先生があなたに伝えたいこと
【河野 裕】腰椎の低侵襲手術にはさまざまな方法がありますが、患者さん一人一人に応じた最適な方法を選択することが大切です。
医療法人社団誠馨会 千葉中央メディカルセンター
こうの ゆたか
河野 裕 先生
専門:脊椎外科
河野先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
テニスのフォームでしょうか。まだ始めたばかりでなかなか思い通りにならなくて...
2.休日には何をして過ごしますか?
家族とテニスをするようになりました。個人的にはランニングが趣味で、マラソン大会にも定期的に出ています。
Q. 今回のテーマは腰椎の低侵襲手術です。先生は腰椎の患者さんをたくさん診ておられますが、どういう症状の疾患が多いのでしょうか?
A. ここは地方の民間病院ですから、軽い腰痛やぎっくり腰、手術が必要な方まで数多くの患者さんが来院されます。手術まで必要になる可能性のある疾患としては、若年者なら椎間板ヘルニア、中高年では脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)による腰椎圧迫骨折(ようついあっぱくこっせつ)が多くなります。
Q. 切開が小さい低侵襲手術を積極的に行っておられるそうですね。
A. 小さな傷で行うため筋肉の損傷が少なく、従来法に比べて患者さんへの負担が軽く、回復も早い手術ですから積極的に取り組んでいます。疾患や年齢に関係なく全身状態さえよければさまざまな疾患に適応があります。
Q. 低侵襲手術の具体例を教えていただけますか。
A. 当院の特徴として内視鏡を使ったMED(Micro Endoscopic Discectomy:内視鏡下腰椎椎間板摘出術)という手術を積極的に行っています。背中に2cmほどの傷を作ってそこから内視鏡と直径16mmの筒を入れ、筒越しに手術をするんです。椎間板ヘルニアではほぼ全例、脊柱管狭窄症でも一部はこの方法を用いています。
Q. 脊柱管狭窄症でもMEDが有効なのですね。
A. この疾患は加齢やストレスなどによって椎間板が膨らんだり黄色靭帯が分厚くなったりして、神経の通り道である脊柱管が狭くなり神経を圧迫します。神経を圧迫すると坐骨神経痛や、歩行時に下肢が痛みしばらく休むと痛みが治まる間欠跛行(かんけつはこう)の症状が出ます。飛び出した椎間板や肥大した靭帯を切除する除圧術としてMEDが有効です。但し、腰椎がずれて脊柱管が狭くなる腰椎変性すべり症の場合は、除圧術プラス固定術を行う必要があります。
Q. 除圧術プラス固定術の場合も低侵襲手術は可能なのですか?
A. はい。かつては15cmから20cmほどの傷で大きく切開して手術していました。どうしても筋肉の侵襲が大きくなり、術後に強く腰痛が出るなどのデメリットがありました。現在ではミニオープン(TLIF)という低侵襲手術を行っています。傷口は5cmほどで、筋肉を傷めないように筋肉と筋肉の間から除圧と固定を行います。従来法と比べ出血量が少なく、術後の腰痛も軽減するメリットがあります。
Q. 同じく中高年層に多いという腰椎圧迫骨折にも低侵襲手術はあるのでしょうか?
A. 最近よく行われている手術に、BKP(Baloon Kypoplasty:バルーン後弯形成術)という椎体形成術があります。圧迫骨折は骨がポキッと折れるのではなく圧潰(あっかい:押しつぶれること)するんです。その部分に背中から針を差し込み、特殊なバルーン(風船)を膨らませて、潰れた骨をできる限り元通りに戻します。その後、バルーンを抜き、その空間に骨セメントを注入して固めて安定させます。
Q. 低侵襲手術には本当にいろいろあるのですね。
A. それだけに、病態だけではなく年齢や活動性なども考慮して最も適した低侵襲手術を選択することが重要となります。われわれ専門医はその引き出しをいっぱい持っておくことが必要だと思っています。
いずれの低侵襲手術も、皮膚切開はもちろん筋肉の損傷を最小限にすることで、手術時間を短くでき、合併症のリスクも小さくなります。また術後の痛みも軽減され、早期離床と早期社会復帰につながります。
Q. 手術時間も短いとのことですが平均するとどれくらいですか?
A. BKPなら30分くらいです。1椎間でMEDは1時間、固定術で2時間程度です。
Q. 手術後の運動制限はありますか?
A. 病態によって異なりますが、一般的にヘルニアだと4週から6週、狭窄症は6週から8週で運動制限はほぼなくなります。固定術では2ヵ月から3ヵ月はコルセットをして、無理な動きはしないように指導しています。BKPによる圧迫骨折の場合は、手術の翌日には起きて歩く練習をして、退院後はすぐに普段通りに過ごしていただけます。
Q. 手術をしたからといって過度に心配する必要はなさそうですね。
A. 個人差やもともとの活動性の差もありますが、手術をされた方の中にはエアロビクスの先生に復帰されたり、山登り、水泳などを楽しんでおられる方がたくさんいます。
Q. ありがとうございました。先生が脊椎外科医になって良かったと思われることはありますか?
A. 治療の結果が早くしっかり出るということです。痛いとか歩けないというとても辛いことを解消するお手伝いができるのは大きなやりがいです。暗い顔をした患者さんの辛いことを改善して、その結果、取り戻した明るい笑顔を見るのは本当にうれしいです。患者さんには、ぜひ早いうちに専門医と相談されて解決することで、生活の質を上げて人生を楽しんでいただきたいと思います。
取材日:2017.7.25
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
腰椎の低侵襲手術にはさまざまな方法がありますが、患者さん一人一人に応じた最適な方法を選択することが大切です。