先生があなたに伝えたいこと / 【田賀谷 健一】中高年を悩ませる肩や膝の痛み、脆弱性骨折について、いざという時に慌てないためにも疾患と治療法の基本を知っておきましょう。

先生があなたに伝えたいこと

【田賀谷 健一】中高年を悩ませる肩や膝の痛み、脆弱性骨折について、いざという時に慌てないためにも疾患と治療法の基本を知っておきましょう。

宗教法人聖ドミニコ宣教修道女会 坂出 聖マルチン病院 田賀谷 健一 先生

宗教法人聖ドミニコ宣教修道女会 坂出 聖マルチン病院
たがや     けんいち
田賀谷 健一 先生
専門:肩関節膝関節

田賀谷先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 3匹の犬を飼っています。そのワンちゃん達の健康ですね。

2.休日には何をして過ごしますか?
 3年前から犬のアジリティー競技というのを始めました。これは、愛犬と一緒に障害物をクリアして制限時間内にゴールする競技で、あちこちの大会に参加しています。ワンちゃんと一心同体になれてうまくいったときの喜びは何ともいえません。

先生からのメッセージ

中高年を悩ませる肩や膝の痛み、脆弱性骨折について、いざという時に慌てないためにも疾患と治療法の基本を知っておきましょう。

宗教法人聖ドミニコ宣教修道女会 坂出 聖マルチン病院 田賀谷 健一 先生Q. 初めに、肩の関節の構造と仕組みを教えてください。

A. 肩関節は、大きくは肩甲骨(けんこうこつ)、鎖骨(さこつ)、上腕骨(じょうわんこつ)で構成されています。肩関節は股関節のように片方の骨を大きく包み込んでいないので不安定なのですが、周囲の発達した軟部組織がしっかりと包み込むことで安定性を保っているのが特徴です。軟部組織は、インナーマッスルとして肩の動きがスムーズになるように調整する腱板(けんばん)と、アウターマッスルとして、肩関節の各種動作に重要な役割を果たす三角筋などから成ります。腱板とは肩甲骨と上腕骨をつないでいる棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)という4つの筋肉の腱の総称です。
他の関節と違うのは、肩関節は全身の関節と深く関わっていることです。たとえば野球のピッチャーは上腕だけでボールを投げているわけではなく、股関節、体幹や脊柱など全身を使って投げています。背中の曲がっているお年寄りは肩が上げにくく、無理に上げようとすると関節を傷めてしまいます。このように、肩を治すためには全身を診ることが大切なのです。

肩関節(右肩を正面から見た図)

腱板を構成する筋肉(右肩を背面から見た図)

肩が痛い イラストQ. よく四十肩、五十肩などといいますが、これはどういう病態なのですか?

A. 四十肩や五十肩は病名ではなく、正式には拘縮肩(こうしゅくがた)や肩関節周囲炎と呼びます。この痛みの原因は毛細血管が拡張するからという説もありますが、まだ解明されていません。痛みは薬物療法、運動療法、理学療法で改善が可能で、自然に治まることも多いです。

宗教法人聖ドミニコ宣教修道女会 坂出 聖マルチン病院 田賀谷 健一 先生Q. ほかに肩が痛む疾患はありますか?

A. 腱板断裂の患者さんも多いです。腱板のうち特に棘上筋は肩峰(けんぽう)と上腕骨、すなわち骨と骨に挟まれて常に負担がかかっているので、自然に傷んだり、外傷がきっかけになったりして断裂しやすいのです。断裂すると、上腕骨を下方に押さえつけられなくなり、上腕頭骨の位置が上方にずれてしまって肩が不安定になります。腱板断裂は、部分的に断裂する不全断裂から完全断裂、完全断裂も断面径の大きさから小断裂、中断裂、大断裂、広範囲断裂と程度によって分類されています。断裂が始まる時に強い痛みが出ますが、そこで我慢すると痛みが治まってくるので、つい放置してしまう方も多いのです。肩の代表的な疾患には、変形性肩関節症(へんけいせいかたかんせつしょう)もあげられます。

宗教法人聖ドミニコ宣教修道女会 坂出 聖マルチン病院 田賀谷 健一 先生Q. 肩関節にも変形性関節症があるのですね。

A. 変形性肩関節症は腱板断裂の有無で大きく2つに分けられます。腱板断裂のないタイプは、加齢とともに軟骨がすり減ることで関節が変形します。腱板断裂があるタイプは先ほど説明したとおり、関節内の上腕骨の位置が上方に移動してしまうことで、軟骨と直接骨が接してしまって軟骨がすり減って関節が変形するのです。

Q. それではそれぞれの治療法について教えてください。まず、腱板断裂ではどのような治療が行われますか?

A. まずは痛みを抑えるために鎮痛剤や湿布などの外用剤の投与と、ステロイドの注射を2週間毎に行います。リハビリも併行して最低でも1ヵ月程度は様子をみます。私の印象では、およそ8割の方はこの保存治療で痛みが緩和されているように思います。それでも痛みが改善しなかったり、肩が上がらなくなったりして日常生活に支障が出れば手術も視野に入れた治療となります。

Q. 腱板断裂の治療で行われる手術に種類はあるのでしょうか?

A. 基本的には内視鏡を用いて断裂した部分を修復します。これは、簡単に説明すると断裂した腱を上腕骨に縫い付けることで修復する手術です。しかし、縫わなければならない範囲が大きい場合や、変形性肩関節症に移行している場合は、人工肩関節置換術(じんこうかたかんせつちかんじゅつ)の適応となります。人工肩関節は近年、従来のタイプとは違う「リバース型」のものが開発されました。生体関節とは逆に、肩甲骨側を骨頭形状にして上腕骨側を窪ませた形状をしています。こうすることによって三角筋の力が伝わりやすくなり、腱板の力がなくても腕が動かせるようになります。

内視鏡を用いて断裂した部分を修復する手術

内視鏡を用いて断裂した部分を修復する手術

リバース型の人工肩関節置換術

リバース型の人工肩関節置換術

Q. 腱板断裂のない変形性肩関節症の治療についてはいかがでしょうか?

A. 消炎鎮痛剤の服用や関節内注射で様子をみますが、こちらも日常生活に支障が出てきたら人工肩関節手術が選択肢となります。腱板が残っているので、従来型の人工肩関節の適応となります。

従来型の人工肩関節置換術

従来型の人工肩関節置換術

Q. そもそも「人工肩関節」自体、あまり聞き慣れないですね。

A. 欧米に比べて日本では、肩の痛みぐらいは我慢するという方が多いと思います。それに、リバース型が日本で使われるようになったのは2014年からです。リバース型の登場で人工肩関節の適応範囲が大きくなるので手術の件数も増えてきますから、認知度はこれから上がってくると思います。合わせて注目度も高まると思います。何より痛みや可動域(かどういき:肩関節を動かすことができる範囲)が大きく改善されますし、耐久性能も向上しています。注目されることで、人工肩関節が今後ますます進歩していくことも期待できます。

膝関節(右膝)Q. 膝の関節についても構造や疾患について教えてください。

A. 膝関節は大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)、脛骨(けいこつ:すねの骨)、膝蓋骨(しつがいこつ:お皿の骨)から成り、関節面は軟骨で覆われています。大腿骨と脛骨の間にはクッションの役割をする半月板があり、膝関節を支えながら動きを制御する役割の4つの靭帯などで構成されています。膝の疾患では、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)が圧倒的に多いです。膝には通常の生活をしていても体重の何倍もの力がかかり続けています。加齢とともに軟骨が変性して徐々にすり減り、進行すると骨の変形や痛みを生じます。50代以降の女性に多いのが特徴です。

Q. 変形性膝関節症ではどのような治療が行われるのですか?

宗教法人聖ドミニコ宣教修道女会 坂出 聖マルチン病院 田賀谷 健一 先生A. 基本的には保存療法となります。ヒアルロン酸の注射や痛み止めの服用、膝の筋力、特に大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の強化などを行います。そうした保存療法でも効果がみられないと手術が選択肢となります。初期なら内視鏡視下手術(ないしきょうしかしゅじゅつ)で、半月板の傷んでいるところやはがれている軟骨を切除します。他には高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)でO脚を矯正する方法もあります。人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)は膝関節疾患の最終的な治療方法ですが、適応範囲が広く、除痛と関節機能の回復ができて長期成績も安定している優れた手術です。

Q. 変形性膝関節症とともに、高齢者で気になるのはやはり骨折ですね。

A. そうですね。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)によって骨がもろくなっていると、転倒などの軽い外傷でも骨折しやすくなります。これを脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)といいます。高齢者の骨折はできるだけ早い離床が望まれますので、折れた部分をプレートやスクリューで固定する手術が選択されます。

宗教法人聖ドミニコ宣教修道女会 坂出 聖マルチン病院 田賀谷 健一 先生Q. 変形性関節症や骨折予防のために骨粗鬆症対策は本当に大事ですね。

A. 特に女性は二十歳くらいから備えていただきたいと思います。無理なダイエットをせずに、カルシウムやたんぱく質の摂取を意識したバランスよい食事と、日光浴を心がけるだけで骨粗鬆症になるリスクを下げることができます。運動をして筋肉を鍛えることも大切です。年齢を問わずにぜひ今から、できるうちから生活の改善をしてください。

取材日:2017.10.19

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

先生の一覧へ戻る

病院検索をする

ページトップへ戻る

先生があなたに伝えたいこと

股関節股関節

膝関節膝関節

肩関節肩関節

肘関節肘関節

足関節足関節

手の外科手の外科

脊椎脊椎

病院検索 あなたの街の病院を検索!

先生があなたに伝えたいこと 動画によるメッセージも配信中!