【曽田 是則】一つの関節だけでなく、患者さんの運動器全体を診ることを心がけています。【横山 徳一】人工股関節置換術は、健康寿命を延ばしていきいきと過ごすための手術です。

医療法人サカもみの木会 緑井整形外科
そだ　 　よしのり
曽田 是則 先生
専門：膝関節

曽田先生の一面

1.最近気になることは何ですか？
　大手芸能事務所の事件です。長いものに巻かれて自分の意志を発信できない、小さい声は潰されてしまうという日本社会の縮図だと思います。芸能界がよい方向に変わることを期待します。

2.休日には何をして過ごしますか？
　本来ならテニスをしているところですが、この病院に着任して以来は学会以外に病院に来ない日は一日もありません。スタッフががんばってくれているのでまったく苦になりません（笑）し、たくさんの若い医師の訪問もありますから。

医療法人サカもみの木会 緑井整形外科
よこやま のりかず
横山 徳一 先生
専門：股関節

横山先生の一面

1.最近気になることは何ですか？
　AI（人工知能）の台頭含め情報過多の時代になり、年代問わず正しい情報を見極める力を持たないといけない時代になったと感じます。私たち医師は、あくまで患者さんのことを想う気持ちを忘れずにいなくてはいけません。あとは、この病院を専門医同士が相談しあえる場所にし、よりよい治療を地域に還元していきたいと思っています。

2.休日には何をして過ごしますか？
　移動時間は読書や動画鑑賞で息抜きをしていますが、曽田先生と同じく、よりよい病院にするため、自分が得たものを後輩に伝えるために病院で過ごすことが多いです。手術は武道と一緒で、どんな「敵＝症例」に出くわしても動じないように準備するのが医師の努めだと思っています。

膝関節について

Q. まず膝関節の構造について教えてください。

A. 曽田先生：膝関節は大腿骨（だいたいこつ）、脛骨（けいこつ）、膝蓋骨（しつがいこつ）から成り、大腿骨と脛骨の間にはぶつかり合わないように半月板という三日月の形をした組織があり、周囲の靭帯が曲げ伸ばしなどの動きを制御しています。

Q. 膝関節の代表的な疾患について教えてください。

A. 曽田先生：若い方はスポーツなどの衝撃で靭帯が切れたり伸びたりしてしまう靭帯損傷が多く、前十字靭帯を損傷すれば手術になることもあります。
年齢が上がるにつれ、軟骨が削れ、骨同士がぶつかりあうようになって痛みを感じるようになる変形性膝関節症（へんけいせいひざかんせつしょう）が増えていきます。女性に多く、O脚の方は膝の内側に負担が偏ることで起こりやすいとされています。

Q. その治療法について教えてください。

A. 曽田先生：まずは運動療法や生活指導、飲み薬や注射などの薬物療法を併せた保存療法から始めます。可能であれば、重たいものはできるだけ持たないようにし、畳の生活や和式トイレは洋式にするなど、膝に負担がかかる生活様式は見直していただきます。ほかには関節内にヒアルロン酸を投与して痛みと炎症を緩和させる治療法もあります。保存療法で効果がみられないようであれば、手術について説明させていただきます。

Q. どのような手術になりますか？

A. 曽田先生：活動性の高い若い方であれば、骨を切って角度を変え、荷重を調整する骨切り術（こつきりじゅつ）という方法が適応になります。自分の関節を温存できるのがメリットです。高齢の方や骨の脆い方は、傷んだ箇所を人工物に置き換える人工膝関節置換術（じんこうひざかんせつちかんじゅつ）になります。

Q. 人工膝関節置換術にも種類があるのでしょうか？

A. 曽田先生：膝関節全体を換える人工膝関節全置換術（じんこうひざかんせつぜんちかんじゅつ：TKA）と傷んでいる箇所だけを換える人工膝関節単顆置換術（じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ：UKA）があります。高齢の方の手術の負担を減らすためにUKAにすることはありますが、痛みを長年抱えた末に受診している方が多く、将来的に再手術になることを見据えてTKAになることが多いです。

股関節について

Q. 股関節も膝関節と同様に歩くために大切な関節だと思いますが、股関節の構造についても教えてください。

A. 横山先生：股関節は脚の付け根にある人体で最も大きな関節です。大腿骨の先端にある大腿骨頭（だいたいこっとう）が寛骨臼（かんこつきゅう）という受け皿にはまり込み、周囲の靭帯や筋肉がサポートすることで自在に動く構造になっています。

Q. 股関節の疾患にはどのようなものがありますか？

A. 横山先生：最も多いのは、関節の表面を覆う軟骨がすり減って痛みを引き起こす変形性股関節症（へんけいせいこかんせつしょう）です。生まれつき寛骨臼のかぶりが浅い寛骨臼形成不全（かんこつきゅうけいせいふぜん）ですり減りやすくなっている場合と、加齢とともに発症する場合とがあります。
高齢になって腰が曲がることで背骨のバランスが崩れ、体重がかかる場所が変わって骨が潰れたり軟骨が削れてきたりすることもあります。女性に多いのですが、姿勢が変わると骨盤の傾きも変わり、弱いところに力が加わることで関節の変形が進んでしまうのです。

Q. 変形性股関節症の患者さんはどのような痛みを覚えて来院されるのでしょうか？　診断方法についても教えてください。

A. 横山先生：股関節周辺だけでなく、お尻や膝の痛みを訴える方も多いです。変形性股関節症は変形性膝関節症や坐骨神経痛と間違えられることも多いため、当院ではレントゲンやMRIで痛みが強い場所を入念に診断しています。

Q. 股関節も膝関節も傷んでいる患者さんは多いのでしょうか？

A. 曽田先生：はい。膝関節の痛みで来院された方に股関節や脊椎の疾患がみつかることがあり、その際は疾患の原因となっている関節の治療を優先します。高齢の場合はとくに、一つの関節だけではなく、運動器全体を診ることが大切です。

Q. よくわかりました。股関節の治療法についても教えてください。

A. 横山先生：転倒して骨折した場合と、短期間のうちに軟骨がすり減って関節の変形が進む急速破壊型股関節症（きゅうそくはかいがたこかんせつしょう）の場合、早急に手術が必要ですが、それ以外は保存治療から始めます。いまは痛み止めも進歩し、運動に熱心な患者さんも増えているので症状が改善することも多いです。
保存療法を続けて安静時に痛む、痛みで眠れないなど、痛みでやりたいことができないのであれば、生活の質を向上させるためにも、傷んだ箇所を人工股関節にする人工股関節置換術（じんこうこかんせつちかんじゅつ）を検討すべきでしょう。

人工関節の手術について

Q. 手術は怖いと考える方も多いと思いますが、手術のプロセスはどのようなものになりますか？

A. 曽田先生：レントゲンで関節の変形の程度と、手術で痛みが治まって機能が回復するメリット、感染症のリスクを説明したうえで、最終的には患者さんご自身に判断していただきます。迷われている場合に無理に勧めることはありませんので、何年も手術を悩む方もいらっしゃいます。ただ、筋力低下が進んでいる場合、活動性が落ちると寝たきりになる恐れがあるので早めに手術することを勧めています。

Q. 人工関節自体や手術の方法で進歩したところがあれば教えてください。

A. 曽田先生：まず、インプラント自体が日本人の体型に合わせたサイズやデザインのものが開発されて種類が増え、より患者さんに適したものを選べるようになっています。さらに、インプラントの間に使われるプラスチック素材が改良されて摩耗しにくくなり、耐用年数が向上しました。手術後20年以上経っても再手術が必要になるケースはほとんどありません。
手術法も、いまはより小さな皮膚切開で筋肉を切らない術式が普及して身体の負担が減り、術後の制限もほとんどなくなりました。ただ、どんな症例でも小さい傷で手術すればよいわけではなく、当院では手術前に患者さんの膝を正確に評価し、手術を通じて元の形に復元することを重視しています。

Q. 手術で考えられる合併症と対策についても教えてください。

A. 曽田先生：手術時のばい菌感染を避けるために手術はクリーンルームを使用し、術者は抗菌を徹底して手術時間をできるだけ短くするようにしています。

Q. 実際に手術をされた方からはどのような声が届いていますか？

A. 曽田先生：何年も迷われていた方も、片側を手術すると「もっと早く手術すればよかった」と反対側の手術にすぐ踏み切る方が多いです。
横山先生：「バイクでツーリングできた」「海外旅行に行けるようになった」などと皆さんうれしそうに報告してくれています。

Q. 手術を受けられる方はどれくらいの年代の方が多いのでしょうか？

A. 曽田先生：50～80代の幅広い年代層で、近年は80歳以上の方も増えています。
横山先生：若い頃から痛みを抱え、子育てが終わってようやく自分の人生を楽しもうという60歳前後の方、まだまだ旅行やスポーツなどを楽しみたい75歳前後の二つの波があるようです。今後90代以降に手術するケースも増えていくのではないでしょうか。

Q. 手術は健康寿命を延ばす治療と言えそうですね？

横山先生：はい。単に疾患を治すだけでなく、健康寿命を延ばしていきいきと過ごすための手術だと思います。

Q. 関節の痛みに悩んでいる方にメッセージをお願いします。

A. 曽田先生：手術を躊躇していらっしゃる方は多いですが、医療とご本人の努力次第で痛みが治まり、関節の機能を回復させることは可能ですので、ぜひ手術も前向きに捉えていただければと思います。

リモート取材日：2023.11.1

＊本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。