先生があなたに伝えたいこと / 【䯨 賢一】股関節の難しい疾患を抱えている方、必ず治療法がありますのであきらめないでください。治療のゴールは、手術したことを忘れさせるほど機能を回復させることです。

先生があなたに伝えたいこと

【䯨 賢一】股関節の難しい疾患を抱えている方、必ず治療法がありますのであきらめないでください。治療のゴールは、手術したことを忘れさせるほど機能を回復させることです。

関西医科大学附属病院 䯨 賢一 先生

関西医科大学附属病院
おおえ けんいち
䯨 賢一 先生
専門:股関節

䯨先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 スポーツが好きなので、海外で頑張っている日本人選手に関心を持っています。私自身がヨーロッパに留学した際にコミュニケーションで苦労したので、異文化の中で奮闘している選手は応援したくなります。

2.休日には何をして過ごしますか?
 学会や研究会などで多忙ですが、できるだけ家族との時間を大切にしています。夫婦でスポーツ観戦や旅行に行くことが多く、最近はラグビーワールドカップも応援に行きました。

先生からのメッセージ

股関節の難しい疾患を抱えている方、必ず治療法がありますのであきらめないでください。治療のゴールは、手術したことを忘れさせるほど機能を回復させることです。

Q. 最初に、股関節の仕組みを教えてください。

A. 股関節は、骨盤側と大腿骨(だいたいこつ)側をつなぐ関節で、骨盤に寛骨臼(かんこつきゅう)という受け皿があり、そこに大腿骨頭(だいたいこっとう)がはまっています。股関節は寛骨臼のまわりを取り囲む軟骨組織である関節唇(かんせつしん)によって安定し、周囲の筋肉や靭帯でしっかりと股関節を支えています。それらは潤滑油の代わりをする関節液(かんせつえき)で満たされた関節包(かんせつほう)という袋状のもので包まれています。

正面図

関節包 関節唇

Q. 股関節の疾患として一番多いものは何ですか?

A. 変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。この疾患を抱える日本人の約80%は、生まれつき大腿骨頭を覆う寛骨臼の被りが少ない寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)が原因です。特に女性に多く、50~60歳代が中心となっています。残りの約20%は、体重による負担や外傷を契機に発症しています。
ほかに股関節の疾患として代表的なものとして、ステロイドやアルコールの大量摂取が原因だと考えられている大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)や、最近になって診断されるようになった股関節唇損傷(こかんせつしんそんしょう)などがあります。股関節唇損傷は、スポーツなどによる使い過ぎや股関節の形態異常によって股関節痛が生じる病気です。

変形性股関節症

正常 寛骨臼形成不全

関西医科大学附属病院 䯨 賢一 先生Q. 変形性股関節症の場合は、手術が必要になりますか?

A. 必ず手術が必要になるわけではありません。運動や薬物による保存的加療を続けている患者さんも多数おられます。手術にはメリットが多くありますが、その反面、合併症などのデメリットもありますので、手術するかどうかを急いで決断する必要はなく、よく理解してから患者さんの意志で判断していただきたいと我々は考えています。ただ、手術を受けたほうが楽になるケースは多く、実際に受けられた方は「もっと早くしていたら良かった」とおっしゃられる方が少なくありません。

Q. どんな手術になりますか?

A. 変形性股関節症になってしまうと、人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)となります。ただし、多くは寛骨臼形成不全が起因しているため、股関節の形態を正しく整えるための骨切り術(こつきりじゅつ)という手術を行うこともあります。骨切り術にはいろいろな手法があるのですが、我々は比較的侵襲(しんしゅう:身体への負担)の少ない臼蓋形成術を採用しています。これは、腸骨の一部を切除して寛骨臼に移植する手術です。移植によって骨頭を覆う屋根が広がり、受け皿になる面積が増えるため、股関節が安定します。関節の中には触れず、外から足りない骨を補強するという考え方です。
この手術は、ほかの骨切り術に比べて適応が非常に広く、股関節の変形進行を防止する効果が証明されており、自然経過を損ないにくいのが大きな特長です。万一、将来人工関節が必要になった場合も、人工股関節置換術がスムーズにできる点もメリットといえます。以前からある手術法ですが、デメリットの少なさから再び注目されるようになっています。

臼蓋形成術

Q. 股関節唇損傷で手術する場合は、どんな手術になるのですか?

A. 股関節唇損傷は自然軽快することも多いのですが、手術が必要になった場合は、関節の中をカメラで確認しながら行う股関節鏡手術によって、股関節唇の縫合を行います。ただし、股関節の形態異常によって骨同士がぶつかって股関節唇が損傷した場合は、一度縫合してもまた切れてしまう可能性があります。そうした症状は、大腿寛骨臼インピンジメント(FAI)と呼ばれ、股関節唇損傷の再発を防ぐために、骨盤側の形態異常または大腿骨側の形態異常の箇所を切除します。
股関節唇損傷は、それに類似した紛らわしい疾患が数多くあり、実際は股関節唇損傷ではなく、関節の外で炎症を起こしているケースもあります。そのため、痛みの原因になっている場所をMRIや超音波検査(エコー)を使って確実に見極め、診断することが重要になります。

FAIの例(骨盤側の形態異常)

FAIの例(大腿骨側の形態異常)

Q. では、最終手段となる人工股関節置換術はどんな手術ですか?

A. 股関節をインプラントに置き換える手術で、除痛効果が高く、20~30年の長期成績があります。やり方は大きく分けて2種類あり、寛骨臼や大腿骨の中にセメントを入れてインプラント(寛骨臼側をカップ、大腿骨側をステムと呼びます)を固定する方法と、セメントを入れずにインプラントを骨の中に打ち込む方法があります。そもそも人工股関節置換術は、1962年にイギリスでセメントタイプが開発されたのが始まりです。セメントタイプの手術は、セメントレスタイプに比べて術者のセメントに関する技術習得に時間がかかるため、世界的にはセメントが不要なセメントレスタイプが主流になっています。

セメントタイプの人工股関節置換術の例

セメントタイプの人工股関節置換術の例

セメントレスタイプの人工股関節置換術の例

セメントレスタイプの人工股関節置換術の例

Q. しかしこちらではセメントタイプが使用されているのですね。

A. 当院では、これまで4000例以上の人工股関節置換術のすべてをセメントタイプで行ってきました。その理由は、セメントタイプは半世紀以上もの歴史があり、94%の患者さんが人工股関節を35年以上入れ換えずに過ごしていることと、患者さんのあらゆる骨形態に対応できるからです。特に日本人には寛骨臼形成不全が多いため、形態異常のある骨の中にぴったりとインプラントを合わせることが難しいのですが、セメントタイプならセメントを介在させるのでどんな形態であってもフィットさせることができます。おまけに、術中の骨折のリスクも低く、骨が弱くなっている高齢の患者さんにも安心して使用できます。また、万一、人工股関節を入れ換えなければならない人工股関節再置換術(じんこうこかんせつさいちかんじゅつ)を行う場合でも、セメントタイプなら簡単に抜去できる点もメリットです。手技的な細かいことを挙げると他にも多数あるのですが、正しい位置に設置することが可能なため、脱臼が少なく、可動域も良好となり、歩き方もスムースになります。セメントタイプを使用しない理由が無いというのが正直な気持ちです。

関西医科大学附属病院 䯨 賢一 先生Q. セメントタイプの人工股関節は半世紀以上の歴史の中で進歩しているのですか?

A. セメントレスタイプはどんどん新しいものが開発されていますが、セメントタイプは1990年代までにほぼ完成されたと私は考えています。既に完成された手法であるため、変更や開発をする必要があまりないのです。ただし、寛骨臼の役割をする受け皿となるカップに使用される素材のポリエチレンにおいては、摩耗しにくいクロスリンクポリエチレンが開発されて大きく進歩したと思います。摩耗が少なくなったことで、人工股関節の耐久性が高まり、より長期間使用できるようになりました。

Q. 手術手技の進歩についてはいかがでしょうか?

A. セメントタイプは、手技のスキルが結果に直結しますので、やはり術者がしっかりとした技術を体得しているかが重要になりますが、セメントの注入の仕方や、セメントと骨を密着させるための手法などが少しずつ改良され容易になっています。実際に切開して患部に侵入する際のアプローチ方法も、現在はさまざまな種類があります。当院では、中殿筋(ちゅうでんきん)と外側広筋(がいそくこうきん)の間から入る前側方アプローチを採用しています。筋肉は一度損傷すると回復せず、脱臼の原因になるため、筋肉を切らずに骨を切って股関節に侵入し、また骨を接合して安定させます。この手法だと、再置換術が必要になった場合も、何度でもそのアプローチで侵入できます。

前側方アプローチ

Q. 手術の合併症としては、どんなものが考えられますか?

A. 大量の出血や感染症、DVTと呼ばれる深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)です。当院では、出血への対策として、術中に患者さんの血を回収する自己血輸血(じこけつゆけつ)を行っています。感染症に関しては、手術に携わる医師やナースの予防意識が重要だと考えており、器具の取り扱いや廃棄の仕方、インプラントの管理などを徹底しています。静脈に血栓ができるDVTを防ぐには、早期離床と予防薬の処方を行っています。

関西医科大学附属病院 䯨 賢一 先生Q. 手術において先生が心がけていらっしゃることはありますか?

A. 我々にとっては、手術は毎日のように行っているものですが、個々の患者さんにとっては一生に一度のことです。それを肝に銘じて、一つひとつの手術に細心の注意を払っています。さらに、患者さんが手術室に入られたときや麻酔からさめられたときに、笑顔でお声がけすることで、患者さんの不安を少しでも和らげるようにしています。

Q. では最後に、股関節に難しい症例を抱えている患者さんにアドバイスをいただけますか。

A. 大学病院である当院には、ほかの病院で治療が難しいと判断された患者さんや、合併症を抱える方、人工股関節再置換術を望まれる方などが全国から来られます。難しい症例だからといって、どうか治療をあきらめないでください。我々に治療できない症例はないと自負しておりますので、きっとお役に立てると思います。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

䯨 賢一 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2019.9.27

*本ページは個人の意見であり、必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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