先生があなたに伝えたいこと
【大田 光俊】脆弱性骨盤骨折(ぜいじゃくせいこつばんこっせつ)は、腰椎疾患や股関節の疾患と症状がよく似ていて見過ごされがちです。長引く腰から臀部や脚の痛みや痺れは専門医にご相談ください。

社会福祉法人 聖隷福祉事業団 聖隷横浜病院
おおた みつとし
大田 光俊 先生
専門:脊椎
大田先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
釣りが趣味で、最近電動リールを買いました。昨年は、なかなか釣れない高級魚・アマダイの当たり年で大漁だったので、今年も期待しています(笑)。
2.休日には何をして過ごしますか?
休日はジョギングをしたり、愛犬を散歩させたりしています。湘南の海に沖釣りに行くこともあります。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. 今回は、先生のご専門である脆弱性骨盤骨折(ぜいじゃくせいこつばんこっせつ)について詳しくお伺いします。脆弱性骨盤骨折とは、どのような疾患なのでしょうか?
A. 骨粗しょう症によって骨がもろくなった状態で、立っている高さから転倒するなどのわずかな衝撃で骨盤が骨折する疾患です。「いつの間にか骨折」とも呼ばれますが外傷なく骨折を起こす場合もあり、「脆弱性骨折」(ぜいじゃくせいこっせつ)の一種になります。脆弱性骨折は、椎体(ついたい:背骨)や大腿骨、手首、腕の骨折が多かったのですが、10年程前から骨盤の骨折が注目されるようになり、患者さんが増えてきています。これまで骨盤骨折は見過ごされがちだったのですが、高齢化が進み、骨粗しょう症が進行した際に骨折するリスクがあるとわかってきたためと考えられます。
骨盤とは、仙骨(せんこつ)、腸骨(ちょうこつ)、恥骨(ちこつ)、坐骨(ざこつ)、尾骨(びこつ)を併せた巨大なリング状の骨の集合体で、身体を支える軸となります。私は脊椎外科医として脊椎を中心に診ていますが、骨盤の中でも仙骨に特に注目しています。仙骨は脊椎の土台となる骨で、骨折して少しずれるだけで神経障害が出るおそれがあり、場合によっては手術が必要になります。他の箇所の骨折も、症状によっては手術が必要です。


Q. 先生が脆弱性骨盤骨折の治療に力を入れるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
A. いくつかの病院で骨盤を骨折された高齢の患者さんを診てきましたが、当時、骨盤骨折は安静にして治すのが基本で、何年も痛みを我慢している方が多く、いつか手術でよくできるのではと考えたのがきっかけです。
Q. 脆弱性骨盤骨折では、どのような症状があらわれますか?
A. 骨盤が痛いと訴える患者さんはほとんどおらず、腰や鼠径部(そけいぶ:脚の付け根)や臀部(でんぶ:お尻)の痛みを訴える方が多いです。排尿障害があらわれることもあります。腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)などの腰椎疾患や股関節の疾患とよく似た症状がみられるので見極めが必要です。
Q. どうやって診断されるのでしょうか?
A. 腰やお尻が痛む場合、整形外科ではまず腰椎や股関節を調べます。そこで異常がみつからず、痛み止めを処方されて経過観察となり、骨盤付近の骨折は見過ごされているケースが多いのが実状です。なぜなら、仙骨など骨盤の後ろ側の骨折はレントゲンに写りにくいためです。最終的に痛みや痺れで動けなくなって救急車で搬送され、初めて脆弱性骨盤骨折とわかることもあります。脆弱性骨盤骨折の診断には、CTやMRIを用います。
Q. どのタイミングで受診すべきですか?
A. 腰が痛い、お尻が痛いといった症状があり、痛み止めを使って1~2週間症状が治まらないようであれば、骨盤骨折の診療をしている医療機関を受診していただくとよいでしょう。
Q. 脆弱性骨盤骨折の患者さんの傾向はありますか?
A. 骨密度は20代をピークとして加齢とともに減少していくので、患者さんは80代、90代の方がほとんどです。骨が弱い場合、50代、60代で治療が必要になることがあります。女性が圧倒的に多いです。
Q. どのような治療を行うのでしょうか?
A. 早期に発見できた場合は、まず痛み止めを使っての歩行訓練や、ご自宅のトイレやお風呂などの日常動作を想定した練習、筋力トレーニングを行います。以前は安静にして治すのが基本でしたが、高齢者の体力低下を防ぐためにも、現在は早期離床が推奨されています。もし発見が遅れて、強い痛みにより動けない期間が1週間以上続いた場合、MRI検査によって手術を行うか判断します。手術になるのは全体の1割程度という印象です。
Q. どのような手術になりますか?
A. 一般的には腸骨や仙骨、症例によっては恥骨をスクリューやプレートで固定する手術が多いです。他にも私は腸骨から仙骨までを脊椎用のインプラントで固定する手術を考案し、適用が合えば行っています。いずれも骨が弱い高齢者でも、手術後にインプラントが抜けたりゆるんだりするリスクが少ないのが特長です。また、低侵襲(ていしんしゅう:身体への負担が少ない)であり、通常は手術翌日から歩行訓練を開始できます。手術後はリハビリを続けていただき、退院までは1~2か月くらいが目安です。
Q. 退院後に、日常生活で気を付けるべきことはありますか?
A. 日常生活において動作の制限はありませんが、くれぐれも転倒には気を付けてほしいと思います。骨折箇所はインプラントでしっかりと固定されていますが、転んでしまうと周辺の他の骨を折るリスクがあるためです。
Q. 手術された患者さんからはどのような声が届いていますか?
A. 症状が改善され、「痛みが治まった」と喜んでいただいています。
Q. 脆弱性骨折を起こさないように心がけるべきことはありますか?
A. 骨粗しょう症を防ぐことが大切です。そのために、栄養バランスのとれた食事と適度な運動、日光浴を心がけましょう。女性は閉経すると骨密度が一気に下がるので、その前に骨密度検査を受けて、必要に応じて骨粗しょう症の治療を始めるとよいでしょう。
Q. 先生は骨粗しょう症を防ぐ取り組みを行ってらっしゃるそうですね?
A. はい。高齢の方向けに骨粗しょう症の啓蒙活動を行っていますが、子どものうちから外遊びなどで骨を鍛えることが大事と考え、最近は栄養士や理学療法士、看護師などと連携して小中学校への訪問授業も行っています。
Q. 骨粗しょう症を予防して、これまで見過ごされがちだった脆弱性骨盤骨折の治療もできれば、健康寿命を延ばすことが期待できそうですね。
A. はい。10年ぶりに改訂された「骨粗しょう症の予防と治療ガイドライン2025年版」では、骨粗しょう症を基盤とした脆弱性骨盤骨折が増加していると明言されました。これまでも骨盤骨折を見過ごされてきた患者さんは多かったと思うので、正しい診断につなげられるよう、幅広く啓蒙活動に取り組んでいきたいと思います。
リモート取材日:2025.11.28
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。



先生からのメッセージ
脆弱性骨盤骨折(ぜいじゃくせいこつばんこっせつ)は、腰椎疾患や股関節の疾患と症状がよく似ていて見過ごされがちです。長引く腰から臀部や脚の痛みや痺れは専門医にご相談ください。