先生があなたに伝えたいこと / 【川島 史義】長引く膝の痛みは関節温存術や人工膝関節置換術で症状を改善させ、健康寿命を延ばすことが期待できます。

先生があなたに伝えたいこと

【川島 史義】長引く膝の痛みは関節温存術や人工膝関節置換術で症状を改善させ、健康寿命を延ばすことが期待できます。

医療法人社団 明芳会 横浜旭中央総合病院 川島 史義 先生

医療法人社団 明芳会 横浜旭中央総合病院
かわしま ふみよし
川島 史義 先生
専門:膝関節

川島先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 少子高齢化で、将来、子どもたちが幸せな生活ができるのか、異常気象も気になります。あとは、医療で患者さんの健康寿命を延ばして医療費や介護費用を削減することに貢献していきたいと思っています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 子どもと公園や近場の遊園地に連れて行ったり、妻をレストランに連れて行ったり、家族と過ごす時間を大切にしています。それ以外には学会の準備や論文など、平日にできないことをしています。

先生からのメッセージ

長引く膝の痛みは関節温存術や人工膝関節置換術で症状を改善させ、健康寿命を延ばすことが期待できます。

Q. 膝の痛みにお悩みの方は多いですが、この痛みはなぜ起こるのでしょうか?

A. 膝関節は大腿骨、脛骨、膝蓋骨の3つの骨から成り、体重の3倍もの力がかかる関節です。関節の表面は軟骨で覆われ、脛骨と膝蓋骨の間には半月板というゴムのようなクッションがあり、周囲の靭帯や骨とくっついて関節の動きを安定させ、複雑な動きに対応できるようになっています。

膝関節の構造

変形性膝関節症

半月板は加齢とともに弱り、膝関節を正常な位置に抑える機能が衰えていきます。そうなると軟骨に負担がかかるようになり、滑膜炎を起こしたり、水が溜まったりするようになります。これが膝が痛む一つめの原因です。ほかには半月板がささくれて神経を刺激し、軟骨の下の部分でレントゲンではわからないレベルの小さな骨折(不全骨折:ふぜんこっせつ)を起こして痛むこともあります。

医療法人社団 明芳会 横浜旭中央総合病院 川島 史義 先生Q. 半月板は膝関節を支える要なのですね。膝に痛みを抱える患者さんの特徴はありますか?

A. ほとんどの膝の疾患は半月板から始まります。膝の痛みを訴える患者さんは60~80代の女性が多いです。病名としては、外来に来られる方の7~8割が軟骨がすり減って痛みを感じるようになる変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。高齢の方はしゃがんだり、正座をしたりといった和式の生活を長年続け、膝に負担がかかっています。

Q. 女性に多いのは、骨粗鬆症とも関係がありますか?

A. もちろんあります。女性は更年期を境に筋力や膝を守る組織が弱くなって骨粗鬆症が増え、不全骨折を起こして変形性膝関節症になっている方が多いです。

Q. 変形性膝関節症の治療法について教えてください。

A. まずは膝周りの筋力を鍛えることに尽きます。寝転がって膝を30cmほど持ち上げて大腿四頭筋を鍛える、丸めたタオルを膝で押しつぶすといった方法があります。椅子に座った状態で膝を伸ばすのも効果的です。こうした運動を毎日、できれば朝昼晩の3回、難しければ1回でもいいので続けると確実に症状は改善します。誰かに何とかしてもらうのではなく、自分で続けることが大切です。もっとも毎日欠かさず1回でも続けている方は1割くらいですが(苦笑)。
そして、重いものを持つ、しゃがむ、階段を使うなど、膝に負担のかかる動作は避けていただきます。そのうえで、必要に応じて湿布、痛み止めなどの投薬治療や、サポーター、荷重を矯正する中敷きを使う装具療法を行います。変形が軽度であれば、ヒアルロン酸注射や、自費診療にはなりますが、自分の血液を使って組織の修復をはかる再生医療という方法もあります。

足底板

Q. 変形が進んでいる場合には、どのような治療が考えられますか?

A. レントゲンではっきりわかるくらい変形していると、こうした保存治療では症状の改善は見込めないので、手術も検討すべきでしょう。

Q. どのような手術が考えられますか?

A. 軽度であれば、内視鏡を使って傷んだ半月板を縫合したり、壊れた半月板のかけらを取り除いたりすることで半月板を治療することができます。次の段階は、軟骨が残っている場合に関節温存術が適応になります。骨盤や大腿骨の骨を切って角度を変え、荷重を調整する骨切り術(こつきりじゅつ)とも呼ばれる治療法です。最後の手段は、傷んだ箇所を金属のインプラントに置き換える人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)になります。

関節鏡視下手術の例

O脚の図 骨切り術

Q. 関節を温存できるのであればその方がよいように思えますが、人工膝関節になるケースとの違いは何でしょうか?

A. 変形の程度や軟骨がどれだけ残っているかによります。変形の度合いを正常に近い0から末期の4段階に分ければ、1までの方は骨切り術の適応ですが、2、3は施設によって異なり、末期の4の場合、年齢に関係なく人工膝関節にすべきでしょう。
関節温存術は人工的な骨折を起こすので、筋力がない高齢の方にはリハビリが人工膝関節の手術後より大変になるため、65歳までの適応としている施設も少なくありません。当院ではできるだけご自身の脚でがんばっていただきたいとの想いから、関節温存術の適応上限を75歳にしていますが、それでも70歳以上で変形度合いが3以上であれば人工膝関節を勧めます。当院では、関節温存術にすべき目安は手術する方の脚で50~60cmの椅子から片足立ちできるかどうかです。

Q. なるべく自分の脚でがんばってほしいというお気持ちで治療にあたっていらっしゃるのですね?

A. はい。それが私の医師としてのポリシーです。いまは人工膝関節も性能がよくなっていますから、人工膝関節置換術は健康寿命を延ばすのに最適な手術ですが、骨切り術もいい手術だと思っています。

Q. 手術と聞くと不安になる方も多いと思いますが...。

A. 大学病院では最初から手術を希望される方がほとんどですが、当院のような民間病院では手術を望まない方が圧倒的に多く、無理に手術を勧めることはありません。何年も慢性的に痛みが続いている場合は早めに手術をした方がよい場合もありますが、当院では数ヵ月の保存治療で様子を見て、患者さんご自身の希望があれば手術に進みます。

人工膝関節置換術の例

人工膝関節置換術の例

Q. 人工膝関節置換術になった場合ですが、人工膝関節にも種類があるのでしょうか?

A. いまは様々な形状やサイズのインプラントが開発されていますので、患者さんの骨質や症状に応じて最適なものを選んでいます。

Q. 人工膝関節の手術で進歩しているところがあれば教えてください。

A. 以前はレントゲン画像を基に二次元で術前計画を立てていましたが、最近では三次元の立体画像を使って、より綿密に術前計画が立てられるようになりました。当院では必要に応じてナビゲーションシステムも使い、術中にインプラントの設置位置や骨を切るバランスなども見ながら手術を行っています。

Q. より正確に手術が行えるようになっているのですね? それだけ患者さんの満足度も上がっているのでしょうか?

A. はい。より安全で確実に手術が行えるようになり、手術から数ヵ月後経つと、ほとんどの方が手術してよかったとおっしゃいます。ただ、膝関節は複雑な構造なため、股関節に比べると手術の満足度は若干劣る傾向にあります。

医療法人社団 明芳会 横浜旭中央総合病院 川島 史義 先生Q. 手術後のリハビリはどのようなことをするのでしょうか?

A. 手術後は患部が腫れ、傷の痛みもあるので、1週間は傷が癒えるのを待って立つ練習から始め、歩行訓練、膝の曲げ伸ばし、腹筋、背筋などの筋力強化も行います。若くて筋力がある方なら回復は早いですが、当院で手術をされる方は筋力や認知能力が落ちている80代の方もいるため、リハビリは時間をかけて行っていこうとお伝えしています。3週間程度での退院を目指しますが、調子を取り戻すには2~3ヵ月かかると考えてください。

Q. 先生が医師を志されたきっかけがありましたら教えてください。

A. 子どもの頃に祖父母が関節を傷めて生活に不自由しているのを見ていたことが医療系に進むきっかけでした。研修医時代に整形外科で手術をした患者さんが目に見えて回復するのを見て、整形外科医になることを決意しました。

Q. 膝の痛みに悩まれている方にメッセージをお願いします。

A. いまの膝の痛みは内臓から来ている可能性もありますから、膝付近の痛みで日常生活に困っている方は、気軽に近所の整形外科にお越しください。

Q.最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

川島 史義 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2024.9.6

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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