先生があなたに伝えたいこと
【石井 一誠・三原 徹之】 膝の痛みを解消し、快適な毎日を!
国内に約3000万人の潜在患者がいるという「変形性膝関節症」。今日は、竹田医師会病院整形外科部長の石井一誠医師と医療法人健伸会理事長の三原徹之医師に、症状や治療法について聞きました。お二人は竹田市で連携体制を取りながら、膝に痛みを持つ患者に日々、治療をおこなっています(この記事は、大分合同新聞の対談記事を編集し直したものです)。
竹田医師会病院 整形外科部長
いしい いっせい
石井 一誠 先生
専門:人工関節
石井先生の一面
2000年熊本大学医学部卒。専門は人工関節手術。 熊本大学整形外科教室(現水田博志教授)時代の診療・研究テーマは膝関節外科、関節軟骨の再生。熊本県内の病院勤務を経て09年度に竹田医師会病院整形外科医長。10年度より現職。日本整形外科学会専門医。
医療法人 健伸会 理事長
みはら てつゆき
三原 徹之 先生
三原先生の一面
1989年大分医科大学医学部(現大分大学医学部)卒業。緒方町立国保総合病院(現公立おがた総合病院)整形外科部長などを経て2002年竹田市に開業。08年より医療法人健伸会理事長。日本整形外科学会専門医。
Q.中・高年を中心に膝の痛みを訴える人が増えていますが、原因は何なのでしょうか。
石井先生:最も多いのは年齢とともに軟骨がすり減ることによる痛みが原因で、変形性膝関節症という病気です。患者さんは女性に多く、50歳代以降の方が大多数を占めます。
三原先生:変形性膝関節症の患者さんのほとんどが膝の内側の痛みを訴えます。ただし膝を動かさなければ痛くありません。初期のころは歩くとき(特に歩き始め)に痛い、立ちしゃがみや階段の昇り降り、坂道を歩くとき(特に下り)に痛い、正座ができなくなるといった症状がでます。徐々に進行してくると痛みが強くなり、膝に水がたまったりします。末期の状態になると見た目にも膝の変形が目立つようになり、杖がないと歩きづらくなったり、転びやすくなります。竹田市付近は農業が盛んで当院の患者さんにも農作業に従事している高齢の方が多いですね。竹田市の高齢化率が全国有数であることも患者さんが多い理由のひとつです。膝の痛みを我慢しながらお仕事を続けておられる方がたくさんおられますが、なかには年々仕事がつらくなり、人手を雇ってなんとか続けたり、畑や田んぼを手放す方もおられます。
Q.どういう治療をしますか。
三原先生:症状が軽く、軟骨のすり減り具合も少なければ、膝の周りの筋力訓練や電気治療などリハビリを行います。痛みや腫れなどの症状が強ければ、痛み止めの薬を飲んだり、膝に注射をしたりします。医学が進んだ現在でも軟骨のすり減りの進行を防ぐ特効薬はありませんので、多くの方はだんだん症状が悪化していきます。仕事上や日常の生活の中で支障が強くなったとき、だましだましでなくきちんと膝を治療したいという方には、人工関節手術という選択肢が出てきます。手術を受けずに病気が進行すると歩行困難となったり介護が必要となることもあり、患者さん本人のみならずそのご家族や高齢化の進む地域全体の問題とも言えます。
Q.人工関節手術とはどのような手術ですか。
石井先生:むし歯をけずって銀歯をかぶせるのに似ていますが、軟骨がすり減って骨がむき出しになった膝の骨の表面に、うすい金属あるいはセラミックでできた人工関節をかぶせることにより膝の痛みがなくなります。およそ50年も前から世界中で行われている手術で、手技が確立されており手術の成績は極めて安定しています。現在では国内で年間約7万件の人工膝関節手術が行われており、高齢化や手術法の普及により年々増加しています。しかしながら地方の農村部やへき地においてはまだまだ膝関節症の病態や人工関節による治療法をご存知でなく、「とし」だからしょうがないと膝の痛みをあきらめておられる方が多くいらっしゃるのも現実です。私が赴任した初(平成21)年度、当院では90件の人工膝関節手術を行いました。現在は年間150件ほどまでに増加しています。先ほどお話した地域柄もあるでしょうし、人工関節手術に特化した施設として病院内外のシステムを作ってきた結果だと思います。
Q.手術までの流れについて教えてください。
石井先生:手術の流れは地域によって異なると思いますが、竹田市の場合をお話ししましょう。現在、竹田市医師会(現伊藤恭会長)では、内科、外科、皮膚科、その他専門科を問わず開業医の先生方は膝の治療をよくご存知で、患者さんから相談を受け当院へ紹介していただきます。内科的疾患の既往など含めてかかりつけ医からの情報を参考に、まず外来で全身検査を受けていただき問題がないことを確認して手術が決まります。竹田市唯一の整形外科医院であるみはら整形外科クリニックでは、当院で手術を終えた患者さんが通院でリハビリを続けてもらうことも多く、先生とは手術に関することをよくお話しし、手術の前後で一貫した治療を受けられる体制ができています。
三原先生:ひと言で手術といっても大きな不安が伴うものですし、かかりつけでない医師から手術を受けるので、患者さんも心配に感じることがあるでしょう。石井先生と連携をとりながら、私は患者さんを紹介する前に、実際に手術する医師の立場で、手術についての詳しい説明を行うよう心がけています。このような役割分担を行うには、医師間の信頼関係がとても大切だと思います。
Q.手術の特徴、入院期間や費用などについてもう少し教えてください。
石井先生:昔の人工関節手術は、痛みはとれるものの膝の曲がりが悪かったり、入院やリハビリに長い期間を要することが普通でした。最先端の膝の手術は、痛みをとるだけでなくより動きのいい膝、痛みが少なく回復が早い手術を目指したものへと進化しています。趣味や生きがいとして続けてこられた、あるいは膝の痛みであきらめてしまったスポーツ活動や畑仕事などの重労働、旅行などを、術後にもう一度再開し続けていかれる患者さんも多くいらっしゃいますが、そこで問題とされる長期の耐久性に関しても、手術手技の改良や人工関節の材料の開発などが進んでいます。人工関節手術はひろく普及していますが非常に専門性の高い手術です。例えば現在、当院では片膝あたり手術は通常1時間で終わります。これは人工関節手術において最も重大な合併症である感染に対する最大の防止策となっていると思います。また、両膝が悪い患者さんは1回の手術で両膝を同時に治療しています。片膝の方は手術の翌日、両膝の方は2日目から立って歩き始めます。最短で手術から6日目に退院された患者さんもおられますが、十分にリハビリをしてもらって順調な場合、手術後約3週間で退院となります。当院では1カ月の入院で患者さんの負担は9万円前後です(年齢、保険の種類により多少の差があります)。
Q.手術の痛みはとても不安なものですが、どの程度と考えればよろしいでしょうか。
石井先生:当院の人工関節手術においては、大分大学医学部麻酔科学講座の麻酔専門医の先生方が術中術後の痛みを管理してくださいます。手術中は全く痛みを感じませんし、術後の痛みも「思ったより痛くなかった」という方がほとんどです。病室では手術をひかえた患者さんと術後の患者さんが同室となり、「痛かった?」、「リハビリは大変?」という具合に患者さん同士で話をされているのをよく見かけます。手術を決意する時も実際に手術を受けたご友人や親戚の方の話を聞いて決心したという方が一番多いですし、患者さんの体験談が一番説得力があるようです。当院では昨年、91歳のおばあちゃんが両膝の手術を受けられ、長年苦しんでこられた膝の痛みもなくなり今でもお元気に暮らしておられます。人工関節手術に年齢制限はありません。膝の痛みをあきらめないでほしいですね。かかりつけ医とも相談され、専門の医療機関を受診して下さい。
取材日:2010.9.21
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
人工関節手術に年齢制限はありません。膝の痛みをあきらめないで(石井先生)
病気が進行すると介護が必要となることも(三原先生)