先生があなたに伝えたいこと
【西田 佳弘】悪性骨軟部腫瘍は非常にまれで、早期発見が難しい疾患です。まずはこの病気について知ってもらい、少しでも不安があれば専門医の診察を受けることをおすすめします。
名古屋大学医学部附属病院(名古屋大学 特命教授)
にしだ よしひろ
西田 佳弘 先生
専門:腫瘍
西田先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
少子高齢化や人口減少によって、現状の医療制度の維持は難しくなると感じています。過剰な医療行為の見直しが必要なのではないでしょうか。また、これからの医療では慢性期や回復期といった「支える医療」の充実が大切になっていきます。そうなるととくに、医師のコミュニケーション能力の向上が重要な課題になるのではないかと考えています。
2.休日には何をして過ごしますか?
家族4人でジョギングをしています。子どもたちはつまらなさそうにしていますが(笑)。
Q. 本日は骨軟部腫瘍(こつなんぶしゅよう)について伺います。はじめに、骨軟部腫瘍とはどんなものか教えてください。
A. 骨軟部腫瘍とは、骨にできる「骨腫瘍(こつしゅよう)」と、筋肉・脂肪・皮下・神経など体を支える骨以外の組織、即ち「軟部」にできる「軟部腫瘍(なんぶしゅよう)」の総称です。ともに良性、悪性のものがあり、悪性腫瘍は「肉腫(にくしゅ)」と呼ばれています。
悪性骨腫瘍には「骨肉腫(こつにくしゅ)」、「軟骨肉腫」、「ユーイング肉腫」などがあり、特に骨肉腫とユーイング肉腫は若年層に多い疾患です。
悪性軟部腫瘍は中間型を合わせると50種類以上ありますが、中でも「脂肪肉腫」、「平滑筋肉腫(へいかつきんにくしゅ)」、「未分化多形肉腫」などが多く、中高年に好発しますが、「横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)」は例外的に小児から若年層に多い肉腫です。
Q. 悪性腫瘍と聞くと、早期発見・早期治療が重要だと思います。特徴的な症状などはあるのでしょうか?
A. 骨肉腫などの骨の肉腫は、痛みで受診する人が多いです。とくに膝の痛みを訴える患者さんが多いのですが、膝はスポーツなどで痛めやすい関節でもあるため、見落とされるケースもあります。
一方の軟部肉腫は「しこり」となってあらわれることが多いのですが、ほとんどの場合痛みがありません。痛みのない小さなしこり程度では気にしない人も多く、臀部(でんぶ:おしり)などの脂肪が多い部位やお腹の奥などの深部にできた場合、かなり大きくなるまで気が付かず、受診が遅れてしまうこともあります。浅い腫瘍だと医療機関でも悪性を疑わず、そのまま外来で切除してしまうケースもあります。
胃が痛い、咳が出るなどの場合、生活に支障を来すので検査を受ける人は多いですが、「しこり」は生活にほとんど影響しません。しかも大きくなっても痛くない。しかし、肉腫であった場合、放置して大きくなればなるほど生存率は下がるのが現実です。痛みはなくても早めに専門医療機関を受診することをおすすめします。
Q. 痛みがない、また自覚症状があっても診断がつきにくいということは、早期発見は難しいということでしょうか?
A. もともと非常に希少な疾患なので、専門家でなければ適切な診断は難しいかもしれません。そこで私たちは10年ほど前から整形外科の開業医を対象に講演を行い、どういったときに肉腫を疑うべきなのかということについて啓蒙活動をしています。
たとえば、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)でもない若い人が、ちょっとしたはずみで骨を折ることはまずありません。しかし骨腫瘍がある場合は簡単に骨折することがあります(病的骨折)。そういった肉腫の特徴が見られた場合、すぐに専門医療機関へ紹介するように呼びかけているのです。
また、患者さんご自身も、少しでも疑問があれば詳しく検査してもらうよう医師に相談してみてください。
Q. では、治療はどのように行われるのでしょうか?
A. 基本的には他のがんと同じで、手術治療、化学療法(薬物)、放射線治療を組み合わせて治療を行います。肉腫は手術ができないと根治が見込めないものが多いので、手術が基本になります。部位によっては骨を腫瘍用人工関節に置き換える再建を行います。しかし、骨盤などで切除が困難な部位に腫瘍がある場合は、放射線治療がメインになります。
Q. 検査はどのように行われるのですか?
A. 骨腫瘍の場合、まずレントゲンを撮り、次にCT、MRIで詳しく調べていきます。軟部腫瘍の場合、血管腫など腫瘍の中が石灰化するものを除いてレントゲンでは診断できません。MRIで組織の構成を評価し、患部の細胞を採取して病理組織検査を行います。細胞の採取には針を刺して行う「針生検(はりせいけん)」と、患部を切開して行う「切開生検」があります。当院では腫瘍をMRIで撮影した際に、中の組織が均一に見える場合は針生検を、まだらに見える場合は切開生検を行っていますが、使い分けは医療機関によって異なります。
Q. 最近、肉腫に使える抗がん剤が増えたと伺いました。
A. そうなんです。これまでメトトレキサート、イホスファミド、アドリアマイシン、シスプラチンの4つが中心でした。ここ数年で新たにパゾパニブ、トラベクテジン、エリブリンの3つが保険適応となり、治療の選択肢が増えました。
使える薬が増えたことで、腫瘍内科医が治療に参画してくれるようになりつつあります。化学療法による副作用などについて豊富な知識を持つ腫瘍内科医と連携することで、さらに良い治療を提供できる可能性が見えてきています。
Q. それは患者さんにとって大きな希望ですね。
A. そうです。化学療法や放射線治療では副作用が大きな問題です。とくに骨発生の肉腫の場合、若年層の患者さんが多く、将来的に副作用が出ることがあります。晩期合併症というのですが、たとえば子どもができなくなる(妊孕性(にんようせい)の低下)、腎機能障害、成長障害などさまざまな副作用が出ることがあります。そのため、10年後を考えて治療を行う必要があるのです。こうした長期に渡るフォローアップのために、さまざまな科の専門医と連携を取って集学的治療を行うことが大切なのです。
Q. ありがとうございました。最後に、先生が医師を志されたきっけやエピソードがあればお聞かせください。
A. 9歳のときに腕を骨折しました。そのとき、医療機関への受診が遅れたことで、偽関節(ぎかんせつ:骨の癒合が不完全で、関節のように動いてしまう状態)と尺骨神経麻痺(しゃっこつしんけいまひ)が生じてしまったのです。その後、治療が長引いたことや、皆と一緒に野球ができないことの悔しさもあり、子どもながらに適切な診療情報がいかに大切かを痛感しました。そういったことがきっかけになったのではないかと思います。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2017.8.17
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
悪性骨軟部腫瘍は非常にまれで、早期発見が難しい疾患です。まずはこの病気について知ってもらい、少しでも不安があれば専門医の診察を受けることをおすすめします。