先生があなたに伝えたいこと / 【竹下 祐次郎】小児の脊椎疾患では、側弯症(そくわんしょう)と環軸椎亜脱臼(かんじくついあだっきゅう)が代表的ですが、手術も含めた専門的な対応のできる施設は限られていますので、ぜひ豊富な治療経験のある医療機関を受診してください。

先生があなたに伝えたいこと

【竹下 祐次郎】小児の脊椎疾患では、側弯症(そくわんしょう)と環軸椎亜脱臼(かんじくついあだっきゅう)が代表的ですが、手術も含めた専門的な対応のできる施設は限られていますので、ぜひ豊富な治療経験のある医療機関を受診してください。

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 竹下 祐次郎 先生

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院
たけした ゆうじろう
竹下 祐次郎 先生
専門:脊椎脊髄

竹下先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 医療現場における働き方改革のあり方です。医療の質の担保と業務効率化の両立をどのように行うか、難しい問題だと思っています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 昔からサッカーをしていますが、現在も地元の社会人リーグに所属していて、試合のある日はできるだけ汗を流すようにしています。

先生からのメッセージ

小児の脊椎疾患では、側弯症(そくわんしょう)と環軸椎亜脱臼(かんじくついあだっきゅう)が代表的ですが、手術も含めた専門的な対応のできる施設は限られていますので、ぜひ豊富な治療経験のある医療機関を受診してください。

側弯症の例Q. こちらの病院には、加齢による脊椎の疾患はもちろん、お子さんに特有の脊椎の疾患の患者さんも多く受診されるとお聞きしました。具体的にはどのような疾患が多いのでしょうか?

A. 様々な疾患がありますが、今回は代表的なものとして側弯症(そくわんしょう)と、環軸椎亜脱臼(かんじくついあだっきゅう)をあげてみたいと思います。

Q. それでは、まず、側弯症とはどんな病気なのでしょうか?

A. 本来、人の背骨は自然に立ったときや寝た時は、正面からみて骨盤の上にまっすぐ並んでいるはずですが、何らかの理由で左右に一定以上に曲がってしまった状態をいいます。さらに、多くの場合これにねじれが加わっています。

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 竹下 祐次郎 先生Q. 側弯症の原因についてはどのようなものがあるのでしょうか?

A. 成人でも加齢に伴って側弯を発症することはありますが、小児で最も多いのは、明らかな原因が見つからない特発性側弯症(とくはつせいそくわんしょう)です。その中でも特に多いのは、身長が一番伸びる小学校高学年から中学生、高校生くらいまでに曲がりが進行する思春期特発性側弯症(ししゅんきとくはつせいそくわんしょう)で、女子に多いです。
それ以外では、生まれつきの左右非対称な背骨が原因の先天性側弯症(せんてんせいそくわんしょう)や、様々な「症候群」に伴う症候群性側弯症(しょうこうぐんせいそくわんしょう)、脳性マヒや脊髄性筋萎縮症、筋ジストロフィーなど、神経や筋肉の病気によって引き起こされる神経・筋原性側弯症(しんけい・きんげんせいそくわんしょう)などがあります。

Q. 側弯症にも様々な原因や病態があるのですね。最も多い思春期特発性側弯症の診断や治療について教えてください。

A. 学校検診や、ご家族・ご本人が気づいて医療機関を受診することが多いです。そこでレントゲン撮影を行い、背骨の曲がり具合をコブ角という角度で側弯度を測定します。年齢にもよりますが、軽度の場合には経過観察になることが多いですが、若いほど進行する可能性が高く、年齢や体の成熟度を考慮して、進行が危惧されるようであれば装具、いわゆるコルセットを用いた治療が必要になります。さらに一定の角度以上まで進行してしまった場合は手術も検討されます。

頂椎 コブ角 側弯度

コルセットの例

Q. コルセットはどれくらい着けておく必要があるのでしょうか?

A. 装着時間が長いほど効果が出やすいということがわかっていますので、患者さんとご家族にはできるだけ長く着けていただくようにお勧めしています。ただし、コルセットはそれなりに大がかりなものですから、年頃のお子さん達が学校生活を送る中で常時着用し続けるのはストレスになり、無理強いをすると治療そのものをドロップアウトしてしまうことにもなりかねません。そういう場合は、せめて家にいる間だけでも着けてもらうなど、相談しながらできるだけ継続してもらえるようにお願いします。

Q. 高度に進行して手術が必要といわれても、ご家族としては大切なお子さんの手術はできれば避けたいのが心情だと思いますが、手術は積極的におこなった方が良いのでしょうか?

A. 手術をお勧めするのにはもちろん理由があります。一定以上の側弯度まで変形が進んだ場合は、成長後もゆっくり進行し続けることがわかっています。そうなると、小児期には無症状だったものが、例えば腰の側弯の場合は将来的に腰痛や神経痛などの症状を引き起こし、さらに大がかりな手術が必要になってしまうことがあります。そして、特に胸椎(きょうつい)、いわゆる背中の部分の側弯に関しては、重度に進行すると肺活量が低下し、将来的な呼吸障害につながる恐れもあります。他には、側弯の進行に伴って見た目への影響も大きくなってきます。そのため、ある程度身体の成熟が得られてきた段階で、腰椎に関しては側弯度が35度から40度、胸椎で45度前後に変形した場合には手術をお勧めしています。また、手術時期を逸すると、さらに進行するだけでなく変形が戻りにくくなってしまい、手術そのものがより難しくなってくるため、手術の時期を逃さないことも大切になります。こうしたことをよく説明して、ご本人、ご家族によくご理解いただくことが非常に大事になります。

側弯症の手術Q. 側弯症の手術は、具体的にはどういった手術になるのでしょうか?

A. 細かなやり方の違いは色々ありますが、基本的には背骨にスクリューなどのインプラントを設置し、曲がった背骨をまっすぐに矯正した状態でこれを保持するように金属のロッド(棒)を連結します。さらに、骨移植を行い、矯正された状態での骨癒合(こつゆごう:骨同士がくっつくこと)が得られるようにします。

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 竹下 祐次郎 先生Q. 手術による合併症はありますか?

A. 手術ですから、低い確率のものも含めると合併症の可能性はゼロとはいえません。ただ、側弯症の手術を行っている病院は、可能な限り合併症のリスクを下げるような努力を行い、合併症の心配よりも手術によって得られる利益の方が大きいと自信を持ってお勧めできる状態で手術を行っているはずです。例えば、側弯症の手術は出血が多くなりますが、当院では手術に先立って自分の血液をあらかじめ採取して貯めておく「貯血式自己血(ちょけつしきじこけつ)」を準備し、手術の際には「回収式自己血」といって術中に出血した血液のうち体に戻せる成分を回収して戻すことで、いわゆる輸血が必要となるリスクを抑えています。また、インプラントが正確に設置できるように高度なナビゲーションシステム(手術中にリアルタイムでインプラントの位置や角度を画面上に表示する装置)を利用したり、神経障害のリスクに対しては神経モニタリングシステムを使って監視を行いながら手術を進めたりしています。

Q. 側弯症の手術はお子さんの成長に影響はないのでしょうか? またスポーツは行えますか?

A. 適切に手術が行われれば、子どもの成長に大きな影響を及ぼすものではありません。側弯症の手術を受けて、その後スポーツを行っている患者さんは多くいらっしゃいます。ただ、術後の一定期間は激しい運動は控えていただく必要があります。もともと一刻を争って行う手術ではありませんから、例えば運動部で部活を行っているお子さんは部活を引退してからにするなど、時期を選んで行ったりしています。

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 竹下 祐次郎 先生Q. 特発性以外の側弯症についてはいかがでしょうか?

A. 先天性側弯症の中でも重度のものや進行リスクが高い場合は、低年齢のうちに手術を行うことで、その後の成長への影響もなくすことができるので、特発性側弯症に比べると比較的早い段階で手術をお勧めすることがあります。様々な先天的な疾患が原因の症候群性側弯症は、もとの疾患の特徴が異なるので個別に対処が必要ですが、概ね特発性側弯症と同じような治療方針になります。神経・筋原性側弯症の場合は、もともと病気のために自力で歩くのが難しかったり、様々な障害を抱えていたりするお子さんも多いのですが、実はこうしたお子さんたちは、急速に重度の側弯症に進行して、将来的に呼吸障害などがさらに大きな問題になるので注意が必要です。また、車いすを使っているお子さんは、座った時のバランスが悪くなることで日常生活動作に悪影響を及ぼすことも考えないといけません。こうしたお子さんたちにこそ、より積極的に手術を行うことで、多くの障害から助けてあげることができる可能性が高いのです。しかし、実際は側弯症の中でも特発性以外のこれらの側弯症の手術治療まで行っている病院は限られているのが現状です。

Q. 続いて環軸椎亜脱臼について伺いたいと思います。こちらの疾患についてはあまり耳にする機会は多くないのですが、どういった疾患なのでしょうか?

A. 頚椎(けいつい)はいわゆる首の骨で、7つありますが、上から順番に1番から7番まで番号がついています。そのうち、1番目を環椎(かんつい)、2番目を軸椎(じくつい)と呼びます。環椎と軸椎は歯突起(しとっき)と呼ばれる骨でつながっているのですが、環軸椎亜脱臼は、何らかの原因で環椎と軸椎の間がグラグラしてずれてしまっている状態のことをいいます。

環椎(第1頚椎) 歯突起 軸椎(第2頚椎)

Q. グラグラしてずれることが、なぜ問題になるのでしょうか?

A. もともと頚椎の中には、頭と手足、体幹をつなぐとても大事な神経組織である脊髄(せきずい)が通っていますが、グラつきやズレがひどくなると、この脊髄が圧迫・損傷され、手足の運動麻痺や感覚麻痺、さらにひどくなると致命的な呼吸障害などの症状が起こることがあるためです。

Q. 環軸椎亜脱臼の原因について教えてください。

A. 大人の場合は、関節リウマチや加齢で靭帯がゆるむ、あるいは交通事故や骨折が原因で起こることがあります。子どもの場合は、生まれつき頭蓋骨を含めて環軸椎の周囲の骨の異常があり、それが原因となっていることが非常に多いです。これは、様々な先天的な疾患に伴って起きていることも多く、代表的なものはダウン症です。その他にも骨系統疾患(こつけいとうしっかん)といわれる骨の形成や発達に異常のある病気に伴うこともよくあります。ただ、何の疾患もない子でも、環軸椎周囲の骨の異常だけがみつかることもあります。

Q. 原因も様々ということですね。その治療法について教えてください。

A. 特に、小児に多くみられる環軸椎部の骨の異常が原因になっている場合には、自然治癒する可能性は非常に低く、放置しておくと、自然経過や軽度の衝撃で重篤な手足の麻痺や呼吸困難に陥る恐れもあるので、治療が必要です。とりあえずは頚椎カラーという装具を直用するなどで経過をみることもありますが、根治的な治療としては手術以外にはありません。しかも、脊髄は一度障害されてしまうと十分に回復しないこともあるため、そうなる前に手術を行うのが望ましいのです。

ハローベストの例Q. どのような手術が行われるのでしょうか?

A. グラグラになっている環椎と軸椎をしっかり安定化させることが手術の目的になります。より専門性の高い治療が必要です。環椎と軸椎を、スクリューなどで固定する、ワイヤーやケーブルでしばる、つなぐ、などを行ったうえで、環椎と軸椎の間に骨移植を行って、最終的には2つの骨が癒合して一つの骨になることを目指します。術後は、頚椎カラーという固定具を装着するか、あるいは特に小さいお子さんの場合はカラーの固定力は不十分になりがちなので、頭にリングを設置してコルセットと連結して固定するハローベストという装具を併用する場合もあります。

Q. 手術の合併症について教えてください。

A. 非常にまれではありますが、特に注意するのは椎骨動脈損傷 (ついこつどうみゃくそんしょう)です。頚椎には脳に血液を送る椎骨動脈(ついこつどうみゃく)があり、万が一損傷すると脳梗塞(のうこうそく)を起こすリスクがあります。小児の場合はもともと骨のサイズが小さいことに加え、椎骨動脈の走行そのものに奇形がみられることが多いため、特に注意が必要です。手術前の綿密な準備と手術方法の選択が非常に大事になります。

Q. 環軸椎亜脱臼に対する手術はどの病院でも可能でしょうか?

A. 脊椎外科手術の中でも、環軸椎を含むいわゆる上位頚椎手術は、高度な技術と経験、そして手術安全性を高めるための設備が必要な手術であり、どこでも行われている訳ではありません。特に、成人のみでなく、お子さんに対して上位頚椎手術を多く行っている病院は、全国でも非常に限られていると思います。

Q. 本日お話いただいたような小児の脊椎疾患の場合は、どのような病院を受診すれば良いのでしょうか?

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 竹下 祐次郎 先生A. 脊椎外科の治療を行っている病院は全国にたくさんありますが、側弯症や環軸椎亜脱臼といった小児の脊椎疾患に対して手術まで含めた治療を行っている病院は限られています。理由の一つは、これらの患者さんの数自体が少ないので、そもそも治療経験のある病院や医師が限られていることです。もう一つは、小児期に脊椎手術が必要になるようなお子さんは、もともとなんらかの基礎疾患を持っていることも多く、手術の前後には小児科や集中治療部などの複数の診療科でチームを組んで治療にあたることが必要になってきますが、そうした環境が得られる病院が限られてくるためです。ご家族の方は大変ですが、できるだけこうした治療経験のある病院を探していただけるよう、主治医の先生にご相談されると良いと思います。

Q. 最後に、先生が治療にあたって常に念頭に置かれていることがありましたらお聞かせください。

A. 患者さんが自分の家族であった場合、どういう治療を受けさせるだろうか、という点につきます。その方の年代や置かれている環境も考慮して、相談しながら治療方針を決めていきたいと考えています。決して治療方針を押し付けることなく、かといって必要と考える場合にはその理由を責任もって納得がいくまで説明させていただくことが大事になってきます。そのうえで、最終的にはご本人、ご家族が決めていただくのが良いと思っています。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

竹下 祐次郎 先生からのメッセージ

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取材日:2019.12.20

*本ページは個人の意見であり、必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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