先生があなたに伝えたいこと / 【上田 茂雄・黒田 昌之・福田 美雪】脊椎診療における治療手法は多様にあり、患者さんの背景やニーズに合った治療法をご提案しています。

先生があなたに伝えたいこと

【上田 茂雄・黒田 昌之・福田 美雪】脊椎診療における治療手法は多様にあり、患者さんの背景やニーズに合った治療法をご提案しています。

社会医療法人 信愛会 交野病院 上田 茂雄 先生

社会医療法人 信愛会 交野病院
うえだ しげお
上田 茂雄 先生
専門:脊椎脊髄

※脊椎脊髄センターについて、詳しくお話しをされているページがございます。こちらをご覧ください。

社会医療法人 信愛会 交野病院 黒田 昌之 先生

社会医療法人 信愛会 交野病院
くろだ まさゆき
黒田 昌之 先生
専門:脊椎脊髄

社会医療法人 信愛会 交野病院 福田 美雪 先生

社会医療法人 信愛会 交野病院
ふくだ みゆき
福田 美雪 先生
専門:脊椎脊髄

※下記は上田 茂雄先生、黒田 昌之先生、福田 美雪先生に加え、同院の豊嶋 敦彦先生、大塚 宗廣先生、小原 次郎先生を交えたインタビューです。

先生からのメッセージ

脊椎診療における治療手法は多様にあり、患者さんの背景やニーズに合った治療法をご提案しています。

Q. 脊椎の疾患全般に対する治療の考え方について教えてください。

A. 小原先生:基本的な脊椎疾患は、痛みやしびれの症状が発症することが多いです。まずは症状の原因が脊椎由来かを把握するために診察と検査を行い、病変と症状の関係を調べて診断します。脊椎由来の症状と判断した場合は症状にあわせて治療を始めますが、すぐに手術をするというよりも、薬や注射、装具などを使った保存的治療で疼痛を抑え、患者さんのADL(日常生活動作)の改善を図っていきます。外傷などで緊急を要する場合は別ですが、まずは保存的治療を行うのが一般的な診療スタイルとなります。
福田先生:保存的治療には、運動療法や、温熱や電気などを使用する物理療法があります。

社会医療法人 信愛会 交野病院 上田 茂雄 先生上田先生:単純にいうと、切らない治療と切る治療があり、ほかにも患者さん自身が自分でできる運動などのセルフケアもあります。リハビリ指導を受け、ご自身で症状を抑えるための運動をしていただくことも大切です。
福田先生:運動療法はとても重要です。腰痛を抱えておられる方はかなり多いですが、その中で手術が必要になる方はごくわずかです。腰痛はとても診断が難しく、さまざまな要因によって起こるのですが、筋肉の凝りによって痛みが出ているケースが少なくありません。だから、日常生活の中で姿勢を正したり、腰痛体操やストレッチを行ったりということを熱心に取り組んでいただければ、薬や手術もなしで改善していくこともあります。

Q. そうした保存的治療に対して、手術が必要になることもあるのですね?

A. 大塚先生:手術は外科的治療となり、その中にもさまざまな種類があります。大きく分けると、脊椎を金属製の器材で固定する手術と、そういった器材を使わない手術があります。患者さんの病態に適した手術法をよく検討したうえで選択します。
例えば、脊柱管(神経が通る管)が圧迫されて起こる脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)では、圧迫を解除するための手術を行いますが、単純に圧迫の原因となっている組織を切除して圧迫を解除できる場合と、骨の緩衝が原因となり骨同士を器材で固定する必要がある場合があります。

Q. 脊柱管狭窄症とはどういう疾患で、どのように手術するのですか?

A. 福田先生:脊柱管狭窄症は、頚椎(けいつい)や胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)など、さまざまな部位で起こります。どこで起こっているかによって手術法が異なります。例えば頚椎の脊柱管狭窄症だと、脊椎の中を通る神経が圧迫されることで手足に症状が出ます。そのため、圧迫されている神経の管を広げることが第一の目的となり、そのために除圧術という手術を行います。手術のやり方は、脊椎の後ろ側からアプローチする場合と前側からアプローチする場合があり、医療機関によって得意とするやり方で行われるケースが多いです。当院の場合は、症例に合ったアプローチの仕方で手術を行います。
また、脊椎は椎骨(ついこつ)という骨が連なって構成されているので、それらがグラグラと不安定になることで脊柱管が圧迫されていることもあります。その場合は、脊椎を安定化させるために固定しなければならないので、除圧術に加えて固定術という手術法を併用することがあります。同じ疾患であっても、患者さんの状態に応じた手術法を選択します。

正常な脊椎の断面図 脊柱管狭窄症の断面図

Q. 手術治療に踏み切るかどうかは、どのように見極めるのですか?

社会医療法人 信愛会 交野病院 黒田 昌之 先生A. 黒田先生:保存的治療を続ける中、日常生活に特に支障が出ていなければそのまま継続していただければいいと思いますが、保存的治療をしていても痛みが強い、あるいは手足のマヒが出て動かしにくいなどといった強い症状が出ている場合に、次のステップとして手術治療を検討します。症状の出方とその経過によって見極めます。
上田先生:ガンなどの悪性腫瘍とは違って、脊椎疾患は必ずしも手術しなければならないというものではありません。保存的治療で症状がコントロールできているなら、切らずにそのまま様子をみることも必要かと思います。あくまでも患者さんの身体所見をもとに、患者さんと相談しながら治療法を選んでいきます。

Q. 患者さんごとに治療プランを立てるのですか?

A. 上田先生:そうです。例えば、同程度の手のしびれの症状があっても、患者さんによって社会背景や生活背景はさまざまです。例を挙げると、楽器を弾くことを生業とされている方、80歳代のご高齢の方、建築現場で働いている方、メスを握る我々のような医師では、その症状がもたらす影響が異なってきます。現役のプロの楽器奏者だと、「この指が思うように動かない」となると緊急を要しますから、手術をご提案することもあります。一方、85歳の主婦の方の場合だと、日常生活に問題がなければ、薬で様子をみましょうということになることもあります。
同じ疾患、同じ程度の症状でも、こうした背景の違いや年齢、性別、ご本人の意向が大きく反映され、手術介入するタイミングや程度もそれぞれで違ってきます。だから、この域に達すると手術をするという基準は特にありません。あくまでも医師は適切に診断し、現在の状態と予後の見通しを患者さんにご説明し、治療法の選択肢をご提示し、それぞれの患者さんに治療法を選んでいただくという流れになります。

社会医療法人 信愛会 交野病院 福田 美雪 先生Q. 治療方法を決めるのは、あくまでも患者さんなのですね?

A. 福田先生:患者さん自身の身体のことなので、手術を受けるか受けないか、よく悩んでご本人が決めることが重要です。時々、「全部先生にお任せします」という患者さんもおられますが、私は「ご自身のことなので、ちゃんと勉強してください」とお伝えしています。検査画像も提供しますので、ほかの医療機関に相談してみることもお勧めしています。ご自身の状態を正しく把握し、どのような治療法があるかを理解したうえで、手術を受けるか受けないかを決定していただくことが大切だと考えています。

Q. 手術のやり方は、医師によって違うのですか?

社会医療法人 信愛会 交野病院 豊嶋 敦彦 先生A. 豊嶋先生:診断に関しては、医師による差はありませんが、その先の治療のアプローチの仕方や考え方は医師によってさまざまです。
黒田先生:私が医師になったばかりの頃は、整形外科と脳外科で、同じ疾患でも治療のやり方や手術のタイミングなどに違いがありました。けれど、今はなくなってきた印象があります。
福田先生:整形外科と脳外科では、疾患を骨から診るか、神経から診るかという違いはあります。けれど、最近は若い世代を中心に両科の交流が非常に盛んになり、どちらの科も両面から診るようになってきています。

Q. そもそも整形外科と脳外科の領域はどう違うのですか?

A. 福田先生:脊椎治療において両科が扱う領域は大きくかぶっていますが、整形外科では脊髄の中の髄内腫瘍に関しては取り扱うことが少なく、反対に、脳外科では思春期側弯症(ししゅんきそくわんしょう:10歳以降に発症する背骨が弯曲する病気)は取り扱うことが稀です。神経に対する治療においては、整形外科も脳外科も基本的に同じ考え方です。
上田先生:整形外科を英語にすると「orthopedics」といいますが、語尾の「pedics」というのは子どもを意味します。もともと、整形外科では子どもの背骨の歪みを治すことから発祥しています。一方で、脳外科は「neurosurgery」といって神経外科を意味し、神経のトラブルによる手足の動きの問題を取り扱います。国によって、各科が担当する領域に多少の違いはありますが、それぞれのルーツに沿って専門分野を担当しながらも、最近は整形外科と脳外科が一体となって治療に当たっているケースが多いです。隣の韓国では脳外科が多いという特徴がありますが、どちらの科が何の治療に長けているということは特にありません。

Q. 科の違いよりも、個々の医師の考え方の違いによって、手術のやり方が違うのですね。先生方はどのようなことを重視して、手術に当たっていますか?

A. 小原先生:例えば、脊椎の不安定性がどの程度であれば、除圧術でなく固定術を行うかという判断は、さまざまなエビデンス(効果があることを示す証拠や臨床結果)を元に行いますが、術者の経験も関係してきます。私は他の先生方に比べてまだ経験が浅いので、先生方からさまざまな助言をいただきながら治療プランを立てています。
豊嶋先生:私も症例によっては、除圧だけでいいか、固定したほうがいいか、未だに悩むときもあります。後押しが欲しいとき、自分とは違った視点が欲しいときもあり、そんなときはカンファレンス(会議)で相談したり、複数の先生から個別に意見をいただいたりしたうえで判断しています。
福田先生:当院のカンファレンスは結構、白熱します。最終的には、手術のやり方は術者が決定しますが、特定の患者さんに対する手術をどの方法で行うか、意見が割れることもあります。
黒田先生:もちろん大半の症例では、手術のやり方は全医師で一致しますが、中には一部判断に迷う症例もあります。そういったものをカンファレンスで取り上げ、よりよい手術法の選択につなげています。

社会医療法人 信愛会 交野病院 大塚 宗廣 先生大塚先生:手術のやり方以外にも、その患者さんが何を目的に手術されるのかという点も重要です。カンファレンスを通して、そうした患者さんの考え方や職業などの背景に関する情報共有をすることが重要です。
福田先生:患者さんが、どんな症状をどう治して、どういう機能を残したいかというニーズを把握することは確かにとても大切です。それによって治療法も変わってきますから。そして、医師はあらゆるニーズに応えられる引き出しを持っていなければなりません。治療法の選択肢を幅広くご用意し、さまざまな年代、さまざまな社会背景を持った患者さんごとに合った治療を提供することが求められていると思います。

Q. 脊椎脊髄を専門とする医療機関は、一般的にどのような体制になっていますか?

A. 上田先生:日本脊髄外科学会が認定する訓練指定施設という医療機関の場合は、指導医が1名在籍しているのが一般的です。脊椎疾患の手術において、特異な症例でのやり方においては、学会における名だたる医師の間でもさまざまな考え方があります。そのため、複数の医師で意見交換しながら気づきを得て、それぞれの医師が得意とするやり方で、治療に当たるという体制が理想的だと思います。

患者さんと話す医師のイラストQ. 治療において、医療従事者間での連携もありますか?

A. 黒田先生:もちろん我々医師だけでなく、リハビリに関しては理学療法士とも密に連携していますし、ほかにも看護師、薬剤師、事務系薬剤師、臨床工学士など、全職種で定期的なカンファレンスを行って、問題点を出し合いながら情報共有を行います。
上田先生:我々が見落としている点に薬剤師さんが気付いてくれたり、事務系スタッフの方が患者さんの経済的な面から意見をくださったりということもあります。痛みが取れたら治療は終了ということではないので、患者さんの退院後の環境整備や通院のための環境、医療保険や介護保険のことなども含めて、多職種で連携することは大きな意義があると思います。

社会医療法人 信愛会 交野病院 小原 次郎 先生小原先生:看護師さんが病棟で気になったことを伝えてくれることで、術後の感染予防につながることもありますから、日々の連携はとても大切だと思います。全医療従事者が互いに尊重し合って治療に取り組むことが、患者さんの早期回復に役立つと思います。
福田先生:今は、患者さんが入院された場合、退院後の生活がスムーズにできるようなサポートを行っている施設も多くあります。入院中に医療ソーシャルワーカーによる調整が入り、看護師などが患者さんのご家族と事前に面談し、例えば自宅に階段があるかどうかなどの生活環境をヒアリングしてそれに備える提案をするなど、治療後の患者さんの生活にも配慮しています。

Q. よくわかりました。では最後に、今後の展望について教えてください。

A. 上田先生:診断の結果、たとえ脊椎の疾患でなかったとしても、痛みやしびれ、身体の動かしにくさを感じている患者さんには、少しでも改善できるよう総合的な解決法を提案していきたいと考えています。

社会医療法人 信愛会 交野病院の先生方

取材日:2023.8.9

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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