先生があなたに伝えたいこと / 【永井 宏和】肩や肘の疾患は、気づかないうちに進行していることがよくあります。少しでも気になる症状があれば、早めに専門医にかかることが大切です。

先生があなたに伝えたいこと

【永井 宏和】肩や肘の疾患は、気づかないうちに進行していることがよくあります。少しでも気になる症状があれば、早めに専門医にかかることが大切です。

社会医療法人きつこう会 多根総合病院 永井 宏和 先生

社会医療法人きつこう会 多根総合病院
ながい ひろかず
永井 宏和 先生
専門:肩関節肘関節

永井先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
子どもがまだ小さくて手がかかる時期なので、妻だけに育児を任せることなく、子どもとふれ合う時間を大切にしたいと思っています。

2.休日には何をして過ごしますか?
休日はできるだけ仕事を入れないようにして、外で子どもと遊ぶなど、家族一緒の時間をゆっくりと過ごしています。

先生からのメッセージ

肩や肘の疾患は、気づかないうちに進行していることがよくあります。少しでも気になる症状があれば、早めに専門医にかかることが大切です。

Q. 肩と肘の構造について教えてください

A.腕を支える肩甲骨は鎖骨を介し体幹とつながり、主に筋肉で支えられています。肩関節は肩甲骨の受け皿と腕の骨である上腕骨からなり、インナーマッスルといわれる腱板筋群(けんばんきんぐん)と、それを覆う大きな三角筋が、肩を安定させる機能と動きを担っています。肘関節は、上腕骨と、上腕骨から親指側に続く橈骨(とうこつ)と、小指側に続く尺骨(しゃっこつ)で成り立っており、単純な曲げ伸ばししかできない関節です。肩に比べて、構造が安定していて脱臼しにくくなっています。また、前腕には掌を返す回内外(かいないがい)運動の機能もあり、尺骨自体がまっすぐとした支えになり、橈骨が重なるようにねじれることで動かせる仕組みになっています。

Q. 患者さんはどんなことを訴えて来院されるのですか?

A. 一番多いのは痛みです。肩は夜中に痛むのが特徴的で、痛さで目が覚める方もおられます。あとは日常的な痛みや、腕を上げる際の痛み、腕を上げること自体ができないというケースもあります。肘も曲げるときの痛みや、曲げ伸ばしの角度に限界があることで来院されます。

Q. では、肩の疾患について代表的なものを教えてください。

A. いわゆる五十肩といわれる肩関節周囲炎のほか、腱板断裂、脱臼を繰り返す反復性肩関節脱臼が代表的なものになります。これらと同じような痛みの症状が出るものとして、石灰沈着性腱板炎(せっかいちんちゃくせいけんばんえん)や、変形性肩関節症(へんけいせいかたかんせつしょう)があります。

Q. 肩関節周囲炎と腱板断裂について詳しく教えてください

A. 肩関節周囲炎は、例えば自動車内で後方からシートベルトを引き出したり、後ろにあるものを取ったりなど、日常の動作がきっかけとなって痛みが出ることがあります。しかし、はっきりとした原因がないことが多くあります。徐々に痛みが強くなって、急性期といわれる時期が1~数週間程度続き、その後痛みは落ち着くものの、肩が動かしにくくなるという特徴があります。「五十肩」という呼称は江戸時代からあったようですが、現在では30代から高齢の方までに起こりやすい疾患として、画像検査では特に問題は見られないが、一定の病期を経て回復する「凍結肩」と呼ばれています。
腱板断裂は、腱板がケガによって切れたり、年齢とともに徐々に損傷していったりする疾患です。無症候性の腱板断裂といって、特に痛みなどの症状がなくても、検査をしてみると70代以降の方の半数は腱板断裂を起こしているという報告もあります。一言で腱板断裂といっても、切れている大きさなどによって症状はさまざまで、例えば断裂は小さいが痛みが強くて腕が上げられなかったり、断裂が大きく腕が上げられなかったり、中には通常の手術で治せないほど大きく切れている方もおられます。

社会医療法人きつこう会 多根総合病院 永井 宏和 先生Q. これらの疾患は、どのように治療するのですか?

A. 治療方法は、患者さんのニーズに合わせて選択します。高齢でも本格的にスポーツをされている方や肉体労働をされている方は、積極的に手術を選ばれますし、ある程度の動きが確保されれば問題がないと考えられる方は、痛みを抑えてリハビリ治療を行います。しかし、すぐに治療法を決めるのではなく、基本的にはステロイド剤の注射やリハビリなどの保存療法を2~3ヵ月続け、反応がよい場合は継続し、これ以上治療が長引くと支障が出るという場合には手術を考えます。

Q. どんな手術になるのですか?

A. 主に、関節鏡という内視鏡を用いた関節鏡視下(かんせつきょうしか)手術になります。肩関節周囲炎の場合は、関節包(かんせつほう)という関節の袋を切ることで肩の動きをよくします。腱板断裂の場合は、切れた筋肉を元の位置に戻し、体内で吸収分解されるアンカー(ネジ)を用いて、糸で縫い合わせるように修復します。術後は約4週間装具を着用し、一般的に約6週間で日常生活が可能になります。

Q. 関節鏡を使うメリットは何ですか?

A. 昔のように皮膚を大きく切開しなくても、小さな穴を開けるだけで、筋肉も切ることなく手術ができます。関節の中や病変部を細部までカメラで観察することができ、高度な手術も可能です。さらに、モニター画面で助手や看護師たちと情報を共有しながら手術が進められるのも利点だと感じています。

社会医療法人きつこう会 多根総合病院 永井 宏和 先生Q. 関節鏡視下手術以外の手術法もありますか?

A. はい。断裂した腱板の動きを補うために、不自然な動きを長く続けてきた人は、骨の一部が削れて肩関節が大きく変形している場合があります。その際は内視鏡視下手術では修復できず、人工肩関節置換術(じんこうかたかんせつちかんじゅつ)になることもあります。

Q. 人工肩関節にすると、元通りに肩を動かせるのですか?

A. 従来の人工肩関節であれば、腱板が切れたまま関節を置換しても、肩が上がるようにはなりませんでした。一度切れた腱板自体は、元通りになりませんから。しかし、5年前ぐらいから新しいタイプのリバース型人工肩関節が日本にも導入され、こちらならある程度まで肩を上げられるようになります。これは、肩関節の骨がかみ合う凹面と凸面がもともとの肩関節とは逆さまになった構造で、腱板が断裂していても三角筋の力を応用して肩を上げられるようになっています。劇的な回復とまではいかないものの、痛みがとれ、平均120~130度の角度まで腕が上げられるようになり、洗髪などの動作ができるようになります。海外で長期成績のある人工関節で、日本でも痛みがひどく、腕を上げる動作ができなかった患者さんの術後の満足度は高くなっています。

Q. では次に、肘関節についてお尋ねします。肘にはどんな疾患がありますか?

A. まずは野球肘で来られる方が多いです。特に青少年期の野球肘は注意が必要で、いつのまにか症状が進行していて、痛みが出た時には手術が必要になっている場合もあります。また、腕をひねることで肘関節まわりの腱に炎症が起こるテニス肘やゴルフ肘のほか、肘関節の軟骨がすり減って曲げ伸ばしができなくなる変形性肘関節症(へんけいせいひじかんせつしょう)などがあります。肘の可動域(かどういき)が制限されるのは多少我慢できても、痛みは我慢できないということで来院される方が多いです。

Q. 治療方法を教えてください

A. 野球肘であれば、肘に負担のかからない投げ方ができるように全身のコンディションをリハビリで整えます。テニス肘や変形性肘関節症であれば、痛みに合わせて注射を行いながら、リハビリも行っていきます。痛みが強い場合は内視鏡を用いた手術を行う場合もあります。

Q. 肩と肘のリハビリは、どのように進められるのですか?

A. リハビリは、疾患ごとに異なります。肩関節周囲炎は、関節内の炎症なので痛みが強い時期は関節自体を動かすリハビリは行いません。まずは、肩関節にかかる負担を減らすために、肩甲骨の動きをよくしていきます。痛みが落ち着いて関節内の炎症が治まったら、肩関節をしっかりと動かし、外から筋肉にアプローチしたり、周辺の靭帯を伸ばしたりするリハビリを行っていきます。腱板断裂は肩甲骨の動きが重要になるので、そこを重点的に動かし、腱板以外の筋肉をうまく使えるように少しずつ調整していきます。
肘のリハビリは、肩に比べて変化があらわれにくいのですが、硬くなった筋肉をしっかりと伸ばしてストレッチし、肘関節に負担がかからないようにしていきます。

社会医療法人きつこう会 多根総合病院 永井 宏和 先生Q. よくわかりました。では最後に、先生が診察において心がけておられることを教えてください

A. 疾患についてどこまで悩んでおられるか、どこまで治したいかは、患者さんによって大きな差があります。それをしっかりと訊き出したうえで、患者さんに寄り添いながら、それぞれが望まれるレベルに向けた治療を心がけています。

永井 宏和 先生からのメッセージ

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取材日:2019.8.1

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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