先生があなたに伝えたいこと
【相澤 利武】「地域の患者さんはできる限り地域で治す」をモットーに、常に新たな技術を吸収して改良を重ね、地域の患者さんの治療に反映させていきたいと考えています。
股関節の仕組みと疾患
Q. 股関節の構造と仕組みについて教えてください。
A. 股関節は、立ったり、歩いたりといった日常の基本的な動作を司る重要な関節で、大腿骨の先端にある球状の大腿骨頭(だいたいこっとう)と、骨盤の中にある、大腿骨頭の受け皿となる臼蓋(きゅうがい)の組み合わせでできています。歩行するとき、股関節には体重よりも重い負荷がかかるといわれています。
Q. 股関節の疾患でお悩みの方には、どのような疾患の方が多いのでしょうか?
A. 変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)が圧倒的に多いです。
Q. どういった症状があらわれますか?
A. 変形性股関節症の場合では、ふとももの前面や脚の付け根、臀部(でんぶ・お尻の部分)など、神経や筋肉の影響で、様々な部分に痛みがあらわれることがあります。
Q. 変形性股関節症の原因は何でしょうか?
A. 受け皿となる臼蓋のつくりが生まれつき不完全だったり浅かったりすることなどからおこる、臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)が原因です。骨折などの外傷や、大腿骨頭の血流不全でも発症することがあります。臼蓋形成不全は遺伝的にアジア人に多く、中高年女性の変形性股関節症の原因の9割が臼蓋形成不全によるものです。特に原因がなくても40代後半以降になると、加齢や体重が増えることによっておこることもあります。乳幼児期に先天性股関節脱臼で治療を受けていた方は、股関節の成長が止まる14歳頃に、一度レントゲンで股関節や骨盤の状況を診てもらうことをおすすめしています。
Q. 治療法にはどういったものがあるのですか?
A. 関節が緊張して組織の血流が悪くなることで痛みが生じるので、まずは鎮痛剤を使いながら患部をあたためて血流を改善させる理学療法を行います。そのうえで、若年層の患者さんで変形が軽度の場合、被りが浅くなっている大腿骨頭に対して、自分の骨盤の骨をより広く被せる寛骨臼回転骨切り術(かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ)を行うこともあります。うまくいけば一生もち、術後脱臼も少ないことがメリットです。ただし、軟骨にダメージが及ぶほど変形性股関節症が進行してしまった場合には、骨切り術では対応できません。
Q. まずは、早めの受診が大切ということですね。
A. その通りです。骨切り術でも治まらない場合には、人工股関節に置き換えて正常な動きを取り戻す人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)を行うことが一般的です。
Q. 人工股関節について詳しく教えてください。
A. 人工股関節そのものが進化しただけでなく手術手技も洗練されてきています。結果として耐用年数が延びました。近年では40代くらいの方であっても人工股関節にすることで改善が見込まれるようであれば適用するようになりました。
Q. 素材や形状が進化したのでしょうか?
A. 人工股関節の摺動(しゅうどう)面に使われるポリエチレン素材がよくなり、さらに「Aquala(アクアラ)」と呼ばれる摺動面の表面処理技術が日本で開発されました。この技術は、細胞膜と同じ分子構造を持つMPCポリマーをポリエチレンに表面加工を行い、水の膜のようなものを作ることで湿潤性を向上させるものです。ほかにも、ポリエチレンにビタミン剤を添加することで酸化しにくくして耐久性を増すこともあります。また、骨頭の直径が22ミリから32ミリと大きくなったことで、ジャンピング・ディスタンスを大きくでき、術後脱臼する確率も1.9%程度に減って、可動域も広がりました。
Q. 手術の方法についてはどうですか?
A. 3次元テンプレーティング・システムの導入によって、手術前にコンピューターで使用する人工股関節の大きさや設置位置をシミュレーションすることができるようになりました。また、クリーンルームを完備し、感染率も0.87%程度へと減少しています。2017年からはこれにナビゲーション・システムが加わり、画像で確認しながら手術が行えるようになりました。
Q. より確実性が増すようになったのですね。
A. その通りです。事前の確認を徹底することで手術中の工程が減り、平均手術時間はかつての半分の50分間程度になりました。
Q. 手術を受けられる患者さんの年代はどれくらいですか?
A. 高齢化によって元気なお年寄りが増え、最近は70代以降の方が多いです。80代で片側を手術された方が、10年経って「今度は反対側も痛くなったので手術してほしい」と来院されるケースもあります。ご家族は年齢を心配して反対されていましたが、本人はやる気満々で、見事1週間で退院されましたよ(笑)。
Q. 手術に年齢制限はないのでしょうか?
A. 持病によっては難しい場合もありますが、手術してよくなる見込みがあるのであれば、いくつになっても痛みを我慢する必要はありません。
肩関節の仕組みと疾患
Q. 肩関節の仕組みについて教えてください。
A. 肩関節の安定を担う腱板(けんばん)の下に、関節包(かんせつほう)という関節を包む組織があります。肩関節にはある程度のゆとりがあり、動いたときに伸びるのがこの関節の本来のあるべき姿です。
Q. 肩関節の疾患でお悩みの方には、どのような疾患が多いのでしょうか?
A. 最も多いのは、世間で四十肩、五十肩といわれる肩関節周囲炎、次に変形性肩関節症(へんけいせいかたかんせつしょう)、腱板断裂(けんばんだんれつ)、偽痛風(ぎつうふう)などです。偽痛風というのは、痛風に似ていることでこの名が付きましたが、関節の中のpH(水素イオン指数:酸性・アルカリ性の程度を示す)の割合が何かのきっかけで変化し、関節の中に本来溶けだすべきピロリン酸カルシウムが積出して炎症を起こすものです。男女問わず高齢者によく見られる症状ですが、原因はよくわかっていません。
Q. 肩関節周囲炎について詳しく教えてください。
A. 関節を包む関節包が縮まってしまうことで、手が上がらなくなってしまうのが肩関節周囲炎です。最初は痛みだけが起こり、そのうち後ろに手を回すといった動作が痛くてできなくなる拘縮期(こうしゅくき)が3ヵ月から半年程度続きます。そのあと、だんだん痛みは治まりますが、動きの制限は残ってしまうことがあります。原因はよくわかっていませんが、小さな外傷に対して、組織が治ろうとするときに過剰反応を起こして組織を硬くしてしまうのではないかと考えられています。
Q. 腱板断裂とはどういうものですか?
A. 腱板断裂とは、血行障害や摩擦によって、肩関節を安定させる腱板が切れてしまうものです。肩の使い過ぎが原因と考えられていますが、加齢によって起こることも多く、70代の人は自覚がなくても30~40%の人が切れているというデータもあります。
Q. 肩関節周囲炎、腱板断裂には、それぞれどのような治療を行うのでしょうか?
A. 肩関節周囲炎は、肩関節を包む関節包が縮まることで動きが制限されてしまうことが原因なので、関節鏡を用いて関節包を切った後に徒手授動術(としゅじゅどうじゅつ)によって可動域を復活させる方法があります。腱板断裂の初期段階には、ステロイドを使って痛みをとったり、ヒアルロン酸を使って滑りをよくしたりする保存療法を行います。そのほか、腱板訓練といって、腱板周辺の筋肉を鍛えて切れた部分の負担を減らす方法もあります。腱板が大きく切れた場合には、切れた腱をつなぎ合わせる腱板修復術(けんばんしゅうふくじゅつ)という手術を行いますが、縫えないほど大きく損傷している場合には、大腿部の筋膜を移植する方法もあります。
Q. 手術に踏み切るケースは多いのでしょうか?
A. 私たちのところに来院される方は重篤な方がほとんどで、発症から1年以上経つ方や体格のいい方の場合は徒手授動術が難しいので、その際には関節鏡を使って、関節鏡視下(かんせつきょうしか)の関節包切開術を行います。それでも難しい人や高齢の方には、人工肩関節という選択肢もあります。
Q. 人工肩関節も進化していますか?
A. こちらも素材だけでなく、2014年からは肩関節の頭と受け皿の構造を逆にした新しい発想のリバース型人工肩関節が国内で認可されるようになりました。腱板の力がなくても、三角筋の力を利用して、関節の安定化が期待できる逆転の発想で、これまで手術に踏み切れなかったケースでも手術が行えるようになったのです。その方の症状の度合いによって様々な方法があるので、痛くて眠れない、仕事ができないなど、生活の質に大きな影響を及ぼす場合は、十分に説明をして納得いただければ手術に踏み切ることが多くなってきました。
Q. 手術に伴うリスクについても教えてください。
A. リバース型については、従来の解剖学的に元に戻す発想と異なり、新たな力源をつくるという逆転の発想であること、欧米のものを導入しているので、サイズが必ずしも日本人に合わないなど、構造上、普通の人工肩関節に比べて合併症や感染症のリスクも高いとされています。そのため、CTを使って事前に綿密な術前計画を立て、スタッフと連携しながら施術を行うよう努めています。
人工関節センターについて
Q. 「人工関節センター」という名称が付いていますが、通常の整形外科との違いは何ですか?
A. 当センターは人工関節手術を専門的に扱うことを目的に2010年に開設されました。先のリバース型人工肩関節にしても、肩の累計手術経験が一定以上あり、医師が日本整形外科学会の定める講習会を受講しているなど、実施基準が設けられていて、福島県内では当院含め、限られた医療機関でしか行えません。
センターでは、医療機器メーカーとも連携しながら適した機材を選び、チーム医療として術前の術前計画を徹底し、短時間で確実に手術が行えるように努めています。私自身、「地元の患者さんは地元で救いたい」をモットーに、様々な学会に出向いて情報や技術を吸収し、患者さんの症状に応じた手技に取り組んでいきたいと思っています。
※Aquala(アクアラ)は京セラ株式会社の登録商標です。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2018.6.27
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
「地域の患者さんはできる限り地域で治す」をモットーに、常に新たな技術を吸収して改良を重ね、地域の患者さんの治療に反映させていきたいと考えています。