先生があなたに伝えたいこと
【松﨑 時夫】医療技術の進歩で治療の選択肢は増えています。
医療法人社団 誠富会 成田整形外科
まつざき ときお
松﨑 時夫 先生
専門:膝関節
松﨑先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
半年ほど前からマダガスカルが原産地の塊根(かいこん)植物や多肉植物を育てているのですが、非常にデリケートな植物なので、冬をどうやって乗り切ろうか気になっています。今塊根植物はちょっとしたブームで人気の植木鉢は入手困難なので、理想の植木鉢を求めて自作すべく、陶芸教室にも通い始めました。
2.休日には何をして過ごしますか?
サーフィンやキャンプなどに出かけています。料理も好きで、パスタならソースはもちろん、麺も粉の配合からこだわって作っています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. 膝の痛みにお悩みの方は多いですが、この痛みはなぜ起こるのでしょうか?
A. 膝関節は、大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)、膝のお皿の骨である膝蓋骨(しつがいこつ)から成り、大腿骨と脛骨の間には半月板というクッションのような線維軟骨があり、骨の表面は硝子軟骨(しょうしなんこつ)という軟骨で覆われています。さらに関節内や周囲にある強靭な十字靭帯や側副靭帯、関節包、筋肉が膝の動きを安定化させています。
膝の痛みは、軟骨の損傷を伴う変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)や、半月板の損傷、肉離れ、スポーツなどの衝撃で靭帯が断裂したりすることが原因で引き起こされます。軟骨そのものに痛みを感じる神経はありませんが、関節包周辺、筋肉や靭帯、腱が骨へ付着する部分や軟骨の下には痛みの神経があり、そこが物理的に刺激されることや、炎症を引き起こすと痛みを感じるようになります。
Q. 変形性膝関節症とはどのような病気ですか?
A. 加齢や外傷によってクッションの役割をしている半月板が傷み、関節の軟骨に負担がかかって摩耗することで、骨が変形して痛みを感じるようになる疾患です。
日本人にはO脚の人が多く、膝関節内側の軟骨にストレスがかかることで軟骨や半月板の摩耗が生じ、それが原因となってO脚がさらに進行していきます。あわせて軟骨や半月板の摩耗した破片によって炎症を起こしたり、軟骨の下にある骨同士がぶつかり合ったりすることで、その周りの神経が刺激され痛みが生じます。
変形性膝関節症は、初期には動き始めに痛み、次第に歩行時や階段を上り下りするときにも痛み、進行すると安静していても痛むようになり、生活の質(QOL)が低下していきます。
現在、日本で変形性膝関節症の痛みに悩んでいる患者さんは約800万人、レントゲン画像で骨の変形が認められる方は約2,500万人いるとされています。
Q. 変形性膝関節症になる患者さんの傾向はありますか?
A. 60歳以降の女性に特に多くみられます。女性は、閉経後に女性ホルモンが減少して骨粗鬆症で骨が弱くなり、骨が変形しやすくなることが一因です。重いものを持つなど膝に負担のかかる仕事をしている方や、体重が多い方にも多い傾向です。スポーツ選手では、年齢が若くてもケガをきっかけに変形性膝関節症になる方がおられます。
Q. 変形性膝関節症の治療法について教えてください。
A. まずは手術に頼らない保存治療を主体に行います。膝関節に負担をかけないように減量し、必要に応じて炎症を抑える薬や痛み止めを使いながら筋力トレーニングやストレッチを行います。O脚の方は足底板(そくていばん)で荷重の調整をしたり、中敷きで靴のフィット感をよくしたりする装具療法もあわせて行うこともあります。この他、炎症を抑える効果のあるヒアルロン酸を関節内に注射して痛みを和らげることもあります。
保存治療でも十分に効果があらわれることは少なくありません。しかし、効果がみられずに症状が進行して日常生活に支障がでてくる場合には手術治療を検討します。手術治療には、膝の骨を切って荷重を調整する高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)や傷んだ関節を人工物に置き換える人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)という方法があります。骨切り術は自分の関節を温存できるのがメリットですが、骨を切るので体への負担が大きく、高齢になると切った骨が治癒しにくいというリスクがあるので、65歳未満の方を対象とする医療施設が多いです。
保存治療で効果がみられないものの手術は避けたいという方には、PRP療法(ピー・アール・ピーりょうほう)という再生医療も考えられます。
Q. PRP療法とはどういう治療法ですか?
A. 患者さんご自身の血液から遠心分離で血小板成分を濃縮し抽出して得られる多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう:Platelet Rich Plasma)を関節内や靭帯に投与する治療法です。血小板は組織の修復を促す成長因子を放出するため、痛みをやわらげ、炎症を鎮めることが期待できます。保存治療やヒアルロン酸注射が効かない場合の治療法として、諸外国でも積極的に採り入れられています。
PRPには、白血球が少ないLP-PRP(Leukocyte Poor-PRP)と白血球を多く含むLR-PRP(Leukocyte Rich-PRP)があり、議論が分かれるところではありますが、LP-PRPは関節炎など関節内の痛みに、LR-PRPは慢性的な筋肉や腱などの損傷治療に効果が出る傾向にあり、症例に応じて使い分けられることもあります。
変形性関節症の方、スポーツでよく起こるテニス肘や野球肘などの方を対象に、投与する頻度は、1ヵ月に1回、3回程度投与することが多いです。投与後2週間~3ヵ月の期間に、6~7割の方に効果がみられる傾向にあります。
PRP療法はご自身の血液を使用するので副作用が少ない治療法ですが、自費診療なので高額になることと、効果のあらわれない方もおられることをご留意いただいています。
Q. はじめからPRP療法を望まれる患者さんもいますか?
A. もちろんいらっしゃいますが、保存治療で十分に効果が出ることが多いため、まずは保存治療を受けていただいています。PRP療法をするしないに関わらず変形性膝関節症に対してリハビリは必要ですので、その意味でも保存治療を最初に行います。
Q. 手術に頼らない治療も進歩しているのですね。今後、こうした再生医療は進歩していくのでしょうか?
A. この5~6年で急速に日本でも再生医療が認知されるようになりました。PRP療法は、今後ますます関節疾患の治療方法の一つとして確立されていくと思います。
PRP療法以外にも、自身の脂肪から幹細胞と呼ばれる細胞を取り出し、培養増殖させて投与する脂肪幹細胞治療など多くの治療法が開発されてきています。
Q. 先生が医師を志されたエピソードがありましたら教えてください。
A. 子供のころからアトピー性皮膚炎などを患い病院はとても身近な存在でした。中学生の頃にはバスケットボールの練習中に左手首を骨折し、その時の後遺症でいまも関節痛に悩まされています。自分の経験から、ケガで悩んでいる人を手助けしたいという想いが強くなり、骨や関節を治療する整形外科医になろうと決心しました。
Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。
リモート取材日:2022.9.29
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
医療技術の進歩で治療の選択肢は増えています。