先生があなたに伝えたいこと
【今林 英明】患者さんがよりよい生活をするために我々は治療、手術をおこなっています。【細金 直文】常に治療に全力をかけて患者さんと喜びを分かち合いたいですね。
防衛医科大学校病院(現 社会福祉法人 恩賜財団 済生会支部東京都済生会 東京都済生会中央病院 整形外科 部長)
いまばやし ひであき
今林 英明 先生
専門:脊椎(低侵襲手術、感染症)
今林先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
防衛医科大学校病院は自衛官である医官の教育・研修の病院です。自衛隊医官が日本そして世界の方々に貢献するためどのような教育・指導ができるのか、いつも気にしています。
2.休日には何をして過ごしますか?
犬を2匹飼っていますので、妻と二人で犬を連れて山にハイキングに行くのが楽しみです。
防衛医科大学校病院(現 杏林大学医学部付属病院 整形外科 教授)
ほそがね なおぶみ
細金 直文 先生
専門:脊椎脊髄疾患・脊柱変形(側弯症)
細金先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
アメリカの大統領が変わって今後の世界情勢がどうなるのか、とても気になります。
2.休日には何をして過ごしますか?
趣味は自転車なので、休日は早朝に山の方までサイクリングに出かけます。
変性側弯症について
Q. 変性側弯症(へんせいそくわんしょう)についてお伺いします。これはどういう病気なのでしょうか?
細金先生:お年とともに腰痛を伴って背骨が曲がり、まっすぐな姿勢がとれなくなる病気です。正面から見て背骨が横に曲がるのを側弯症、前に曲がるのを後弯症(こうわんしょう)といい、合わせて変性後側弯症(へんせいこうそくわんしょう)と呼びます。最近では成人脊柱変形という名称も使用されます。
Q. その原因は?
今林先生:やはり年齢が一番大きな要素です。だんだんと背骨や椎間板(ついかんばん)が傷んできて曲がっていきます。思春期に発症するものや背骨の骨折に伴うものもあります。股関節疾患などに起因する脚長差(きゃくちょうさ)という、左右の脚の長さが違っている場合、それをカバーするために骨盤が傾いたり背骨が曲がってしまうこともあります。
Q. 変性側弯症の患者さんはどのような特徴があるのでしょうか?
今林先生:女性に多く、年齢とともに徐々に増えてきます。60歳代を過ぎた頃から症状が強くなり受診される方が多いです。腰に痛みや疲労感など様々な症状を伴い、悪化すると背骨の変形のために体幹が前や横に傾いていき日常生活にも支障を来します。
細金先生:高齢になるにつれて増えていき60歳代以降は1~2割程度の方に軽度な変形が見られるともいわれております。背中や腰に違和感が出て外来受診され、レントゲンを撮って変性側弯症と判明する方も多くいらっしゃいます。
Q. 変性側弯症の治療方法について教えてください。
今林先生:原則として、まずは疼痛(とうつう)コントロールのための薬剤治療やリハビリテーションなどの保存治療が基本となります。最近では優れた血管拡張薬が登場し、脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)を伴っていても、その投与により症状が改善する方もいます。慢性的な腰痛や神経障害性疼痛を伴う方にはそれに効く投薬が基本となります。
細金先生:変性側弯症で、外来受診されて早急に手術となる方は多くありません。最初の診察だけではわからないこともありますので、何度か受診していただいてどのような症状でお困りなのか、その症状は変性側弯症が原因となっているのかなどを把握していきます。場合によっては検査入院を行うこともあります。いずれにしても薬などに対する反応性を見ながらの保存治療が基本となります。
今林先生:骨がもろくなっている患者さんには、症状を悪化させないために骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の進行を妨げる薬を使用することもあります。
Q. 診察では患者さんにどのような問診をされるのでしょうか?
今林先生:まずは日常生活の何が一番困っているのかお話ししていただいています。たとえば、歩かなければ症状が出ないという方もいます。どんな時、どんな動作をしたら痛みが出るのかをお話しいただければ、具体的な対処方法が絞られるのです。
Q. 変性側弯症の手術に踏み切るタイミングは?
細金先生:手術に踏み切る基準がなかなか決められないのがこの疾患の特徴です。また、手術といっても、非常に小さな部分だけで対処できる場合もあれば、広い範囲を大きく切開する手術が必要となる場合もあります。一概にこの症状では手術が必要で、この症状では手術は不要という明確な基準はありません。個々の患者さんに応じてケースバイケースの判断となります。一般的に歩いていると徐々に体が前や横に傾いてきてしまい、杖やシルバーカーなどにつかまらないとならない場合や、膝に手をついていないと立っていられなくなるような場合は広い範囲の手術を検討することになります。画像的な所見だけでなく、患者さんの症状、患者さんがこれらの症状でどの程度お困りか、また治療に対する意欲や家族など周囲のサポートなどを総合して手術の選択肢を検討することになります。
今林先生:特に大きな手術では、ご本人だけでなく家族のご理解もいただいた上での決断となります。
Q. 手術の方法について教えてください。
今林先生:変性側弯症を伴っていても脊柱管狭窄症(神経が骨や靭帯などで圧迫されて下肢の痛みやしびれが生じる疾患)のみを治療すると判断した場合は顕微鏡を使うなどして比較的侵襲の小さい手術を選択しています。それでは対応できない変形を伴うものは、スクリューなどで矯正し固定する手術となります。
細金先生:背骨の大きな変形は見た目の問題だけでなく、先程お話ししたような日常生活に支障を来すことがありますし、また変形がひどくなると内臓疾患を併発させてしまう可能性がありますので、背骨を矯正する手術が必要となるのです。
Q. 変形を矯正する手術で何か工夫をしている点などはありますか?
細金先生:変形を矯正する手術は体への負担が大きくなってしまうことが問題の一つです。我々は少しでも体への負担を軽くするためにLateral interbody fusion (LIF)という術式を取り入れております。これは2013年から本邦に導入された術式で、側方(脇腹)からの切開で椎間板を人工骨、自家骨に置換することができ、従来の方法よりも体への負担を減らしつつも変形の矯正にはより有利な方法です。ここでは早期より導入し良好な治療成績を挙げています。
Q. 入院期間、リハビリについて教えてください。
今林先生:入院期間は疾患にもよりますが、一般的に3週間から1ヵ月です。リハビリは術後にコルセットを着用して、できるだけ早期から行います。
細金先生:リハビリは退院後も、はじめのうちは平地をできるだけ歩くように指導しています。骨がつくまで3ヵ月から半年近くかかりますので、それまでの間少しずつ歩く距離を延ばします。
Q. ゴルフやスポーツはできますか?
細金先生:半年間は歩行や水中歩行だけで、その他のスポーツは避けていただきます。それ以降の患者さんの状態、レントゲンの所見などを診て段階的に許可しています。手術の内容にもよりますが、1年間順調に回復すれば、ゴルフなどができる方もいます。
Q. 手術に年齢的な制限はあるのでしょうか?
今林先生:これも疾患によります。大きな手術が必要な場合は、やはり年齢的、体力的な制限がありますが、侵襲の少ない手術であれば、ご高齢の方でも手術を検討しております。
Q. 受診するタイミングは? どのような症状があれば受診するべきでしょうか?
細金先生:患者さんご本人が変性側弯症による症状があるのかどうかを判断するのは難しいかもしれません。背骨の変形を自覚したり、さきほど挙げた症状などがあり、日常生活に制限がでてきて、自分のしたいことができなくなってきたりしたら、整形外科を受診してみてください。
今林先生:辛い腰痛があって日々その痛みを我慢されているのなら、受診するタイミングだと思います。受診が遅れて症状が進行したり年齢が高くなると、治療の選択肢が少なくなってしまう可能性があります。
Q. 術後の見た目は良くなりますか?
今林先生:体幹に変形があって実際に手術をされた方にお伺いすると、やはり立ち姿、歩く姿が良くなって大変満足されています。患者さんがより良い生活をするために我々は治療、手術をおこなっています。患者さんの日常生活の質を向上させることが治療の目標なのです。
細金先生:固定を伴う大きな手術の場合は、姿勢は矯正しますが、背骨を固定するために若干、体を曲げにくくなってしまい日常生活に一部制限もでてきます。そういった制限がでることを手術前にきちんと説明して、患者さんや家族に理解していただくようにしています。重度の変形があった方で、手術後に背筋がまっすぐになって歩きやすくなったり身長も伸びたりと喜ばれる患者さんを見ると、私も嬉しくなります。
Q. 手術後に注意すべき点はありますか?
細金先生:最初の1年間は骨が完全についていない可能性がありますので、その時期に無理をしないようにしてください。コルセットを着用し、特に体を前に曲げない、前かがみにならないようにします。なるべく姿勢を良くして日常生活を送っていただきます。
Q. 先生方が整形外科医を志された理由がありましたら教えてください。
今林先生:整形外科は患者さんの日常生活をいかにやりやすくさせるか、動きやすくさせるかがその特徴だと思います。患者さんの身近な生活の質を向上させることができるのが理由です。
細金先生:整形外科の患者さんは治療の効果がはっきりでます。お困りのことが短期間に改善されるのが魅力で興味がありました。もちろん、すべての患者さんが必ずしも良くなるとも限りませんし、合併症などの心配もありますが、常に治療に全力をかけて患者さんと喜びを分かち合いたいですね。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2016.12.28
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
患者さんがよりよい生活をするために我々は治療、手術をおこなっています。(今林先生)
常に治療に全力をかけて患者さんと喜びを分かち合いたいですね。(細金先生)