先生があなたに伝えたいこと
【岡崎 洋之】腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症は治せる病気です。まず、ご自身がいまどのような状態にあって、今後どのように治療すべきかを理解していただくことが大切です。【尾又 弘晃】患者さんとはコミュニケーションをしっかり取って信頼関係をつくることを心がけています。患者さんから手術後の外来で「手術してよかった」「好きなスポーツができるようになった」という声を聞くのが楽しみです。
医療法人 三愛会 三愛会総合病院
おかざき ひろゆき
岡崎 洋之 先生
専門:脊椎
岡崎先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
コロナ禍にあって、患者さんの治療にどう向き合うかを考えています。
2.休日には何をして過ごしますか?
愛犬のミニチュアダックスフンドと戯れています(笑)。
医療法人 三愛会 三愛会総合病院
おまた ひろあき
尾又 弘晃 先生
専門:脊椎
尾又先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
見えないコロナウイルスとどう戦っていくのか、今後どう変わっていくかということをいつも考えています。
2.休日には何をして過ごしますか?
美味しいものを食べるために、スポーツジムで走ったり筋力トレーニングをしたりしています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
腰椎椎間板ヘルニア
Q. 本日は脊椎の疾患に多いという腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)についてお伺いしたいと思います。まず腰椎椎間板ヘルニアについて教えてください。腰椎椎間板ヘルニアとはどのような病気なのでしょうか?
岡崎先生:脊椎の疾患は多岐にわたりますが、なかでも特に多いのが腰椎椎間板ヘルニアです。背骨の間にあるクッションの役目をしている椎間板(ついかんばん)に強い力がかかったり、繰り返し圧力が加わると椎間板が傷つき、神経の方に突出、脱出することがあり、これを腰椎椎間板ヘルニアといいます。ヘルニアが神経を圧迫すると、腰痛のみならず、下肢の痛みやしびれ、脱力を生じるようになります。
Q. 腰椎椎間板ヘルニアになりやすい生活習慣はありますか?
岡崎先生:前かがみになると椎間板への圧力が増すといわれていて、長距離ドライバーの方や、前屈姿勢を長く続けるような機械作業や介護職に従事している方に発症しやすい傾向にありますが、事務職やデスクワークの方にも起こります。活動性の高い20~40代の方に多くみられます。
Q. 腰椎椎間板ヘルニアは激痛を伴うと聞いていますが、そうなる前に防ぐ方法はあるのでしょうか?
尾又先生:明らかな予防法は確立されていませんが、まず、なるべく前かがみにならないようにすることです。あぐらは避け、椅子に座るときには背もたれに深く座り、前かがみの姿勢になるときには一歩足を前に出すようにすることで椎間板への負担を抑えることができます。腹筋、背筋など体幹を鍛えることも大切です。
Q. 腰椎椎間板ヘルニアで手術になることはあるのでしょうか?
岡崎先生:診断はレントゲン、CT、MRIで行います。MRIのない施設で腰椎椎間板ヘルニアと診断されるケースもあるので、正確に統計を取ることは困難ですが、手術に至るのは腰椎椎間板ヘルニアと診断された方の10%前後とみられています。投薬治療、理学療法、装具療法を組み合わせた保存治療によって、ヘルニアのタイプにもよりますが、3ヵ月~半年程度で自然消失することもあります。
Q. 保存治療はどのようなものになりますか?
岡崎先生:発症初期の腰痛や下肢痛に対しては、鎮痛剤や筋肉弛緩剤などを処方し、症状によってベルトやコルセットなどの装具を使用し、痛みをコントロールしながらリハビリを行います。痛み止めの薬で効果がみられない場合には、硬膜外ブロックや神経根ブロックといった注射を行います。
Q. こちらの病院では、腰椎椎間板ヘルニアの最新治療も行っているそうですが、これについて教えてください。
尾又先生:神経ブロック療法でも効果がない場合に、椎間板内酵素注入療法という椎間板内に酵素を注入することでヘルニアの症状を和らげる治療法で、当院では昨年から導入しています。保険適用で、手術直後から足の痛みが取れる方もいれば、3ヵ月ぐらい経って徐々に症状が改善してくる方もいます。局所麻酔で行い、通常1泊入院で、手術に代わる治療法として注目されています。
Q. 腰椎椎間板ヘルニアの手術はしないほうがよいのでしょうか? また、実際の手術はどのようなものになりますか?
岡崎先生:腰椎椎間板ヘルニアが自然消失するには3ヵ月~半年はかかるので、薬を飲んでも痛みが増す、下肢の脱力が進行する、また仕事が忙しく早期に社会復帰を望まれる方は手術の適応と考えられます。足の麻痺や脱力感といった症状があらわれた場合は、神経のダメージが大きくなる前に、手術が必要かどうか早めに判断することが必要です。
手術は、腰の後方からアプローチして、椎弓(ついきゅう)という腰の骨の一部と靭帯を部分切除したのち、突出もしくは脱出したヘルニアを摘出します。正常な椎間板はなるべく温存します。痛みにもよりますが、手術の翌日から歩いていただいてかまいません。
腰部脊柱管狭窄症
Q. 続いて腰部脊柱管狭窄症についてお伺いします。腰部脊柱管狭窄症とはどのような病気なのでしょうか?
尾又先生:背骨の中には脊柱管(せきちゅうかん)という神経の通り道があり、黄色靭帯(おうしょくじんたい)の肥厚や椎体骨折(ついたいこっせつ)などが原因で脊柱管が狭くなった状態を脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)といいます。脊柱管が狭くなると、腰椎椎間板ヘルニアと同様に、神経を圧迫して下肢の痛みやしびれなど様々な症状を引き起こします。腰部脊柱管狭窄症に顕著な症状として、間欠性跛行(かんけつせいはこう)といって、休みながらでないと長い距離が歩けない症状があらわれます。MRIで診断可能です。
腰椎椎間板ヘルニアは、腰をかがめるのがつらく、症状が片側の下肢にでることが多いのに対し、腰部脊柱管狭窄症では、腰を反らすことがつらくなり、カートを押すような前かがみ歩行になり、症状は両下肢にでることが多いのが特徴です。腰部脊柱管狭窄症は加齢によって徐々に発症し、進行すると膀胱直腸障害(尿や便が出にくい状態)になることもあります。
Q. 腰部脊柱管狭窄症になりやすい生活習慣などはあるのでしょうか?
尾又先生:65歳以上の方に多い疾患で、最も大きな要因は加齢ですが、元々椎間板が弱い方や腰椎椎間板ヘルニアに罹患していた方、腰椎すべり症や腰椎変性側弯症の方もなりやすいといわれています。
Q. 先程お話を伺った腰椎椎間板ヘルニアのように、自然に症状が良くなることはありますか? また、どういった症状が出たら病院にかかるべきでしょうか?
尾又先生:残念ながら、腰部脊柱管狭窄症は、自然によくなることはあまり期待できません。ただ、MRIで診断が確定しても、発症初期であれば薬物療法の効果が期待できますので、両下肢痛やしびれ、間欠性跛行などの症状があらわれた場合には、一度整形外科を受診されることをお勧めします。
Q. 腰部脊柱管狭窄症の治療について教えてください。
岡崎先生:腰椎椎間板ヘルニアと同様に、初期治療としては、鎮痛剤や血管拡張剤を使った薬物療法、神経ブロック療法、理学療法や運動療法、装具療法を組み合わせた保存療法を行って様子をみます。保存療法でも症状が改善されない場合には手術が必要になります。
Q. 腰部脊柱管狭窄症の手術はどのようなものになるのでしょうか?
岡崎先生:腰部脊柱管狭窄症の手術は、『椎弓形成術(椎弓切除術)』と『固定術』に分けられます。下肢痛やしびれ、間欠性跛行が主な症状である場合、椎弓と肥厚している黄色靭帯を切除する『椎弓形成術』によって脊柱管を拡げることで神経の通り道を確保して症状の回復をはかります。
また患者さんのなかには、腰部脊柱管狭窄症だけでなく腰椎変性すべり症、 腰椎分離すべり症、腰椎椎間孔狭窄症、腰椎変性側弯症、 腰椎椎間板外側ヘルニアなどの病態も合併していることがあり、こうした場合には、椎弓形成術に加え、スクリューやケージなどの金属を使用する『固定術』も行います。近年は筋肉を温存するような手技が開発され、体に負担の少ない低侵襲(ていしんしゅう)手術が広く普及しています。
Q. 『固定術』でインプラントを使用すると、患者さんの金銭的な負担は増えますか?
岡崎先生:高額医療制度というものがあり、保険適用内で行えるので、患者さんの自己負担が増えることは通常ありません。
Q. 手術後に運動はできるようになりますか? 日常生活に支障が出ることはあるのでしょうか?
岡崎先生:手術の種類にかかわらず、術後1~2日以内に離床訓練や歩行訓練を開始します。術前の状態によって回復に個人差はありますが、下肢痛や間欠性跛行の改善は十分に期待できると思います。長範囲にわたって固定術を行った場合には、前かがみの動作が制限されることもありますが、通常の日常生活に制限はありません。
尾又先生:固定術を行った場合には、骨をしっかりくっつけるために、3ヵ月~6ヵ月程度コルセットを着用して、腰を前後に曲げたり、ひねったりという動作は控えてもらうよう指導しています。
Q. こうした手術はどこの病院でも可能ですか?
岡崎先生:腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症は治せる病気です。まず、ご自身がいまどのような状態で、今後どのように治療を進めていくべきかを理解していただくためにも、脊椎疾患を専門に扱っている医療機関の受診をお勧めします。手術はあくまで治療法の一つに過ぎず、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。症状の改善が期待できる反面、一部合併症が存在することも事実です。患者さんのこれまでの生活習慣や背景によって、治療法や術後の回復の程度、期間も様々です。
Q. 最後に、治療に際して先生方のモットーや座右の銘がありましたらお聞かせください。
岡崎先生:診療では「大胆かつ繊細に」をモットーにしています。発想や行動は大胆に。ただ、患者さんの年代や症状は一人ひとり異なりますから、その方に合った治療を安全に確実に行えるよう、いつも行っている手術でも、少しでも疑問に思うことがあれば、一度立ち止まってから繊細に手を進めることを心がけています。その方が、結果的に出血量も少なく、手術時間も短縮され、安全に手術を行えると考えるからです。ちなみに人生のモットーは"Where there is a will, there is a way. "(強い意志をもってすれば、道は開ける)です。
尾又先生:自分を頼って来院してくださる患者さんに「この先生に診てもらって良かった」と思っていただけるように、世間話も厭わず幅広くコミュニケーションを取って、患者さんとの信頼関係をつくることを心がけています。手術後の外来で「手術をしてよかった」「また好きなスポーツができるようになった」という声を聞くのが楽しみです。
リモート取材日:2021.4.8
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症は治せる病気です。まず、ご自身がいまどのような状態にあって、今後どのように治療すべきかを理解していただくことが大切です。(岡崎先生)
患者さんとはコミュニケーションをしっかり取って信頼関係をつくることを心がけています。患者さんから手術後の外来で「手術してよかった」「好きなスポーツができるようになった」という声を聞くのが楽しみです。(尾又先生)