先生があなたに伝えたいこと / 【毛利 貫人】変形性股関節症になると、軟骨がすり減り、歩行や日常生活動作に支障が出ます。生活指導や運動療法、薬物療法のほか、手術によって痛みを取り除き、痛みを感じる前の生活へ戻ることが期待できます。手術は、小さな傷口で筋肉や靭帯への負担を減らす低侵襲手術を採り入れています。

先生があなたに伝えたいこと

【毛利 貫人】変形性股関節症になると、軟骨がすり減り、歩行や日常生活動作に支障が出ます。生活指導や運動療法、薬物療法のほか、手術によって痛みを取り除き、痛みを感じる前の生活へ戻ることが期待できます。手術は、小さな傷口で筋肉や靭帯への負担を減らす低侵襲手術を採り入れています。

東京都立 多摩総合医療センター 毛利 貫人 先生

東京都立 多摩総合医療センター
もうり  かんと
毛利 貫人 先生
専門:股関節

毛利先生の一面

1.先生が医師を志された理由を教えてください。
 小・中学生時代に骨折が多く、お世話になった先生たちの姿に惹かれて整形外科医を目指しました。股関節は、最初に研修で訪れた病院で学んで以来、専門分野として研究を続けています。

2.「休日の過ごしかた」について教えてください。
 休日は家の近くでランニングをしています。30分から1時間走れば、気分転換になります。自分自身が心身ともに健康でないと患者さんを元気にすることはできないので、食事や運動など体調管理には気をつけています。

先生からのメッセージ

変形性股関節症になると、軟骨がすり減り、歩行や日常生活動作に支障が出ます。生活指導や運動療法、薬物療法のほか、手術によって痛みを取り除き、痛みを感じる前の生活へ戻ることが期待できます。手術は、小さな傷口で筋肉や靭帯への負担を減らす低侵襲手術を採り入れています。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

股関節の仕組みと疾患

Q. 股関節の仕組みや働きを教えてください。

A. 股関節は、大腿骨と骨盤で構成される球関節です。人体の中で最も大きな関節と言われ、大腿骨の先端にある大腿骨頭が、骨盤側のくぼみ部分である寛骨臼(臼蓋)に入り込んでいます。二つの骨の接合部は軟骨に覆われ、関節を滑らかに動かしたり、衝撃を和らげたりするクッションの役割を果たしています。普段、私たちが脚を曲げ伸ばしできるのは、股関節の周囲にある多くの筋肉や腱が安定性を保っているおかげです。股関節は運動器の中でも、歩行や日常生活動作を支える重要な役割を担っています。

股関節の構造

東京都立 多摩総合医療センター 毛利 貫人 先生Q. 股関節の疾患でお悩みの方には、どのような疾患が多いのでしょうか。

A. 最も多いのは、軟骨のすり減りによって起こる変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。軟骨がすり減ると、骨同士が摩擦を起こして変形し、股関節周囲に痛みが生じます。痛みを避けるために動きを制限してしまうと、周辺の筋肉が硬直し、関節の可動域がさらに狭くなることで歩行や日常生活動作にも支障が出ます。
ほかには、ステロイド投与歴のある方やアルコール多飲歴のある方に多く起こりやすい大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)や、出生前や出産後の発育の過程で股関節が脱臼を起こす発育性股関節脱臼(はついくせいこかんせつだっきゅう)などの疾患があります。

変形性股関節症

Q. 変形性股関節症の原因と、性別や年齢別の傾向を教えてください。

A. 原因の多くは、寛骨臼の形態異常によって生じる寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)です。先天的に大腿骨頭の受け皿となる寛骨臼の被りが浅いと、大腿骨頭を十分に覆えず、狭い面積に荷重が集中して発症します。遺伝的な問題で女性に多く、程度によっては 40、50 代から痛みが発症します。進行した変形性股関節症は、60、70代以上の方に多く見られます。

正常 寛骨臼形成不全

Q. 変形性股関節症の治療法にはどんなものがあるのでしょうか。

水中ウォーキングA. 治療方法は、大きく分けて保存療法と手術療法の2つがあります。関節症の進行が軽度から中度の場合には、生活指導や運動療法、薬物療法などの保存療法が一般的です。
まずは、股関節の負担を軽減するために、階段の昇降や重いものを持つことを控える、減量するなど、日常生活動作を指導します。生活環境を整え、体重のコントロールをしながら、杖を使用するなどして、股関節にかかる負担を抑える工夫が必要です。
運動療法では、主に外転筋(太ももの外側の筋肉の総称) など股関節周囲の筋力を強化します。筋肉を鍛えることで、関節にかかる負担や衝撃を和らげ、痛みが軽減し、関節症の進行を抑えることが期待できます。特に水中ウォーキングは、股関節に負担をかけずに筋力アップと関節のバランスを整えられるのでおすすめです。痛みの程度によっては、消炎鎮痛剤などの薬を処方することもあります。

Q. 手術となった場合には、どんな方法がありますか。

A. 自分の関節を温存する骨切り術(こつきりじゅつ)と、股関節を人工股関節に置き換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)に分かれます。骨切り術は、基本的に若年で関節症が軽度の方が対象です。また、将来、変形性股関節症になる可能性が高い方には、骨盤もしくは大腿骨を骨切りし、向きを変えて骨頭の被りを良くする寛骨臼回転骨切り術(かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ)を施します。

寛骨臼回転骨切り術

人工股関節置換術は、早期に痛みが取れる、関節機能回復に優れた治療法です。一般的に中年以降で進行した変形性股関節症の方に適応します。手術には、骨盤側と大腿骨側の両方をインプラントに取り換える全人工股関節置換術(ぜんじんこうこかんせつちかんじゅつ)と、大腿骨部分だけを人工股関節に置き換える人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)があります。変形性股関節症や大腿骨頭壊死症には全人工股関節置換術を、高齢者に多い大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)には人工骨頭置換術を適用します。

全人工股関節置換術

全人工股関節置換術

人工骨頭置換術

人工骨頭置換術

東京都立 多摩総合医療センター 毛利 貫人 先生Q. 人工股関節にもいろいろな種類があるのでしょうか。

A. 「骨セメント」という固定材を使って骨とインプラントを固定する「セメントタイプ」と、特殊な表面加工を施したインプラントを骨に直接埋め込んで固定する「セメントレスタイプ」があり、当院ではほぼ全ての症例で「セメントレスタイプ」を使用しています。理由は「セメントレスタイプ」のほうが手術時間が短く、さらにインプラントの表面加工が進歩して「セメントタイプ」と同等以上の成績が得られているからです。

Q. 人工股関節そのものは以前に比べて進歩しているのでしょうか。

A. 人工股関節は、「ソケット」「骨頭ボール」「ステム」という3つのパーツから構成され、ソケットの内側には、軟骨の機能を代替するポリエチレン製のライナーが組み込まれています。それぞれのパーツで素材や表面加工が進歩していますが、なかでも、ライナーのポリエチレン素材が進歩したことで、人工股関節の耐用年数が飛躍的に向上しました。ひと昔前までは、人工股関節を長年使い続けることによってライナーが摩耗し、ポリエチレンの摩耗粉が関節周辺に拡散していました。そうすると人体が異物と認識して、周囲の正常な骨の細胞も溶かしてしまう骨溶解(こつようかい)が起こり、結果として人工股関節をゆるめてしまっていたのです。
当院で使用している人工股関節には、「Aquala」(アクアラ)という技術が応用されています。この技術は、人工股関節のボールとソケットが擦れ合う部分に使われるポリエチレンライナーの表面に、細胞膜と同じ分子構造をした「MPC ポリマー」という物質を表面加工する技術です。この加工をすることで、人工股関節の動きが滑らかになり、結果としてポリエチレンの摩耗が低滅します。これにより10〜15年で⼊れ換えが必要になると⾔われていた⼈⼯股関節も、その耐用年数は延び、⻑期化を期待できるようになりました。⼤腿⾻の形状や太さ、⾻質などは、個⼈によってさまざまです。症例や⼿術⽅法に合わせた種々のステムが開発されています。

Q. 人工股関節手術(手技)も以前に比べて進歩しているのでしょうか。

A. 筋肉や靭帯を傷つけず、傷口や痛みが小さい低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)が主流となり、身体への負担の軽減はもちろん、回復も早くなりました。手術前にはCTを撮影して、3次元画像でコンピューターによるシミュレーションを実施し、患者さんに適したインプラントを選び、正しい角度で確実に設置できるように綿密に術前計画を立てます。さらには、この術前計画を忠実に実行するために、術中のナビゲーションシステムも併用することもあります。
以前は人工股関節の寿命を考慮して、できるだけ高齢になってから手術をすることが一般的でしたが、近年、人工股関節の技術革新が進み、耐用年数が延びたことによって、比較的若年でも人工股関節の手術を受ける人は増えてきました。必要に応じて早期に手術をすることで生活の質を向上させ、毎日を楽しく過ごしていただくことを優先すべきではないかと、考え方にも変化が出てきています。

Q. 低侵襲手術とは、具体的にはどのような手術でしょうか。

A. できるだけ股関節周りの筋肉や組織を温存して、傷口や痛みを軽減しながら人工関節手術をする「MIS」(エム・アイ・エス)という手術法で、痛みや脱臼のリスクが少なく、術後の回復が早いというメリットがあります。当院では、現在ほとんどの手術がこの「MIS」であり、太ももの前方から切開する「前方アプローチ」で実施しています。手術時間は早ければ30分ほどで、傷口は8cm程度です。3時間後には車椅子に乗れるほど回復の早い方もいらっしゃいます。

前方からのアプローチ法 大腿骨骨頭部分 寛骨臼

合併症についてなど

東京都立 多摩総合医療センター 毛利 貫人 先生Q. 手術の合併症について教えてください。また、合併症を防ぐためにどのような対策をとられているのでしょうか。

A. 「感染症」「深部静脈血栓症」「脱臼」が三大合併症に挙げられます。感染症対策としては、皮膚のコンディションを可能な限り整えて手術に臨み、「クリーンルーム」と呼ばれる特殊な手術室を使用します。術中は、股関節専門の手術スタッフ、看護師、麻酔科医のチームプレーで手術をスムーズに進め、手術時間を短くすることでも感染症を防いでいます。
また、術後長時間、体を動かさないでいると深部静脈血栓症のリスクが高まります。そのため、早期離床 (当院では、可能な方は当日に車椅子に移乗)を目指し、いち早く元の生活に戻っていただくことが一番の対策になります。
脱臼を防ぐには、手術に前方アプローチを用いていること、最適なインプラントを選び、正確な位置に設置することに尽きます。私の手術では、術後の動きには特に制限を設けません。このほか、長期的にみれば、人工関節のゆるみ、摩耗も合併症です。退院後も、年に一度はかかりつけ医を受診しメンテナンスを受けていただきたいです。

※Aquala(アクアラ)は京セラ株式会社の登録商標です。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

毛利 貫人 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2020.12.18

*本ページは個人の意見であり、必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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