先生があなたに伝えたいこと / 【森 弦】椎体骨折には、骨粗しょう症によるものや神経障害を引き起こすものなどがあり、症例によって治療法が異なります。

先生があなたに伝えたいこと

【森 弦】椎体骨折には、骨粗しょう症によるものや神経障害を引き起こすものなどがあり、症例によって治療法が異なります。

日本赤十字社 京都第一赤十字病院 森 弦先生

日本赤十字社 京都第一赤十字病院
もり げん
森 弦 先生
専門:脊椎脊髄

森先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 脊椎治療の分野は、新しい技術や器械がどんどん生まれ、著しく進歩しています。学会や勉強会などで情報収集し、新しい知見を得ることに面白さを感じています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 昨年、子どもが生まれてからは、休日の過ごし方が大きく変わりました。家族で散歩したり、買い物に行ったりすることが多いです。

先生からのメッセージ

椎体骨折には、骨粗しょう症によるものや神経障害を引き起こすものなどがあり、症例によって治療法が異なります。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 脊椎の骨折には、どのような種類がありますか?

A. 主なものとして骨粗しょう症性椎体骨折(こつそしょうしょうせいついたいこっせつ)があげられます。いわゆる圧迫骨折という高齢女性に多くみられるもので、骨粗しょう症によって骨が弱くなり骨がつぶれるような骨折です。学会では圧迫骨折ではなく椎体骨折と呼びますが、患者さんにお伝えするときは、わかりやすく圧迫骨折という名称を使っています。このほかの脊椎の骨折としては、交通事故などによる外傷として起こるものがあり、脱臼骨折といってずれるようにして起こる骨折もあります。

圧迫骨折(椎体骨折)

Q. 骨粗しょう症に伴って起こる骨折があるのですね?

A. 女性は閉経後に骨がどんどん弱くなり、転んだだけで骨折することがあります。「知らぬ間に骨折」といって気づかないうちに骨折が起こっていて、レントゲン検査で初めて気づく方もおられ、これまでケガをしたかをお聞きしても覚えておられないケースもあります。ケガをしたときは多少の痛みは感じていて、ご本人はぎっくり腰だと思い込んでいたということもあります。

Q. レントゲン検査で診断がつくのですね?

A. 椎体骨折は椎体の前側がつぶれるので、時間の経過とともに治癒した場合は、少しつぶれた状態で骨が固まってしまいます。そのため、正常な骨より高さが低くなっているので、レントゲン画像から過去に骨折があったことが判断できます。どの時期に起こったのかまではわかりにくいですが、痛みを感じたタイミングやMRI検査などで判断します。骨粗しょう症性椎体骨折は、圧倒的に高齢女性に多くみられますが、高齢男性で注意すべきなのがDISH(ディッシュ)を伴った骨折です。

Q. DISHとは何ですか?

A. びまん性特発性骨増殖症(びまんせいとくはつせいこつぞうしょくしょう:Diffuse Idiopathic Skeletal Hyperostosis)という病態です。本来は可動性がある椎体のまわりに骨組織ができて固まることで、椎間板の可動性がなくなるものです。胸腰椎(きょうようつい)のほかに頚椎(けいつい)でも起こります。ご高齢の肥満の方で首を後ろ向きに回せない方がよくおられると思いますが、DISHの可能性があると思われます。その原因には肥満や糖尿病、高尿酸血症も関連しているといわれています。DISHがあると可動性の低下はありますが、特にそれ自体が痛みなどの症状をきたすわけではありません。ただ、DISHのある方が骨折を起こすと治療が複雑になります。

日本赤十字社 京都第一赤十字病院 森 弦先生Q. DISHは簡単に診断がつきますか?

A. DISHと症状が似ているものとして、あまり多くはみられませんが強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)という炎症性の疾患があります。見分け方は、レントゲン検査での骨の付き方や骨盤にある仙腸関節(せんちょうかんせつ)が、くっついているか否かに加え、血液検査などによって診断します。強直性脊椎炎の場合は内科的な治療が必要になるため、慎重な診断が求められます。

Q. DISHと診断がついた場合、骨折するとどうなるのですか?

A. 本来は動くはずの背骨が動かないので、そこに大きな力が加わると折れてしまいます。そうすると、腕や脚と同じような1本の骨に起こった骨折と同様になり、骨折した箇所に大きな力が集まることで痛みが強く出るうえに、骨が癒合しにくくなります。そして徐々にぐらつきが出て、背骨の中を通っている神経を刺激し神経障害が出ることがあります。最近はそうした患者さんが増えていることから、早期に脊椎を固定する手術を行うことが一般的になってきています。

Q. 一般的に、脊椎の骨折はどのように治療するのですか?

A. 原則的には保存治療となり、コルセットを装着して安静にし、自然に骨が癒合するのを待ちます。一方で、待っていても骨がくっつかず偽関節(ぎかんせつ:本来つながっている骨が癒合せずに関節のようになる状態)になってしまう場合もあります。こうした不安定性がある予後不良の場合、椎体の後ろ側の骨もつぶれてきて神経を圧迫し、足にマヒが出てくるというケースも一定数あります。そうなると、大きな手術が必要になるため、そうなってしまう可能性を事前に見きわめることが重要になります。そこで、最近は研究が進み、椎体骨折と診断した時点で、場合によってはMRI検査を行い、自然に骨が癒合しやすいか否かを予測できるようになりつつあります。骨が癒合しにくい画像所見がある場合は、早期に手術を行う流れになってきています。
現在、最も多い大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折では、早期に手術をして動かすほうが生命予後(手術経過において、生命が維持できるかどうかの予測)が期待できるという考えがスタンダードになっており、椎体骨折も同様の考え方になりつつあると感じています。

Q. どのような手術になりますか?

A. 椎体骨折の手術には種類があり、不安定性があって神経障害が出ている骨折に対しては、ロッドとスクリューで椎体を固定する固定術を行います。より体への負担が軽い手術として、骨折した椎体の中に骨セメントを注入し、それ以上椎体がつぶれないようにするBKP(Balloon Kyphoplasty:経皮的椎体形成術)があります。こちらは、スクリューで固定するよりもはるかに小さい創で手術ができます。しかし、骨がどんどんつぶれて不安定性が強くなっている症例だと、骨セメントを注入しても抜けることがあるので、そうなる前に早期にBKPを行うほうが重症化しにくいと報告されています。状態が悪くなる前に、より早く、より小さい手術で対応しようという考え方です。

固定術の例

BKP(経皮的椎体形成術)

BKP(経皮的椎体形成術)

Q. DISHを伴う骨折の場合は、固定術が必要なのですか?

A. そうです。通常の椎体骨折で固定術を行う場合はスクリューを脊椎の両側から2本ずつ入れますが、DISHの場合は骨折部に大きな力が加わるため、より広い範囲を固定する必要があり、3本ずつ入れます。この手術のやり方も最近は進歩しており、癒合している骨に対して椎間板(ついかんばん)を貫くように斜めにネジを入れるというDEPS法などと呼ばれる手技があります。このやり方だと引き抜き強度が高まり、場合によっては2本ずつのスクリューで固定できる場合もあります。

Q. スクリューの本数が多くなると、身体への負担も大きいのですか?

A. 侵襲(しんしゅう:身体にかかる負担)が大きくなるだけでなく固定範囲が広がると感染やスクリューの緩み、神経損傷などの合併症も増える傾向があるので、固定範囲は狭いのが理想的です。ただし、安定性が確保できなければ意味がないので、見きわめが重要になります。そこで、スクリュー1本1本の固定性を上げることで、創を小さくして固定範囲を狭くするという手技が取り入れられているのです。

Q. よくわかりました。手術後の流れについても教えてください。

A. 昔は、ご高齢の方がこうした脊椎の手術を受けると術後1週間は寝たきりになるといったイメージを持たれがちでした。しかし現在は、早期離床で早く動いていただくことが基本となっています。逆に、術後に早く動いてもらえるような手術が主流になってきています。そこで、BKPや安定性を確保する固定術などを行い、術後は早期にリハビリを行います。ただし、注入したセメントが抜けてくる、あるいはスクリューが緩んでくるというリスクはゼロではないので、コルセットを装着して局所の安静を図りながらリハビリを進めます。

Q. 入院期間はどのくらいですか?

A. リハビリには時間がかかりますが、入院期間はBKP、固定術ともに1~2週間程度です。患者さんの術前の状態や、もともとの歩行能力の差によって違ってきます。しっかり歩けている方の場合、BKPなら1週間以内に退院される方もおられます。当院は急性期病院なので、術後の状態が落ち着けば、連携しているリハビリの病院に転院して歩行訓練などを継続していただくケースも多いです。

Q. 脊椎骨折の手術において、先生が心がけておられることを教えてください。

A. 脊椎の骨折が起こった場合、脊椎には神経が通っているため、神経が傷んでいないか、傷んでくる可能性がないかを見きわめることを重視しています。神経障害があるかないかで、治療法が変わってくるからです。あとは、骨粗しょう症を早期に治療することです。多くの高齢女性が骨粗しょう症を持っていますが、骨折してから初めて気づくことが少なくありません。脊椎の骨折によって骨粗しょう症である可能性が高いと判断できるので、骨折の治療と併行して骨粗しょう症の薬物治療も進めるようにしています。

日本赤十字社 京都第一赤十字病院 森 弦先生Q. ありがとうございました。では、先生が整形外科医を志された理由を教えてください。

A. 昔から身体が弱く、病院にかかる機会が多かったのと、祖父が歯科医で父が薬剤師と、身内に医療従事者がいたことも影響していると思います。もともと神経系に興味を持っていたので、整形外科の中でも脊椎を専門としました。

Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。

森 弦 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2023.8.24

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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