先生があなたに伝えたいこと
【久保田 健治】ハッピーな老後のために、少しの奮起を! それぞれの患者さんに応じて、さまざまな治療法があります。
大牟田天領病院
くぼた けんじ
久保田 健治 先生
専門:膝関節外科
久保田先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
福岡ソフトバンクホークスの成績。それと、家で飼っている猫たちの健康と、猫にいかに気に入られるか(笑)。6匹もいるんですよ。
2.休日には何をして過ごしますか?
野球を観るのも好きですけど、プレーもしています。病院の野球チームの監督兼プレーヤーです。冬はスキーを楽しんでします。
Q. 今回は変形性膝関節症とその治療法をテーマにお伺いします。最初に、膝関節の構造やそれぞれの部位の働きについて教えてください。
A. 関節というのは骨と骨の接合部分で、骨の表面には軟骨が付着し、軟骨同士が触れ合って動く構造になっています。膝関節は、大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)、膝蓋骨(しつがいこつ)からなり、脛骨の平らになっているお皿の上に、大腿骨の丸いタイヤのような部分が2個乗って動いています。大腿骨側の上にも、やはりタイヤのようなものである膝蓋骨が1個乗っています。膝関節は、このように3つの区画から成っている関節なんです。平らなところに丸いものが乗っているので、接する部分には三角形に隙間ができますね。この隙間を埋めて膝関節を安定させたり、体重を支えるクッションの役目をしたりするのが半月板(はんげつばん)です。関節の前後と左右を安定させているのは、前・後の十字靭帯(十字靱帯)、内・外の側副靭帯(そくふくじんたい)です。そして膝関節は非常に大きな筋肉によって動いています。ひとつは、人体の中で一番大きな大腿四頭筋(だいたいしとうきん)で、これは膝を伸ばすための筋肉です。太ももの裏にはハムストリングと呼ばれる筋肉があり、これは膝関節の屈曲を司る筋肉です。
Q. よくできているものですね。では、変形性膝関節症はどこがどのように悪くなる病気なのでしょうか?
A. 年齢とともに軟骨が摩耗してきて、少しずつ関節に炎症や痛み、やがて変形などが生じる病気です。
Q. なぜ軟骨が摩耗してしまうのですか?
A. 一言でいうと、膝の構造の耐用限度を超える負荷がかかるからです。たとえば、長期間負荷、つまり、いわゆる加齢によって負荷が蓄積されて、ついには耐用限度を超えてしまうことです。また、日本人で多いのはO脚のために体重が均等にかからず、内側ばかりにかかって、その内側の軟骨だけが片減りしてしまうケースもあります。ほかにも、肥満や、もともと関節が構造的に弱いという方もいらっしゃいます。これらのようにはっきりと断定できるような原因がなく発症するケースを一次性とか特発性といいます。対して、二次性としては外傷などが原因となります。
Q. では治療法についてですが、いくつか選択肢はあるのでしょうか?
A. 状態に応じていろいろな方法があります。大別すると保存的治療と観血的治療(手術)です。手術にもまたいろいろな方法がありますので、病状によって一番適切なものを見つけ出すわけですが、基本的にはまずは保存的治療をやっていきます。それが有効でない場合は手術を考慮します。
Q. 保存的治療とは具体的にどういうことをするのですか?
A. 膝関節の屈伸には大きな筋肉が重要な役割を担っているので、筋肉が不調にならないよう筋力トレーニングを行います。それと併行して、ヒアルロン酸の関節内注射を行うこともあります。ヒアルロン酸は軟骨の成分のひとつで、摩耗によって軟骨が荒れた状態なってしまっているのを、いくらか修復して滑りを良くして、炎症を抑える効果が期待されます。また、痛みに応じて痛み止めも処方します。場合によっては装具療法も有効です。O脚の人なら足底板(そくていばん)という、靴の底に外側がちょっと高くなったインソールを入れて矯正します。安定性が悪ければサポーターを装着し、歩くときに杖を持つというようなことが装具療法としてあげられます。
Q. 保存療法が有効な場合、手術をしなくて良い場合もあるのですか?
A. もちろん、十分にあります。消炎鎮痛剤を使わなくても、痛みが改善された状態が続けば、手術を回避できるでしょう。消炎鎮痛剤は副作用のリスクがあり、いたずらに長く使うには抵抗があります。消炎鎮痛剤を長期間使っていても症状の改善が見られない場合は、見切りをつける、すなわち手術を検討することが必要になります。
Q. 先ほど手術にもいろいろあるとおっしゃいましたが、このことについて教えてください。
A. 変形性膝関節症では、軟骨と一緒に半月板も傷んでいるんです。おもに半月板が原因で痛みを伴って関節の動きが悪くなっている場合は、関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)があります。関節鏡を使って半月板を切除したり修復したりします。
そのほかには、関節を人工物に置き換えない手術と、人工物に置き換える手術に大別されます。O脚のために片減りしているような場合は、人工膝関節にしないで、構造的な異常を正常に近い形に矯正する、高位脛骨骨切り術も選択肢です。脛骨を関節に近いところで切って向きを変え、荷重を分散させて痛みの改善を図る手術です。それと、全人工膝関節置換術(TKA)と単顆人工膝関節置換術(UKA)が主な手術の種類です。
Q. 人工膝関節手術にも種類があるのですね。
A. そうです。冒頭に膝関節には3つの区画があると説明しましたが、UKAは、この3つが全部壊れているのではなくて、内側だけ、外側だけという場合、その壊れている部分のみ人工物に変える手術です。軟骨の摩耗が関節全体に及んで痛みや変形が高度になるとTKAが適応です。
Q. 片減りの場合ですが、高位脛骨骨切り術とUKAとでは、適応が異なるのでしょうか?
A. O脚やX脚などの構造的な異常があれば、高位脛骨骨切り術が選択肢になりますが、異常がなくても、片減りしてしまう方もいらっしゃいます。その場合は、矯正のしようがないのでUKAとなります。また、高齢で活動量がそれほど高くない方にもUKAが適しています。骨切り術は自分の関節が残って、ほぼ本来の膝と同じように動けるので、適応としては、比較的若い方や活動性の高い方となります。人工膝関節は耐用年数に配慮しなければならないので、若い方には骨切り術をまずは検討します。
Q. では、なぜ高齢者にはUKAが適しているのですか?
A. 骨切り術は、手術後に骨がしっかりと付くまで、つまり、社会復帰までに時間がかかります。高齢者は、動かない状態が長く続くのは避けたほうが良いのです。UKAは、切開の小さい最小侵襲術(MIS:エムアイエス)で手術が行えるというのも、高齢の方にはメリットです。筋肉を切らないので術後の回復が早く、出血量や筋肉の拘縮(こうしゅく)も少なくて済みます。
Q. わかりました。人工膝関節の寿命はどれくらいなのでしょうか?
A. TKAの場合、20年は大丈夫だろうと思います。UKAは、登場したのが最近なので具体的な長期成績はまだ出ていませんが、TKAに匹敵するのではないかと思います。
Q. 人工膝関節そのものや、人工膝関節の手術はとても進歩していると聞いています。
A. そうですね。摩耗の少ないポリエチレンが使われるようになり、形状や大きさも多様化して、患者さんに応じて使い分けができるようになりました。また、基礎研究が進んで、生体の関節により近い形状や構造を備えた人工膝関節が出てきました。手術をするための機器も進歩しています。たとえば、骨を削るにも骨切りガイドを当てはめてそれに従って削っていくわけですが、その骨切りガイドがかなり正確な位置に設置できるようになりました。精度の高いMISが可能になったのも、手術機器の進歩によるところが大きいですね。これらの技術はまさに日進月歩だと思います。
Q. 人工膝関節の寿命は、さらに延びるかもしれませんね。ところで、人工膝関節手術では入院期間はどれくらいなのですか?
A. リハビリの目標は、問題なく日常生活を送っていただける状態での退院ですので、平均して1ヵ月くらいです。地方の病院で通院も容易ではありませんから、自信を持って退院したいというニーズに応えることが、とても大事だと思っています。
Q. ありがとうございました。最後に、手術を考えておられる患者さんにメッセージをお願いします。
A. 「歳だから痛くてもしかたない」、「だから手術はしなくても良い」と思われる方もいると思います。ですが、退院される患者さんは、「もっと早くやれば良かった」とおっしゃる方がほとんどです。歳だからとあきらめ、これからの人生、膝が痛いために生活の質(QOL)を落とすのか、ここで奮起して楽しい生活を望むのか、この違いは本当に大きいと思うんです。
手術は年齢に関係なく可能です。ここでヨイショッと頑張れば、痛みがなく歩け、今よりもきっと、ずっとハッピーな老後を迎えることができますよ。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2016.3.18
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
ハッピーな老後のために、少しの奮起を!
それぞれの患者さんに応じて、さまざまな治療法があります。