先生があなたに伝えたいこと
【山本 精三】股関節の痛みを取ることは、何より、行動の自由がずっと続くという意味で大事なことです。
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
やまもと せいぞう
山本 精三 先生
専門:人工股関節・人工膝関節
※こちらのページでは人工股関節についてお話しされています。人工膝関節についてはこちらをご覧ください。
山本先生の一面
1.休日には何をして過ごしますか?
音楽、特にジャスなど聞きながらゆっくりと過ごしています。読書や美術館めぐりも好きですね。
2.最近気になることは何ですか?
関節症になりやすい遺伝子というのがあるのですが、それが解明されてきますと発症の予測もつきますし、注目したいですね。あと肥満遺伝子や運動能力など、膝や股関節に影響を及ぼす問題についても気になりますから、よく本などを読んでいます。
Q. 今回は人工股関節置換術をテーマに、合併症を防ぐための最新の対策(方法)について教えていただきたいと思います。まず、合併症で心配なものは何でしょうか?
A. 人工股関節置換術の場合、手術を受けられるのは比較的高齢の方が多く、ほかの手術と同じように、脳梗塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞、不整脈、出血性ショック、腎不全、肺炎、肝機能障害、下肢深部静脈血栓(術後、下肢の静脈が血の固まりで詰まること)、肺塞栓(血の固まりが肺の血管に詰まること)などの合併症が考えられます。
人工股関節でいえば、これらに加えて特に心配なのが感染と脱臼です。感染については、大きな人工物を入れる手術ですので、キズが細菌に侵されることがあるんですね。それが手術直後のこともあれば(早期感染)、キズが治っていても身体の他の部分から細菌が移ってしまう場合(晩期感染)もあります。
Q. 感染を防ぐ方法はあるのですか?
A. 手術前には十分に検査して危険を予測して手術に臨みますし、手術後早期の感染を防ぐためには、手術に際してできる限りのことを実践しています。たとえば手袋を二重にするダブルグローブや清潔で特殊な手術着の着用、清潔な器具、手術時間の短縮、ろ過した空気を行き渡らせるバイオクリーンルームの使用、術野(じゅつや:手術をする部分)の徹底した洗浄と消毒、合わせて、手術後すぐに医療用弾性ストッキングで患部を覆うといったことを行います。
Q. 晩期感染を防ぐ手立ては?
A. これは患者さんご自身の健康管理が重要です。身体、特に下肢にキズをつくらないよう注意したり、口の中をきれいにしておくこと。ぐらぐらした歯がある場合、手術前に治療しておかないといけません。手術後に歯科医にかかる場合は、「人工関節が入っている」ことを必ず担当医に伝えましょう。
Q. わかりました。では脱臼について教えてください。なぜ、人工股関節を入れた部分が脱臼するのでしょうか?
A. 人工股関節を入れると痛みがなくなりますから、知らない間につい無理な姿勢をとってしまって脱臼することがあるんですね。ただ日常生活の中で脱臼する方向は予測がつきますので、これを起こりにくくする手術手技を、我々は取り入れています。
Q. それはどのような手術法なのですか?
A. 前方アプローチというやり方です。股関節の脱臼は主に後方脱臼です。即ち、しゃがんだり深く曲げたりすると後ろにずれてしまうんですね。従来は後方アプローチといって、股関節の後ろ側から筋肉を切開して手術を行っていました。それが前方アプローチですと筋組織をまったく切開せずに手術が行え、股関節後方の筋肉も温存されますので、当然、後方脱臼のリスクがかなり低減します。前方アプローチを行った場合の脱臼の確率は1%以下といわれています。
Q. 前方アプローチは患者さんへのメリットが大きいといえますね。
A. その通りです。それまでは手術後に、脱臼予防の三角枕というのを3週間ほど装着してもらっていましたが、このアプローチでは必要ありません。また、筋組織を切開しないので術後の痛みも少なくリハビリテーションも楽ですし、入院期間も短縮できます。実際、両方のアプローチの手術を受けた患者さんに聞いてみますと、ほぼ全員が、前方アプローチのほうがよかったといわれます。また後方アプローチでは叶わなかった両足同時の手術も可能になりました。
Q. いいことばかりのようですがデメリットもあるのでしょうか?
A. 手術手技が難しいことでしょうか。医師からすれば、慣れるまでどうしても手術時間が少し延びてしまいます。あと、確率は大変低いですけれども、前方アプローチで切開する皮膚のそばに、大腿外側皮神経と大腿神経があって、そこを損傷したり皮膚を引っ張るときに、神経も一緒に引っ張ってしまって麻痺が起こることがあります。しかし当院の場合、現在までのところ、それによって治療を行うに至るような患者さんはおられません。
Q. 手術手技は本当に進歩しているのですね。人工股関節もやはり進歩しているのでしょうか?
A. そうですね。たとえば、人工股関節には関節軟骨の代わりになるポリエチレンライナーが付属していますが、すり減りにくいポリエチレンが出来たことで、そこに大きな骨頭ボールを入れることができるようになりました。かつては摩耗が心配でしたので小さめの骨頭ボールしか入れられなかったのですが、大きな骨頭ボールを入れることで関節面としっかりかみ合い、その意味では脱臼が起こりにくくなりました。
さらにはAquala(アクアラ)という最新の技術が日本で開発されました。人工股関節は、関節部分が摩耗すると緩むことがあるのですが、アクアラは関節面に水の膜のようなものを作って摩耗を抑制しますので、人工関節の長寿命化が期待できます。人工関節の寿命が延びれば再手術の心配も軽減しますから、比較的若い方にも手術を行えるということになります。
Q. 手術法や人工股関節が進歩すれば長寿社会でも安心ですね。最後に、人工股関節手術を受けられた患者さんが、日常生活で注意すべきことはあるでしょうか?
A. 衝撃の強い動きを避けていただければ、日常生活にほぼ制限はありませんよ。体重を増やさないように気をつけて、痛みのない快適な生活を送っていただきたいと思います。
取材日:2013.3.6
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
股関節の痛みを取ることは、何より、行動の自由がずっと続くという意味で大事なことです。