先生があなたに伝えたいこと / 【佐藤 元紀】肩関節の腱板断裂は、いかに痛みを抑えるかを重視して最適な治療法をご提案します。

先生があなたに伝えたいこと

【佐藤 元紀】肩関節の腱板断裂は、いかに痛みを抑えるかを重視して最適な治療法をご提案します。

社会医療法人財団 池友会 新小文字病院 佐藤 元紀先生

社会医療法人財団 池友会 新小文字病院
さとう もとのり
佐藤 元紀 先生
専門:肩関節股関節膝関節

佐藤先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 当院のある北九州市は、人口が減少傾向にあります。福岡市ばかりがフォーカスされがちですが、北九州市も食べものがおいしくて、とても住みやすい街なので、今後活性化していくことを期待しています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 子どもがまだ小さいので、子どもを連れてプールや公園などに行くほか、水泳を楽しむことが多いです。泳いだ後にお風呂やサウナに入ってリフレッシュするのが、休日のささやかな楽しみです。

先生からのメッセージ

肩関節の腱板断裂は、いかに痛みを抑えるかを重視して最適な治療法をご提案します。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

肩関節の名称(右肩の正面図)Q. 肩関節の構造がどのようになっているか教えてください。

A. 肩は大きく分けると2つの関節があります。上腕骨(じょうわんこつ)の先端にある骨頭(こっとう)が肩甲骨(けんこうこつ)のくぼみにはまり込む構造になった肩甲上腕(けんこうじょうわん)関節と、上腕骨と肩峰(けんぽう)から成る第二肩関節があります。
関節は全身の関節の中でも特に動く範囲が広く、不安定な構造になっています。それだけに外れたり、腱が切れたりすることの多い関節です。

Q. まわりの筋肉についても教えてください。

A. 棘上筋(きょくじょうきん)と棘下筋(きょくかきん)という2つの筋肉の前方に肩甲下筋(けんこうかきん)、後方に小円筋(しょうえんきん)があり、これら4つの筋肉の腱の部分を総称して腱板(けんばん)と呼ばれています。高齢の方には、これらが切れる腱板断裂(けんばんだんれつ)という疾患が多くみられ、特に棘上筋と棘下筋、肩甲下筋が切れることが多いのです。

肩の筋肉の名称(右肩の背面図)

社会医療法人財団 池友会 新小文字病院 佐藤 元紀先生Q. 腱板断裂はどのようにして起こるのですか?

A. 加齢に伴う変化によって切れる場合と、転倒時などに手を突くことなどによって切れる場合があります。当院に外来で来られる患者さんは、ケガよりも加齢による腱板断裂の方が多くみられます。

Q. 腱板断裂を起こしやすい人の特徴はありますか?

A. 加齢による腱板断裂の場合は、もともとの肩の形状から起こしやすい方がおられます。肩甲骨の肩峰の形状や肩関節の幅によって、骨棘(こつきょく)という骨の棘ができやすく、肩を動かした際に骨棘が腱板に当たって擦れます。これは、衝突するという意味を持つインピンジメント症候群といわれ、それによって腱板が切れてしまうのです。
一方、ケガによる腱板断裂の場合は、手を突いたことで生じることが多いのですが、加齢による素因があって、ケガが引き金になり切れてしまうケースが少なくありません。70代以上の方に多くみられます。

Q. どのような症状がありますか?

腱板断裂を起こした患者の図A. 患者さんの主訴の多くは肩の痛みで、夜中に痛みが出る方が多いです。日常生活においては、肩が痛くて動かしづらい、痛みのある側を下に向けて眠れないほか、肩が上げられないため服を着られないという方もおられます。
ただし、腱板断裂を起こしていると必ず痛むというわけではありません。痛みには強いときと弱いときの波があり、大きく切れているにも関わらず、痛みがあまりない方もおられます。ある大学病院の大規模な調査によると、高齢の方に広く肩関節のエコー検査を行ったところ、痛みがなくても腱板断裂を起こしている人は一定数いるというデータも出ています。

Q. 肩の痛みで来院される患者さんの診断はどのように行うのですか?

A. 肩を動かすと引っかかるような痛みが出るか、筋力がどの程度あるかという理学的な所見を取ります。さらに、断裂の有無をレントゲンやMRI、超音波(エコー)を用いた検査によって見きわめます。四十肩や五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎の可能性もあるため、正しく診断したうえで治療方法を決めていきます。

Q. 腱板断裂の治療方法について教えてください。

A. 切れた腱板をもとに戻すことはできないため、痛みを取って肩関節を動かせるようにすることを目指します。まずは、除痛のための内服薬のほか、ヒアルロン酸や痛み止めの注射、医師によってはステロイド注射を行う場合もあります。
また、リハビリも重要になります。切れた腱に代わって、ほかの筋肉が肩関節の動きを補助することで、手術をしなくても可動域を確保できるケースも少なくありません。また、たとえ手術をしたとしても、3カ月程度はリハビリを続けなければ、どれだけ手術がうまくいっても除痛ができない、あるいは可動域が確保できないこともあります。それだけリハビリは重要なのです。

社会医療法人財団 池友会 新小文字病院 佐藤 元紀先生Q. どのような場合に手術になるのですか?

A. 手術が選択肢に入ってくるのは、リハビリをしても痛みが取れない、あるいは可動域が広がらない場合です。手術は、関節鏡という内視鏡を用いた関節鏡視下(かんせつきょうしか)手術、または人工肩関節置換術(じんこうかたかんせつちかんじゅつ)となります。腱板が切れているからといって、手術が必須になるわけではないので、患者さんとよく相談して決めていきます。ただし、ケガによって腱板断裂を起こしている場合は、アキレス腱が切れた場合などと同様に、早めに手術をすることをお勧めしています。

Q. 具体的に手術はどのようなものなのですか?

A. 9割以上の方は、関節鏡視下手術が適応となります。こちらは肩関節のまわりに4~5カ所の穴を開けてカメラを入れ、腱板が切れている箇所の骨にアンカーを打ち込み、腱板を縫合する手術です。

腱板を縫合する手術の例

腱板を縫合する手術の例

一方、切れた腱板と腱板の間が広く、縫合する幅がなくなっている、あるいは切れてから長時間が経っていてすでに腱板がないという場合には、リバースタイプの人工肩関節を使う人工肩関節置換術となります。
もともと人工関節は、膝関節や股関節にも用いられるように、軟骨が擦れて痛みが出ている場合に、傷んだ関節の骨と置換する金属製のものです。人工肩関節には従来タイプとは異なる、リバースタイプの人工肩関節というものがあり、肩関節の骨がかみ合う骨頭とソケットがもともとの肩関節とは逆さまになった構造になっています。これにより、腱板が断裂していても三角筋の力を応用して肩を上げられるようになっています。ただし、適用は70歳以上で腱板修復ができない患者さんに限定されています。

従来タイプの人工肩関節置換術の例

従来タイプの人工肩関節置換術の例

リバースタイプの人工肩関節置換術の例

リバースタイプの人工肩関節置換術の例

Q. リバースタイプの人工肩関節のメリットは何ですか?

A. 腱板がない人にも手術ができ、これまで肩がわずかしか上がらなかった人が大きく上がるようになることが期待できます。現在、米国ではリバースタイプの人工肩関節の手術が増え、従来型の人工肩関節よりも割合が上回っています。ただし、日本整形外科学会では10年の耐用年数といわれているものの、まだそこまでの長期の成績は出ていません。
また、この手術は術者にライセンスが必要なため、ライセンスを持った肩関節を専門とする医師がいる病院でなければ受けることができません。当院では、これまで約50名の方にこの手術を行っています。いまのところ、最低でも水平以上には肩を上げられるまで回復されています。

Q. そうなんですね。入院期間はどれぐらいですか?

A. 関節鏡視下手術だと3~4週間程度で、人工肩関節置換術は3週間程度です。術後は肩関節を固定するための外転枕を3~4週間程度は装着していただくため、その間は入院をお勧めしています。若い方は外転枕を着けたまま1~2週間で退院される場合もありますが、当院では高齢の患者さんが多いため、それ以上の入院を望まれる方が多いです。
リハビリは、手術の翌日から1週間程度は肘を中心に動かし、2週間目からは肩を動かしていきます。どの程度の腱板断裂かによってリハビリの内容は異なるため、医師とセラピストが連携しながら進めていきます。退院後も3~5カ月程度はリハビリを継続し、肩関節の可動域を広げていくことが大切になります。

Q. 術後に気を付けたいことはありますか?

A. 腱板断裂は片側に起こると、もう一方の肩にも起こることが少なくありません。そのため、デスクワーク時など日常生活における正しい姿勢を心がけることが大切です。また、喫煙や、糖尿病などの生活習慣病も、腱が切れやすい要因になるといわれているので、気を付けていただきたいです。

社会医療法人財団 池友会 新小文字病院 佐藤 元紀先生Q. 先生が治療において、大切にされていることを教えてください。

A. 患者さんはとにかく痛みが辛いと思うので、常に最善の除痛方法を考えています。内服、リハビリ、手術など、方法はさまざまですが、痛みのない生活ができることを優先しています。特に肩関節は神経が発達しているので、手術後も痛みが強く出ます。そのため、麻酔に加えて術中にブロック注射をしたり、術後早期に痛み止めを飲んでいただいたりなど、疼痛コントロールを行うことを心がけています。

Q. ありがとうございました。では最後に、先生が医師を志された理由をお聞かせください。

A. 運動器やスポーツ外傷に興味があったので、整形外科医を目指しました。ちょうど私が医師になった頃から、内視鏡の技術が発達し、肩関節の治療法も進歩しつつあったので、肩関節を専門としました。リハビリの先生とタッグを組んで、治療にあたるところにもやりがいを感じています。

Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。

佐藤 元紀 先生からのメッセージ

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リモート取材日:2022.7.13

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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