先生があなたに伝えたいこと / 【筑紫 聡】骨軟部腫瘍は早期発見が難しい希少がんですが、抗がん剤や手術手技の進歩で治療成績は向上しています。しこりや原因不明の骨折など、兆候を見逃さずに、不安に思うことがあれば、早めに専門病院を受診するようにしてください。

先生があなたに伝えたいこと

【筑紫 聡】骨軟部腫瘍は早期発見が難しい希少がんですが、抗がん剤や手術手技の進歩で治療成績は向上しています。しこりや原因不明の骨折など、兆候を見逃さずに、不安に思うことがあれば、早めに専門病院を受診するようにしてください。

愛知県がんセンター病院 筑紫 聡 先生

愛知県がんセンター病院
つくし さとし
筑紫 聡 先生
専門:腫瘍・股関節膝関節

筑紫先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 以前は月2回ほど近所の中学校の体育館で整形外科の看護師やリハビリスタッフみんなでバレーボールをしていたのですが、コロナでできなくなってしまい、運動不足が気になります。コロナが終息したら再開したいと思っています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 コロナ前は学会活動や旅行に出かけていましたが、コロナで外出することが減り、最近では芝生を植えるなど庭の手入れを楽しんでいます。手をかけたぶんきれいになるのでやりがいがあります。それ以外は家族と一緒に過ごすことが多いです。

先生からのメッセージ

骨軟部腫瘍は早期発見が難しい希少がんですが、抗がん剤や手術手技の進歩で治療成績は向上しています。しこりや原因不明の骨折など、兆候を見逃さずに、不安に思うことがあれば、早めに専門病院を受診するようにしてください。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

愛知県がんセンター病院 筑紫 聡 先生Q. 筑紫先生は骨軟部腫瘍(こつなんぶしゅよう)という疾患のご専門ですが、これはどのような疾患ですか?

A. 骨軟部腫瘍とは、骨にできる骨腫瘍(こつしゅよう)と筋肉や脂肪、組織、神経などの軟部組織にできる軟部腫瘍(なんぶしゅよう)の総称で、内臓にできるがんと比べて発生頻度が極めて低く、希少がんとされています。腫瘍には良性と悪性のものがあり、骨や軟部にできた悪性腫瘍は肉腫(にくしゅ)と呼ばれ、膝、股関節、上腕骨にできやすいのが特徴で、15~39歳の思春期・若年成人世代(AYA世代という)に多く見られます。
内臓にできたがんが骨に転移した場合も骨軟部腫瘍に含まれ、こちらは50~70代に多く、骨軟部腫瘍の患者さんの数としては骨転移の方が圧倒的に多いです。骨転移しやすいがんに乳がん、前立腺がん、肺がんがあり、がんの骨転移は股関節周辺に起こることが多いです。

※ AYA(アヤ)世代。Adolescent & Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字。

Q. 骨軟部腫瘍になる原因はありますか? 具体的には、どのような症状があらわれるのでしょうか?

A. 患者さんからもよく聞かれるのですが、がんになりやすい体質の方は確かにいらっしゃいますが、とくに原因はありません。症状は腫瘍のできる場所で異なり、骨腫瘍の場合、体重をかけたときに股関節や膝に痛みを感じ、足をひきずって歩く跛行(はこう)という症状があらわれます。軟部腫瘍の場合、痛みを感じることは少なく、"しこり"に気付いて受診される方が多いです。
骨腫瘍はレントゲンでわかりにくく、軟部腫瘍はしこりがあっても痛みを感じないため、放置されることが多く、早期発見しにくい問題があります。適切な診断がなされないまま、いくつもの医療機関や診療科を経て当院を受診される方が少なからずいらっしゃいます。

骨軟部腫瘍の発生しやすい部位

Q. それだけ珍しい疾患なのですね?

A. はい。そもそも専門医が少なく、大きな病院にかかってもまさか腫瘍と疑われずに診断が遅れるケースも多いです。愛知県内にはがん診療を専門に扱う拠点病院が20以上ありますが、整形外科で骨軟部腫瘍を専門に診ている医師がいる医療機関は6~7程度で、かなり大きな病院に行っても適切な診療を受けることは難しいのが実状です。こうした希少がんの治療は、症例を専門施設に集約化して治療することが望ましいことから、当院は平成28年に東海地区で初めて「サルコーマ(肉腫)センター」を開設し、複数の診療科と連携しながら、肉腫の患者さん全般の治療にあたっています。いまでは静岡、三重、岐阜からも患者さんがいらっしゃっています。

Q. 診断が遅れれば生命にもかかわると思いますが、早期発見につなげるために、医療機関を受診すべき目安があれば教えてください。

愛知県がんセンター病院 筑紫 聡 先生A. まず、しこりを放っておくと予後が悪くなることがはっきりしていますから、しこりが大きくなっていると感じられた場合、とくにゴルフボールやピンポン玉よりも大きなしこりが感じられた場合には、専門医のいる医療機関をすみやかに受診していただきたいと思います。肉腫の中でも、小児期や思春期に起こることが多い骨肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)は進行が早く、1~2ヵ月診断が遅れても病態が変わってしまう恐れがあります。子どもが理由もなく骨折するといった場合にも悪性腫瘍を疑うべきです。

Q. 骨軟部腫瘍の治療法について教えてください。

A. すべての肉腫は、原則手術で腫瘍を取ることが大切です。骨肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫の場合は、抗がん剤治療との併用も必須となります。腫瘍の切除は広範囲に及ぶことが多いため、骨や筋肉の欠損部分を人工関節に置き換える再建手術も必要です。筋肉を移植する手術になりますから、手術時間は長時間に及びます。

Q. 早期発見であれば薬物治療や放射線治療で済むこともありますか?

A. いいえ、原発性骨軟部肉腫(もしくは転移以外の骨軟部腫瘍)は切除した方がよく治ることがわかっていますので、原則すべての症例で手術が望ましいです。

Q. 腫瘍用の人工関節と通常の人工関節との違いは何ですか?

A. 関節の表面だけを削って人工物に置き換える通常の人工関節に比べて、腫瘍用人工関節は、広範囲に切除した悪い腫瘍部分を補わなければならないことが一般的であるために、より大きなものになります。けれども、対象となる患者さんの数に対して、この手術を行える医療機関が限られていることから、他の医療機関と連携し、対象患者さんを円滑に紹介してもらうシステムの構築が大切と考えています。

腫瘍用人工膝関節の例 一般的な人工膝関節の例

Q. よくわかりました。手術で進歩しているところはありますか?

A. 様々な形状の人工関節がデザインされ、一人ひとりの患者さんにより適したものが選べるようになったことに加え、手術手技が確立されて筋肉を温存する術式が普及し、術後の回復も早くなっています。薬物療法が進歩して、腫瘍が再発しにくくなったことも大きいです。

愛知県がんセンター病院 筑紫 聡 先生Q. 抗がん剤も進歩していますか?

A. 悪性軟部腫瘍(もしくは軟部肉腫)の抗がん剤は、海外の医療機関との共同研究が進み、2012年頃から保険適用となる薬が増えました。ほかのがんに比べれば十分とは言えませんが、それでも、患者さんによって使い分けることで治療成績が向上しています。

Q. 骨軟部腫瘍の治療は進歩しているのですね。今後も進歩していくと思いますが、先生はどのような未来を思い描かれていますか?

A. 専門の医療施設で治療の集約化が進み、より多くの症例を経験することで、今後も治療研究が進んでいくことは間違いないでしょう。
当院のサルコーマセンターが開設した際にはメディアにも大きく取り上げられ、直接来院される患者さんが増えましたが、他方で、いまでも骨軟部腫瘍を専門に診る医師や施設はあまりに少なく、正しい情報を得られずに困っている患者さんがたくさんいらっしゃいます。こうした方々が専門病院を受診できるようにすることが我々腫瘍整形外科医の使命です。
国内外の医療機関と情報交換を活発に行いつつ、全国の専門施設との臨床研究を強化し、新たな治療法の開発に向けて全力で取り組んでいきたいと思っています。

愛知県がんセンター病院 筑紫 聡 先生Q. 先生が医師を志されたきっかけについて教えてください。

A. 祖父が近隣の方から愛される町医者で、祖父に憧れて地域医療に貢献する医師になろうと思ったのが最初のきっかけです。医学部の臨床実習で10代の骨肉腫の患者さんを受け持ち、「なんとかして救いたい」という想いが強くなり、腫瘍整形外科医になろうと決意しました。

Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。

筑紫 聡 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2021.10.22

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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