先生があなたに伝えたいこと / 【渡辺 淳】外反母趾は、進行すると親指以外も変形し、複雑な手術が必要になります。そうなる前に適切な治療を受けることが大切です。

先生があなたに伝えたいこと

【渡辺 淳】外反母趾は、進行すると親指以外も変形し、複雑な手術が必要になります。そうなる前に適切な治療を受けることが大切です。

医療法人社団 苑田会 苑田第一病院・医療法人小宮山会 貢川整形外科病院 渡辺 淳先生

医療法人社団 苑田会 苑田第一病院
医療法人小宮山会 貢川整形外科病院

わたなべ あつし
渡辺 淳 先生
専門:足関節・足部

渡辺先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 仕事の延長線上になりますが、靴に関心があります。小学生時代の同級生である足の専門医やスポーツ用品メーカー、理学療法士などから靴の構造や性能などについて教わり、インソールの制作にも携わっています。もともとスニーカー集めが好きでしたのでのめりこんでいます。

2.休日には何をして過ごしますか?
 バスケットボール観戦が好きで、最近はNBAの開幕戦を観に行きました。休日のたびにバスケットボールをしていたのですが、6年ほど前にケガをしてしまってからは観戦がメインになってしまっています。

先生からのメッセージ

外反母趾は、進行すると親指以外も変形し、複雑な手術が必要になります。そうなる前に適切な治療を受けることが大切です。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 足関節・足部とは、どの部分を指しますか? その構造についても教えてください。

A. 足関節は、下腿の脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)、距骨(きょこつ)、踵骨(しょうこつ)、足根骨(そっこんこつ)で構成されています。皆さんが普段、足首と呼んでいる部分を指し、多くの関節を含んでいます。まわりには筋肉があり、靱帯によって支えられています。さらに足部は、機能面から前足部、中足部、後足部の3つに分類されます。足部には56個もの骨があり、全身の1/4にあたる骨で構成されています。

足関節の構造

足部と足関節

Q. 前足部に多くみられる疾患について教えてください。

A. 親指が「く」の字型に曲がる外反母趾(がいはんぼし)で受診される方が圧倒的に多く、有病率は30%程度だといわれています。男女比は1:9と圧倒的に女性が多く、50歳以降の方が大半を占めていますが、最近は中高生や20歳代でも受診される方もおられます。主な症状は、親指のつけ根が靴に当たって痛む、親指と人差し指が交差する、足の裏にタコや魚の目ができることです。ほかにも親指に症状が出る疾患として、指を伸ばしたりつま先立ちをしたりすると母趾背側に痛みが出る、強剛母趾(きょうごうぼし)も多くみられます。

外反母趾

Q. 外反母趾の原因は何ですか?

A. 一般的には、加齢に伴って筋肉が落ちることで足の支持構造が柔らかくなり過ぎ、中足部が扇状に広がって起こることが原因となります。また、やはり家族性の要素もあり、足がこんにゃくのように柔らかく、体重をかけると横に広がって土踏まず(アーチ)が潰れてしまうタイプの方がおられます。幼児や小学生でも、10%程度の子どもにみられ、その状態で大きめの靴を履いていると足幅が広がり、将来的に外反母趾につながる可能性があります。

Q. 足に痛みや腫れがある場合、どのようなタイミングで整形外科を受診すればいいですか?

A. 外反母趾は加齢に伴って徐々に進行し、痛みも変形も強くなっていきます。特に、足の親指と人差し指が交差してくる場合は、早期に受診することが大切です。足は手と違って、隣の指に影響を及ぼしやすい構造になっています。親指と人差し指が交差するほど外反母趾が進むと、年間に5度ずつ変形が進むといわれ、変形によって指が浮いてくることで、指先で地面を捉えられなくなり歩行が不安定になることもあります。そうなると、親指だけでなく、人差し指の手術も必要になり、その場合は単独の手術に比べて手術成績が劣ります。そのため、指が交差してしまう前に手術を行うことが望ましいと考えています。ただし、一般的な整形外科などでは適切な診断できない場合もあるため、足の専門医の診療を受けることをお勧めします。

医療法人社団 苑田会 苑田第一病院・医療法人小宮山会 貢川整形外科病院 渡辺 淳先生Q. どのように診断するのですか?

A. 足に体重をかけた状態でレントゲンを撮り、足の形態変化を確認します。親指が20度以上曲がっていれば外反母趾と診断します。私は足の触診とともに、靴の触診と視診も行ったりします。靴の踵が極端に削れていたり、穴があいたりしやすい部位に、その方の歩き方や痛みの部位を示す情報が詰まっているからです。履き慣れた靴で受診していただければ、より正確な診断ができると考えています。

Q. 外反母趾と診断された場合、どのようなことに注意すべきですか?

A. 外反母趾の改善において一番重要なのは、ご自身の足に合った靴を履き、足の幅を広げないことです。市販の外反母趾専用靴は足に合った靴というよりも、足が靴の中でできるだけ当たらないようにした靴です。履くと靴の当たりはなくなりますが、靴の中で足の移動が起き、足の幅が広がって変形が進みやすくなります。靴ずれも、足が靴の中で動くことで起きるため、足にぴったりとフィットしていれば、靴ずれも起きないと思われます。
日本人はどうしても、日常生活で靴を脱ぎ履きする場面が多いため、一般的に脱ぎやすい靴を選びがちです。しかし、適切な靴指導を行うと、「窮屈(窮靴)が気持ちいい」と自覚される方も少なくありません。ドイツでは、「子どもの98%は健康な足を持って生まれてくるが、大人の60%は足の障害で苦しんでいる。それらの障害は、足に合わない子ども靴を通して生じる」といわれ、靴の重要性が認知されています。また、6cm以上のヒールがある靴は外反母趾の原因になると報告されているので、注意が必要です。

Q. 治療法について教えてください。

タオルギャザー運動の例A. 外反母趾が進行している場合は手術治療になることもありますが、軽度の場合は、中足部を締めるバンドを装着するほか、インソールを作成して使用することで、症状の緩和をはかります。また当院では、靴のサイズ計測、靴紐の正しい結び方の指導のほか、その人に合った靴が選べるメーカーや靴店を紹介することもあります。
ほかにも、歩行時に地面から指が浮くことを予防するための足指のストレッチも行います。幅広ゴムを両足の親指にかけ、左右に足を開くホーマン体操で、親指を外側に開く力を高めるほか、床に敷いたタオルを足指で掴むタオルギャザー運動で、足の筋力強化を行います。その際に、中足部が締まるような靴下を履いて行うことも推奨しています。

Q. どのような場合に手術になりますか?

A. 一つは、いろいろな靴を試し、足指のストレッチも行ったうえで、それでも痛みが強くて歩きにくい場合、もう一つは、人差し指に痛みが出ていて、親指と人差し指が交差していくことが予測できる場合です。

Q. どのような手術になりますか?

A. 基本的には足幅を狭くすることが目的の手術となり、そのやり方は100通りあるといわれています。患者さんには、お一人おひとりの状態に合わせて足の形を作り直す手術だとご説明しています。見た目の面からも、足をきれいな形に整えることを意識して手術を行います。
軽度から重度の場合は、中足骨近位骨切り術(マン変法)を行うことがあります。中足骨の一部を切り、方向を変えてプレートなどで固定することで改善を図ります。

中足骨近位骨切り術

一方、足が非常に柔らかい、あるいは他の指にも変形がある重度の場合は、関節を固定して動かないようにして外反母趾を矯正する手術になります。当院で多く行っているのは、中足骨と楔状骨(けつじょうこつ:足根骨の一部)を合わせ、髄内釘(ずいないてい)と呼ばれる金属の支柱で固定させる関節固定術(ラピダス変法)です。

関節固定術(ラピダス変法)の例

これらの手術はどうしてもリハビリに時間を必要としますが、高齢の方や非常に重症の方でも中足骨と基節骨の関節固定を行うことで早期リハビリも行えることもあります。

基節骨の関節固定術の例

Q. これらの手術は、以前と比べて進歩してきていますか?

A. 10年ぐらい前から大きな進歩を遂げています。小型で固定力に優れた足専用の固定金具が開発されたこともあり、手術直後から歩行やリハビリができるようになりました。リハビリ期間も短縮でき、再発も減っています。術者が病態への理解を深め、工夫を重ねてきたことも、手術成績につながっていると思います。また、エコーを用いた下肢神経ブロックによって、術後の痛みを緩和できるようになったことも、リハビリを進める面で非常に有用で、大きな進歩を感じています。

医療法人社団 苑田会 苑田第一病院・医療法人小宮山会 貢川整形外科病院 渡辺 淳先生Q. 手術の合併症についても教えてください。

A. 一般的な手術と同様に、出血や感染の可能性はあります。特に私が注視しているのは、術後2カ月間ほど、足の腫れが続くことです。そもそも浮腫みなどが出やすい部位である足において、十数年以上の単位で変形してきたものをわずか数時間の手術で作り直していくため、非常に大きな負担がかかります。そのため、しばらくは腫れが出るので、患者さんには足を挙上し、術直後は歩行時間・距離を少なめにするようにお伝えしています。

Q. 術後は、どのような流れになりますか?

A. 手術翌日からつま先を浮かせた踵での歩行と、指の運動を行います。一般的に1週間ほどで退院となりますが、他の指も手術した方や両足同時に手術した方などは、慎重にリハビリを行っていくため、退院までに2〜3週間ほどかかります。
ベタ足での歩行は術後3週間、つま先立ちは術後6週間を目処に許可しています。リハビリを熱心にし過ぎると、かえって足に負担がかかって浮腫みが出る場合もあるので、焦らないことが大切です。職場復帰は、事務仕事であれば術後3週間ほど、立ち仕事であれば8週間ほどで段階的に許可しています。また、術後は足の形が大きく変化するため、術前に履いていた靴は合わなくなります。主治医の先生にご相談のうえ、新調していただくことをお勧めします。
手術から2~3カ月経って経過が安定していれば、特に生活の制限はなく、スポーツなども積極的にしていただいて問題ありません。当院の患者さんで、ある70歳代の方は手術から半年後ぐらいに社交ダンスを再開されていました。手術をされた患者さんは、以前は靴があまり選べなかったのが、選べるようになったと喜んでおられる方が多いです。もちろん、術後も継続して足指のストレッチや筋力強化をすることも大切です。

Q. 外反母趾で悩んでおられる方に、アドバイスをお願いします。

A. 外反母趾は、保存治療も手術治療もまだ広く知られていないからこそ、足専門の医療機関で早期に受診することが大切です。痛みはなくても、変形が強くなってきた場合も同様で、他の指までが変形してしまう前に治療を受けましょう。
また、外反母趾の進行を抑えるために、普段からご自身に合った靴を履くことが重要です。ご本人だけでなく、10歳ぐらいまでのお子さんやお孫さんがおられる方は、子ども靴の選び方にも注意を払っていただきたいです。子どもの成長は早いと言われますが、足は4歳以後 1cm/年 でしか大きくなりません。しかも、子ども靴のサイズは1cm刻みの設定が多く、かなり大きめになりがちです。成長段階に合わせ、足に合った靴を履かせてあげることが、外反母趾の予防につながります。

Q. よくわかりました。では最後に、先生が足の専門医を志されたエピソードがありましたら教えてください。

医療法人社団 苑田会 苑田第一病院・医療法人小宮山会 貢川整形外科病院 渡辺 淳先生A. 小学校時代の同級生が足の専門医で、彼から足のことを学んだことがきっかけで、今も共に勉強しています。私はもともと、整形外科医として骨折治療などを中心に行っていましたが、十数年前に自分が膝の手術を受けてリハビリを行う中で、足や靴への関心が高まりました。日本では、足の専門医はまだ少ないですが、最近は徐々に増えてきています。外反母趾の患者さんすべてが、適切な治療を受けられるよう期待しています。

リモート取材日:2023.1.24

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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