先生があなたに伝えたいこと
【飯沼 雅央】高齢の方にもより安全に手術を行えるように、内科の先生や特定看護師、栄養士など多職種と連携してサポートしています。 【町田 慎治】手術前から栄養面で介入することで、術後の早期回復を目指しています。 【山城 菜那】患者さんが退院後に目指す姿になれるように、栄養面、生活面でのアドバイスを行っています。

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
いいぬま まさひろ
飯沼 雅央 先生
専門:脊椎
飯沼先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
子どもの成長です。小2の息子がどんどんゲームがうまくなっていて、ついにこの前初めて負けてしまったのがくやしいです(笑)。
2.休日には何をして過ごしますか?
病院にいることが多いですが、家にいるときはできるだけ家族と過ごすようにしています。

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
まちだ しんじ
町田 慎治 先生
専門:内科
町田先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
目の健康です。読書が趣味なので、目が悪くならないように過ごすことを意識しています。
2.休日には何をして過ごしますか?
2歳の娘がいるので、家族と過ごす時間を大切にしています。

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
やましろ なな
山城 菜那 さん
専門:栄養管理(整形外科付特定看護師)
山城さんの一面
1.最近気になることは何ですか?
ひいきにしている川崎のサッカーチームの、次の試合のスターティングメンバーが気になります。
2.休日には何をして過ごしますか?
試合のスケジュールに合わせて有給を取ってサッカー観戦をしています。最近は韓国や北海道、佐賀に行ってきました。
Q. 近年は健康寿命を延ばすために、外科手術を受けられる高齢の患者さんが増えているそうですね?
A. 飯沼先生:はい。当院で手術を受けられる方の平均年齢は70代ですが、80代以上の方が約3割です。90代でも「100歳まで自分の脚で歩きたい」と手術を希望される方もいらっしゃいます。20年前なら80代の方が手術することは考えられませんでしたが、大家族から核家族になり、今は独居の高齢者が増えてきました。介護の手が減ってきている現状で、高齢の患者さんでも手術が受けられるように、低侵襲(ていしんしゅう:身体への負担が少ない)手術が普及してきました。具体的には、以前は大きく背中を切って手術をしていたのが、小さな傷で手術をすることが可能になり、以前より短時間で出血も少なく手術ができるようになりました。
Q. 高齢で手術が必要になる脊椎の疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?
A. 飯沼先生:多くが脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や圧迫骨折です。脊柱管狭窄症は加齢にともない、背骨や関節が変形したり、背骨の中の靭帯(じんたい)が肥厚(ひこう:分厚くなること)したりすることで、神経の通り道が狭くなり、痛みや痺れが起こる疾患です。圧迫骨折は「いつの間にか骨折」とも呼ばれます。主に骨粗鬆症(こつそしょうしょう)に起因し、骨がもろくなっていることで、くしゃみなどのちょっとした衝撃で骨が潰れてしまう疾患です。
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Q. どんな手術になりますか?
A. 飯沼先生:神経が圧迫されて症状が出ている場合は、神経を圧迫している骨や靭帯を削って取り除く「除圧(じょあつ)術」が基本です。高齢者の場合は、背骨が変形している場合があるので、ロッドやスクリューで脊椎を安定させる「固定術」を行うこともあります。圧迫骨折では、身体の支柱である背骨が壊れているので、それを治すためにセメント治療や固定術を行うことが多いです。
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Q. どのような状態になれば手術すべきですか?
A. 飯沼先生:麻痺や排尿障害が起こる場合には早急に手術を勧めますが、迷っている方に手術を勧めることはありません。ご本人やご家族の意思決定があってこその手術です。手術後にはリハビリも頑張っていただかないといけないので、日常生活でどれくらい困っているかをお聞きして、「手術してでも動けるようになりたい」と決断された場合に、手術を行います。
Q. 高齢者が手術を受けるときの問題点は何でしょうか?
A. 飯沼先生:高齢の方は体力が落ちているので、手術後に身体の調子を崩すことがあります。たとえば、腎機能の低下や低栄養が懸念されます。また、低侵襲手術が普及したとはいえ、手術をする以上合併症が起こる可能性はゼロではありません。まして高齢の方は若い方に比べて骨が弱く、筋力が少なく、持病がある場合や、栄養状態も悪い場合が多いです。術後の回復には栄養状態が重要ですが、術後に栄養状態は悪化する傾向があります。実際に当院で脊椎手術を受けた患者さんのうち、2~3割程度の方が手術前から低栄養と診断され、術後には9割以上の方が低栄養になってしまいます。そのため、手術前から内科の先生や看護師と連携して、栄養介入によって手術後の合併症を減らし、術後の回復を早めようという取り組みを行っています。
Q. 栄養介入について、詳しく教えてください。
A. 飯沼先生:骨を強くするのにも、筋肉をつけるのにも栄養が非常に重要です。ですから、脊椎の手術が決まった患者さんには、できる限り術前からNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)に介入してもらいます。NSTとは、患者さんそれぞれに合った栄養管理を提供するチーム医療のことです。栄養状態の評価や栄養摂取の状況・筋肉量などを計測し、その人に合った栄養指導などを行っています。
町田先生:具体的には、院内の腎臓ケア・サポートセンターにある「腎サポート外来」で栄養障害やサルコペニア(筋肉が減り、筋力や身体機能が低下した状態)の診断を行います。サルコペニアを改善するには、適切な運動と食事が重要です。必要に応じて栄養指導を行い、手術によって痛みが和らいだらリハビリで筋力トレーニングを行っていただき改善を目指します。
山城さん:栄養状態が悪いとリハビリが進まず、回復も遅くなってしまいます。看護師として、低体重や食が細い患者さんは低栄養のリスクが高いと判断して気をつけて診ています。食事が満足に摂れない方には、その方にとって食べやすいものを栄養士と共に情報収集し、町田先生とも相談しながら、食事提案を行っています。
Q. 脊柱管狭窄症と圧迫骨折では、栄養介入の進め方に違いはありますか?
A. 飯沼先生:どちらも術前からの栄養介入を行っていますが、介入開始のタイミングに違いがあります。脊柱管狭窄症などで手術の予定が決まっている患者さんは、術前から計画的に栄養介入します。即日入院が必要な圧迫骨折の場合は、骨がもろい状態であることから脊柱管狭窄症の患者さんと比べて低栄養のリスクが高いですが、事前の介入は不可能なので、入院後から栄養介入します。いずれの場合も、術後も必要に応じて継続的に介入します。
Q. 多職種連携による栄養介入の取り組みについて詳しく教えてください。
A. 飯沼先生:NSTや腎サポート外来、看護師のサポート、リハビリスタッフと連携して、患者さんの栄養・体力の回復を総合的にサポートしています。外科医は病棟を不在にすることも多く、小さな内科的な変化に気づかないこともあるため、山城さんのような特定看護師(あらかじめ受けていた指示に従い、医師の判断を待たずに、一定の医療行為ができる看護師)の力が大きいです。特定看護師が病棟での患者さんの様子をみて、内科の先生とも連携してくれるおかげで、適切なタイミングで治療介入することができています。
日本では、平均的な健康寿命と寿命の差が10年程度あります。高齢化社会で介護を担う人手不足が予想される中で、健康寿命を延ばすことは重要な課題です。若い人が手術後早期に社会復帰できるのに対し、高齢者の場合、筋力などが元の状態に戻るには1年程度かかるとの報告もあります。そこで、術後の回復を少しでも早めるため、栄養管理に詳しい特定看護師の山城さんや、内科の町田先生や病棟の栄養士、リハビリスタッフとも連携する流れをつくりました。これまで、整形外科の領域で栄養管理の体系的な取り組みは限定的でしたが、近年栄養介入が重視されており、当院では積極的に取り入れています。
町田先生:介護が必要になる前に栄養状態や筋肉量などを測定し、術前から退院後まで総合的にサポートすることを目指しています。整形外科的な症状は飯沼先生に、病棟での様子は山城さんに診ていただき、私は内科医として、手術後の患者さんの人生がよりよくなるように、トータルマネージメントすることを考えています。
山城さん:手術後に帰宅した時に困らないように、患者さんの身近にいる看護師として困っていることを聞き、できるだけ元の生活に戻れるようサポートしています。
飯沼先生:この取り組みは5~10年といった長い目で見る必要がありますが、少なくとも当院では、以前より術後や入院中に大きく体調を崩す人が減ったと感じています。
Q. 痛みに悩んでいる高齢の患者さんたちに、メッセージをお願いします。
A. 飯沼先生:高齢の方の手術は若い人と比べて回復に時間がかかりますが、術式の進歩で「年だから」という理由であきらめる時代ではなくなっています。まずは、よくなりたいという気持ちが一番です。手術後も多職種で協力してサポートするので、前向きにリハビリを頑張って、色んなことに挑戦してほしいと思います。手術を通じて、できなかったこともできるようになっていただけることを願っています。
町田先生:高齢の方は若い方と比べて身体に不調を抱えがちですが、整形外科の先生や特定看護師などのチームでサポートしながら診ていきます。不安なことがあれば相談してください。また、退院後は半年に一度程度は病院を受診していただき、筋肉量も計測して体力回復へのモチベーションにつなげていただければと思っています。
山城さん:入院中は先生の不在時にも患者さんが安全に過ごせることを第一に、小さな変化を見逃さず、患者さんに何ができるかを考えながら看護にあたっています。患者さんが退院後に目指す姿になれるようお手伝いできればと思っています。
リモート取材日:2025.9.8
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。



先生からのメッセージ
高齢の方にもより安全に手術を行えるように、内科の先生や特定看護師、栄養士など多職種と連携してサポートしています。(飯沼 雅央先生)
手術前から栄養面で介入することで、術後の早期回復を目指しています。(町田 慎治先生)
患者さんが退院後に目指す姿になれるように、栄養面、生活面でのアドバイスを行っています。(山城 菜那さん)