先生があなたに伝えたいこと / 【田中 泰弘】早めに手術をすれば人工膝関節に替える部分も少なく、身体への負担が軽い手術で、早期の回復が望めます。

先生があなたに伝えたいこと

【田中 泰弘】早めに手術をすれば人工膝関節に替える部分も少なく、身体への負担が軽い手術で、早期の回復が望めます。

しずおか整形外科病院 田中 泰弘 先生

しずおか整形外科病院
たなか やすひろ
田中 泰弘 先生
専門:膝関節

田中先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 メジャーリーグで活躍中の大谷翔平選手が、ホームランキングになれるかどうかが気になります。いつまでホームランが打てるのか、楽しみに観戦しています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 もともと旅行が好きで、あちこち行っていたのですが、今はコロナ禍なので車で出かける程度です。コロナ禍が終息したら、いつかマチュピチュに行きたいです。

※ ペルーにあるインカ帝国の遺跡。一帯は世界遺産に登録されている。

先生からのメッセージ

早めに手術をすれば人工膝関節に替える部分も少なく、身体への負担が軽い手術で、早期の回復が望めます。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

膝関節の構造Q. 膝関節の構造を教えてください。

A. 膝関節は大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)から構成され、大腿骨を平らな脛骨が受け止める構造をしています。大腿骨と脛骨が接触する部分は軟骨で覆われており、その間には、内側と外側に半月板(はんげつばん)という衝撃を吸収するためのクッションが存在しています。また関節全体は関節包に包まれており、その内部は潤滑油の代わりをする関節液で満たされています。
膝関節は全部で4つの靱帯で支えられています。内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)、外側側副靱帯(がいそくそくふくじんたい)、さらに関節の中にあって、膝の前後の動きと回旋の動きを制御する前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)と後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)です。これらが膝の屈曲と伸展の動きをサポートしています。

膝関節は関節包で包まれている

膝関節は、回旋しながら屈曲するという複雑な動きをする

Q. 膝関節の代表的な疾患を教えてください。

しずおか整形外科病院 田中 泰弘 先生A. 代表的なのは、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。膝関節の軟骨や半月板が徐々にすり減って損傷し、次第に大腿骨と脛骨が直接ぶつかるようになって骨もすり減っていきます。特に女性に多い疾患で、加齢による女性ホルモンの分泌量の低下にともなって、軟骨の滑らかさが失われていくといわれています。
ほかには、外傷や他の疾患に起因して、軟骨や半月板が断裂し、変形性膝関節症になる場合もあります。具体的には、骨折などの外傷によるもの、感染やリウマチによるもの、少し特殊な例として、血流が悪くなって骨が部分的に壊死を起こす骨壊死(こつえし)によるものなどです。

変形性膝関節症

Q. その治療法を教えてください。

A. 一般的には、膝関節に負担がかかりにくい生活に変えることが大切です。床に座る和式の生活から椅子に腰かける洋式の生活に変える、あるいは、2~3階建ての住居にお住まいなら、階段を使わずに済むように1階で生活するなどです。あとは、体重を減らすことも重要です。膝関節には、片足立ちの際に体重の3倍以上の負担がかかるといわれています。例えば、5kg減量するだけで15kg以上の負担がなくなるわけです。
また、あまり安静にし過ぎていると筋力が落ちるので、体重をかけないような筋力トレーニングも必要です。例えば、水中ウォーキングなら水の抵抗があるため、あまり膝関節に体重をかけることなく運動ができます。ほかにも、座った状態で膝を伸ばして力を入れたり、座った状態で足を動かす自転車漕ぎのような動きも推奨されています。ウォーキングもゆっくりであれば、膝関節に負担がかかりにくいです。

筋力トレーニングの例

運動のほかに、鎮痛薬や湿布剤を用いることもあります。また、化粧品にも配合されているヒアルロン酸には関節の滑りを良くする効果もあるため、膝関節内に注射することもあります。また最近では、軽度の変形性膝関節症に対してですが、 APS(Autologous Protein Solution:自己タンパク質溶液)療法という治療法が登場しています。患者さんの血液から、組織の修復を促す成長因子を放出している血小板成分を遠心分離機で抽出し、濃縮して得られるPRP(多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう):Platelet Rich Plasma)を患部に投与することで、痛みを和らげ、炎症を抑えることが期待できる治療法です。わが国ではまだ自由診療(保険適用外)扱いですが、炎症によって膝関節に水が溜まる人には効果的です。

PRP療法イメージ図

PRP療法イメージ図

しずおか整形外科病院 田中 泰弘 先生Q. どのような場合に手術になるのですか?

A. 私は基本的に、薬や運動などによる保存的な治療は3カ月を目安に行っています。それでも痛みが治まらない、あるいは歩行が難しいなど、日常生活に支障をきたす場合は手術をお勧めしています。手術はレントゲンやMRIなどの画像診断で、膝関節がどういう状態になっているかということを予め評価をして手術法を決定しています。

Q. どのような手術法があるのですか?

A. 軟骨はまだそれほど傷んでいないけれども、半月板が損傷してしまっている場合には、膝関節内にカメラを入れて、傷んだところを関節鏡を使って切除、形成する関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)を行います。また、日本人は一般的に、膝の内側の軟骨がすり減ってO脚気味になる内側型の関節痛が多いのですが、そういう内側型の方で外側は問題なく靭帯が残っている場合には、骨切り術という手術をするケースがあります。これは、骨を切って内側に偏って受けている体重を膝の外側でも受けられるように角度を修正する手術です。ただし、この手術は骨がくっつくまでに時間がかかります。
また、同じように内側だけ膝関節が損傷している場合に、内側の骨だけを切って人工膝関節に取り替える人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ:UKA)という手術もあります。内側だけでなく、外側も傷んでいる場合は、すべてを取り替える全人工膝関節置換術(ぜんじんこうひざかんせつちかんじゅつ:TKA)という手術を行います。このように、患者さんの状態によって手術法を選択しているわけです。

O脚の場合 骨切り術(骨の向きを変えてバランスを良くする)

人工膝関節単顆置換術:UKA

人工膝関節単顆置換術:UKA

全人工膝関節置換術:TKA

全人工膝関節置換術:TKA

Q. 一言で人工膝関節手術といっても、いろいろな選択肢があるのですね?

A. 膝関節の傷み方の程度によって、手術の方法は様々です。いま、UKAとTKAのお話をしましたが、膝蓋骨(「お皿」と呼ばれる骨)だけを入れ替えるケースもあります。他には、靭帯を切るか残すかという選択肢もあって、それぞれに適応できる人工膝関節が開発されています。可能な限り患者さんの膝関節の機能を温存し、術後にできるだけ早く社会復帰していただけるように、侵襲(しんしゅう:身体へのダメージ)の少ない手術を心がけています。

Q. 侵襲を少なくする手術とは、どういうものですか?

A. 先に申し上げたように、傷んだ部分だけを人工膝関節にする手術もそうですし、できるだけ小さい創で、筋肉を切らない手術も低侵襲手術に該当します。当院で行う人工膝関節の手術において、30~40%はUKAとなります。UKAなら正常な靱帯が4つとも残せるうえ、内側の骨しか切らないので皮切が小さく、筋肉の損傷を避けながら手術ができます。そのため、術後の回復、筋力の回復も早く、靱帯が残っているおかげで十分な可動域(動かせる範囲)が確保できます。もちろん、変形が進んでいる場合はすべてを置換するTKAになりますが、UKAが適応できる段階のうちに手術をすると、術後の回復がスムーズで、痛みがほとんどなくなったと言われる患者さんが圧倒的に多いです。

しずおか整形外科病院 田中 泰弘 先生Q. 症状が悪化する前に、早めに手術を受けるほうがよいのですね?

A. そうです。UKAが適応になる段階で手術をすれば、TKAと比較して術後の回復が早いということです。術前、膝関節が曲がらなくなっている患者さんは、関節組織が固まってしまっているので、そうなってから手術をしても、十分な機能の回復が望めないことがあるのです。やはり、曲がらなくなる前に手術をすることが大切だと思います。

Q. よくわかりました。では、術後のリハビリの内容を教えてください。

A. 膝関節を曲げ伸ばしする練習や、筋力トレーニングを行ってから、歩行訓練を行います。腰掛ける動作や、階段の上り下り、屋外での歩行などの訓練も理学療法士のもとで行います。術後に一番大切なのは、痛みをどれだけ抑えるかだと私は考えています。痛みがあるとリハビリがスムーズに進まないので、局所に神経ブロック注射をしたり、痛みが出る前に鎮痛薬を服用していただいたりしています。最近は、弱オピオイド(薬効がマイルドな麻薬性鎮痛薬)という薬もあります。また、膝関節の腫れを抑えるために私は漢方薬を使うこともあるほか、出血を少なくするために膝関節内にトランサミンという点滴をすることもあります。痛み、腫れ、出血がなければ、リハビリはとてもスムーズになります。
リハビリの期間は、患者さんによって異なりますが、1週間以内に歩けるようになり、3~4週間ぐらいで日常生活の動作ができるようになる方が多いです。当院では、術後1週間は急性期病棟でリハビリを行い、歩行器や杖で歩けるようになれば、回復期病棟に移ってリハビリを継続していただいています。中には、お元気な高齢男性の方がUKAの手術後、3日で退院された特異な例もありました。しかし、やはり創の治癒状況も心配なので、術後はゆっくりと回復するまで入院していただけたらと思います。

Q. 先生が治療において心がけておられることを教えてください。

A. さまざまな手術法から、患者さんの状態に合わせてベストな方法を選択することと、できるだけ痛みをとることです。また、なるべく患者さんのお顔を見に行って、不安を取り除くよう心がけています。主治医が説明もせず、顔も出さないと、患者さんは疑心暗鬼になってしまいます。顔を合わせて冗談の一つでも飛ばし、笑っていただくと、回復も早まるものです。特に手術当日の朝は、患者さんの病室を訪れ、手術をするほうの膝に私の似顔絵を描くんです。「もし不安になったら、この顔を叩いてくださいね」って。左右を間違えないための目印なのですが、お守り代わりに描くとそれだけでリラックスされ、記念に写真を撮られている方もいらっしゃいます。ささいなことですが、患者さんのお気持ちが少しでも楽になるように心がけています。

しずおか整形外科病院 田中 泰弘 先生Q. ありがとうございます。では最後に、先生の座右の銘を教えてください。

A. 「鬼手仏心(きしゅぶっしん)」です。外科医を表す表現ですが、「手術のテクニックを磨きつつ、仏様のような心を持つ医者になってください」とある方から言われ、それを肝に銘じています。
手術によって患者さんが以前の膝の状態を取り戻されると、活動的になられ、人生がより豊かになります。術後は定期的に検診に来ていただく中、旅行に行ったことなど、喜びの報告が聞けるのも、医師として大変うれしいものです。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

田中 泰弘 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2021.7.1

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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