先生があなたに伝えたいこと
【前田 昭彦】人工股関節の手術は多くの症例で長期の良好な成績が報告されています。術後は痛みの緩和が期待できます。

昭和医科大学横浜市北部病院
まえだ あきひこ
前田 昭彦 先生
専門:股関節
前田先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
人手不足や日本経済の状況など、子どもたちが大きくなったときにどうなるのか心配です。全国で赤字病院も多いと聞くので、医療機関の行く末も気になります。
2.休日には何をして過ごしますか?
家族で山登りやハイキングに行きます。ほかには、中高時代にやっていた空手を再開したので、試合に向けて練習することもあります。コロナ禍で当時小1だった三男が、空手に興味を持ったのを機に親子で通い始め、いまでは私の方がハマっています(笑)。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. 股関節の疾患でお悩みの方には、どのような疾患が多いのでしょうか?
A. 最も多いのは、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。加齢や生まれつき寛骨臼(かんこつきゅう)の被りが浅い寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)などが原因となり、軟骨がすり減って痛みが起こる疾患です。若い方には大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)といって、大腿骨頭が血流の障害などにより壊死する疾患がみられることもあります。



Q. 変形性股関節症になると、どのような症状があらわれますか?
A. 股関節が痛む方が多いですが、膝や腰が痛むという方もいらっしゃいます。長年膝や腰の治療を続けているうちに、何かのきっかけで股関節のレントゲン検査を受けて変形性股関節症が原因だったと判明するケースもあります。
Q. 変形性股関節症になる患者さんの特徴はありますか?
A. 中高年以上の女性に多くみられます。手術を受ける方は60代以上の方が中心で、当院で2024年度に人工股関節の手術を受けた方の平均年齢は68.8歳でした。また、私がこれまでに手術した最高齢の方は94歳でした。
Q. どういった治療になりますか?
A. まずは痛み止めなどの投薬治療や筋トレなどによる筋力強化、必要に応じて杖を使っていただくなど、手術以外の保存治療から始めます。保存療法でも症状が改善しなかった場合に手術を検討します。当院は大学病院ですので、お近くのクリニックで色々な治療を受けても症状が改善せず、手術を検討されて来院される患者さんがほとんどです。
Q. 手術すべき目安はありますか?
A. 股関節は立ったり歩いたりなど日常生活でよく使う関節です。痛みがあることで動かしづらくなると、移動能力が制限されてしまい、生活の質が下がってしまいます。痛みのために外出がつらくなったり、スポーツや趣味を楽しめなくなったり、やりたいことができなくなった場合に手術が選択肢のひとつになります。
Q. 手術には怖いイメージがありますが、手術するメリットは何でしょうか?
A. 一番は痛みの軽減が期待できることです。身体的にも精神的にも楽になったという声をいただきます。
Q. どのような手術になりますか?
A. 傷んだ関節を人工股関節に換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)が一般的に行われています。あるいは、40代後半くらいまでの方であれば、骨盤の骨を切って角度を変えて荷重を調整する寛骨臼骨盤骨切り術(かんこつきゅうこつばんこつきりじゅつ)も適応になります。骨切り術は自分の関節を温存する手術です。入院期間は患者さんによって異なりますが、多くは人工股関節置換術で大体10日くらい、骨切り術だと1~2ヵ月くらいです。
昔は人工股関節の耐久性が現在ほど高くなくて長持ちしなかったので、保存療法を長期間続けるケースや、人工股関節置換術をする前に骨切り術を行うケースが多くありました。いまは人工股関節の耐用年数が延びたことで、30~40代でも人工股関節の手術を受ける人が増え、手術を決断するまでの保存治療の期間も短くなる傾向にあります。当院では現在、年間300例ほど股関節の手術を行っていますが、骨切り術はそのうち5例程度です。
![]()

![]()

Q. 人工股関節の進歩について教えてください。
A. 人工股関節のこすれあう部分(摺動面:しゅうどうめん)に使われるポリエチレンライナーの素材の改良が進み、耐用年数が飛躍的に向上しました。例えば、摺動面に細胞膜と同じ分子構造をもたせることで、湿潤性を高めて摩擦を軽減する「Aquala(アクアラ)」※という表面処理技術があります。また、ライナーを放射線で硬化したり、ビタミンEを添加したりして、劣化を防ぐ技術もあります。これらの技術により、かつて10~15年程度といわれた耐用年数は、いまでは30~40年以上もつことが期待されています。
※Aquala(アクアラ)は京セラメディカル株式会社の登録商標です。
さらに、薄くて摩耗しにくいポリエチレンライナーが開発されたことで、骨頭ボールを大きくすることができるようになりました。それにより、股関節の可動域(かどういき:関節を動かすことができる範囲)が広がり、日常生活での動作もより自然に行えるようになってきています。

Q. 人工股関節の手術で進歩しているところはありますか?
A. 昔は大きく皮膚切開し、筋肉を切る手術が一般的でしたが、いまは筋肉や靭帯などの軟部組織を極力温存する、低侵襲(ていしんしゅう:身体への負担が少ない)手術が普及してきました。その結果、術後の回復も昔より早くなっています。また、麻酔方法も進歩しており、全身麻酔に末梢神経ブロックという麻酔を併用することで、術後の痛みを大きく軽減できるようになりました。
Q. 術後の動作の制限について教えてください。スポーツもまたできるようになりますか?
A. 以前は術後に「内股で歩いてはいけない」といった動きに関する制限がありました。人工股関節の進歩によって可動域が広がったことで、日常生活の多くの動作に制限が必要なくなりました。当院では一般的に手術の翌朝から歩く練習を始めてもらいます。術後1ヵ月以降は生活動作に大きな制限はなくなり、医師や理学療法士と相談しながら患者さんのご希望に合わせた活動が可能となります。その後は近隣のクリニックで定期的にリハビリを続けていただく必要はありますが、術後3ヵ月以上経てば、ランニングやクラシックバレエなどの運動を楽しむ方もいらっしゃいます。ただし、トップアスリートのように高度な感覚や細かな動きを必要とする場合には、完全に元通りの感覚が戻らないこともあるといわれていますし、激しい衝突を伴うようなスポーツには制限があります。
Q. 先生は、術中の体位にも工夫をされていると伺いましたが、どのような工夫なのでしょうか。
A. 通常は仰向けか真横に寝かせる側臥位(そくがい)で手術を行いますが、私は人工股関節をより正確に設置するために、その中間くらいの大体60度の傾きで寝かせる半側臥位で手術を行っています。
特別な器械が不要で、その角度で患者さんを固定して人工股関節を挿入すると正確な位置に設置しやすくなります。人工股関節を正確な位置に設置することで、術後の脱臼リスク低減が期待できます。私が手術をした患者さんに限れば、この方法でこれまで手術後に脱臼を起こされた患者さんはいません。最近は見学にいらっしゃる先生も増えているので、今後普及していくのではないかと思います。
Q. 先生が治療に際して心がけていらっしゃることは何ですか?
A. 様々な治療の選択肢があるなかで、患者さんにとって最適な治療法を提案しています。患者さんは疾患のことや手術のことで悩んでいる場合が多いので、具体的な説明を心がけ、安心して治療を受けていただけるように努めています。手術になる場合には、人工股関節は長期成績がよく、動きやすさが改善することで健康寿命の延伸にもつながる治療法であることを、分かりやすく説明するようにしています。
Q. 安全に手術を行うために、先生が気を付けていらっしゃることがあれば教えてください。
A. 感染症のリスクを減らすために、手術前には持病の有無などの内科的疾患や皮膚の状態、栄養状態をチェックしています。アトピー性皮膚炎や湿疹がある場合は感染リスクが高まるため、事前に皮膚科で治療を受けていただきます。また、高齢の方は貧血やタンパク質不足の方が多いのですが、タンパク質が不足すると術後の回復が遅れる傾向にあるので、あわせて栄養指導も行っています。
Q. 股関節が痛いとお悩みの方や、人工関節に不安を抱えている方へ、メッセージをお願いします。
A. 股関節は生活の質に大きく関わる関節です。歩くことが難しくなると全身の機能や心肺機能も低下してしまいます。健康寿命を延ばすためにも、痛みでお悩みの方は、ぜひ一度お近くの専門医にご相談ください。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
リモート取材日:2025.10.7
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。



先生からのメッセージ
人工股関節の手術は多くの症例で長期の良好な成績が報告されています。術後は痛みの緩和が期待できます。