先生があなたに伝えたいこと
【原 克利】人工股関節置換術後の日常生活の制限はありませんので、歩ける間は自分の足で歩いて、好きなことを楽しんでほしいと願っています。【藤川 陽祐】PRP療法など膝関節の治療の選択肢は増えています。畑仕事や散歩すら難しくなって人工膝関節置換術を受けた方からは、「日常生活が楽になり、旅行にも行けるようになった」とよく言われます。
医療法人社団 唱和会 明野中央病院
はら かつとし
原 克利 先生
専門:股関節
原先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
新型コロナウイルスです。終息したらまた元のようにみんなで飲みに行きたいです。
2.休日には何をして過ごしますか?
中学生と高校生の息子が二人とも野球部でがんばっているので、シーズン中は毎週末、試合の応援に行っています。
医療法人社団 唱和会 明野中央病院
ふじかわ ようすけ
藤川 陽祐 先生
専門:膝関節
藤川先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
新型コロナウイルスの感染拡大で、手術された方のご家族が見舞いに来られない事態が続いているので、早く収まってほしいと思います。
2.休日には何をして過ごしますか?
大分市の西側から別府湾まで、平らな道が長く続いていて景色がとても良いので、よくサイクリングしています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
股関節の仕組みと疾患
Q. まず始めに、股関節はどんな構造になっているのでしょうか? それぞれの部位や働きを簡単に教えてください。
原先生:股関節は骨盤と大腿骨(だいたいこつ)から成る関節で、骨盤側にある寛骨臼(かんこつきゅう)に大腿骨の先端にある丸い形をした大腿骨頭(だいたいこっとう)がはまり込む構造になっています。関節の周りは軟骨で覆われ、中殿筋(ちゅうでんきん)、小殿筋(しょうでんきん)、腸腰筋(ちょうようきん)などの筋肉によって自由に動かすことができ、さらに周辺の靭帯が脱臼を防ぎ、安定性を保つ役割を果たしています。
Q. 股関節の代表的な疾患について教えてください。
原先生:最も多いのは、軟骨が摩耗して骨と骨が接触し、炎症を起こして痛みが生じる変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。女性に多く、40代から症状が出始める方もいます。
Q. よくCMなどで「軟骨がすり減る」と聞きますが、これは加齢が原因ですか? 実際にはどのような症状が出るのでしょうか?
原先生:変形性股関節症の約8割は生まれつき寛骨臼の作りが浅い寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)が原因とされています。寛骨臼形成不全は遺伝の要素が大きく、寛骨臼の作りが浅いと、この部位にかかる負担が狭い範囲に集中してしまい、そこに加齢の影響も相まって、軟骨の摩耗が進行することによって症状が悪化していきます。
初期症状としては、立ち上がる時に痛みが生じることが多いです。若い頃に比べて関節が硬くなってきたと訴える方もいらっしゃいます。女性に多い疾患ですが、骨粗鬆症との関連性はいまのところ証明されていません。
Q. その治療法について教えてください。
原先生:まず痛み止めを中心とした薬物治療と運動療法による保存療法で様子をみます。股関節周辺の筋肉や体幹を鍛えたり、プールで歩行したりする運動が良いでしょう。家で気軽にできることとしては、無理のない範囲で腹筋と背筋を鍛えることを勧めています。肥満気味の方は、股関節にかかる負担を減らすために減量にも取り組んでいただきます。初期の段階では保存療法で症状が改善する方も多いです。
保存療法で効果がみられず、安静にしていても痛む、足が伸ばせなくて仰向けで眠るのも難しい、という状況が続くようであれば、関節の傷んだ部分を人工股関節に置き換える人工股関節置換術(じんこうこかせんつちかんじゅつ)を提案させていただきます。ただ、こちらから無理に勧めることはなく、患者さんご自身の判断を尊重しています。
Q. 人工股関節には色々な種類があるのでしょうか?
原先生:人工股関節は、いまではミリ単位で様々な形状のパーツが揃っていて、あらゆる患者さんの骨格や症状に対応できるようになっています。また、人工股関節を構成しているポリエチレンライナーに高分子ポリエチレンが用いられるようになったことで、人工股関節の耐用年数は飛躍的に向上しました。
Q. 人工股関節の手術も以前に比べて進歩しているのでしょうか?
原先生: CTによる3次元画像診断で、術前に患者さんに適した人工股関節のサイズや設置角度を綿密に計画し、従来より安全に手術が行えるようになりました。また、当院では、手術は後方外側アプローチ(お尻の方を切開して行う手術手技)によって短時間で行い、手術時の出血量を抑えています。
Q. 人工股関節の手術を受けた患者さんは、退院後はどのように過ごしているのでしょうか?
原先生: 日常生活に制限はありませんので、農作業や正座をされる方もいます。運動や旅行を再開された方も多いです。時々人工股関節を入れた後にあまり出歩かなくなる方がいらっしゃいますが、そういう方には、「より良い生活をするために人工股関節を入れたのですから、どうぞ好きなことをしてください」とお伝えしています。
Q. 先生が日々の診療で意識していらっしゃることがあれば教えてください。
原先生:診察の際、患者さんには「元気になって何をしたいですか?」とお尋ねしています。いまは様々な治療法があるので、いくつになっても歩ける間は自分の足で歩いて、好きなことを楽しんでいただきたいと思います。
膝関節の仕組みと疾患
Q. 続いて、藤川先生に膝関節についてお尋ねします。膝の痛みに悩んでいる方は大勢いるかと思いますが、膝関節の仕組みと、主な疾患について教えてください。
藤川先生:膝関節は、大きく大腿骨、脛骨、膝蓋骨の3つのパートに分かれ、周囲の4つの靭帯が関節の動きを安定化させています。関節の表面は軟骨で覆われていますが、加齢や使い過ぎなどで軟骨が摩耗すると、骨と骨が接触して痛みが起こるようになります。これが膝関節で最も多い疾患である変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。
日本人には О脚が多く、膝関節の内側の軟骨がすり減る人が多いです。最初は立ち上がりや関節を動かし始めた時に痛みを感じ、進行すると、前十字靭帯がゆるんで膝の動きが不安定になり、歩行中ずっと痛むようになります。さらに症状が進めば、安静時にも痛むようになります。
Q. 変形性膝関節症の患者さんに特徴はありますか?
藤川先生:変形性膝関節症の患者さんの9割は女性で、骨粗鬆症との因果関係は明らかになっていませんが、女性ホルモンと関係している可能性はあります。男性で髪の毛が白くなる家系と抜けてしまう家系があるように、変形性膝関節症についても遺伝的要因が大きいといわれています。当院には40代から80代まで、幅広い年代の方が来院されています。
Q. その治療法について教えてください。
藤川先生:股関節と同様に、薬物療法と運動療法による保存療法から始めます。膝関節は皮膚を通して触れることのできる関節で、関節内に直接ヒアルロン酸を注射することができます。それが股関節との大きな違いです。
Q. ヒアルロン酸注射について、詳しく教えてください。
藤川先生:ヒアルロン酸には低分子ヒアルロン酸と高分子ヒアルロン酸とがあり、まずは低分子ヒアルロン酸注射を週に1回、5回まで行います。3回目くらいで症状が改善される方も多いです。5回続けても効果がみられない場合には、高分子ヒアルロン酸を3回まで行います。高分子ヒアルロン酸は、5人のうち1人は関節炎を起こす可能性がありますが、その場合には抗炎症剤を使って治療しますので、心配することはありません。
Q. こちらの病院では、最新の再生医療も行っていると聞きましたが、どのような治療法なのでしょうか?
藤川先生:「PRP療法」(ぴー・あーる・ぴーりょうほう)といって、患者さん自身の血液から、組織の修復を促す成長因子を放出している血小板成分を抽出し、濃縮して得られる多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう)」(Platelet Rich Plasma)を患部に投与することで、痛みを和らげ、炎症を抑えることが期待できる治療法です。
Q. 自分の血液を使うのであれば安心な気がしますが、デメリットもあるのでしょうか?
藤川先生:PRP療法は、膝関節に軟骨が少しでも残っているようであれば年齢を問わず効果が期待できます。ただ、今は保険適用外であることと、院内で血小板成分の抽出および濃縮操作をする関係上、工場で厳密に管理精製される注射液に比べれば感染の危険は若干高まります。また、軟骨が残っていない方にはあまり効果が期待できません。そのため当院では、事前に膝関節を約30°曲げた状態で体重をかけていただいた状態でレントゲンを撮って、軟骨の厚みを評価、診断しています。
Q. それでも効果がみられないようであれば、人工膝関節置換術になるかと思いますが、手術も進歩しているのでしょうか?
藤川先生:近年はCTのデータを基に3次元画像を作成して、3Dプリンターで患部の立体模型を作成し、患者さん一人ひとりに合った人工膝関節のサイズや設置方法などを、術前に綿密に計画できるようになっています。これによって、より確実に迅速に手術が行えるようになり、患者さんの身体へのダメージも減りました。
Q. 手術の合併症について教えてください。また、合併症を防ぐためにどのような対策をとられているのでしょうか?
藤川先生:主に合併症として考えられるのは細菌感染ですが、手術はクリーンルームで医師も宇宙服のような特殊な手術着を着用して行っています。また、関節周辺の神経を傷つけないよう、細心の注意を払って、できるだけ短時間で行うようにしています。
Q. 実際にPRP療法や人工膝関節置換術を受けた患者さんからはどのような声が届いていますか?
藤川先生: PRP療法によって膝の状態が良くなった患者さんからは、1年後くらいに「またやりたい」と言われることが多いです。また、畑仕事や、散歩すらできなくなって人工膝関節置換術を受けた方からは、「日常生活が楽になった」「畑仕事ができるようになり、旅行にも行けるようになった」とよく言われます。
Q. 普段、患者さんと接するうえで意識していらっしゃることがあれば教えてください。
藤川先生:私自身、小さい頃から病気をしたことがなく、2日前に還暦を迎えましたが、いまだに老眼もありません。神様から「この仕事を頑張ってやり続けろ」といわれているように感じて、日々患者さんに向き合っています。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
リモート取材日:2021.4.21
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
人工股関節置換術後の日常生活の制限はありませんので、歩ける間は自分の足で歩いて、好きなことを楽しんでほしいと願っています。(原先生)
PRP療法など膝関節の治療の選択肢は増えています。畑仕事や散歩すら難しくなって人工膝関節置換術を受けた方からは、「日常生活が楽になり、旅行にも行けるようになった」とよく言われます。(藤川先生)