先生があなたに伝えたいこと / 【萩尾 佳介】いまは人工股関節の材質やデザイン、手術手技の進歩によって身体への負担が減り、術後は痛みが減り快適に日常生活を送れるようになるので、手術を受けた方からは「もっと早くやればよかった」とよく言われます。

先生があなたに伝えたいこと

【萩尾 佳介】いまは人工股関節の材質やデザイン、手術手技の進歩によって身体への負担が減り、術後は痛みが減り快適に日常生活を送れるようになるので、手術を受けた方からは「もっと早くやればよかった」とよく言われます。

社会医療法人 慈薫会 河崎病院 萩尾 佳介 先生

社会医療法人 慈薫会 河崎病院
はぎお  けいすけ
萩尾 佳介 先生
専門:股関節

萩尾先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 内科の先生に運動不足を指摘され、3ヵ月前からジムに通い始めました。診察で患者さんには「運動が大事」と言っておきながら、自分はできていませんでしたが、これで患者さんにも説得力を持って言えるようになるでしょうか(笑)。

2.休日には何をして過ごしますか?
 いまは家でゆっくり過ごすことが多いですが、そのうち家族で登山など、外で身体を動かすこともしてみたいと思っています。

先生からのメッセージ

いまは人工股関節の材質やデザイン、手術手技の進歩によって身体への負担が減り、術後は痛みが減り快適に日常生活を送れるようになるので、手術を受けた方からは「もっと早くやればよかった」とよく言われます。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

股関節の仕組みと疾患

Q. まず、股関節はどのような構造になっているのでしょうか?

A. 股関節は骨盤側のソケット状の寛骨臼(かんこつきゅう)という受け皿に、大腿骨頭(だいたいこっとう)と呼ばれるボール状の骨がはまり込むボール&ソケット・ジョイント構造になっています。周囲は関節包(かんせつほう)という袋状の組織で包まれ、色々な方向に動かせるのが特長です。関節を構成している骨の表面は、骨同士が当たらないように軟骨というクッションのようなもので覆われています。股関節は様々な動きに寄与している分、傷めると日常生活の動作に制限が出るようになります。

股関節の構造

股関節外観 関節包をはがした状態 関節包

関節包靱帯(関節包の内側)

Q. 股関節の代表的な疾患について教えてください。

A. 日本で最も多いのは、軟骨が擦り減ることで変形や痛みが起こる変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。軟骨が擦り切れると骨同士があたって動きが悪くなり、変形が進み、やがて痛みを感じるようになります。ほかには、大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)関節リウマチなどがあり、いずれも進行すれば関節の破壊や変形が起こります。

変形性股関節症

Q. 変形性股関節症になる原因や患者さんの傾向はありますか?

A. 骨盤の"かぶり"が浅い寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)であることが多く、"かぶり"が浅いと大腿骨頭を包み込みきれずに寛骨臼の一部に負荷が集中し、その分そこの軟骨が早くすり減ります。寛骨臼形成不全の患者さんには、生まれつき"かぶり"が浅い方もいれば、幼少期に股関節の治療歴のある方で成長期に骨盤が成長しきれなかった方もいます。若い頃は寛骨臼形成不全の影響はとくに現れませんが、30代以降になると無理したときに痛むようになり、加齢とともにその頻度が増し、変形性股関節症の症状が出てくるのは40~50代以降に多いです。

正常 寛骨臼形成不全

社会医療法人 慈薫会 河崎病院 萩尾 佳介 先生Q. 変形性股関節症は、どのような痛みが起こりますか?

A. 鼠径部(そけいぶ:脚の付け根部分)や臀部(でんぶ:お尻の部分)に痛みを感じることが多いですが、膝や腰のあたりに痛みを感じる方もいます。そのため、膝や腰だけの検査を受けて異常が見られず、股関節が原因であることに気付かずに放置されている方も多いようです。

Q. その治療法について教えてください。いきなり手術になることもあるのでしょうか?

A. いきなり手術になることは、まずありません。診察では、痛みや動かしにくさがあるかなど、患者さんがどういうことで困っているかを伺い、まずは痛み止めや消炎鎮痛剤などの薬物治療リハビリを組み合わせた保存治療から始めます。股関節にかかる負担を減らすために、杖を使ったり、肥満の方は減量してもらうなどの生活指導も行います。こうした保存治療で症状が改善する方も多いです。

Q. 保存治療で改善しない場合、ほかにはどのような治療法が考えられますか?

A. 寛骨臼形成不全が原因で、画像診断で変形がそこまで進んでない50歳くらいまでの方には、患者さん自身の骨を切って向きを変えて寛骨臼の"かぶり"を深くする寛骨臼回転骨切り術(かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ)という治療法があります。自分の関節を温存できますが、入院期間が長くなり、社会復帰に時間がかかるというデメリットもあるので、患者さんの生活背景も考慮して、骨切り術にするか、傷んだ部分を人工物に置き換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)にするかを判断します。

寛骨臼回転骨切り術

Q. 人工股関節にするメリットは何ですか?

A. 一番のメリットは痛みを和らげることです。人工関節にするというと、サイボーグになるようなイメージをもつ患者さんもいらっしゃいますが (笑)、実際には、歯科治療で例えれば、傷んだ箇所を削って人工物に置き換える虫歯の治療のようなものです。人工股関節手術にするかどうかについては患者さんの意向に沿って医師としてできるだけ多くの情報提供を行いつつ、最終的には患者さんに決めていただくことになります。

人工股関節置換術の例

人工股関節置換術の例

Q. 「虫歯の治療」と聞くと、少し気が楽になります(笑)。ちなみに人工股関節自体は以前に比べて進歩しているのでしょうか?

A. 人工股関節のデザインや材質、手術器具は進歩しています。骨の形態は一人ひとり異なりますが、デザインのバリエーションが増えたことで、患者さんに適したサイズや形状のインプラント(骨頭ボール、ステム、カップ、ポリエチレンライナーなど)が選べるようになりました。また、材質面では、軟骨の役目を果たすポリエチレンライナーの素材が改良され、摩耗しにくくなったことで耐用年数が延びたことに加え、セラミック製の骨頭ボールの直径が大きくなったことで可動部分の安定性が増し、脱臼しにくくなりました。

骨頭ボールの直径が大きい場合 骨頭ボールの直径が小さい場合

Q. 手術の方法はどうですか?

A. 以前は、人工股関節を適切な位置や角度に設置するには医師の感覚に頼る部分もありましたが、いまは3次元の画像診断で術前にシミュレーションを行ったうえで、ナビゲーションなどの手術支援システム併用でより正確に、安全に設置できるようになりました。また、メスを入れて股関節に到達する方法をアプローチといいますが、皮膚や筋肉を大きく切離する従来のアプローチから、筋肉などの軟部組織をできるだけ温存する最小侵襲手術(MIS:エムアイエス)が主流になっています。MISは術後の患者さんの痛みが少なく、回復も早いことがメリットです。

前方アプローチ法 前側方アプローチ法 後方アプローチ法(筋肉を切開する必要がある)

Q. 手術の合併症対策についてはいかがですか?

A. 手術で考えられる合併症としては感染深部静脈血栓症などがあります。当院では手術はクリーンルームで行い、抗生剤の投与を行うことで感染を防いでいます。また、手術後長い時間動かさないでいることで血栓ができる恐れがありますから、翌日からリハビリを行い早期離床を目指しています。

感染予防対策(クリーンルームで特殊な手術着を着用して行う)

社会医療法人 慈薫会 河崎病院 萩尾 佳介 先生Q. 術後のリハビリはどのようなことをするのでしょうか? また、退院までどれくらいかかりますか?

A. 手術翌日から歩行器や平行棒を使った歩行訓練を始め、階段の昇り降りや和式トイレの動作、入浴、畳での動作など生活動作全般を指導します。当院では手術から退院まで平均3週間ですが、患者様の状態に合わせてリハビリを行っています。

Q. 退院後に日常生活で気を付けるべきことはありますか?

A. 以前は深く曲げる動作や正座はしないよう指導していましたが、いまは術前計画で患者さんに合った人工股関節を選べ、人工関節のデザインや手術手技の向上で脱臼リスクが減ったことから、術後1ヵ月以降の動作制限についてはとくに設けていません。

Q. 手術をされた患者さんからはどんな声が届いていますか?

A. 股関節が悪くなると靴下を履いたり、足の爪を切ったり、ものを拾うのも難しくなるので、「もっと早くやればよかった」「痛みが取れて歩きやすくなった」とおっしゃる方が多いです。

社会医療法人 慈薫会 河崎病院 萩尾 佳介 先生Q. 手術をするのが怖いと考えている方も多いと思います。決断するまでに悩まれる方は多いのでしょうか?

A. 股関節の疾患の多くは数年から十数年かけて徐々に症状が悪化するので、何年も手術に踏み切れないでいる方は多いです。ただ、痛みがつらくて、自分らしい生活ができなくなったときが手術のタイミングです。「痛みを和らげて快適に日常生活を送れるようになる人工股関節置換術という方法がある」とアドバイスすることも医師の努めではないかと思っています。

Q. 先生が医師を志されたきっかけやエピソードがあれば教えてください。

A. あえて言えば、子どもの頃、転んでガラスで脚を切って救急車で運ばれたことでしょうか。治してもらって歩けるようになったことがとても印象に残っています。

リモート取材日:2021.7.16

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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