先生があなたに伝えたいこと
【飯田 尚裕・片柳 順也・速水 宏樹・松本 和之】成人脊柱変形は体に負担の少ない手術、LLIF(側方椎体間固定術)で痛みが取れて見た目も良くなります。
学校法人 獨協学園 獨協医科大学埼玉医療センター
(現 医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院)
いいだ たかひろ
飯田 尚裕 先生
専門:脊椎
飯田先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
飲食店の無断キャンセルが増えているそうですが、いつから日本人はこんなことになってしまったのでしょうか。日本人のモラルが問われています。
2.休日には何をして過ごしますか?
春は桜、秋は紅葉を観に行ったり、秘湯巡りをしたりしています。最近では道後温泉や別府温泉に行きました。
Q. 先生方の専門の脊椎の疾患にはどのような疾患が多いのでしょうか?
A. 一般的に多いのは脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)と椎間板ヘルニアですが、当院で多いのは側弯症(そくわんしょう)などの脊柱変形(せきちゅうへんけい)です。
Q. 脊柱変形について具体的に教えてください。
A. 脊柱変形とは脊椎の形がいろいろな原因で歪んでしまう状態です。小児期に先天性の疾患などに伴って起こる側弯症や、50代以降に起こる成人脊柱変形などがあります。最近とくに増えているのが成人脊柱変形で、元々側弯症があって加齢とともに徐々に悪くなる場合もあれば、まったく変形がなかったのに加齢に伴って椎間板が変形していく場合があります。ひどくなると、昔話に出てくる杖をついた老人のような「腰曲がり」の状態になってしまいます。
Q. どのような症状が出るのでしょうか?
A. 軽いうちは自覚症状がなく、小児期なら親がお風呂などでお子さんの背中が出っ張っていることで気付きますが、思春期になると親が子どもの裸を見る機会は少なくなります。1979年に学校検診で側弯症のチェックを始めるまでは、姿勢が悪いと思われるくらいで見過ごされてきました。
成人脊柱変形の場合、腰痛などの痛みが起こり、ひどくなればまっすぐ立つことや、起き上がるのも難しくなります。内臓が圧迫されることで便秘や逆流性食道炎になることもあります。
Q. その疾患に対してどのような治療が行われていますか?
A. 小児の場合や軽度の場合であれば、スポーツなども含めて自由に過ごしてもらって構いません。ただ、将来悪くなる場合があるので半年に一度は検診が必要です。悪くなると日常生活でコルセットを着けてもらう必要があります。小児の側弯症は、身長が一番伸びる時期に最も悪化するといわれているので、成長段階を考慮した長期の治療が必要です。
成人脊柱変形の場合は、骨密度も影響するので、体幹や筋力トレーニングで症状を抑えることが期待できます。背筋を鍛えることで進行を抑えることができたというデータもあります。
Q. 背筋を鍛えるというと、うつ伏せになって腰を反らせるイメージがありますが...。
A. すでに腰が曲がった高齢の方は痛くて反らせないので、くの字になって、くの字からまっすぐにするといった方法があります。簡単なのは普段から腰を反らせ気味にして姿勢を良くすることです。できるだけ大またで早歩きをするのも体幹を使うのでおすすめです。
Q. 成人脊柱変形で来院される方は高齢の方が多いのでしょうか?
A. 50~70代が最も多いですが、70~80代になって症状が出る場合もあります。
Q. 早めに治療を始めれば、症状を食い止めることはできますか?
A. 症状を抑えることはできるかもしれませんが、確実とはいえません。症状や進行の程度に個人差があり、絶対手術しなくてはいけないというものではありません。病院のリハビリに通うよりはむしろジムに通う方がいいこともあります。ヨガや太極拳などに積極的に参加している人は、症状の悪化が抑えられることが期待できます。
Q. どのような場合に手術が行われるのでしょうか?
A. 小児で特発性側弯症の場合は、骨成熟の程度にもよりますが、コブ角という角度がレントゲンで45度以上曲がっているのが確認できる場合に手術を検討します。成人脊柱変形の場合は、初診で手術を決めることはありません。生活習慣も考慮して手術のメリット・デメリットをお伝えし、最終的に患者さんに選択していただきます。
Q. 手術の内容はどのようなものになるのでしょうか?
A. 背中の下のほうから骨盤まで、金属のスクリューで一本ずつ止め、椎間板を取って神経を除圧して人工の骨を入れる手術になります。2013年頃からLLIF(側方椎体間固定術)といって、患者さんが横向きになっている状態で側面から椎間板にアプローチして、二回に分けて手術する方法が採られるようになってから、従来の方法に比べて出血が少なくなり、体への負担が大幅に減りました。
Q. 手術のデメリットはありますか?
A. 背中から腰まで、形を整えてひとまとめにしてしまう手術ですから、腰の可動性がなくなり、前かがみになって靴下を履く、足の爪を切るといった動作ができなくなります。農作業も難しくなるので、そうしたデメリットも理解したうえで、手術を受けるか決めていただきたいと思います。
Q. 痛みが取れて背骨の傾きも治るなら、メリットの方が大きそうですね。
A. 痛みでまっすぐ立っていられない、歩くことすらできないと悩んでいらっしゃる方なら、手術をすることで日常生活を楽しめるようになります。脊柱変形で逆流性食道炎や便秘に悩んでいて、手術後、胃薬や便秘薬がいらなくなった人もいます。 一番のメリットは、腰が曲がっていた人が近所の人に「いい姿勢になったね」とほめられ、本人の気持ちが明るくなることです。手術前に「こんな曲がった背骨で死ぬのは嫌だ」、「屈辱的」とまでおっしゃっていた人が、背骨がまっすぐになって、表情もいきいきとされるのを見るのは医師としてやりがいを感じます。
Q. 手術を安全に行うための取り組みについても教えてください。
A. 当院では体格や症状を考慮して、どれくらいの長さ、太さのスクリューを入れるかといった術前計画を綿密に立てます。また手術中はCTを撮りながら、画像による手術支援装置も駆使して誤差を最小限に抑えています。
Q. 手術の痛みはありますか? 手術の傷跡は目立つのでしょうか?
A. 痛みはモルヒネなどの成分が入った痛み止めを使って抑えるので、時間とともに落ち着きます。傷跡は、最近は表面を縫わずに生体用のテープで止めるだけなので、ほとんど目立ちません。
Q. 術後のリハビリはどのようなことをするのでしょうか?
A. 術直後は治した背中の形に合わせたギブスが入った簡易的なベルトをつけていただきながら、早期に下肢の筋力トレーニングやバランス訓練、ストレッチなどを開始します。曲がっていた背骨が手術でまっすぐになるので、足の筋肉のバランスも変わり、慣れるまでに少し時間がかかることもあります。数日して立つことができたらコルセットを作り、術後2週目頃からはコルセットをつけて歩行練習をします。
Q. 日常生活の制限はありますか?
A. 半年間はコルセットを常に着けていただき、ねじる、おじぎをするといった動作やスポーツ、重労働は禁止です。その後は普通に生活できるようになりますが、畳などの和式の生活は負担がかかるので、なるべく避けてもらいます。
Q. 先生が整形外科医を志したきっかけがありましたら、教えてください。
A. 患者さんが元気になって帰れる科を選びました (笑)。
Q. 痛みに悩む患者さんへ、メッセージをお願いします。
A. 脊柱変形は進行すれば、背骨が曲がったまま歩けなくなる可能性もあります。整形外科の役割は健康寿命を延ばすことです。そのままの背骨のまま過ごすのか、手術をして痛みを取って姿勢を良くして、買い物や旅行に出かけて楽しく過ごすという選択肢もあります。体力のあるうちに背骨の変形を治して、日常生活を楽しめるようにされてはいかがでしょうか。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2019.12.11
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
成人脊柱変形は体に負担の少ない手術、LLIF(側方椎体間固定術)で痛みが取れて見た目も良くなります。