先生があなたに伝えたいこと / 【李 勝博】なかなか手術に踏み切れない方も多いのですが、手術を受けた方に聞いてみると、ほとんどの方が「もっと早くやればよかった」とおっしゃいます。勇気をもって一歩踏み出してみるのも大事かなと思います。【加藤 晃士】人工股関節置換術は術後のメンテナンスも重要なので、末永く患者さんをサポートしています。

先生があなたに伝えたいこと

【李 勝博】なかなか手術に踏み切れない方も多いのですが、手術を受けた方に聞いてみると、ほとんどの方が「もっと早くやればよかった」とおっしゃいます。勇気をもって一歩踏み出してみるのも大事かなと思います。【加藤 晃士】人工股関節置換術は術後のメンテナンスも重要なので、末永く患者さんをサポートしています。

箕面市立病院 李 勝博 先生

箕面市立病院
り  かつひろ
李 勝博 先生
専門:股関節

李先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 阪神タイガースが優勝できるかどうかが、毎年気になっています。今年の初めは良い流れでしたが、最近は負けが多くてツライです。試合結果によって、翌日の気分が大きく左右されます(笑)。

2.休日には何をして過ごしますか?
 ゴルフをしたり、ロードバイクで箕面の山を登って、リフレッシュしています。

箕面市立病院 加藤 晃士 先生

箕面市立病院
かとう こうじ
加藤 晃士 先生
専門:股関節

加藤先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 ビール好きが高じて、クラフトビールに興味を持つようになりました。コロナ禍で飲みに行けないので、さまざまなクラフトビールを調べたり、取り寄せたりして、味比べを楽しんでいます。

2.休日には何をして過ごしますか?
 平日は仕事であまり子どもの相手ができないので、休日は子どもと公園で遊んでいます。ほかにも、ジョギングをすると頭の整理ができるので、10~15km走るようにしています。

先生からのメッセージ

なかなか手術に踏み切れない方も多いのですが、手術を受けた方に聞いてみると、ほとんどの方が「もっと早くやればよかった」とおっしゃいます。勇気をもって一歩踏み出してみるのも大事かなと思います。(李先生)
人工股関節置換術は術後のメンテナンスも重要なので、末永く患者さんをサポートしています。(加藤先生)

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

箕面市立病院 李 勝博 先生 加藤 晃士 先生Q. 股関節はどのような構造になっていますか?

A. 骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)という窪みに、大腿骨の先端にある丸い大腿骨頭(だいたいこっとう)がはまっています。ソケット(お椀)状のものの中でボールが自在に動く、いわゆる球関節と呼ばれる関節に分類され、人体の中で一番大きな関節です。寛骨臼、大腿骨頭のそれぞれの表面は関節軟骨で覆われています。
また、股関節は関節包(かんせつほう)という大きな袋で包まれ、さらにその内側は強靱な靱帯で守られています。このような構造になっていることで、安定性を保ちながら股関節を動かせるようになっているのです。

股関節の構造

股関節外観 関節包をはがした状態

関節包靭帯(関節包の内側)

Q. 股関節の代表的な疾患を教えてください。

A. 代表的な疾患は、寛骨臼の形成が不十分な臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)です。生まれつき大腿骨頭の受け皿となる寛骨臼の"被り(かぶり)"が浅く、健康な人の寛骨臼よりも受け皿が狭いため、体重を十分に受け止められず、痛みが出てきます。それによって股関節の軟骨がすり減り、軟骨の下にある軟骨下骨(なんこつかこつ)が露出します。そこにさらに荷重がかかって傷んでくると、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)になることがあります。ただし、臼蓋形成不全に起因しない、加齢によって発症するケースもあります。変形性股関節症は、女性に多くみられるほか、重い物を持つ機会の多い方、重労働をされる方、体重の重い方など、軟骨にかかる負担が大きい方がかかりやすい傾向があります。ほかには、リウマチや特発性大腿骨頭壊死症(とくはつせいだいたいこっとうえししょう)などが原因で発症する場合もあります。特発性大腿骨頭壊死症とは、大腿骨頭の血流が悪くなり、骨が壊死する病態です。

正常 臼蓋形成不全

変形性股関節症

大腿骨頭壊死症

箕面市立病院 李 勝博 先生 加藤 晃士 先生Q. どのように診断されるのですか?

A. 股関節の痛みや動きについて、患者さんにじっくりとお話を伺い、レントゲン撮影を行います。それにより、初期、前期、進行期、末期など、変形性股関節症の病期を見きわめ、手術の適応を判断します。多くの場合、まずは投薬治療や運動療法などの保存的な治療で経過を観察していきます。

水中ウォーキングQ. 保存的な治療とは、どのようなものですか?

A. 消炎鎮痛剤などで痛みを抑えるほか、運動による治療を行います。股関節に痛みがあると、そこをかばって歩くので、周囲の筋力が低下します。そのため、股関節に負担をかけることなく関節を支える筋力をつけるために、水中ウォーキングなどをお勧めしています。筋力が回復すると股関節の支持性が維持でき、痛みが和らぐ方も少なくありません。

Q. 手術にはどのようなものがありますか?

A. 臼蓋形成不全には、骨切り術が適応になります。骨切り術には2種類あり、一つは、"被り"が浅い骨をくり抜いて回転させ、大腿骨頭に深く被るようにする寛骨臼回転骨切り術(かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ)です。もう一つは、股関節のすぐ上の骨盤を切って横にずらして固定し、大腿骨頭をしっかりと覆うキアリ骨盤骨切り術(きありこつばんこつきりじゅつ)です。いずれの方法も、体重を受ける面積を広げることによって、軟骨にかかる負担を分散させ、その結果、痛みを和らげる手術です。
骨切り術が適応になるのは、10~20歳代です。それ以上の年齢の方は、骨の形態が異常なまま長年軟骨に負担がかかり続けてきたことで、すでに軟骨が傷んでいる可能性があります。そうなると、骨切り術では十分な治療効果が見込めない可能性が高いため、人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)の適応になることが多いです。

寛骨臼回転骨切り術

キアリ骨盤骨切り術

Q. 人工股関節置換術について教えてください。

A. 病期が末期になり、軟骨がなくなってしまうと適応になる手術です。股関節の大腿骨側と骨盤側をそれぞれ切って、金属やセラミックでできた人工物に置き換えます。すべりの良い部材(ポリエチレンライナー)をはめ込んだカップを寛骨臼に埋め込み、大腿骨頭の代わりになる骨頭ボールを設置し、股関節として機能させます。
人工股関節の利点は、除痛効果が抜群に優れていることです。さらに、手術の翌日から体重をかけて歩けるので、リハビリが早く進み、早期に回復できます。骨切り術の場合は、骨がくっつくまで体重をかけられないという制限があるため、2~3カ月入院しなければなりませんが、人工股関節の手術であれば一般的に1カ月ぐらいで退院できます。

後述するセメントレスタイプの人工股関節置換術の例

後述するセメントレスタイプの人工股関節置換術の例

Q. 大腿骨側や骨盤側のいずれかだけをインプラントに置き換える手術もあるのですか?

箕面市立病院 李 勝博 先生 加藤 晃士 先生A. 20年前ぐらいまでは行われていましたが、現在は片側だけが傷んでいる病態でも両方を人工股関節にするケースが多いです。というのも、レントゲンで温存したい側の軟骨が残っているように見えても、実際は損傷している場合が少なくありません。その状態のまま、置換する側だけを硬い金属やセラミックに置き換えてしまうと、温存した側の柔らかい軟骨をさらに傷つけてしまい、痛みが出てくることが多いからです。結局そうなると、温存した側を後から手術しなければならなくなるので、現在は、両側とも同時に置き換えるのが一般的です。

Q. 人工股関節には種類があるのですか?

A. 固定の仕方によって2種類あります。人工股関節を骨セメントを使って骨に固定するセメントタイプと、表面に特殊な加工がされていて、骨セメントを使わなくても固定できるセメントレスタイプがあります。

セメントタイプの人工股関節置換術の例

セメントタイプの人工股関節置換術の例

Q. 人工股関節そのものは進歩しているのですか?

A. 一番大きな進歩は、軟骨の役割を果たすポリエチレンライナーやポリエチレンカップ(上図参照)の耐摩耗性の向上です。約30年前までのこれらの部材は、使い続けるうちに摩耗し、摩耗によって出た粉が股関節内に散らばって、そのことが原因となって人工股関節周囲の骨が溶解し、人工関節のゆるみにつながっていました。現在では、これらポリエチレン製の部材を製造する過程で、ガンマ線照射処理をしたり、ビタミンEを添加するなどして、摩耗しにくくする工夫が凝らされています。また、摩耗しにくくなったことでこれらの部材を薄型化でき、その分、中にはまる骨頭ボールを大きくすることができるようになりました。最初に人工股関節ができた頃の骨頭ボールは、直径がわずか22 mm程度でしたが、現在では36mmサイズのものもあります。骨頭ボールが大きいほど脱臼しにくくなり、術後の心配を少なくすることが期待できます。

骨頭が小さい場合 骨頭が大きい場合

Q. 手術において何を重視されていますか?

箕面市立病院 李 勝博 先生 加藤 晃士 先生A. 現在、人工関節の手術では創を小さくすることが重視されていますが、当院ではインプラントをいかに精確に設置するかということを最優先に考えています。創の大きさのわずかな違いにこだわるよりも、股関節の中がしっかりと視認できるように切開し、精確に設置することで、できるだけ脱臼を防ぎ、十分な可動域(動かせる範囲)を確保することが大切だと考えています。
また、高齢の方は骨が弱くなっている方が多いので、骨折や骨粗しょう症の病歴を事前に確認し、慎重な手術を行うように心がけています。

Q. 術後のリハビリについても教えてください。

A. 股関節の可動域を獲得するための訓練、筋力を獲得する訓練、歩行訓練の3つのプロセスがあります。一般的には、術後翌日から歩く練習を行い、1週間後には歩行器を使って歩けるようになる方が多いです。リハビリを2週間続けると、杖なしで歩けるようになる方もおられ、多くの場合は、3~4週間で歩行が安定してきます。
退院の時期は、患者さんとの相談により、ご自宅でリハビリされる方もいれば、十分に動けるようになるまで入院される方もいらっしゃいます。平均すると、4週間程度の入院となります。

リハビリ イラスト

Q. 治療後はスポーツはできますか?

A. ウォーキングやサイクリング、ゴルフ、登山のような激しくないスポーツであれば、問題ないといわれています。コンタクトスポーツなど、動きの激しいものは人工股関節を傷めてしまう可能性があるので、避けてください。

Q. 人工股関節のメンテナンスは必要ですか?

A. 術後1カ月目に不具合がないかどうかを確認させていただいた後は、3カ月後、半年後、1年後という目安で来院していただいています。やはり、身体の中に大きな人工物が入っており、ゆるみや摩耗の可能性もあるので、原則として1年に1度は医師による確認が必須になります。執刀した患者さんは、一生面倒をみるのが医師としての責任だと考えています。
中には、ご本人の自覚はなく、レントゲンによって人工股関節のゆるみが発覚するケースや、逆にレントゲンで異常はないが、痛みなどがあってCTMRI検査で問題が見つかることもあります。定期的な通院を怠ると、症状が出たときには骨が極度に損傷してしまって、手遅れになってしまう場合もありえます。そうなると、人工股関節を入れ替えるにしても、余計な処置が必要になったり、より侵襲(しんしゅう:身体へのダメージ)の大きな手術が必要になったりすることもあります。そのため、少しでも早く異変を見つけて対処することが大切なのです。

箕面市立病院 李 勝博 先生 加藤 晃士 先生Q. ありがとうございました。では最後に、先生方が患者さんと接するうえで心がけていらっしゃることを教えてください。

李先生:一人でも多くの患者さんを笑顔にすることをモットーにしています。股関節を傷めている患者さんは、人にわかってもらえない痛みを抱え、痛みのせいで出かけることも少なくなり、だんだん引きこもって、ふさぎがちになる方が少なくありません。そうした方が来院されたときに、他愛のない話も織り交ぜることで、少しでも笑っていただきたい。手術を受けてすっかり良くなると、表情も性格も一変するように明るくなる方も大勢いらっしゃいます。その後、定期的に検診で来ていただく際にも、とにかく笑って帰っていただけるように心がけています。なかなか手術に踏み切れない方も多いのですが、手術を受けた方に聞いてみると、ほとんどの方が「もっと早くやればよかった」とおっしゃいます。勇気をもって一歩踏み出してみるのも大事かなと思います。
加藤先生:私の場合は、患者さんのほとんどが自分より年上の方なので、敬意を持ってお話するように心がけています。患者さんのお話にじっくりと耳を傾け、丁寧な言葉でコミュニケーションをとることで、信頼関係を築きたいと思っています。

リモート取材日:2021.7.5

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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