先生があなたに伝えたいこと
【中川 浩輔】変形性膝関節症や半月板損傷の治療法は、さまざまな種類があるため、患者さんの生活スタイルに合った治療法を提案しています。
市立ひらかた病院
なかがわ こうすけ
中川 浩輔 先生
専門:膝関節
中川先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
中学時代にしていたテニスをいつか再開したいと思い続け、40歳を機にようやくテニススクールに通い始めました。
2.休日には何をして過ごしますか?
テニスを楽しむほか、ギターを弾いたりして過ごしています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. 膝に痛みを抱える方は多くおられますが、どのようにして痛みが起こるのかを教えてください。
A. 膝関節痛は、若年の方から高齢の方まで幅広く起こり、ケガや加齢など原因も多岐にわたります。膝関節の中で骨同士がぶつかるのを防ぐ半月板(はんげつばん)や、大腿骨と脛骨をつなぐ靱帯(じんたい)などの組織が損傷することで起こる痛みのほか、加齢に伴って軟骨がすり減ることによる炎症や筋肉の炎症によって起こる痛みなど、原因はさまざまです。
Q. そうした痛みを引き起こす疾患について教えてください。
A. 最も多いのは、加齢に伴って軟骨がすり減って起こる変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。高齢の方に頻度が高いですが、スポーツや仕事内容によっては比較的若い患者さんもおられます。ただ一般的には年齢が高くなるほど多く、中でも女性の方に多くみられ、骨がもろくなる骨粗しょう症とも関係しているといわれています。
また、半月板損傷という疾患もあります。こちらはスポーツなどによって外傷性に起こるものと、加齢に伴って少しずつ傷んでくる変性断裂の2種類に分けられます。高齢の方の場合は、半月板の損傷が進んで軟骨まですり減り、変形性膝関節症に進行するケースが少なくありません。
Q. 患者さんはどのような症状を訴えられますか?
A. 変形性膝関節症は、歩行時に痛みが強くなることがあります。膝の曲げ伸ばしもしづらくなり、膝を曲げたり体重をかけたりすると痛みが出ることが多いです。半月板損傷は、階段の上り下りや立ち上がる動作で痛みが出ることが多いです。初診では、まずレントゲン検査をし、半月板や靱帯の状態を確認するためにMRI検査も行って診断します。
Q. 治療法について教えてください。
A. まずは保存治療になります。鎮痛剤や外用薬で痛みを抑えるほか、リハビリテーションを並行して行うこともあります。痛みによって膝をあまり使わないようしてきた場合、膝関節まわりの筋力が低下することで膝関節の安定性が落ち、余計に痛みが出ている場合があります。そのため、理学療法士の指導のもとで筋力訓練を行います。それでも痛みが改善しない場合は、ヒアルロン酸の関節内注射のほか、膝関節サポーターや足底板(体重のかかり方を調整する靴の中敷き)などの装具を使用することもあります。
また、近年は再生医療も行われるようになり、自分の血液から多血小板血漿(PRP)を抽出して膝関節に投与することで膝関節内の再生を促し、痛みや水が溜まるのを改善させる治療もあります。保険外診療になりますが、体への負担が少なく合併症も少ないことから近年は増加しています。
Q. どのように治療法を決めるのですか?
A. 疾患がどの程度進行しているのか、患者さんの症状によって選択します。軽度の場合は、湿布薬を用いたり、筋力訓練の指導をしたりしますが、膝関節に水が溜まっている場合はまずは水を抜いたり、装具を勧めたりすることもあります。こうした保存的な治療をしても症状が軽減されない場合は手術を検討しますが、手術を決断する前の選択肢として保険外診療の再生医療・PRP療法があることをお伝えしています。特に高齢の方は持病があって手術が受けられない方や、麻酔に不安のある方もおられるので、手術を避けるためにPRP療法を希望される方もおられます。ただ、すべての患者さんに同じように効く治療法ではなく、変形性膝関節症が進んでいる場合は効果が出にくいことがあります。
Q. どのような場合に手術になるのですか?
A. 保存治療を行っても十分な効果が得られないときに手術を検討していただきます。
例えば、家事が思うようにできない、旅行やスポーツなどの趣味ができないという場合、保存治療には限界があるので手術をすれば解決できる可能性があることをお伝えしています。
Q. 半月板損傷の場合は、どのような手術がありますか?
A. 比較的小さい創でできる低侵襲(ていしんしゅう:身体への負担が少ない)な手術として、関節鏡下半月板縫合術または切除術があります。膝の中に小さなカメラを入れて観察しながら、半月板を一部切除または縫合して修復します。
半月板損傷が外傷性によるものは、早期にこうした手術を行うことで半月板の機能が温存できれば、除痛だけではなく変形性膝関節症の予防にもつながります。加齢に伴う半月板損傷の場合は、すでに変形性膝関節症を合併していることも多いので、レントゲンやMRI検査などで慎重に診断してから手術を行います。変形性膝関節症を合併している場合は、関節鏡下半月板縫合術または切除術と高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)の併用になることがあります。
Q. 高位脛骨骨切り術についても教えてください。
A. 膝関節の近くで脛骨という下肢の骨を切って向きを変え、膝関節の変形を矯正する手術です。変形性膝関節症の場合、膝関節の内側の軟骨が摩耗してO脚(内反変形)になり、内側に偏って体重がかかることで痛みが出るというケースが多くあります。そのため脛骨を切ってO脚をX脚ぎみにすると、軟骨が残っている外側にも体重がかかり除痛ができます。この手術は、膝関節の中は触らないのでご自身の関節が温存できます。そのため、比較的若い方や活動性の高い高齢の方がこの手術を望まれ、近年は増加傾向にあります。最近は、70歳代の方でも登山やハイキングを趣味にされている方が増えており、そうした方々は人工関節ではなく骨切り術を選択されています。
Q. 変形性膝関節症で多く行われているのは、人工関節の手術ですか?
A. 一般的に広く行われているのは、膝関節の傷んでいる部分を切除して人工物(インプラント)に置き換える人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)です。高齢の方で日常動作以上の活動性を特に求めていない方から、変形性膝関節症の重症度が高い方まで適応となります。人工膝関節置換術は歴史が長く、かつては耐用年数が課題になっていましたが、技術の進歩によって解決されています。金属と金属の間のポリエチレン素材の性能が向上したことで摩耗しにくくなり、長期の耐久性が得られるようになりました。
Q. 人工膝関節置換術には、種類があるのですか?
A. 大きく分けて、膝関節全体をインプラントに置き換える人工膝関節全置換術(じんこうひざかんせつぜんちかんじゅつ:TKA)と、膝関節の片側だけをインプラントに置き換える人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ:UKA)があります。どちらが適応になるかは重症度によって変わりますが、それぞれにメリットがあります。TKAは関節すべてを置換するので除痛効果に優れ、O脚変形も改善されます。UKAは部分的に置換するため低侵襲である分、術後の回復が早く、靭帯も温存されるので膝関節が安定しています。
いずれも術中にナビゲーションシステム(手術操作の位置がリアルタイムで確認できる機器)を使用し、より正確にインプラントが設置できるようになってきており、手術に伴う出血量も減少傾向にあります。そのため以前より、高齢の患者さんでもより安全に手術が受けられるようになってきています。
Q. 手術後についても教えてください。
A. 患者さんによって、また手術内容によって回復の早さは違いますが、基本的には骨切り術、人工膝関節置換術ともに術後2~3週での退院を目指します。ご自宅での生活動作に不安がある方は、回復期リハビリテーション病院などに移られるケースもあります。術後のリハビリテーションはとても重要で、入院中は専門の担当者が専属で付いて進めていきます。膝関節を曲げ伸ばしする可動域訓練から始め、筋力訓練、歩行訓練などもできる範囲内で進めていき、痛みを抱えている間に落ちてしまった筋力を取り戻していきます。健康保険を使用したリハビリテーションは術後150日まで受けられるので、退院後は自宅近くの病院にリハビリ通院することも可能です。
Q. よくわかりました。では最後に、先生が膝関節の治療において大切にされていることを教えてください。
A. いろいろな治療法があるので、患者さんの膝関節の状態はもちろん、それぞれの仕事や趣味など生活背景や生活様式などに合わせ、じっくりと患者さんとお話しながら最適な治療法をご提案するようにしています。
リモート取材日:2024.11.18
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
変形性膝関節症や半月板損傷の治療法は、さまざまな種類があるため、患者さんの生活スタイルに合った治療法を提案しています。