先生があなたに伝えたいこと
【竹村 健一】股関節疾患の治療では、患者さんのお困りごとやご要望をよくお聞きし、ニーズに合った治療法をご提案しています。

社会医療法人令和会 熊本リハビリテーション病院
たけむら けんいち
竹村 健一 先生
専門:股関節
竹村先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
犬を飼うことに関心を持っています。犬種や飼育しやすさなどを調べ、きちんとお世話ができるかを家族で考えたいと思っています。
2.休日には何をして過ごしますか?
マラソンが趣味です。今はサブ3.5※限定のマラソン大会に向けてトレーニングしています。最近は自然の中を走るトレイルランニングにも出場しています。
※フルマラソンを3時間30分未満で走り切ること。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. 股関節の構造について教えてください。
A. 股関節は、骨盤の臼蓋(きゅうがい)と呼ばれる窪みと、大腿骨頭(だいたいこっとう)と呼ばれる球状の骨が組み合わさった球関節です。大腿骨頭にかぶさっている臼蓋の屋根部分は、大腿骨頭の約80%~90%を覆っている状態が正常とされています。股関節は身体の中心に位置する非常に重要な関節で、歩行時には体重の3~4倍の力が加わるといわれています。そのため、股関節の周囲は強い筋肉や靱帯(じんたい)で支えられ、安定性を保っています。

Q. 代表的な股関節の疾患を教えてください。
A. 日本人女性に多いといわれているのが、臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)です。先天的な骨の形態異常で、臼蓋の屋根部分の大きさが小さく、大腿骨頭を覆う割合が75%以下となっている疾患です。この「かぶり」が浅いため股関節に負担がかかりやすく、臼蓋形成不全から変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)に進行することがあります。
ほかにも、大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)というものもあります。ステロイド薬の長期・高用量の使用や多量の飲酒、外傷などによって、大腿骨頭部分に栄養障害が起こって骨の組織が徐々に壊死してしまう疾患です。こちらも骨の変形が大腿骨頭から臼蓋にまで進んでいくと、変形性股関節症になることがあります。



Q. 変形性股関節症は、別の疾患から進行して起こるのですか?
A. 特に疾患がなくても加齢に伴って骨の変形が起こってくるケースもあり、その場合は一次性変形性股関節症といいます。一方で、先に申し上げたような、ある疾患に起因して股関節が変形していく場合は、二次性変形性股関節症といいます。日本では二次性が多いことが知られています。
Q. 変形性股関節症は、どのような方に多くみられますか?
A. 臼蓋形成不全が女性に多くみられることから、変形性股関節症の患者さんも女性の割合が高いです。70代前後から進行しはじめ、来院されるのは70代後半から80代の患者さんが中心です。長寿社会の今、80代~90代でも手術を受けて治療をされる方が増えてきています。
Q. 症状について教えてください。
A. 最も多いのは、歩行時に生じる股関節の違和感や痛みです。初期の変形性股関節症では、椅子から立ち上がるときやベッドから起き上がるとき、車の乗り降りをするときなどに痛みが出るケースが多いです。変形性股関節症が進行すると、クッションの役割をもつ軟骨がすり減ってしまうため、軽微な動きでも骨同士がぶつかることで痛みが出てきます。
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Q. 診断方法についても教えてください。
A. まずは痛みの出ている期間を確認します。股関節の違和感や痛みで受診される患者さんで、2週間程度で症状が落ち着いてくる場合は、筋肉や靱帯の傷みが原因となっていることが多いです。しかし、痛みが1カ月以上続いている場合は、初期の変形性股関節症になっている可能性が高いため、レントゲン検査で診断します。
レントゲン検査で確認するのは、骨と骨の間のすき間です。軟骨は骨と骨のすき間にあるので、すき間がいびつな形状になっていないか、左右ですき間の大きさが違っていないかを確認し、軟骨のすり減り具合から変形性股関節症を診断します。
Q. どのように治療するのですか?
A. 変形の進行度合いによって治療方法は異なりますが、基本的には保存的治療から始めます。例えば薬物療法では、急性期(症状が急に現れ始める時期)には炎症や痛みを抑える消炎鎮痛剤を用い、慢性期(症状が落ち着き安定した状態が続く時期)には鎮痛剤や湿布薬などで痛みを緩和します。それと並行して、ストレッチや簡単な筋力訓練などの運動療法も行います。
また、股関節にかかる荷重を軽減するために杖を使ったり、体重コントロールをしたりすることも重要になります。ご自身で減量が難しい場合は入院していただいて、体重コントロールをしていく場合もあります。
Q. 運動療法によって症状が緩和されることもありますか?
A. 股関節を動かし過ぎると骨に負担がかかりますが、貧乏ゆすりのような細かい持続的な運動を行うと、股関節まわりの固まっていた筋肉が柔らかくほぐれます。それによって痛みが軽減し、股関節を動かしやすくなることで、変形の進行を遅らせる可能性があります。ほかにもヨガのポーズなどで、股関節の可動域が改善されることもあります。
また、臼蓋形成不全の患者さんは、直立すると臼蓋の屋根部分が一番小さくなっている箇所に負担がかかります。そこで、脚を広げて立つようにすると負荷のかかるポイントをずらして痛みを軽減させることができます。そうした生活指導も行っています。
Q. 変形性股関節症の手術の考え方について教えてください。
A. 変形が進行している場合は、いずれ手術になる可能性が高いですが、多くの方にとって手術を受け入れる決断は簡単ではないと思います。そのため、できるだけ手術を先延ばしにするために保存的治療を続ける場合もあります。
レントゲン検査で変形が強い場合でも、患者さんご自身があまり痛みを感じておられない場合は、強く手術を勧めることはありません。一方で、日常生活に支障が出るほどの強い痛みや歩行障害がある場合は、手術をお勧めしています。
保存的治療を継続しても、あまり治療の効果が感じられない方や、もっと自由に動きたいという方は、外来診療を続けていく中で徐々に手術を検討されるケースが多いです。その際は、手術における合併症の可能性をしっかりと説明するとともに、手術は痛みを軽減し、痛みでできなかったことをできるようにするための選択肢の一つであることをお伝えしています。最終的には患者さんに決断していただいています。
Q. どのような手術になりますか?
A. 人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)です。傷んだ部分を取り除き人工物(インプラント)に置き換える手術です。手術の進め方は医師によって異なりますが、大腿骨頭を切除し、大腿骨の中にステムという金属を入れて骨頭ボールを取り付けます。さらに臼蓋のほうにはカップを設置し、そこに軟骨の代わりになるポリエチレンライナーを装着し、骨頭ボールをはめ込みます。インプラントにもいろいろな種類があるため、患者さんの年齢や骨の状態に合わせて最適なものを選んでいます。
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Q. どのようにインプラントを選択されているのですか?
A. インプラントには大きく分けて2種類あり、インプラントを骨に固定するために骨セメントを使用するタイプと、骨セメントを使用せず、インプラント表面にある特殊な加工により、直接骨と固定するタイプがあります。最近のインプラントは性能が向上し、骨との結合性が高まっています。そのため、多くの場合は骨セメントを使わずに固定できるタイプを使っています。しかし、ご高齢の方で骨が弱くなっている場合は、インプラントが骨にしっかり固定できない可能性があるため、骨セメントを使うタイプを選択することもあります。
Q. 手術の進め方が医師によって異なるという点について教えてください。
A. 股関節に進入するアプローチ法が複数あるのですが、医師によって選択が異なります。私は主にALS(前側方侵入法)を取り入れています。多様な症例に適応できる、つまり最も汎用性が高く、上下方向ともに皮膚の切開範囲を広げやすいと考えているからです。また、筋肉をほとんど損傷せずに手術ができるため、筋肉を切開するアプローチ法よりも術後の筋力低下を抑えられることがメリットです。視野が狭い術式なので熟練した手技が求められますが、患者さんの身体にかかる負担が軽減でき、早期回復に貢献できます。
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Q. 以前と比べて、手術の進め方に変化はありますか?
A. 近年、ナビゲーションシステムというものが発達しています。人工股関節置換術で最も重要なのは、正しい角度でインプラントを設置することです。インプラントの設置角度が正確ではない場合は、徐々にインプラントがゆるんでしまい、再置換術(さいちかんじゅつ:人工関節を入れ換える手術)が必要になることもあります。
以前は、医師の経験やレントゲン画像の計測に基づいて手術を進めてきました。ナビゲーションシステムを使うことで手術中にリアルタイムで設置角度を確認できるため、より正確にインプラントが設置できるようになりました。
当院では、簡易的なナビゲーションシステムを導入しています。患者さんの骨盤にナビゲーションシステムが読み取る目印のピンを立て、骨盤の形を読み取ると、設置角度を測定してくれます。感覚と経験だけではなく、数値情報も見ながら総合的に判断し、手術を行っています。
Q. 術後の流れについても教えてください。
A. 大体のケースでは手術の翌日からリハビリを行い、歩行練習も行っています。股関節に体重をかけたときの痛みは術後すぐに軽減することが多いですが、創(きず)の痛みの感じ方は患者さんによって個人差があります。そのため痛みに応じてリハビリを進めます。
術後に寝たきりの状態が長くなると筋力が低下するだけでなく、精神面に影響を及ぼすこともあります。手術の翌日から動くことができれば、気分も食欲も落ちにくく、リハビリがスムーズに進められるメリットがあります。
人工股関節置換術を受けた患者さんの多くは、「手術してよかった」と笑顔でおっしゃられます。股関節の動きが良くなることで姿勢が良くなり、まっすぐ前を向いて歩けるようになり、歩き方に自信がついてくるようです。
Q. よくわかりました。では最後に、先生が診療において心がけていることを教えてください。
A. できるだけ患者さんのニーズに沿った治療をしたいと考えています。手術に踏み切れない患者さんに対しては、保存的治療でいかに改善をはかるかを第一に考えています。手術が必要になった場合は、患者さんやそのご家族としっかり話し合って、適切な時期や入院期間などを検討していきます。不安を抱えたまま手術を行うと、術後の回復にも影響することがあるので、しっかりと納得していただき安心して手術に臨めるようにしています。
リモート取材日:2025.9.19
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。



先生からのメッセージ
股関節疾患の治療では、患者さんのお困りごとやご要望をよくお聞きし、ニーズに合った治療法をご提案しています。