先生があなたに伝えたいこと
【金澤 和貴】医療の進歩で外反母趾の治療は早期に回復が見込めるようになりました。
社会医療法人 青洲会 福岡青洲会病院
かなざわ かずき
金澤 和貴 先生
専門:足部・足関節
金澤先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
新型コロナウイルス感染症が早く落ち着いて欲しいと思います。
2.休日には何をして過ごしますか?
学会発表の準備や論文等の執筆活動をしたり、次の手術の方法について考えたりしています。あとは、最近、お腹周りが気になり始めたので、休日は2時間程度10数キロランニングしています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. 今回は外反母趾(がいはんぼし)とその治療法について詳しくお話をお伺いします。まず、足の指の関節の構造について教えてください。
A. 足の指の付け根の関節は、正式には中足趾節関節(ちゅうそくしせつかんせつ:母趾MTP関節)といい、身体の中心に近い側の骨を「中足骨(ちゅうそくこつ)」、足先側にある骨を「基節骨(きせつこつ)」と呼んでいます。母趾MTP関節の下側には「母趾種子骨(ぼししゅしこつ)」という2つの骨があり、筋肉や腱の働きを助けています。
また、足の甲にはショパール関節とリスフラン関節があり、足の周りにある様々な内在筋(インナーマッスル)によって足がスムーズに動かせるようになっています。
Q. 外反母趾はその関節がどのようになるのでしょうか?
A. 外反母趾は、中足骨と基節骨が「くの字」に曲がって母趾の付け根が外側に出てしまう疾患です。通常、症状は両足に出ますが、男性は片方だけに見られることが多いです。
症状としては、変形した部分が靴の内側に当たることで痛みが出ます。赤く腫れたり、突出部を通っている神経が障害されて、しびれや神経痛が起きたりすることもあります。
また、一般的な外反母趾に対して、MTP関節より指先の関節が同様に曲がる病態として趾節間(しせつかん)外反母趾があり、こちらは子供によくみられます。
外反母趾は症状が進行すると、足底にタコができて靴を履いていなくても痛むようになったり、MTP関節が脱臼したりすることがあります。足の甲の第2・3リスフラン関節に変形が生じ、疼痛やしびれが起こることもあります。そうなると、長時間歩けなくなったり、合う靴が見つけにくくなったりするなど、日常生活にも支障が出るようになります。高齢の場合、母趾に力が入らないために転倒して、寝たきりの原因になる大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)を生じることもあるので、とくに注意が必要です。
Q. 外反母趾の患者さんの傾向について教えてください。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)と関連はありますか?
A. 男女比では女性が80%以上と圧倒的に多く、50代から70代くらいの患者さんがとくに多いですが、20代の方もいます。女性に多いことから骨粗鬆症との関連も指摘されてはいますが、因果関係は明らかになっていません。
Q. 外反母趾になる原因は何でしょうか?
生まれ持って外反母趾という方がおられ、近親者に外反母趾の方がいる場合、発症しやすい傾向があります。
足の先の形が、親指が一番長い「エジプト型」であったり、MTP関節が先天的に柔らかかったり、第2・3中足骨(足の甲の骨)が欠損していたり、母趾の中足骨骨頭の形状が丸いなど、内的な要因もあります。
女性は元々筋肉が弱く、ハイヒールや先の細い靴を履き続けて圧迫するなど外的な要因も大きいです。
また、加齢とともに関節や筋肉が硬くなるので、それだけ発症のリスクは高まります。足指を使わず、足裏全体で歩く「ペタペタ歩き」も、足指周りの筋肉が退化して外反母趾の症状を進行させる恐れがあります。
Q. どのような診察が行われるのでしょうか?
A. 一目で明らかに外反母趾とわかることが多いですが、確実に診断するには、レントゲンを撮り、親指の付け根と基節骨の変形の度合いを測ります。日本整形外科学会の診療ガイドラインでは、20度以上の曲がりを外反母趾と定義し、20~29度までを軽度、30~39度までを中等度、40度以上を重度としています。
親指以外の足指の関節痛や脱臼がある場合は、関節周囲の靭帯が損傷している恐れがあるので、エコー検査やMRI検査も行い、靭帯の損傷具合も確認します。
Q. 外反母趾の治療法について教えてください。
A. まずは変形の程度に応じて装具を作成して、それ以上の変形を予防し、足の形に合った靴の選び方を指導しています。外反母趾の方は、足裏にある縦アーチが崩れる「扁平足」や横アーチが崩れる「開張足」になっていることが多いので、足アーチをサポートする特別な靴の中敷き(インソール)を作って、痛みを軽減させます。痛みが強い場合には消炎鎮痛剤や痛み止めも使いながら様子を見ます。
親指の付け根周りの靭帯や筋肉は硬くなりやすく、母趾のMTP関節が硬くなると動きが制限されてしまうので、あわせて母趾を広げるストレッチやマッサージ、筋力トレーニングも指導しています。床にタオルを敷いて足の指を使ってたぐり寄せる、足の指を使ったじゃんけん、背伸びをするのも効果的です。
一日中使う手先に対して、足先はお風呂や靴下を履くとき以外は触らないという方も多いですが、意識して普段から動かすようにすることが大切です。
Q. 体操やストレッチで症状が改善することもありますか?
A. 軽度~中等度の方なら症状の進行を防ぐことは可能です。ただ、変形した角度は変わりませんので、変形が40度以上の重度の方は現状維持というところでしょう。
Q. それでも改善しない場合には手術になりますか?
A. 中足骨の一部を切り取り、変形した骨の角度を変えて体重のかかるところを改善する中足骨骨切り術(ちゅうそくこつこつきりじゅつ)という治療法が一般的です。
重症の場合は、関節の動きを制限して痛みを改善させる関節固定術を行うこともあります。
Q. 手術後の入院期間やリハビリについて教えてください。
A. 入院期間は、変形の程度にもよりますが、数日~2週間程度です。術後は筋力が低下しないように、前足部に体重がかからない装具を着用して、早期に筋力訓練を開始します。
Q. 外反母趾の治療で進歩したところはありますか?
A. インプラントや骨を固定するプレートなどの素材が進歩したことに加え、痛み止めも様々なものがあり、術後の痛みも少なくなり、早期に歩けるようになりました。
Q. 外反母趾の治療をされた患者さんの声をお聞かせください。
A. 痛みで子育てや仕事にも支障が出ていた方が、「手術で痛みが治まり、靴選びでおしゃれができるようになって性格まで明るくなった」という声がありました。また、ご高齢の患者さんからは、「足の親指に力が入るようになり、歩行時にふらつくことがなくなった」という声をいただいています。
Q. 先生が治療の上で心がけていらっしゃることは何ですか?
A. 常に「自分の家族だったらどうするか」と考え、患者さん一人ひとりに適した治療を行うことを意識しています。また、「チーム医療」という言葉がありますが、医療は看護師、リハビリスタッフなど多くのスタッフの力を借りなければ、良い医療を患者さんに提供することはできません。遠方から通ってきてくださる患者さんのため、チームのため、周囲に不快な思いをさせないように、常に笑顔でいることを心がけています。
Q. 先生が整形外科の中でも足関節を専門に選ばれた理由がありましたら教えてください。
A. 医者になってすぐに指導して頂いた先生が足部・足関節を専門にしていたので、自然に足関節の道へ進みました(笑)。
Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。
リモート取材日:2022.3.9
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
医療の進歩で外反母趾の治療は早期に回復が見込めるようになりました。