A. 昔は人工股関節の設置しやすさを第一義とする「後方アプローチ(進入)法」という手技が主流でしたが、近年、筋肉や腱を切離せず筋間から入る「前方アプローチ法」や「側方アプローチ法」という手技が行われるようになりました。これらの方法では筋肉を切らないため、術後の回復が早くなりリハビリもよりスムーズに進められます。しかし寛骨臼形成不全や骨折などを併発し、骨移植が必要な患者さんや、前方からでは人工股関節の設置が難しい状態の患者さんの場合は、良好な視野を確保するために「後方アプローチ法」で手術を行っており、当施設では各患者さんによって適切なアプローチを選択しています。

前方からの進入法 側方からの進入法 後方からの進入法(筋肉を切開する必要がある)

Q. 患者さんによってケースバイケースなのですね。手術では合併症も心配なのですが...

A. 合併症には、手術中から手術直後といった短期的なものと、手術後から退院後にいたる長期的なものとに分けて考える必要があります。短期的なもので一番心配なのは、脚を長時間動かさないことで血流が滞り血栓ができてしまう深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)、いわゆるエコノミークラス症候群です。血栓が肺に及ぶと重篤となるケースもあるので、これには万全の対策をとっています。術後にはフットポンプという器械を使用し、マッサージを行って血栓ができるリスクを下げています。また、早期のリハビリ開始、弾性ストッキング着用、抗凝固薬の内服などあらゆる手段を講じます。長期的には人工股関節のゆるみと脱臼が問題です。ポリエチレンの改良による摩耗対策や高い精度での人工股関節の設置によってゆるみを予防できるので、今後も耐用年数の改善が図られていくでしょう。また、筋間から入るアプローチや軟部組織の修復など、術式の改良により脱臼のリスクを減少させることができます。併せて、脱臼しやすい肢位(しい)を避けるなど生活習慣の見直しも大切で、リハビリのときに指導しています。

フットポンプ

医療法人 五輪橋整形外科病院 大場 良輔 先生Q. 大変よくわかりました。人工股関節手術では入院期間はどれくらいですか?

A. 早い方で3週間程度ですが、厳密な決まりはありません。回復の程度には個人差がありますし、「こういうことができるまで、しっかりリハビリをしたい」というご希望があれば、連携している近隣のリハビリテーション病院に転院加療したうえで退院を目指すこともできます。

医療法人 五輪橋整形外科病院 大場 良輔 先生Q. リハビリではどのようなことをするのでしょうか?

A. 理学療法士、作業療法士の指導の下で、主に筋力訓練と関節可動域訓練、歩行訓練を行います。

Q. 退院後、趣味やスポーツなどはできるのでしょうか?

A. みなさんは、一生一度の手術で済むよう負担をかけず大事に使おうと思われるでしょうが、人工股関節は生活の活動性を上げて、健康寿命を延ばすための手術です。例えば、前方アプローチ法で手術ができればしゃがみ動作の畑仕事も可能ですし、リハビリでの約束事を守ることを条件に、人工股関節に無理な負担がかからない範囲で、趣味や軽いスポーツなどの楽しみはぜひ元気で続けてほしいと思っています。

医療法人 五輪橋整形外科病院 大場 良輔 先生Q. ありがとうございました。最後に先生が医師を目指された理由やエピソードがあればお聞かせください。

A. 父も整形外科医で、ごく自然に私も同じ道を目指しました。札幌は妻の実家があり、ご縁を感じています。親しみのあるこの地域に貢献していきたいと思っています。

リモート取材日:2021.6.29

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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