先生があなたに伝えたいこと / 【城戸 秀彦】膝関節の専門医、日本人工関節学会認定医として、手術後のすべての患者さんが安全に安心に、そして自信を持って生活していただけるように、人工膝関節の正確な設置と術後の生活アドバイスおよびアフターケアを重視した治療を心がけています。

先生があなたに伝えたいこと

【城戸 秀彦】膝関節の専門医、日本人工関節学会認定医として、手術後のすべての患者さんが安全に安心に、そして自信を持って生活していただけるように、人工膝関節の正確な設置と術後の生活アドバイスおよびアフターケアを重視した治療を心がけています。

山口赤十字病院 城戸 秀彦 先生

山口赤十字病院
きど  ひでひこ
城戸 秀彦 先生
専門:膝関節 日本人工関節学会 認定医

城戸先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 最近の異常気象で、夏は猛暑、冬は暖冬など季節感が少なくなってきています。夏の休暇は例年沖縄の離島へ行き、海辺で過ごすことが多いのですが、海水温上昇によるサンゴの白化現象で10年前と比べきれいなサンゴが減ってきていることが残念です。

2.休日は何をして過ごしますか?
 家族一緒に公園など野外で過ごすことが多いです。またランニングが趣味でよく近所の田舎道を走っています。ランニングしていると心身ともにリフレッシュして、診療や学会のテーマについて良いアイデアが浮かんだり整理できたりもします。年に1、2回はマラソン大会に出場していて、11月の下関海響マラソンは初回から連続出場しています。

先生からのメッセージ

膝関節の専門医、日本人工関節学会認定医として、手術後のすべての患者さんが安全に安心に、そして自信を持って生活していただけるように、人工膝関節の正確な設置と術後の生活アドバイスおよびアフターケアを重視した治療を心がけています。

Q. 今回は主に膝関節の手術についてお伺いします。まずは基本的なこととして膝関節の構造について教えてください。

A. 膝関節は、大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)と脛骨(けいこつ:すねの骨)並びに膝蓋骨(しつがいこつ:お皿の骨)から成り立っています。脛骨と大腿骨の間は十字靭帯(じゅうじじんたい)や側副靭帯(そくふくじんたい)などでしっかり支持されていて、さらに半月板や軟骨がクッションの役割をすることにより体重負担を和らげています。ですから膝は単純な屈伸だけではなく、捻り動作など複雑な動きもできるんです。

右脚の膝関節を正面から見た図

Q. 膝関節が悪くなりますと日常生活にも大きな支障が出そうですね。膝関節の主な疾患にはどのようなものがあるのですか?

山口赤十字病院 城戸 秀彦 先生A. 慢性的な疾患と、転倒や打撲などケガによる疾患があります。慢性的な疾患の代表は変形性膝関節症で、人工膝関節の適応になる疾患ですから、まずはこのことからお話ししましょう。
変形性膝関節症の定義は、「膝の関節軟骨が摩耗して炎症を起こし、痛みやこわばり、腫れを伴いながら、膝関節の変形に至る」というものです。原因としては加齢や長年にわたる過度の重労働、若い頃の膝関節のケガなどがあげられます。年齢的には50歳代で増え始め、比較的女性に多く、遺伝や体質の影響もあるといわれています。近年、レントゲン所見のある変形性膝関節症患者数は、推計で2,500万人ともいわれていますが、高齢社会が進めばさらに増加するでしょう。ほかには関節リウマチによる膝関節炎が原因の変形もあります。
一方、外傷、ケガではスポーツに伴う十字靭帯の損傷や半月板損傷が多いです。治療としては関節鏡による十字靭帯の再建手術や半月板の縫合術など、専門性の高い手術がメインとなります。手術後のリハビリテーションも重要ですから、総合的に加療の行える膝専門医のいる医療施設での診療をぜひお勧めしたいと思います。

関節鏡視下手術Q. わかりました。それでは変形性膝関節症についてもう少し詳しくお伺いします。自覚症状としてはどういうものがあるのでしょうか?

A. 初期ですと日常動作の動き始めの痛みですね。この時点で早めに診察を受けていただければ保存療法も十分可能です。徐々に進行しますと関節の中に水が溜まったり、正座ができない、痛みで歩くのが辛いなど日常生活にも支障をきたしたりするようになります。外見上のO脚が目立つようになり、膝をまっすぐに伸ばせなくなります。

足底板Q. 保存療法とは具体的には?

A. 初期の方、そして痛みの軽い方に行います。具体的には、膝の体操、必要に応じて湿布や消炎鎮痛剤の服用、ヒアルロン酸の関節内注射などを併用します。靴の中に足底板(そくていばん)を挿入したり、サポーターなどの装具療法を行ったりすることもあります。このような保存療法でも改善しない場合や変形が強い場合は、疼痛(とうつう)を取るためにも手術療法を選択することになります。

Q. 手術療法に種類があるのでしょうか?

A. はい、患者さんの状態によって適切な手術を選択します。軽度の場合は、内視鏡の一種である関節鏡を使って、痛みの原因のひとつとなっている半月板損傷など、関節の悪い部分をクリーニングする手術を行います。これですと患者さんの体に対する負担が少ないというメリットがありますが、膝関節の状態が悪ければ関節鏡では治療困難な場合が多く、一般的には骨切り術か人工膝関節手術ということになります。

骨切り術について~骨を温存~

Q. 骨切り術とはどういう手術なのですか?

A. よくされるのは高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)といって、膝の下のすねの部分で骨を切るんです。そして、たとえば日本人に多いO脚ならばX脚に変えて金具で固定します。それにより傷んでいる内側の軟骨部分へかかる体重を、正常な膝の外側に分散させます。主に50歳代の若い方や、膝に負担がかかってしまうお仕事をされているなど、活動性の高い方が対象になります。ご自分の骨が残りますから、骨切りをして形を変えたところの骨がしっかりとくっついて痛みがなくなれば、運動もできますよ。ただ、骨が癒合するまでに2~3ヵ月かかかりますし、リハビリ期間も比較的長くなります。

O脚の図

Q. 高位脛骨骨切り術の手術をすれば人工関節にしなくて済むのでしょうか?

山口赤十字病院 城戸 秀彦 先生A. これは手術をしたときの変形の程度によります。それほど変形が進行していない人であれば、人工関節手術をせずに一生ご自分の骨で生活できることが期待できます。しかし比較的若い方で変形の程度が強い場合は、もちろん長期の成績は見込めますが、人工膝関節ができるようになる年齢までの時間を稼ぐという目的もあります。いずれにしても有効な手術ということになりますね。
ひとつ、エピソードを思い出しました。もう10年ほど前になりますが、当時80歳くらいの女性でシニアのテニスプレーヤーの方に骨切り術をしたことがあります。普通でしたら人工関節手術のご年齢なのですが、テニスは絶対あきらめたくないということで、骨切りの選択をしました。その方は術後1年くらいで大会にも出場して以前と変わらず元気にやっておられました。骨切り術は若い方に適しているのは間違いありませんが、高齢でも骨年齢や健康面で若くスポーツ志向が高ければ、選択する価値はあります。

Q. 実際の高位脛骨骨切り術の手術はどのようなものなのでしょうか?

A. 骨切り術は50歳代ぐらいの比較的若い方に適しているのは間違いありませんが、私の住んでいる山口県では高齢者率が高く、農業を営む高齢者や積極的にジョギングやスポーツ、登山など野外活動を楽しむ60~70歳代の人が多いのも事実です。
患者さんのスポーツ志向、農作業従事などの仕事内容によっては、関節症の程度を考慮したうえで、人工関節に置き換えるのではなく、60~70歳代の方でも自分自身の膝関節を温存して除痛を図り関節症の進行を予防する「高位脛骨骨切り術」を選択する価値はあります。
私自身がマラソンを趣味としていることもありますが、今後年齢を重ねても自分の脚でランニングしたり登山やスポーツを続けられて楽しむことは、一度きりの人生を楽しむうえでとても大切なことと思います。

内反変形 骨移植

Q. 高位脛骨骨切り術の術後経過やリハビリはどのようなものなのでしょうか?

A. 手術翌日から徐々に歩行訓練などリハビリが始まり、約1ヵ月で歩いて自宅退院することができます。退院後は通常の生活をおくることができ、術後半年位からランニングや農作業など脚に負担がかかる活動も可能となります。膝の曲がり具合も良好で、しゃがみ込み動作も楽にできやすくなります。
デメリットして、骨を切ったところが癒合(ゆごう)するまでの数ヵ月は多少の痛みがあり、リハビリを慎重に行う必要がある点があげられます。それ以上にメリットが大変多く、できるならご自身の関節で生涯過ごせることに越したことはありません。
治療法の選択肢として、自分自身の持って生まれた膝関節を温存できる「骨切り手術」を知っていただくことは大切なことと考えます。

人工膝関節手術について

山口赤十字病院 城戸 秀彦 先生Q. 人工膝関節手術を受けられる患者さんは増加しているそうですね。

A. はい。人工膝関節手術は、60歳以上の方に対して世界的によく行われており、日本国内だけでも年間11万人近くも受けている、今では極めて一般的な手術となっています。手術成績も患者さんの満足度も優れています。

Q. 人工膝関節にも種類があるのですか?

A. そうですね。膝関節全体を人工物に換えるタイプ(全人工膝関節置換術:TKA)と、膝の内側、稀に外側もありますが、悪いほうだけを人工関節に換えるタイプ(単顆人工膝関節置換術:UKA)があり、骨切り術を含めて、患者さんの状態によって、より適したものを判断し選択します。

Q. TKAとUKAの違いを教えてください。

A. TKAは、進行期から末期の変形の高度な場合に行います。人工膝関節手術の9割を占めていますから、一般的に人工膝関節といえばこちらになります。
UKAは膝関節の内側あるいは外側に限定した変形の場合に行います。TKAに比べますと手術の傷が小さく、骨を切除する量も半分以下で出血量の少ないのが利点です。また関節内の正常組織をより温存できるため術後の回復や膝の動きもよくて、患者さんの満足度がとても高い手術です。ただ適応となる症例はそれほど多くはなく、全国的にも1~2割程度ですが、近年症例数は増加傾向です。私は膝関節外科専門医であれば患者さんの状態を的確に把握し、UKAに適した患者さんにはそれを選択する判断力や技術力が絶対必要だと考えています。

全人工膝関節置換術:TKA

全人工膝関節置換術:TKA

単顆人工膝関節置換術:UKA

単顆人工膝関節置換術:UKA

山口赤十字病院 城戸 秀彦 先生Q. TKAもUKAも患者さんの満足度はとても高いのですね。特にトラブルのない場合、耐用年数は具体的にどれくらいですか?

A. 人工膝関節手術は手術法や人工関節のデザインおよび素材の改良が進んでいますし、術後の成績も高い水準で安定しています。耐用年数は、TKAですと20年以上の耐久性が期待できます。UKAではインプラント(人工関節)が小さくて、その面積分受ける荷重が大きくなることからTKAよりは少し劣るでしょうか。それでも15年以上は大丈夫だろうと思います。

Q. よくわかりました。ありがとうございます。ところでこちらでは手術の際、ナビゲーションシステムを導入されているとお聞きしています。

A. ええ、人工関節の機能を最大限に長期に生かせるよう、すべての患者さんにより正確な設置を行うために導入しています。当院は10年前からナビゲーションシステムを使用しており、山口県下でTKAにおけるナビゲーション手術の先駆けの施設でもあります。数多くの手術を手掛けており、TKAだけでなくUKAにもナビゲーションシステムを活用しています。ナビゲーションを使うことは、それぞれの患者さんの膝の状態がデータとして残りますので、術後の経過を見ていく上でも有用かと思います。

Q. ナビゲーションシステムについて少し説明してください。

ナビゲーションシステムA. ナビゲーションステムというのは、車のナビゲーションと同じで、正しい位置に導いてくれるんですね。患者さんの膝関節に対して手術器具が、いまどの位置にどのような角度で当たっているのか画面上に正確に表示されます。医師は手術中にそれを確認し、評価することで、確信を持って人工関節を正確な位置に設置をする手術を行うことができます。
ナビゲーションを使用した手術の方が、使用しない場合よりも有意に正確な設置ができるということが、研究で証明されています。

Q. 人工膝関節を正確に設置するメリットとは何でしょうか?

A. 正確な設置をすることで、長い年月での人工関節の耐久性が上がります。通常の手術法で設置に少しズレが生じても、しばらくの間は痛みもなく楽な生活ができますが、5年、10年と経つうちに問題が生じる可能性もあります。20年といわず30年も持たせる期待を実現するには、より精度の高い手術が不可欠なわけです。また正確な設置は手術後の膝の自然な動きにつながり、患者さんが活動する上でも満足度が上がります。

山口赤十字病院 城戸 秀彦 先生Q. 手術を受けるにあたって合併症を心配される方も多いと思いますが。

A. 合併症のリスクは極めて低いですが、やはり注意する必要はあります。出血に関しては、他人の血を輸血することはほぼなく、手術前に自己血を貯めてそれを手術中に輸血するようにしています。血栓症については、手術前に兆候の確認を行い、また手術後に血栓症予防のための投薬や運動療法を指導しています。その他の合併症や感染についてもそうですが、厚生労働省や学会のガイドラインに準じた適切な予防方法を実践しています。

Q. リハビリとアフターケアについては、何か取り組んでおられることはありますか?

A. リハビリに関しては、手術翌日から理学療法士の指導のもと、積極的な歩行訓練や膝の曲げ伸ばしなどを実施します。クリニカルパスという入院計画に沿って効果的なリハビリを行い、術後3週間から4週間で退院の予定です。
自宅生活については、患者さんには不安な点も多いのでしょう、いろいろご質問を受けます。私はそれに対する適切なアドバイスや指導の必要性を痛切に感じており、定期検診によるアフターケアを重要視しています。たとえばスポーツをされている方や、当院ですと土地柄、手術後も農作業をしたいという方も多くて、中にはやめるようにおっしゃる先生もおられるかもしれませんが、私の方針としては、専門医として過去の症例も参考にしながら、「やり方を考えましょうね」と、前向きに生活できる工夫を提案しています。「この運動は無理でもこの運動でここまでなら大丈夫ですよ」だとか、「農作業は、できるだけぬかるみやでこぼこのない畑で、短時間、時間を区切りながら転ばないように気をつけてやりましょうね」という風に。

Q. 具体的にアドバイスしていただくと患者さんには心強いですね。

山口赤十字病院 城戸 秀彦 先生A. そう思います。具体的にちゃんとお伝えしなければ、本当は避けたほうが良いことをやってしまう患者さんや、逆に怖がってやりたいことをやらない患者さんも出てきます。術後の生活指導は、私の治療におけるひとつの"核"と考えています。間違った情報や噂を信じてしまって、いたずらに不安を持つ方もいらっしゃいますので、正しく指導し、そういう不安から解放してあげること、そして人工関節と共に楽しく幸せな生活を送っていただけるようにすることが、専門医としてとても大事な仕事だと考えます。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

城戸 秀彦 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2014.9.26

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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