先生があなたに伝えたいこと
【大場 良輔】変形性股関節症で長引く痛みにお困りの方は、筋力が弱ってしまう前になるべく早く治療を始めてください。
医療法人 五輪橋整形外科病院
おおば りょうすけ
大場 良輔 先生
専門:股関節
大場先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
趣味がサッカー観戦なのですが、札幌はサッカーだけでなく、野球や音楽イベントなど様々な文化を身近に楽しめる環境が多く素晴らしいと感じています。子どもたちと一緒に色々な文化に触れ合う機会を増やしていきたいと思っています。
2.休日は何をして過ごしますか?
妻の両親が札幌在住で釣りやキャンプなどアウトドア好きなので、子供たちと一緒に色々連れていってもらったりしています。あとはドライブに行ったり、公園でサッカーをしたり、温泉に行ったりと、家族と過ごす時間を大切にしています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. まず始めに、股関節の構造について教えてください。
A. 股関節は大腿骨という太腿(もも)の骨と骨盤側にある寛骨臼(かんこつきゅう)という骨が脚の付け根で接合している人体で最も大きな関節の1つです。ねじる、曲げる、開くなど色々な方向に動かせるよう大腿骨の先端(大腿骨頭:だいたいこっとう)は丸くなっていて、寛骨臼のくぼみにはまり込む構造になっています。周囲の筋肉が収縮することで関節が曲げ伸ばしできる仕組みで、その際に骨同士が擦れずスムーズに可動するように関節の表面は軟骨というクッションのような組織で覆われています。
Q. 股関節の代表的な疾患について教えてください。
A. ここが雪国ならではかもしれませんが、転倒による高齢者の大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)が頻度の多い股関節疾患です。股関節は体重をかける重要な関節であるにも関わらず、様々な方向に動かせるように頸部は細くくびれている構造上、高齢になると骨粗鬆症や転倒をきっかけに骨折を生じやすいのです。ほかには変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)が挙げられます。
Q. 骨折の場合、どのような治療になりますか?
A. 骨折した箇所によって異なりますが、頸部でもヒビ程度であれば骨癒合(こつゆごう:骨がくっつくこと)が期待でき、骨接合術の適応となります。しかし、骨折のずれが大きい場合は血流が途絶えて骨癒合が期待できないため、折れた箇所を人工骨頭に置き換える人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)が必要になります。また、活動性の高い方、若年の方であれば人工股関節置換術を行うこともあります。一方、頸部より太い転子部(てんしぶ)の骨折であれば血流が豊富なので、これに対しても骨接合術を施行して骨癒合を目指します。
Q. 次に、変形性股関節症についてお伺いします。変形性股関節症とはどのような疾患なのでしょうか?
A. 股関節の表面の軟骨が削れ、骨同士がぶつかるようになって痛みが出たり、骨が角張ってきたりして関節の動きが悪くなる疾患です。軟骨がすり減る原因は加齢に伴う経年変化もありますが、生まれつき寛骨臼の発達が悪く、"かぶり"が浅くて大腿骨頭を受け止めきれない寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)も原因となることが多いです。
寛骨臼形成不全の方は30~40代頃から関節唇損傷などの外傷をきっかけに痛みが出現し、徐々に変形が進むことがあります。
Q. 変形性股関節症ではどのような治療になるでしょうか?
A. 手術治療と保存治療とがあり、まずは痛み止めや炎症を抑える薬を使いながら関節周囲の筋肉を鍛えたり、関節の可動域を広げたりして症状を和らげる保存治療から始めます。数ヵ月程度保存治療を続けて効果がみられなければ手術を検討します。
Q. どのような手術になりますか?
A. 年齢と症状によって異なり、変形がそこまで進行していない30~50代前半までの方であれば、骨を切って角度を変え、寛骨臼のかぶりを深くする骨切り術(こつきりじゅつ)が適応となります。50代後半以降で関節の変形が進行しているのであれば、傷んだ部分を人工物に換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)が適応になります。
Q. 骨切り術はどのような方が対象になるのでしょうか?
A. 人工股関節を入れた後に激しい運動をすると人工股関節がゆるんだり壊れたりする恐れがあるため、私はアスリートや活動性の高い方には極力自分の関節を温存すべきと考えています。人工股関節でもゴルフやウォーキング程度なら問題ありませんが、マラソンなどの負担の大きい運動は控えた方がよいでしょう。
ただし、全例ではありませんが骨切り術は手術後に痛みが再燃することがあり、人工股関節の適応年齢になるまでの一時的な治療と捉える考え方もあります。いまは人工股関節置換術の長期成績が向上してきており、将来的に人工股関節置換術の適応年齢は拡大していくでしょう。
Q. 人工股関節の素材や手術で進歩したところはありますか?
A. インプラントが擦れ合う部分に使用されるポリエチレンライナーの素材が進歩し、より潤滑に動くようになり、以前に比べて耐久性が向上しました。手術も以前は後方のお尻側から大きく皮膚切開してインプラントを入れていたのを、近年は前方や前側方から小さな切開で手術する術式が普及して身体への負担が減り、術後に脱臼することもほとんどなくなっています。
Q. 手術で考えられる合併症と対策について教えてください。
A. 脱臼以外には感染とエコノミークラス症候群と呼ばれる深部静脈血栓症があげられます。手術時に傷口からばい菌が入ってインプラント周りで感染を起こすと再手術が必要になりますから、消毒や洗浄を徹底し、適切な抗生剤の投与で感染を未然に防いでいます。また、長時間脚を動かさないことで深部静脈血栓症のリスクが高まりますから、フットポンプや弾性ストッキングを使用し、術後早期にリハビリを開始します。
Q. 手術の入院期間はどれくらいになりますか?
A. 患者さんの生活環境や年齢、症状によって様々です。当院には回復期リハビリテーション病棟があり、患者さんが十分に自信を持てるようになるまで、退院まで一貫してリハビリを行うことが出来る環境が整っています。若い世代で早く仕事に復帰したい方は3週間~1ヵ月程度で退院していますが、高齢でご自宅に段差がある方などは、自信を持てるまで2~3ヵ月ほどリハビリに励む方もいらっしゃいます。
Q. 手術後のリハビリはどのようなことをするのでしょうか?
A. 歩行訓練や可動域訓練を中心に、股関節の機能回復に努めます。当院では併設されている回復期病棟で理学療法士や作業療法士と連携して患者さんの症状に応じたリハビリのプログラムを組んでいます。
Q. 大腿骨頸部骨折の場合のリハビリも同じですか?
A. 大腿骨頸部骨折は高齢になり、少しずつ歩行が不安定になって転んで骨折している人が多く、なかなか元通りに回復とまではいかないのが実状です。また、杖を使うことにためらいがあったり、住居に段差が多い、布団など和式の生活用品が多いなど、安全と言えない環境のために再転倒される方も多いですが、手術を機に骨折の再発予防のために生活環境を見直していくことも重要だと思います。
Q. 実際に人工股関節置換術を受けた方からはどのような声が届いていますか?
A. 「楽に歩けるようになった」、「仕事に復帰できた」、「趣味のフラダンスの大会にまた出られるようになった」といった声をいただいていたときは、率直にうれしいですね。
Q. 先生が医師を目指されたきっかけについて教えてください。
A. 父が整形外科医だったので自然と志すようになり、診察を通じてケガをした人が回復していくことに日々やりがいを見出してきました。
リモート取材日:2023.10.31
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
変形性股関節症で長引く痛みにお困りの方は、筋力が弱ってしまう前になるべく早く治療を始めてください。