先生があなたに伝えたいこと / 【冨永 亨】肩関節の治療方法は、運動療法から最新の人工肩関節まで幅広くあります。なるべく早めの受診をお勧めします。

先生があなたに伝えたいこと

【冨永 亨】肩関節の治療方法は、運動療法から最新の人工肩関節まで幅広くあります。なるべく早めの受診をお勧めします。

聖隷三方原病院 冨永 亨 先生

聖隷三方原病院
とみなが とおる
冨永 亨 先生
専門:肩関節

冨永先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 国家予算の中の医療費はやはり気になりますね。患者さんに直に関わる問題ですから。

2.休日には何をして過ごしますか?
 実はシニアワインエキスパートの資格を持っていまして、週に1回はワインを楽しんでいます。我が家にはワインセラーもあります。お店に頼まれてワインを選ぶことも...。

先生からのメッセージ

肩関節の治療方法は、運動療法から最新の人工肩関節まで幅広くあります。
なるべく早めの受診をお勧めします。

Q. 肩関節の仕組みについて教えてください。

A. 肩関節は、股関節のように骨と骨がしっかり組み合わさっているとか、膝関節のように靭帯で強固につながれているわけではなくて、腱板という筋肉の一部でガードされるようになっています。腱板は4つの筋肉(下図参照)で成り立っていて、それらが上腕骨を覆っている構造です。肩関節自体のイメージとしてはけん玉ですね。思い浮かべてみてください。臼のようなお皿があって、その上にボールがとどまりますが、お皿よりボールのほうが大きいので、ちょっと乗っているだけです。そのお皿が肩甲骨のくぼみ、ボールが上腕骨の頭の部分の骨になります。

肩の筋肉の名称

肩関節の名称

Q. 確かに、しっかりと固定されているわけではないので、ボールがグラグラと動きますよね。

A. ええ。だから動きがとてもいい。その分、補強が弱いですから脱臼などが起こりやすいんです。また腱板が肩関節の安定化には大変重要で、これが破たんすることで痛みや不具合が生じます。

Q. よく五十肩と言いますが?

肩が痛い イラストA. 学会では凍結肩(frozen shoulder)と呼ばれています。これは腱板などに、大きな損傷や断裂などの異常がないにもかかわらず、痛みや痛みによる動きの制限が出るものです。小さな古傷の集まりによって炎症が引き起こされ、時間とともに自然に修復されて痛みも治まっていきます。これについては老化現象といえるかもしれません。但し、「3ヵ月ほど続く痛み」があって、「夜、痛くて眠れないほどの強い症状」が出た場合は、他の異常を起こしていることが考えられますので、一度、受診されることをお勧めします。

Q. では五十肩以外で、肩の痛みの原因となる疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?

聖隷三方原病院 冨永 亨 先生A. 外傷がなくても痛いということでしたら、関節リウマチ、または、症例数は少ないですが変形性肩関節症などがあります。中でも中高年で多いのは「腱板断裂」です。「五十肩ですよ」と診断されてもなかなか治らないというときは、これを疑ったほうが良いでしょう。ただ、それでも五十肩で片付けられてしまうケースがあるので、できるだけ肩関節の専門医に診ていただくのが良いと思います。

Q. わかりました。五十肩はいわゆる老化ということでしたが、その腱板断裂の原因は何なのでしょうか?

A. 少し難しい説明になるのですが...。腱板は肩峰(けんほう)と上腕骨に挟まれているために摩擦が起こりやすく、加齢に伴ってすり減った薄い状態ですと、大きな外力が加わらなくても断裂することがあります。また腱板が切れて反った部分が骨と骨に挟まって炎症を起こして痛みが強く出ることもあります。先ほど申し上げましたように、腱板は4つの筋肉が束のようになっていて、幅数mm程度の小断裂から、5cm以上にも及ぶ広範囲の断裂まであります。

Q. 腱板断裂の治療法は?

聖隷三方原病院 冨永 亨 先生A. 通常は、患部を固定して安静にし、痛み止めやヒアルロン酸の注射と運動療法を併行して経過をみます。断裂した部分が修復されることはありませんが、残った腱板の機能を回復させることが重要です。それでも痛みが残ったり、動かしづらかったりするのであれば、断裂の状態に合わせて関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)をします。関節鏡視下手術では、痛みや炎症の原因となっている部分を除去したり、切れた腱板をもう一度、付着部に縫着するといった修復を行います。

Q. 関節鏡視下手術では入院期間はどれくらいになりますか?

A. 2週間ほどですが、1ヵ月程度は固定する必要がありますね。

Q. 肩にも人工関節はあるのですか?

A. あります。変形性肩関節症や関節リウマチで、腱板が残っていて関節だけが傷んでいる場合に使います。ですが肩は荷重関節(体重を支える関節)ではありませんので、股関節や膝関節などに比べると、人工関節手術の頻度は低いといえます。しかしながら、新しいリバース型の人工肩関節はおおいに注目すべきだと思います。

Q. リバース型の肩関節というのは?

A. 従来のものは、上腕側に骨頭、肩甲骨側がソケット(受け皿)ですが、リバース型は逆で、肩甲骨側に骨頭を作り上腕側で受けます。フランスでは1986年頃から使用されてきましたが、日本ではこの4月(2014年)に認可されたばかりです。

従来の人工肩関節

従来の人工肩関節

リバース型の人工肩関節

リバース型の人工肩関節

Q. それはトピックですね。実際にはどのような場合に使われるのですか?

聖隷三方原病院 冨永 亨 先生A. 主には、腱板断裂を放置してしまうことで腱板が縮んでしまい、上腕骨まで届かなくなったようなケースや、修復が難しい広範囲の断裂をおこしている際に適応となります。また、腱板断裂によって肩峰の先端と骨頭が当たって関節を傷めてしまう腱板断裂関節症などで用います。これらのケースでは、今までの再建手術では、ある程度の疼痛(とうつう)を緩和できたとしても、肩の動きそのものを回復させることはできませんでした。しかし、リバース型の人工肩関節を使いますと、それも可能になるのです。
腱板について補足しますと、腱板は筋肉といいましたが、実はその役割は外側の大きな筋肉の力を素直に伝えるということのほうが大きいのです。これが治せないということは、腕の骨が自然に動くメカニズムが破たんしているということなのです。これをどうしても元に戻せないときにはどうしたらよいのか、という命題の答えがリバース型人工肩関節だったのです。

Q. なるほど。それにしてもなぜ骨頭とソケットを逆に設置するのでしょうか?

A. これはよく考えられていましてね、肩甲骨側にボールを設置することにより、腕の回旋の中心が通常より内側、そして下側になります。そうなることで、三角筋のレバーアーム(テコの原理で支点から作用点までの長さのこと。下図のF1-L1間、F2-L2間の長さ。)が長くなり、外側の筋肉の力が腕に伝わりやすくなるんです。画期的な技術ですよ。

従来の人工肩関節、リバース型の人工肩関節

FとLの長さが長いほど筋肉の力が伝わりやすい。

Q. 痛みが取れ、動きもずいぶん回復しそうですね。

聖隷三方原病院 冨永 亨 先生A. 痛みはほぼなくなります。動きに関しては、あまり高いところまで腕が上がるということはないにしても、顔や髪を洗ったり、着替えたり、日常生活への大きな支障は解消されます。但し、力こぶがもりもり付くほどの動作は回復できないことはご理解いただく必要があります。

Q. 他に適応の条件はあるのでしょうか?

A. 自覚症状の基本として、あたかも麻痺しているように動かない状態であることです。また、他の筋肉に異常があって動かない場合はだめです。「他の筋肉は問題ないのに、腱板断裂によって肩の構造が壊れしまい、肩が上がらない状態」、そしてレントゲン上で「関節に変形が見受けられる状態」のときに適応となります。あとは、日本においては70歳以上の方というのが基準として定められています。これはリバース型の人工肩関節が新しい手術法であり、かつ最終手段であることが理由です。

Q. では、70歳未満の方にはどのような手術を?

A. 今までの手術を踏襲して、大腿筋膜を取ってきてパッチを当てるように修復します。しかし、必ずしも成績が安定するわけではないのと、リハビリも大変ですので、場合によっては早めに人工肩関節を入れるということもありますね。どこの病院も苦労されているのではないでしょうか。ただ、もうリバース型を使うしか方法がないという場合にはこの限りではなく、70歳以上というのはあくまで慎重にという意味です。

聖隷三方原病院 冨永 亨 先生Q. リバース型の人工肩関節は、一般に広がってはいるのでしょうか?

A. いいえ、これからですね。今は決められた病院でしか使われていません。肩の手術経験が累計100例以上(鎖骨骨折を除く)、そして50例以上の腱板手術を行っている、日本整形外科学会の定める講習会を受講しているなど、病院だけでなく実施する医師にも基準が設けられているんです。静岡県では現在(2015年1月)はまだ数えるほどしかありません。

Q. 早く一般化すればいいですね。ところで手術における合併症は、他の人工関節手術と比べてどうなのでしょうか?

A. 他の人工関節手術と大きな違いはありません。脱臼の確率がやや高いかもしれませんが、これは手術手技に起因するものがほとんどといわれていますので、我々医師が正確な技術をもって手術を行うことが大事です。血腫や感染は、リバース型だから特にということはないと考えています。

Q. では入院期間はどれくらいでしょうか?

A. 2週間程度ですね。ただ三角巾で固定する期間が1ヵ月ほどありますから、ご高齢で特に利き腕ですと、それが取れてからということで4週間ほど入院される方もおられます。

Q. リバース型の場合、リハビリの方法に違いはありますか?

A. 方法に違いがあるというよりは、ご本人の意識、そして理学療法士の理解が必要ですね。先ほども申し上げました通り、このリバース型の適応は腱板がほとんど機能しない状態です。そのため、腱板が機能している標準型の人工肩関節よりも可動域は少し劣ります。過度な期待ではなく、「痛みなく、無理なく動かせるようになればいい」、というくらいの気持ちでリハビリに臨んでいただくほうが、ご本人のモチベーションも保てるのではないでしょうか。また可動域を求めるあまり無理な動きをすると、脱臼の危険性も出てきます。痛みと生活の困難から開放されることを、前向きに捉えていただければと思います。

Q. ありがとうございました。患者さんにはできれば早めに、せめて関節鏡の修復手術が可能な段階で、治療を始めていただけるといいですね。

聖隷三方原病院 冨永 亨 先生A. 我々としてもそう望んでいます。ですから痛みがあるのならば「自然に治るかな」、「この程度で受診してもいいのかな」などと躊躇せず、本当に気軽に受診していただきたいのです。当院は紹介制ですが、かかりつけの主治医の先生に、「肩が痛い」ということで紹介状を書いていただくだけで受診できます。治療の段階はいくつかあって、リハビリだけで改善するケースもあります。ぜひ遠慮しないで早め早めに受診してください。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

冨永 亨 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2014.11.18

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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